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小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析 化学分析チーム 研究成果の科学誌「Science」論文掲載について

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公開日:2022.06.15

小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトチームでは、小惑星リュウグウ試料分析を6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」および、岡山大学ならびに国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)高知コア研究所の2つのPhase-2キュレーション機関にて進めています。
この度「はやぶさ2初期分析チーム」のうち、東京工業大学 理学院 地球惑星科学系 横山哲也教授を含む「化学分析チーム」の研究成果をまとめた論文が、アメリカの科学誌「Science」に6月10日付で掲載されました。

概要

「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウ試料の化学組成と同位体組成を測定し、リュウグウが炭素質隕石、特にCIコンドライトと呼ばれるイヴナ型炭素質隕石から主に構成されていることが判明しました。その主な構成鉱物は、リュウグウの母天体中で水溶液から析出した二次鉱物です。母天体中の水溶液は、リュウグウに元々あった一次鉱物を変質させ、太陽系が誕生してから約500万年後に、この二次鉱物を沈積させました。その時の温度は、約40℃で圧力は0.06気圧以上でした。その後、今日まで、持ち帰ったリュウグウ試料は100℃以上に加熱されていないと思われます。これらの結果から、リュウグウ試料は、これまで見つかっている隕石を含め、人類が手に入れている天然試料のどれよりも、化学組成的に分化をしていない、最も始原的な特徴を持っているものだと言えます。今後、リュウグウ試料は、新しい太陽系の標準試料として国際的に活用されていくでしょう。

研究成果

小惑星はどんな物質からできているかは未だよくわかっていません。「はやぶさ」はS型小惑星が普通隕石からできていることを明らかにし、小惑星と隕石との直接の関係性を初めて実証しました。この成果を発展させるため、「はやぶさ2」はC型小惑星と隕石との関係性を明らかにするため小惑星リュウグウのサンプルリターンを行いました。本論文は、実施された一連の初期分析の最初の報告です。

本論文では、リュウグウの (1) 化学組成、(2) 同位体組成、(3) 構成物質の成因、(4) 構成物質の年代、(5) 隕石との関係性 を研究しました。その研究分野が広範囲にわたるために、「はやぶさ2」プロジェクトチームと宇宙物質キュレーションチームの他に、世界中の著名な研究者を加えた国際チームの共同研究となっています。

化学組成分析には、蛍光X線分析、放射光、ICP質量分析、走査電子顕微鏡を用いました。同位体分析には、ICP質量分析、表面電離型質量分析、二次イオン質量分析を用いました。分析に用いたリュウグウ試料の形態は、粉体、粒状、研磨片、化学処理した液状のものを用いています。

化学組成は、66元素(H, Li, Be, C, O, Na, Mg, Al, Si, P, S, Cl, K, Ca, Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ga, Ge, As, Se, Rb, Sr, Y, Zr, Nb, Mo, Ru, Rh, Pd, Ag, Cd, In, Sn, Te, Cs, Ba, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu, Hf, Ta, W, Tl, Pb, Bi, Th, U)について分析値を決定しました。リュウグウ試料はTa(タンタル)に汚染されていることが判明しました。原因はサンプリング時に用いたタンタル製弾丸によるもので、想定されていたものであり、弾丸が正常に発射されたことを証明しています。その他の元素については汚染が認められておらず、非常にクリーンな状態で試料が取り扱われていることを示します。

各元素の分析値をCIコンドライトの値で規格化した図を図1に示します。各元素のばらつきは、各分析に用いることができた試料量(約30 mg)が小さかったための試料間の不均一性のためです。この不均一性を考慮すると、その平均値は、全元素に渡りほぼ水平線の上に乗っており、CIコンドライトと同じ濃度比を持っていることを示します。水平線の位置が1.0より少し上方なのは、水素(H)のプロットが下方にあるため(理由は後述)です。

図1 リュウグウ試料の元素存在度。CIコンドライトの分析値で規格化している。1.0より上(下)の点はCIコンドライトより多量(少量)に含まれる元素。(© Yokoyama et al., 2022より)
図1
リュウグウ試料の元素存在度。CIコンドライトの分析値で規格化している。1.0より上(下)の点はCIコンドライトより多量(少量)に含まれる元素。(© Yokoyama et al., 2022より)

CIコンドライトの化学組成比は、太陽系全体の化学組成比と等しいと考えられているため、リュウグウは形成以来太陽系全体の化学組成をそのまま保った最も始原的な天体であると言えます。リュウグウ試料のTi同位体比、Cr同位体比、O同位体比もCIコンドライトと似ているということも示されました。

リュウグウ試料の走査電子顕微鏡による分析イメージを図2に示します。リュウグウは主に、層状ケイ酸塩(蛇紋石(Mg,Fe)3Si2O5(OH)4・サポナイトCa0.25(Mg,Fe)3((Si,Al)4O10)(OH)2·n(H2O))からできています。その他の主要な鉱物は苦灰石CaMg(CO3)2、ブロイネル石(Mg,Fe)CO3、磁硫鉄鉱Fe1-xS、磁鉄鉱Fe3O4です。これらの鉱物はすべて水溶液からの析出物です。リュウグウの母天体内部では、氷が溶けた水溶液により一次鉱物が分解して、これらの二次鉱物に変わりました。この現象を水質変成作用と呼びます。リュウグウ母天体内部では水質変成作用が強く起こり、一次鉱物はほとんど残リませんでした。これもCIコンドライトとよく似ています。

図2 リュウグウ試料の構成鉱物。この図上で認識できる鉱物はすべてリュウグウの母天体上で水質変成によりできた二次鉱物。(© Yokoyama et al., 2022より)
図2
リュウグウ試料の構成鉱物。この図上で認識できる鉱物はすべてリュウグウの母天体上で水質変成によりできた二次鉱物。(© Yokoyama et al., 2022より)

水質変成が起こった年代と温度をMn-Cr年代測定法と酸素同位体温度計により決定しました。太陽系誕生の後、約500万年たった頃、水質変成が発達し、二次鉱物を析出しました。この時の温度は約40℃です。圧力の下限は0.06気圧です。

その後、隕石母天体から現在の小惑星リュウグウが形成されました。水質変成以後、現在に至るまで、リュウグウ試料は100℃以上に加熱されていないようです。しかし、層状ケイ酸塩の層間に含まれていた層間水のほとんどは宇宙空間に蒸発してしまいました。この点が、リュウグウ試料がCIコンドライトと大きく異なる点です。CIコンドライトに含まれている水分の約半分は地球上の水蒸気の汚染の結果なのかもしれません。もしそうならば、CIコンドライトを構成する物質は、有機物を含め、宇宙にいた時の状態と大きく変化しているかもしれません。今後の研究に重要な観点です。

以上の結果より、リュウグウ試料はCIコンドライトによく似ていることがわかりました。CIコンドライトは地球に存在する数万個の隕石の中でも数個しかありません。とても希少な存在の隕石が太陽系に多く存在するC型小惑星から来ていたのです。しかも、リュウグウはCIコンドライトよりもっと化学的に始原的な特徴を保持しています。したがって、リュウグウ試料は、我々人類が手にしているどの天然試料よりも化学的に太陽系の平均組成に近い始原性をもつ試料と言えます。今後、リュウグウ試料は、新しい太陽系の標準試料として国際的に活用されていくでしょう。

小惑星リュウグウ試料の初期分析について

小惑星探査機「はやぶさ2」により2020年12月6日に地球へ帰還したリュウグウ試料は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所に設置された施設において、初期記載(Phase-1キュレーション)が行われました。試料の一部が、6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」と、岡山大学およびJAMSTEC高知コア研究所の2つのPhase-2キュレーション機関へ分配されました。初期分析チームは「はやぶさ2」の科学目的達成のために専門サブチームが分担して、計画された高精度分析により、試料の多面的価値を明らかにします。Phase-2キュレーション機関はそれぞれの特徴を生かし、総合分析フローに基づいて試料のカタログを作成し、試料の特性に応じた測定・分析により、試料がもつ潜在的価値を明らかにしていきます。

なお、初期分析の6つのチーム、岡山大学およびJAMSTEC高知コア研究所のチームからの報告は、論文としての成果が公表されるタイミングでの個別の報告が、また、全ての初期成果が公表されたのち、あらためて「はやぶさ2」サイエンス全体の総括が説明される予定です。

論文情報

掲載誌 :
Science
論文タイトル :
Samples returned from the asteroid Ryugu are similar to Ivuna-type carbonaceous meteorites
著者 :
Tetsuya Yokoyama, Kazuhide Nagashima, Izumi Nakai, Edward D. Young, Yoshinari Abe, Jérôme Aléon, Conel M. O'D. Alexander, Sachiko Amari, Yuri Amelin, Ken-ichi Bajo, Martin Bizzarro, Audrey Bouvier, Richard W. Carlson, Marc Chaussidon, Byeon-Gak Choi, Nicolas Dauphas, Andrew M. Davis,Tommaso Di Rocco, Wataru Fujiya, Ryota Fukai, Ikshu Gautam, Makiko K. Haba, Yuki Hibiya, Hiroshi Hidaka, Hisashi Homma, Peter Hoppe, Gary R. Huss, Kiyohiro Ichida, Tsuyoshi Iizuka, Trevor R. Ireland, Akira Ishikawa, Motoo Ito, Shoichi Itoh, Noriyuki Kawasaki, Noriko T. Kita, Kouki Kitajima, Thorsten Kleine, Shintaro Komatani, Alexander N. Krot, Ming-Chang Liu, Yuki Masuda, Kevin D. McKeegan, Mayu Morita, Kazuko Motomura, Frédéric Moynier, Ann Nguyen, Larry Nittler, Morihiko Onose, Andreas Pack, Changkun Park, Laurette Piani, Liping Qin, Sara S. Russell, Naoya Sakamoto, Maria Schönbächler, Lauren Tafla, Haolan Tang, Kentaro Terada, Yasuko Terada, Tomohiro Usui, Sohei Wada, Meenakshi Wadhwa, Richard J. Walker, Katsuyuki Yamashita, Qing-Zhu Yin, Shigekazu Yoneda, Hiroharu Yui, Ai-Cheng Zhang, Harold C. Connolly, Jr., Dante S. Lauretta, Tomoki Nakamura, Hiroshi Naraoka, Takaaki Noguchi, Ryuji Okazaki, Kanako Sakamoto, Hikaru Yabuta, Masanao Abe, Masahiko Arakawa, Atsushi Fujii, Masahiko Hayakawa, Naoyuki Hirata, Naru Hirata, Rie Honda, Chikatoshi Honda, Satoshi Hosoda, Yu-ichi Iijima, Hitoshi Ikeda, Masateru Ishiguro, Yoshiaki Ishihara, Takahiro Iwata, Kosuke Kawahara, Shota Kikuchi, Kohei Kitazato, Koji Matsumoto, Moe Matsuoka, Tatsuhiro Michikami, Yuya Mimasu, Akira Miura, Tomokatsu Morota, Satoru Nakazawa, Noriyuki Namiki, Hirotomo Noda, Rina Noguchi, Naoko Ogawa, Kazunori Ogawa, Tatsuaki Okada, Chisato Okamoto, Go Ono, Masanobu Ozaki, Takanao Saiki, Naoya Sakatani, Hirotaka Sawada, Hiroki Senshu, Yuri Shimaki, Kei Shirai, Seiji Sugita, Yuto Takei, Hiroshi Takeuchi, Satoshi Tanaka, Eri Tatsumi, Fuyuto Terui, Yuichi Tsuda, Ryudo Tsukizaki, Koji Wada, Sei-ichiro Watanabe, Manabu Yamada, Tetsuya Yamada, Yukio Yamamoto, Hajime Yano, Yasuhiro Yokota, Keisuke Yoshihara, Makoto Yoshikawa, Kent Yoshikawa, Shizuho Furuya, Kentaro Hatakeda, Tasuku Hayashi, Yuya Hitomi, Kazuya Kumagai, Akiko Miyazaki, Aiko Nakato, Masahiro Nishimura, Hiromichi Soejima, Ayako Suzuki, Toru Yada, Daiki Yamamoto, Kasumi Yogata, Miwa Yoshitake, Shogo Tachibana, Hisayoshi Yurimoto*
DOI :

* Corresponding author. email: yuri@ep.sci.hokudai.ac.jp
These authors contributed equally to this work.
Deceased.

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