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東工大VGが「震災に学び、未来を考える 気仙沼・石巻スタディツアー」を実施

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公開日:2024.05.22

3月9日から10日にかけ、東工大学生ボランティアグループ(以下、東工大VG)が主催する「震災に学び、未来を考える 気仙沼・石巻スタディツアー」が実施されました。

スタディツアー最初の訪問地、気仙沼市復興祈念公園

スタディツアー最初の訪問地、気仙沼市復興祈念公園

実施の背景には、「震災・防災・復興に関心を持ちながらも、まだ被災地を訪れたことがない」人に、現地でしか得られない学びを体験してほしい、防災・減災意識の向上につなげてほしいという思いがあります。

ツアーには、東工大VGの学生6人および担当教員2人に、東工大・大学院全体から募って集まった10人の学生(うち留学生3人)を加えた合計18人が参加し、その中には当時海外や西日本にいて、震災を直接経験していない日本人学生も複数いました。ツアーは2日の日程で、東日本大震災の被災地である宮城県気仙沼市、石巻市の震災遺構や伝承館を複数ヵ所訪問し、語り部ガイドからの説明を受けました。

事前学習

出発に先立つ2月28日に、学内で事前学習が行われました。東工大VG担当教員のリベラルアーツ研究教育院 弓山達也教授の進行で、「なぜ被災地に行くのか」「自分・他人の命を守ること」などをテーマに話し合い、スタディツアーに参加する目的を各々が見つめ直しました。

スタディーツアー1日目(3月9日)

最初に訪れたのは気仙沼市復興祈念公園です。気仙沼湾を一望できる園内には、震災の犠牲になった人々の銘板や伝承彫刻などが配置されています。参加者は伝承彫刻の背景にある凄惨なエピソードに触れ、海を見つめながら13年前の出来事に思いを馳せました。

続いて気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館を訪れました。遺構は気仙沼向洋高校の校舎だった建物で、2班に分かれて語り部ガイドの話を聞きながら見学をしました。校舎の4階まで達しようとする津波を前に、当時の教職員や生徒がどのように身を守る行動をとったのか、海と暮らすとはどういうことかなど、展示物を見るだけではわからない貴重な話を聞くことができました。参加者は、市内に残る被害の跡や被災した人々の思いを伝えるビデオも視聴し、現地で聞く・見るからこそ伝わってくるものを感じ取りました。

気仙沼向洋高校の旧校舎より堤防を望みながら語り部の話に耳を傾ける参加者

気仙沼向洋高校の旧校舎より堤防を望みながら語り部の話に耳を傾ける参加者

スタディーツアー2日目(3月10日)

2日目はまず石巻市震災遺構大川小学校を訪れました。この場所で娘さんを亡くした鈴木典行さんに語り部ガイドをお願いし、校舎周辺や裏山を見て回りながら、当時起きたことの説明を受けました。

実際の現場に立ちながら、鈴木さんが話す娘さんのご遺体を見つけた際の壮絶で残酷な体験に衝撃を受け、「もう二度とこのような悲しいことは起きてほしくない」という鈴木さんの強い思いをより広く伝えるために、行動を起こしていく必要があると感じました。参加者の中には、東工大VGが主催したドキュメンタリー映画上映会で『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』を見て、そこで得た知見から考察を深めた人も多く、見学終了まで質問が絶えませんでした。

大川小学校で語り部ガイドの鈴木さんから話を聴く参加者

大川小学校で語り部ガイドの鈴木さんから話を聴く参加者

次に石巻市震災遺構門脇小学校を訪れ、津波火災で被害を受けた門脇小学校の内部と展示を見学しました。当時校長を務めていた鈴木洋子元校長による語り部講話もあり、当時の状況について話を聞きました。門脇小学校では防災に対する日常的な教育や取り組みが功を奏し、地震発生時の避難行動が小学校の児童・教職員だけでなく地域住民の命を救うことにもつながりました。今後、自分の周囲や大学内でも生かしたいと感じる学びを得ることができました。

続いて隣接する石巻南浜津波復興祈念公園内や周辺の施設を見学しました。みやぎ東日本大震災津波伝承館や南浜つなぐ館には、「あの時」のさまざまな人の体験談を読むことができるディスプレイ、また近くにある伝承交流施設MEET門脇には津波の恐ろしさを映像で体験できるブースなどがあり、学びを深めました。

最後に、仙台市内の貸し会議室でツアーの振り返りを行いました。4班に分かれて各自が印象に残ったものやこと、感じたことなどを付箋に書き出し、模造紙に貼りながら、各自の記憶や感情を共有する時間を設けました。記憶が鮮明なうちにアウトプットしたためか、模造紙には多くの付箋が貼られ、さまざまな意見が交換されました。

ツアーを振り返り、各自の記憶や感情を共有しながら意見交換

ツアーを振り返り、各自の記憶や感情を共有しながら意見交換

事後学習

ツアー後の3月13日には、学内で事後学習が実施されました。参加者全員がスタディツアーで見たもの、聞いたものから1つ選んで「問い」として立て、それを共有しながら少人数のグループに分かれて「対話」を行いました。現地で見たものの背景に意識を向ける、自分の専門分野や自分の国の文化に結びつけて考察するなど、さまざまな問いがあり、参加者それぞれがツアーで得た学びを自分なりに理解・習得していることを実感しました。今後、全員の問いを集約して作成した文集を、スタディツアーの成果報告として公開する予定です。

参加者のコメント

「現地に行くことでしか感じられないものや見られないものがあると思うので、ぜひ来年度も開催してほしい」「また機会があれば参加したい」といった声も多く、参加者にとって本スタディツアーが有意義かつ充実した体験になったことが伺えました。

  • 事前学習があったことできちんと自分の目的を見直す時間がとれ、対話を重視した鑑賞方法を知ることもできて良かった。
  • 語り部ガイドから震災当時のことを伺い、展示物を見る以上の理解を得ることができた。実際に被害に遭われた方のお話は胸が痛くなった。
  • 振り返り活動では、皆からさまざまな視点を聞くことができ、自身の考え方も再編成された。
  • 期待の5倍くらい充実した時間を過ごすことができ、貴重な体験だった。たくさん得られたものがあったので参加して良かった。

事前学習では見学などにおける能動的な学び方として「対話的鑑賞法」がキーワードとなった。

事後学習では、ツアー体験で得たものから「問い」を立てて共有

事後学習では、ツアー体験で得たものから「問い」を立てて共有

東工大VG学生のコメント

大河原早紀さん(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 学士4年、参加当時)

私自身は被災地を何度か訪れたことがあるのですが、そのときに受けた衝撃や、考えの変化をより多くの学生に体験してほしいという思いで今回のツアーを企画しました。「震災を知りたい」という気持ちから参加された方が多く、誰かにとって、後に振り返ったときに本ツアーが小さなターニングポイントになっていればうれしく思います。私自身も石巻は初めて訪問した場所であり、さらに2度目の気仙沼でも新たな気付きがありました。
今回のツアーで私が最も衝撃を受けたのは「まちがなくなる」という現実です。私は景観やまちづくりを学んでいますが、当たり前にそこにあった風景、そしてコミュニティさえもなくなってしまうという可能性に対して、自分には何ができるのだろうと考えさせられました。一方、それを食い止めようとする防災も土木の専門分野であり、実際に現地で話を聞いたからこそ自分の志と社会とのつながりを見つめ直すことができました。
東工大VGとしても、今回の学びを踏まえ、現地でのボランティア活動や大学と地域のつながりを形成する地域連携活動などをより拡大していきたいと思います。

東工大VG(学生ボランティアグループ)

学生支援センター未来人材育成部門所属の学生団体です。東日本大震災の津波で流された写真を洗浄する活動をきっかけに誕生し、復興支援・防災活動・地域連携を軸に、学内外でさまざまなボランティア活動を展開しています。具体的な活動としては、工大祭およびホームカミングデイでの被災地復興支援物産展、学内防災訓練の補助、こども食堂、古本市(教科書・参考書の寄付・譲渡の仲介)などがあります。また週1回Hisao & Hiroko Taki Plazaでランチミーティングを行っています。

関連リンク

お問い合わせ先

東工大VG(学生ボランティアグループ)

Email titechvg@outlook.com

学生支援センター未来人材育成部門
(学生活動支援窓口)

Email siengp@jim.titech.ac.jp

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