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大面積の分子配向を一段階で光パターン形成 ―「動的光重合」技術を開発し多彩な配向パターンを実現―

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2017.11.13

要点

  • 多彩な分子の配向パターンを一段階で形成できる新手法「動的光重合」を新たに開発
  • 従来法に比べて、1万分の1ほどの微細化および光エネルギーの劇的な低減を実現
  • 非平衡状態を材料設計・創製へ取り込んだ新たなコンセプトを提案
  • 高精細フレキシブルディスプレーなどへの応用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の宍戸厚教授、久野恭平大学院生、カナダ・マギル大学 化学科のChristopher J. Barrett(クリストファー・バレット)准教授らの研究グループは、液晶など大面積の二次元的な分子配向パターンを自在に制御できる新たな光重合法[用語1]の開発に成功した。

露光される部分を移動しながら光照射することにより、分子の拡散や流動を引き起こし、この流れによって均一な配向パターンを形成した。また、光重合性液晶であれば化合物の分子骨格や重合反応の種類に依存せず、多彩な分子の配向にも成功した。特に分子が放射状に並んだパターンの作製では、従来の偏光を用いる光配向法[用語2]に比べて、1万分の1ほどの微細化および光エネルギーの劇的な低減を実現した。

ナノからマイクロスケールの微細な分子配向構造を大面積にわたり一段階でパターン形成できることから、これまでできなかった光の微細加工が可能になる。

今後、高精細フレキシブルディスプレーなどへの応用が期待される。

この成果は、2017年11月10日付(米国東海岸時間)の米国オンライン科学雑誌「Science Advances」に掲載された。

研究の背景

材料の機能は分子や分子集合体の構造および配向・配列構造などナノからマクロまでの空間スケールにわたる階層構造によって決定される。液体の流動性と結晶の異方性を有する液晶分子は外部刺激を加えることで簡便に階層構造を制御できるため、液晶ディスプレーを筆頭にフォトニクスからエレクトロニクスやソフトロボティクスまでの多種多様な高機能材料に展開されている。

近年では大面積にわたる二次元的な微細配向パターニングを液晶材料に施すことでユニークかつ高度な機能創出を実現しており、最も有力な手法として光配向法がある。色素を含む液晶系へ偏光[用語3]を照射すると、偏光方向に依存した分子配向をパターン形成できる(図1A)。

しかし、原理的に高価な偏光光源と光応答分子の組み合わせが欠かせなかった。さらに、二次元配向パターンの解像度は原理的にミリスケールのパターンが限界で、かつアレイ状パターンの形成には膨大な時間と光エネルギーが必要だった。

(A)既存の光配向法では、色素分子を添加した液晶系へ強度分布が均一な偏光を照射することで、分子配向を誘起する。(B)新たに開発した動的光重合では、動く光の照射により材料中に定常的な分子の拡散と流動を誘起し、その流れに従って分子配向を誘起する。
図1.
(A)既存の光配向法では、色素分子を添加した液晶系へ強度分布が均一な偏光を照射することで、分子配向を誘起する。(B)新たに開発した動的光重合では、動く光の照射により材料中に定常的な分子の拡散と流動を誘起し、その流れに従って分子配向を誘起する。

研究成果

宍戸教授らは重合性液晶分子の光重合過程において光を時空間的に動かすことで、二次元的な配向パターンが一段階で形成できる新手法「動的光重合」を新たに開発した(図1B)。光照射条件(形状、動き、強度)を変調するだけで、重合により様々な分子を自在に配向できる。

スリット状の光を一方向に動かしながら重合すると一軸分子配向パターンを大面積に形成できた。また、ドット状の光を並べて動かすことにより、螺旋状の周期的な分子配向を簡便に作成できた。さらに、同心円状の光を拡大して動かすことにより、放射状の分子配向をもったフィルムの作成にも成功した。この手法を用いることにより、様々な分子配向が規則的かつ微細に集積したフィルムを作成できる(図2)。

動的光重合により形成した多種多様な配向パターン例。(A)設計した分子配向パターン、(B)動く光の照射パターン、(C)作製した高分子フィルムの偏光顕微鏡観察結果。(D)アレイ放射状配向を作製するための光照射パターン(上)と偏光顕微鏡観察結果(下)。
図2.
動的光重合により形成した多種多様な配向パターン例。(A)設計した分子配向パターン、(B)動く光の照射パターン、(C)作製した高分子フィルムの偏光顕微鏡観察結果。(D)アレイ放射状配向を作製するための光照射パターン(上)と偏光顕微鏡観察結果(下)。

パターン露光により、放射状分子配向が規則的に集積することや幅2 µmの露光部の中でも放射状分子配向が誘起できることを確かめた。既存技術で作成できるパターンと比較して1万分の1の微細化に成功した。また、既存技術では集積するために、放射状分子配向を一つずつ作製する必要があったが、動的光重合法では任意のパターンを露光するだけで良い。色素や偏光が不要なうえ、必要な露光量も従来と比べて1/100に低下した。

光を照射した領域でのみ重合反応が起こるため、反応領域と非反応領域の間で化学ポテンシャルが異なる非平衡状態が生起する。その結果、領域境界に対して垂直方向に物質の拡散と流動が起こり、この流動方向に従い分子が均一に並ぶと考えられる。自然界で日常的に観察される物質の動きを駆動力にしているため、幅広い分子種を省エネルギープロセスで配向できる利点がある。

今回、開発した動的光重合法は光の動きで分子配向パターンを自在に設計できることから、新たな機能材料を簡便に創成できる利点がある。大面積一軸分子配向フィルムは次世代フレキシブルディスプレーのキーになる技術として、また大面積螺旋状分子配向フィルムは偏光を選択的に回折する偏光ホログラム素子として、さらに放射状分子配向フィルムは偏光が特異的に変化したベクトルビーム[用語4]作成素子として期待されている。

これらの機能材料は実現が望まれているものの、微細化と大面積化の両立や作成プロセスの煩雑さがボトルネックとなっていた。今回開発した技術は従来の課題を解決し、幅広い機能材料創成を可能にする基盤技術として有用である。

今後の展開

今回、開発した動的光重合技術は、既存の光配向法では困難なマイクロスケールな二次元分子配向パターンを大面積に形成できるため、新たな機能有機デバイス創成への貢献が期待される。さらに、色素も偏光光源も不要なため、工場の既存製造ラインに適用しやすい利点もある。今後は高精細フレキシブルディスプレーへの応用が見込まれる。

尚、本研究は、科学技術振興機構(JST)さきがけ「分子技術と新機能創出」研究領域(研究総括:加藤隆史教授(東京大学))の助成を受けています。

用語説明

[用語1] 光重合法 : 低分子量体から高分子量体(プラスチック)を形成するプロセスの一つであり、光照射により反応が開始する。

[用語2] 光配向法 : 液晶分子を特定の方向へ並べる手法の一つであり、ディスプレーやスマートフォンで実用されている。色素分子を含む液晶材料へ偏光を照射することで、色素分子が偏光方向に依存して並び、その方向へ液晶分子も並ぶ。

[用語3] 偏光 : 光は電磁波と呼ばれる波であり、互いに垂直な電場と磁場の振動の伝搬として記述できる。例えば、太陽光などの自然光はこの振動方向がランダムとなっている。一方、偏光とは特定の振動方向のみを有する光の総称である。

[用語4] ベクトルビーム : 通常のレーザー光とは異なり、光の中心強度がゼロでありドーナツ状の光強度分布を有する。さらにドーナツ形状に沿って偏光方向が周期的に変化する。特異な光形状および特性から、回折限界以下の非常に微細なレーザー加工や光マニピュレーション、超高解像度イメージング、スピントロニクスなど多岐にわたる応用に展開できる。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Scanning wave photopolymerization enables dye-free alignment patterning of liquid crystals
著者 :
K. Hisano, M. Aizawa, M. Ishizu, Y. Kurata, W. Nakano, N. Akamatsu, C. J. Barrett, A. Shishido
DOI :

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化学生命科学研究所

宍戸厚 教授

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