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科学技術創成研究院 先導原子力研究所 設立記念行事開催報告

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公開日:2016.12.08

今年4月に実施された教育・研究改革により、東工大の組織が大きく変わりました。その中で、4つの研究所と2つの研究センター、および10個の研究ユニットから構成される科学技術創成研究院が創立され、旧・原子炉工学研究所を主な母体とする研究所「先導原子力研究所」が新たにスタートを切り、10月14日に設立記念行事の講演会および式典が大岡山キャンパス東工大蔵前会館くらまえホールにて行われました。

集合写真

集合写真

前半の記念講演会では、まず先導原子力研究所の矢野豊彦所長(科学技術創成研究院 教授)が、前身となる原子炉工学研究所(原子炉研)からの歩みを振り返りつつ、先導原子力研究所設立に至った経緯について話しました。そして、原子炉研で取り組んできた教育・研究の軸を保ち、その体制をより発展させる形で先導原子力研究所が設立できたことへの感謝の言葉を述べました。続いて、関本博名誉教授(元・原子炉研教授)が、1990年当時の原子炉研改組の内実や、その後の存在感を高めるための革新炉研究を中心とする21世紀COEプログラム※1「世界の持続的発展を支える革新型原子力」(COE-INES)や革新的原子力研究センター(CRINES)の取り組み、また高速増殖炉用の鉛ビスマス合金冷却材プロセスの開発、超長寿命中小型炉であるCANDLE(キャンドル)炉※2の研究など、当時の経緯を交えた興味深い話がありました。また、近年の日本人によるノーベル賞受賞ラッシュもさることながら、人類の発展に大きく貢献する研究領域のひとつとして「原子力」に誇りを持ち、同分野を先導する研究を推進してほしいと激励しました。

※1
文部科学省の研究拠点形成費等補助金事業
※2
濃縮ウランやプルトニウムを必要としない革新的原子炉

次に、先の震災時に甚大な被害を受けた福島第一原子力発電所の中にあって、唯一、冷温停止に導くことのできた第5・6ユニットの指揮官を務めた、技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)専務理事の吉澤厚文氏(大学院理工学研究科修士課程修了、元・東京電力福島第一原子力発電所第5・6ユニット長)が登壇しました。震災時、想像を絶する過酷な状況の中、吉田昌郎福島第一原子力発電所長(当時)とともに、現場の人々が叡智を結集して尽力し、命を賭して原子炉制御に取り組んでいくことで破局的結末の回避がなされたと話し、安全技術の最後の砦は人間の持つレジリエンス(逆境力)と五感で感じる能力であり、これまでのシステム安全向上に加え、そうした対応力の育成が重要であると力強く語りました。

講演会最後は、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のリーダーである藤田玲子氏(大学院総合理工学研究科博士課程修了、元・日本原子力学会長)より、顕在化した高レベル放射性廃棄物問題への革新的対応法への国家的な取り組みであるImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」が紹介されました。その中で、同氏は、ガラス固化体や高レベル廃棄物融液からの長寿命核分裂生成物(LLFP)元素抽出技術、LLFPの核反応データの取得および短半減期核種または安定核種に変換する世界初の核反応経路の検討、加速器など核変換に適用する核変換システムの要素技術開発など、各プログラムにおける研究の推進状況について説明し、今こそ他分野からの参入による原子力研究の拡がりが大切であると強調しました。また、原子力は工学から始まったが、実用化から40年が経ち、新たなフェーズ(段階)を迎えた現在こそ、この分野の基礎研究を見直すべきであると述べ、講演を締めくくりました。

後半に行われた記念式典では、まず、矢野所長が当日の出席者への感謝の意を述べた後、今後の先導原子力研究所に対する指導、支援を求めました。続いて、安藤真理事・副学長(研究担当)が、エネルギー、環境といった今後さらに重要性を増す課題に包括的に取り組むためには、今回の研究改革で集結した各研究所を横断する課題の設定が必要であり、先導原子力研究所の今後の活動と発展に大いに期待すると述べました。科学技術創成研究院の益一哉院長からは、これからの研究組織には国際性も加味したダイバーシティ(多様性)が強く求められること、研究内容も含め、それを実現するための組織としての先導原子力研究所が果たすべき役割について言及がありました。また、来賓の方々からも、学生時代や原子炉工学研究所時代の交流を懐かしむ話や、今後の科学技術創成研究院と各学院間との連携のあり方への期待、原子力人材育成の大切さについての提言などがありました。

当日は、講演会には約150名、式典には約70名の学内外からの来場があり、盛会のうちに終わりました。1956年に旧・原子炉研の母体となる研究施設が設立されてからちょうど60年、言わば還暦を迎えたこの年に新たな体制で誕生した今後の先導原子力研究所の活動にご期待下さい。

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 先導原子力研究所
小林能直

E-mail : ykobayashi@lane.iir.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3075

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