東工大ニュース
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味の素(株)、UMI、東工大教授ら 世界初となるオンサイトアンモニア生産の実用化を目指す新会社を設立
―アミノ酸等の発酵副原料の安価・安定供給、農業肥料等への活用を図る―
味の素株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長 西井孝明)およびユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社(以下「UMI」)(本社:東京都中央区、代表取締役 月丘誠一)が管理運営を行うUMI1号投資事業有限責任組合は、東京工業大学(以下「東工大」)の元素戦略研究センター長の細野秀雄教授らと共に、科学技術振興機構(以下「JST」)の支援の下、細野グループが発明した優れた触媒を用いた、世界で初めてとなるオンサイト型のアンモニア合成システムの実用化を目指す新会社である、つばめBHB株式会社(以下「つばめBHB」)を設立し2017年4月25日に事業を開始しました。
生体を構成するアミノ酸やタンパク質には窒素[用語1]という元素が必ず含まれており、窒素は生命活動を維持するのに不可欠です。アンモニアは窒素源となる重要な化合物で、世界総生産量は年間1億6千万トンを超えています。そのうち約8割が肥料の原料として、残り約2割は様々な食品・医薬品の原料や化成品の原料として利用されています。
現在、アンモニアは100年以上前に発明されたハーバー・ボッシュ法(以下「HB法」)を用いて主に生産されています。HB法は空気中の窒素と、天然ガス等から得られる水素[用語2]のみでアンモニアを合成することができる非常に優れた生産技術であり、世界中で広く活用されています。一方、HB法は高温かつ高圧の反応条件が必要であり、高いエネルギー負荷がかかる大型プラントでの一極集中・大量生産を行わなければならず、設備投資が高額になるという課題があります。加えて、アンモニアを生産拠点から世界各地に点在する需要地に輸送するためには、専用の運搬装置と保管設備が必要であることから物流コストが非常に大きいことが課題となっています。
この課題を解決するため、細野教授らはJSTの戦略的創造研究推進事業 ACCEL[用語3]「エレクトライドの物質科学と応用展開」(研究代表者:細野秀雄、プログラムマネージャー:横山壽治)の研究開発において、低温・低圧条件下で高効率のアンモニア合成が可能な、HB法で用いられる触媒とは全く異なる触媒を発見・発明しました。低温・低圧の反応条件であることから、従来難しいとされた小型のプラントでの生産が可能となります。将来、この技術の実用化により、世界で初めてとなる、必要な量のアンモニアを必要とされる場所で生産する、「オンサイトアンモニア生産」モデルの実現が期待されます。
味の素(株)は、グルタミン酸をはじめとする多種のアミノ酸等の発酵素材の生産において多くのアンモニアを原料として利用しており、従前より細野教授らの発明・発見をアンモニアの安価・安定供給を実現する画期的な基本技術として高く評価し、本技術の実用化に関する共同開発を実施してきました。味の素(株)は、つばめBHBと協力して自社工場でのオンサイトアンモニア生産の実現を図り、発酵素材のコスト競争力を高めるドライバーとする他、発酵副原料の生産および輸送におけるエネルギー消費や環境負荷を抑えることで地球との共生を目指します。
東工大の細野教授は、つばめBHBの技術アドバイザーを務め、新触媒の実用化を支援します。また東工大とつばめBHBとの共同研究により、高効率の触媒の研究開発をさらに推進します。またJST、および東工大はつばめBHBに対して、オンサイトアンモニア生産技術の基礎となる細野グループの開発による新触媒の特許のライセンスを行い、つばめBHBの事業をサポートします。
UMIはつばめBHBに対して、今後の事業推進に必要な資金を供給するとともに、取締役等の経営メンバーの派遣、事業開発体制の強化等の経営サポートを行います。UMIは上記の取り組みを通じて、素材・化学分野における有望なアカデミアシーズの社会実装の成功事例の創出を目指し、当該分野におけるエコシステムの形成に貢献します。
つばめBHBは、味の素(株)の国内外発酵素材工場に本技術を導入し、2021年頃を目処に世界初のオンサイトアンモニア生産の実用化を図ります。将来的には味の素(株)に加え、いろいろなパートナー企業と連携し、農業肥料、食品・医薬品、化成品等への適用拡大を図り、より環境に配慮したサステナブルな生産システムの実現を通じて社会への貢献を目指します。
東京工業大学は、創立から130年を越える歴史をもつ国立大学であり、日本最高峰の理工系総合大学です。「ものつくり」の精神を大切に創造性豊かな教育を実践し、日本の産業界・科学界を支える多くの人材を輩出してきました。確かな基礎力と理工系専門力、そして、人文社会系教養をあわせもち、さらに世界を舞台に活躍できるコミュニケーション能力を身につけた人材の育成を目指しています。
科学技術に関する基礎研究、基盤的研究開発、新技術の企業化開発、情報流通、基盤整備等に関する業務を総合的に行うことにより、日本の科学技術の振興を図る文部科学省所管の国立研究開発法人です。国民の幸福で豊かな生活の実現に向けて、新しい価値の創造に貢献し、国の未来を拓く科学技術振興を進めます。
UMIは「優れた素材・化学企業の育成を通して、日本の技術力を強化し、世界に通用する産業構造を醸成する」というビジョンの下、日本企業やアカデミアが保有する、将来の産業の礎となるような優れた素材・化学分野における新技術・事業への投資活動を行っています。
電子化物の研究は、JST ERATO「透明電子活性」プロジェクト(1999 - 2004)の中で始めたものです。2004年に12CaO・7Al2O3(C12A7)というセメント鉱物を取り上げ、その結晶構造を構成するゲージ中に対アニオンとして存在する酸素イオンを電子で交換することで、室温で安定な電子化物(C12A7:e)を初めて実現しました。C12A7:eは金属のように電気をよく通し、低温にすると超伝導を示します。また、アルカリ金属と同じくらい仕事関数が小さいのに、化学的に安定というユニークな物性をもっています。この性質を活用すべく、C12A7:eにルテニウムを担持し、マイルドな条件下でのアンモニア合成の触媒として検討したところ、優れた特性をもつことが分かりました。これらの一連の成果は、来年度から使われる高校の化学の教科書の一つに掲載されます。
2013年から開始されたJSTのACCELプログラムの第一号課題に選定されて以来、上記のエレクトライドのコンセプトを発展させ、いろいろなアンモニア合成触媒を開発してきました。これらの成果が、味の素(株)と政府系ファンドUMIの目に留まり、その実用化のための新社“つばめBHB”が発足しました。IGZO(イグゾー)-TFTは美しいディスプレイというbetter lifeに貢献していますが、今回は生きるために不可欠なアミノ酸の合成用ですのでessential for lifeに寄与できそうで嬉しい限りです。何とか共同研究者と力を合わせて発展させたいと思っています。
用語説明
[用語1] 窒素 : 窒素ガスは空気の約78%を占め、窒素は地球上のほぼ全ての生物にとって必須の元素。
[用語2] 水素 : 宇宙で最も多く存在する元素。近年では燃料電池車の燃料等クリーンエネルギーとしても着目されている。
[用語3] 戦略的創造研究推進事業 ACCEL : JSTの事業の一つで、世界をリードする顕著な研究成果のうち有望なものの、企業などではリスクの判断が困難な成果を抽出し、プログラムマネージャーによるイノベーション指向の研究開発マネジメントにより、企業やベンチャー、他事業等に研究開発の流れをつなげている。
お問い合わせ先
味の素株式会社 広報部 PRグループ
Tel : 03-5250-8180
ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社
広報担当・佐藤
Tel : 03-5148-5241
国立大学法人東京工業大学 広報・社会連携本部
広報・地域連携部門
E-mail : media@jim.titech.ac.jp
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国立研究開発法人 科学技術振興機構 総務部 広報課
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