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人間活動による温暖化が東アジアの夏季前線性豪雨を激甚化

地球温暖化と前線性豪雨の強度の関係を初めて証明

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公開日:2023.11.29

要点

  • 東アジアの夏の大雨をもたらす前線は、偶然性や自然変動に影響を受けるため、近年の激甚化が、人間活動による温暖化の影響なのかは明確ではなかった。
  • 過去60年間に観測された東アジア地域の前線性豪雨の強度増加に、人間活動による温室効果ガス濃度増加の影響があることを、気候シミュレーションを活用して初めて証明した。
  • 前線性豪雨の影響を大きく受ける東アジアの大都市などにおいて、近い将来の気候変動への効率的な対応に必要な情報を提供している。

大雨と温室効果ガスのイメージ図

大雨と温室効果ガスのイメージ図

発表内容

東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系 内海信幸准教授らと、東京大学 生産技術研究所の金炯俊特任准教授らの研究グループは、過去60年間に観測された東アジア地域の前線性豪雨の強度の増加が、人間活動による気候変動の影響を受けていることを明らかにしました。本研究では 気候シミュレーションを利用することで、過去60年間に増加した東アジア地域の前線性豪雨に対する地球温暖化の寄与度を世界で初めて評価しました。今後、前線性豪雨の影響を大きく受ける東アジアの大都市などにおいて、近い将来の気候変動に効率的に対応するための情報として活用されることが期待されます。

最近、東アジア地域では、夏の間に激しい豪雨が経験されています。大雨は洪水や地滑りなど、人間社会に大きな脅威をもたらします。気候モデルを使用した将来気候のシミュレーションによれば、気温上昇により世界中で夏の雨の強度が変化すると予測されています。しかし、東アジアの夏の大雨は台風、熱帯低気圧、前線などさまざまなプロセスに起因し、特に夏の降水の40%以上を占めている前線性降雨に関する研究はまだ不十分です。前線は、偶然性や気候システムの自然変動(エル・ニーニョ等)に大きく影響を受けるため、過去の観測された変化が自然変動によるものなのか、人間活動による温暖化の影響なのかについては明確には明らかにされていません。

この研究では、過去約60年間の観測データを使用して、夏季の気象前線に由来する東アジア地域(中国東南部、朝鮮半島、日本南西部を含む)での大雨(以下、「前線性豪雨」という)の強度が有意に変化したことを確認しました。さらに、過去再現シミュレーション(HIST)と温室効果ガスが増加しなかったと仮定したシミュレーション(XGHG)のデータを使用して、観測された変化は、人間活動による温室効果ガス濃度増加の影響を除外して説明できないことを示しました。

図1(左)は、東アジア地域の観測データに基づく、過去約60年間(1958年~2015年)の前線性豪雨の強度変化を示しています。東アジアの沿岸地域(中国東南部、台湾、韓半島南部、日本の南西部)で前線性豪雨の強度が増加していることが確認できます。気候モデルは、過去の気候再現実験(HIST)だけでなく、温室効果ガス濃度増加による温暖化効果を排除した気候シミュレーション(XGHG)も可能です。したがって、異なる仮想の地球(実際の気候の地球と温室効果ガスが増加しなかった地球)での気象前線豪雨の強度を比較することで、温室効果ガス濃度増加が前線性豪雨に与える影響を調査しました。図1(右)は、これらのシミュレーション実験を使用して推定された前線性豪雨の強度変化を示しています。温室効果ガス濃度増加の影響は、東アジアの沿岸地域で前線性豪雨の強度を増加させることがわかります。この地理的分布は図1(左)で示されている特徴と一致しており、観測された前線性豪雨の強度変化は、明らかに人間活動による温室効果ガス濃度増加の影響を受けていることを示唆しています。

図1. (左):観測された前線性豪雨の強度変化(1958年から1982年までの発生頻度と1991年から2015年までの発生頻度の差)。 (右):HIST実験とXGHG実験の差から見積もられた温室効果ガス濃度増加が前線性豪雨の強度に与える影響。
図1.
(左):観測された前線性豪雨の強度変化(1958年から1982年までの発生頻度と1991年から2015年までの発生頻度の差)。 (右):HIST実験とXGHG実験の差から見積もられた温室効果ガス濃度増加が前線性豪雨の強度に与える影響。

さらに、観測された前線性豪雨の強化が自然変動による偶然だけでは説明できず、温室効果ガス濃度増加による寄与があることを確認するために、フィンガープリント分析を行いました。フィンガープリント分析では、まず、HIST実験とXGHG実験の差から温室効果ガス濃度増加による前線性豪雨の強度変化の空間パターンを抽出し、温室効果ガス濃度増加による影響の特徴を示す指紋(フィンガープリント)であると考えます。その上で、観測データとHIST実験、XGHG実験の中に指紋がどのような強度で含まれるかを示す指標を計算します。図2は、観測データとHIST実験およびXGHG実験における指紋指標を示しています。HIST実験とXGHG実験では、初期状態を少しずつ変化させた大規模なアンサンブルデータを使用して、自然変動による不確実性の幅を考慮しています。観測データとHIST実験およびXGHG実験に指紋指標の分析期間(1958年~2015年)中の時間変化率(図2)を比較することにより、観測された指紋指標の増加は過去の温室効果ガス濃度増加があれば十分に起こりえた(HIST実験)が、温室効果ガス濃度が変化しなければ起こりえなかったこと(XGHG実験)がわかりました。これは、観測された前線性豪雨の強度変化において、人間活動による温暖化の影響が明らかであることを示しています。

図2 指紋指標の変化率の比較。 横軸は指紋指標の1958年から2015年までの変化率。HIST(赤)とXGHG(青)のアンサンブル実験から見積もった変化率の確率分布と、複数の観測データ(APHRODITE, REGEN, JRA55, JRA55_expan)における変化率(縦線)を示しています。赤と青の縦点線と陰影はHISTとXGHGのアンサンブル実験の平均値とその95%信頼区間を示します。左上のp値は、HIST実験とXGHG実験において観測データ(APHRODITE)の変化率を超える確率です。

図2. 指紋指標の変化率の比較。

横軸は指紋指標の1958年から2015年までの変化率。HIST(赤)とXGHG(青)のアンサンブル実験から見積もった変化率の確率分布と、複数の観測データ(APHRODITE, REGEN, JRA55, JRA55_expan)における変化率(縦線)を示しています。赤と青の縦点線と陰影はHISTとXGHGのアンサンブル実験の平均値とその95%信頼区間を示します。左上のp値は、HIST実験とXGHG実験において観測データ(APHRODITE)の変化率を超える確率です。

前線性豪雨の強度が増加する要因として、北西太平洋高気圧と東アジア地域の低気圧の気圧差の強化と水蒸気供給の増加のメカニズムを提示しました(図3)。XGHG実験とは異なり、HIST実験では、過去(1958年~1982年)に比べて最近(1991~2015年)において、これらの要因の強度が増加している傾向を確認しました。これは、人間活動による温暖化の影響で北西太平洋高気圧が強化され、水蒸気供給量が増加し、東アジア地域の前線性豪雨の強度が増加したことを意味します。

図3 水蒸気収束と北太平洋高気圧の変化率の比較。 温暖化実験(赤)および温暖化実験(青)から抽出された水蒸気収束(横軸)と北太平洋-東アジア気圧勾配(縦軸)の変化の勾配を示しています。1958年から1982年(P1)と1991年から2015年(P2)までの期間における両指標の勾配の変化の分布を示します。

図3. 水蒸気収束と北太平洋高気圧の変化率の比較。

温暖化実験(赤)および温暖化実験(青)から抽出された水蒸気収束(横軸)と北太平洋-東アジア気圧勾配(縦軸)の変化の勾配を示しています。1958年から1982年(P1)と1991年から2015年(P2)までの期間における両指標の勾配の変化の分布を示します。

この研究は、東アジア地域の夏の前線性豪雨の強度変化において、人為起源の温室効果ガス濃度増加による温暖化の影響が既に明らかに現れていることを示しています。主要な研究対象である東アジアは、夏の前線活動が活発な地域であり、前線性豪雨の影響が大きい沿岸地域に多くの人口が集中し、多くのメガシティが存在する経済規模の大きな地域です。気候変化への対策には、さまざまな分野で正確な気候変化の影響評価が必要です。この研究は、最近および近い将来の気候変化が東アジア地域の前線性豪雨に与える影響を理解し、評価するために非常に重要な情報を提供しています。

発表者・研究者

東京工業大学 環境・社会理工学院 土木・環境工学系
内海信幸 准教授

東京大学 生産技術研究所
金炯俊(キム・ヒョンジュン)特任准教授
ムン・スヨン 特任研究員

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Anthropogenic Warming Induced Intensification of Summer Monsoon Frontal Precipitation over East Asia
著者 :
Suyeon Moon, Nobuyuki Utsumi, Jee-Hoon Jeong, Jin-Ho Yoon, S.-Y. Simon Wang, Hideo Shiogama, and *Hyungjun Kim
(*印は責任著者)
DOI :

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