東工大ニュース
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東工大の研究成果を応用し、大型有機ELパネルの効率的な量産に貢献
―AGC旭硝子、C12A7エレクトライドのスパッタリングターゲット材を量産開始―
東京工業大学と旭硝子株式会社(以下、AGC旭硝子)は、本学 科学技術創成研究院の細野秀雄教授の研究グループが開発した「C12A7エレクトライド(C12A7:e-)」を用いて均一な非晶質薄膜を共同開発しました。AGC旭硝子は、これを量産するために必要なスパッタリングターゲット材の工業化と商業生産を開始しました。
C12A7はアルミナセメントの構成成分の一つで、内径0.4nm[用語1]程度の籠状の骨格が面を共有して繋がった構造をしており、この籠には酸素イオンが含まれています。細野教授の研究グループはこの籠中の酸素イオンをすべて電子で交換し、金属のように電気をよく流し、電子を外部に極めて与えやすい性質を持ちながら化学的にも熱的にも安定で容易に取り扱うことができる、「C12A7エレクトライド」を開発しました。また、アモルファス非晶質C12A7エレクトライドも作製できることを示し、特徴的な性質も保持されていることを見出しました。
現在、有機ELディスプレイの電子注入材料には、フッ化リチウム(LiF)や、アルカリ金属をドーピングされた有機材料が用いられていますが、これらは不安定な物質あるいは状態で使われています。そこで細野教授の研究グループとAGC旭硝子の研究グループは、より安定した「非晶質C12A7エレクトライド薄膜」を開発しました。AGC旭硝子の研究グループが開発したターゲット材を用いた、室温のスパッタリング工程[用語2]から得る事のできる、非晶質C12A7エレクトライド薄膜は、可視域で透明で、容易に電子を放出し、しかも化学的に安定しているというユニークな特徴をもっています。これに細野教授の研究グループが開発した透明非晶質酸化半導体(TAOS[用語3])を用いたn-チャンネルのTFT素子を組み合わせる事で、デバイス構造として有利な逆構造型でも、駆動電圧の低い電子輸送層を、安定して高い歩留りで製造する事ができるようになります。TAOS-TFTは大型の有機ELパネルの駆動に適していますが、その性能を生かす逆構造の実現に必要な電子注入層と輸送層として、うまく機能する物質がありませんでした。今回の成果により、酸化物TFTで駆動する有機ELパネルの製造が大幅に改善できることが期待できます。
なお、本成果は、以下の事業・研究開発課題の一環として得られました。
国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ACCEL
用語説明
[用語1] nm : ナノメートル、1/1000ミクロン。
[用語2] スパッタリング工程 : 真空チャンバー内に薄膜としてつけたい金属をターゲットとして設置し、高電圧をかけてイオン化させた希ガス元素(普通はアルゴンを用いる)や窒素(普通は空気由来)を衝突させる。するとターゲット表面の原子がはじき飛ばされ、基板に到達して製膜することが出来る。 原理も単純であり「スパッタ装置」として各種あることから、様々な技術分野で広く使われている。 最近では、高品質の薄膜が要求される半導体、液晶、プラズマディスプレイ、光ディスク用の薄膜を製造する手法として用いられている。
[用語3] TAOS : Transparent Amorphous Oxide Semiconductor. In-Ga-Zn-Oから成るIGZOはその一つ。