研究

東工大ニュース

多糖類を用いて骨再生の蛍光検出を実現 ―MRIとのマルチモーダルイメージングプローブを開発―

RSS

公開日:2015.02.17

概要

東京工業大学大学院理工学研究科の田中浩士准教授、高橋孝志名誉教授(元大学院理工学研究科教授)、放射線医学総合研究所の青木伊知男チームリーダーと京都大学再生医科学研究所の田畑泰彦教授らは、多糖類のデキストランを原料に用い、骨を対象としたマルチモーダルイメージングプローブの開発に成功した。マルチモーダルイメージングプローブは、複数の検出手法により対象部位の可視化を可能にするプローブであり、一つの検出方法では分析することが困難な病態を多角的に分析することを可能にする。今回、体内断層撮影を可能にするMRIと検出感度の高い蛍光検出が可能なマルチイメージングプローブの合成を達成した。

母体としたデキストランは、グルコースを構成糖とする多糖であり、食品添加物に利用されるなど人体に対する安全性が担保されているため、臨床応用に対するリスクも少ない。また、多糖を用いるイメージングプローブは、物性を大きく変えること無く、薬剤含有させることも可能であり、イメージングと治療を同時に行なうことも可能となる。

研究の背景

生体内現象を生きたまま可視化する分子イメージング技術は、病態を定量する次世代の診断技術として注目されている。病態の定量化は、適切な治療方針の決定だけでなく、医薬品開発候補品の効能の定量化にも繋がる。イメージングは、光学、核磁気および放射性などの原理に対応するモダリティー(検査手法)を用いて行なう。しかしながら、モダリティーには、短所および長所を含む特徴を有する。例えば、放射性核種を用いるPETやSPECTは、検出感度が非常に高いが、分解能が低く、また、放射性プローブの製造および取り扱いが難しい。

また、核磁気を用いるMRIは、体内の深部までイメージングでき、かつプローブの取り扱いは容易であるが、検出感度そのものが低く、多量のプローブを生体内に導入する必要がある。一方、蛍光検出は、感度が高くかつプローブの安定性も高いが、生体内におけるシグナルの減衰が大きいために、生体深部の測定には適していない。そこで近年、複数のモダリティーで検出可能な、マルチモーダルイメージングが注目されている。同手法は、それぞれの短所を補うことにより、より信頼性の高いイメージングが可能なると言われている。

生体適合性が高く、検出部位や組織認識部位導入の足掛かりとなる水酸基を多く含有する多糖は、イメージングプローブおよびドラックデリバリーシステム(DDS)のキャリアーの有望な基盤材料である。そのため、多糖を適切に修飾することができれば、有用なイメージングプローブになると期待できる。従来法では,反応時間、試薬の濃度および当量などを調整して、機能性部位の適切な導入量を調整している。

しかし導入する基質によりその反応性が、また、取り扱う物質量により撹拌効率等が異なるため、その都度の調整が必要となる。そのため、合成したプローブの再合成、およびそれを用いる機能性の再現性の確保が難しくなる場合がある。そこで、イメージングプローブの合成を指向した効率的かつ再現性の高い多糖の修飾方法が求められていた。

研究成果

今回の研究では、デキストラン多糖にアセチレンとアミノ基を導入したテンプレートに対するカップリング反応利用する骨のマルチモーダルイメージングプローブの合成を行なった(図1)。まず、あらかじめ適切な量のアセチレンとアミノ基を導入した多糖テンプレートを合成した。アセチレンはアジド基と、アミノ基はカルボン酸と水酸基存在下化学選択的にカップリングすることができる。そのため、同一のテンプレートを用いることにより、先に導入した官能基の量に応じた機能性部位を、それぞれ独立に再現性よく導入することができる。

今回はアジド基を有するビホスホナート(BP)を骨認識部位として、カルボン酸を有する検出部位カクテルをそれぞれ導入することに成功した。検出部としては、放射性金属や、MRI造影剤とした働く金属イオンを配位できる金属キレーター(DOTA)、数センチメータ単位では生体内を透過する近赤外蛍光を発光する色素(Cy5)を導入した。

多糖テンプレートを用いるマルチモダル骨イメージングプローブの合成
図1 多糖テンプレートを用いるマルチモダル骨イメージングプローブの合成

得られた化合物を用いて骨の等価体であるヒドロキシアパタイトに対する結合試験を行ったところ、骨結合部位であるビホスホナートの導入量が増えるとともに結合効率も向上した。さらに、下肢部に骨の再生モデルを移植したマウスを用いて再生部位のイメージングを行なった。その結果、蛍光イメージング法において、マウスの下肢部の再生モデルのイメージングに成功した(図2A)。さらに、Gdをキレートさせてプローブを用いて、MRIによる再生モデルの断層イメージングを行なった(図2B, C)。その結果、結合部の持っていないGd-DTPAと比較して、本イメージングプローブが再生部位により留まり、その部位の可視化を可能にしていることが示された。

A)マウス下肢部の蛍光イメージング B)MRI断層イメージング C)投与後におけるシグナル強度比
図2 A)マウス下肢部の蛍光イメージング B)MRI断層イメージング C)投与後におけるシグナル強度比

以上の研究成果により、多糖デキストランからなる新規テンプレートを原料としたマルチモーダルプローブの合成とそれを用いる骨の再生モデルのイメージングに成功した。本研究成果は、新たなイメージングプローブの開発に弾みをつけると期待できる。

今後の展開

本研究により開発したデキストラン誘導体は、さらに薬剤を結合させることにより、骨折の病態の診断だけでなく、患部への薬剤輸送を可能にすることにより、診断と治療を同時に行なうことを可能にする。また、本テンプレートを用いて様々な結合部位を導入することにより、他の診断プローブの開発に繋がると期待している。

論文情報

論文タイトル :
Synthesis of a Dextran-Based Bone Tracer for in vivo Magnetic Resonance and Optical Imagings by Two Orthogonal Coupling Reactions
掲載誌 :
RSC Advance 4, 7561 (2014).
DOI :
著者 :
Hiroshi Tanaka1, Sho Yamaguchi1, Jun-ichiro Jo2, Ichio Aoki2, Yasuhiko Tabata3 and Takashi Takahashi1
所属 :
1Department of Applied Chemistry, Tokyo Institute of Technology, 2Molecular Imaging Center, National Institute of Radiological Sciences, and 3Department of Biomaterials, Institute for Frontier Medical Sciences, Kyoto University

問い合わせ先

大学院理工学研究科応用化学専攻
准教授 田中浩士
TEL : 03-5734-2471
FAX : 03-5734-2884

RSS