東工大ニュース
東工大ニュース
東京工業大学InfoSyEnergy研究/教育コンソーシアム(ISE)は、3月22日に第3回公開シンポジウムを日本語と同時通訳による英語の配信というハイブリッド形式で開催しました。学内外から209名が参加しました。
年1回開催されるこのシンポジウムは、ISEの理念と活動を広く一般に報告する機会として位置づけられており、3回目となる今回は「都市型カーボンフリーエネルギー社会とは?—再エネ、水素、蓄エネ、モバイルなどのデータによる融合—」をテーマに掲げ、種々の再生可能エネルギーに関する需要・供給バランスや都市部・周辺地域の連携など多彩なデータを融合して、本質的な課題を可視化することにより、脱炭素を目指す都市型社会のあり方について考えることとなりました。
はじめにISEの代表を務める物質理工学院 応用化学系の伊原学教授が、「Ambient Energy Society(アンビエント・エナジー・ソサエティー)と技術開発,活動報告」と題して、研究ワークショップや国際交流ワークショップ、川崎臨海部グランドデザイン検討委員会、アーヘン工科大学とのジョイントワークショップなどの各種ワークショップについて紹介をしました。また、ISEが目指す新しいサステナブルなエネルギー社会(=Ambient Energy Society)を目指す上で技術的に重要な系統協調/系統分散リアルタイムスマートエネルギーシステムについて、また、産学連携と教育との間で推進しているエネルギービッグデータ科学についての報告がありました。
開会のあいさつをした益一哉学長は、2021年11月に東工大が初めて刊行した統合報告書の中にある、産学連携メニューによる多様な活動内容や企業と共に未来社会を創造する共創戦略について語り、ISEの活動はまさにこの戦略に合致する取り組みであると述べました。
基調講演は「Global Agenda and Future of Japan」(グローバルな課題と日本の未来)というタイトルで、人工知能やロボット研究の第一人者であり、システムバイオロジーを提唱している株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所の所長で、ソニーグループ株式会社の北野宏明常務が登壇しました。
北野常務は、世界は危機的状況にあり、CO2削減のためには産業社会構造の質的改革が必要であると述べ、新しい気候パターンの影響による巨大地震や大規模火山噴火、巨大台風などの災害からの復興戦略や対コロナの感染防御やワクチン接種とそのパンデミックに対処するためのAI戦略について話しました。
メインテーマに関連する東工大の研究紹介として、環境・社会理工学院 融合理工学系の大友順一郎教授が「カーボンニュートラル社会に向けたエネルギーキャリアとカーボンリサイクル(Investigation of energy carriers and carbon recycling toward carbon-neutral society)」と題して、水素・燃料電池・アンモニア(エネルギーキャリア)、化学ループ(カーボンリサイクル)の取り組みを紹介しました。基礎研究とともに重要なシステム設計やコストエンジニアリングなどの統合的アプローチについて、コンパクトな分散システムとして期待できるアンモニア合成システムや、カーボンリサイクルの推進に有力なシステムとしての化学ループなどの視点からの研究状況の報告をしました。さらには全学で進める統合エネルギー科学での共同研究拠点の形成やISEでのシナリオ研究を通じたエネルギー全体のビジョン作成、その活動をコミットしているコストエンジニアリングついてなどの内容について説明をしました。
続いて、工学院 システム制御系の石崎孝幸准教授が「電力システム制御の数理科学」と題して、システム制御工学について解説しました。エネルギー関連研究との出会いをはじめとして、周波数の同期現象を例示しながら、周波数で監視可能な発電機の需給バランスや、多分野に点在する周波数同期に関わる数理モデルの工学的応用として、グリッドフォーミングインバータを発電機側系統へ導入する再エネの電源化などについて話しました。
この後、講演者の北野常務、大友教授、石崎准教授と、東工大から情報理工学院 情報工学系の篠田浩一教授、エネルギー・情報卓越教育院の岡崎健特命教授がパネリストとして、伊原教授がモデレーターとして登壇し、パネルディスカッションをしました。
はじめに問題点として、エネルギーへの興味がある企業や研究者、データ活用への興味がある企業、研究者、二者のシナジー効果がまだそれほど進んでいないことを挙げ、この2つの連携にシナジー効果を得るには、またカーボンニュートラルという共通の目標に向けて何が重要であるかということを主眼として、パネリストの専門に基づいた視点で意見を出し合いました。
結論として、ハード、ソフト双方の分野の専門家が互いを理解し、社会共通のプラットフォームを作っていくことが重要であり、そのためにこのコンソーシアムが重要な役割を担っていくはずである、という認識を共有しました。
渡辺治理事・副学長(研究担当)による閉会のあいさつでは、各講演者の研究への熱い想いを受け、本コンソーシアムのテーマである「エネルギー×情報」の重要性を認識し、そのプラットフォームとなる人材もまた必要であること、その意味でも本学ISEやエネルギー・情報卓越教育院において、研究と教育、両方の育成発展にこれからもまい進していきたいと述べ、本シンポジウムを締めくくりました。
組織名や参加者の職名・学年は全て開催当時のものです