研究

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迅速・高収率でアミノ酸N-カルボキシ無水物を合成

マイクロフロー合成で0.1秒以内にpHをスイッチ

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2018.08.02

要点

  • マイクロフロー合成法でNCAの迅速かつ高収率での合成に成功
  • 瞬間希釈法により酸性条件で不安定なNCAの合成も達成
  • タンパク質構成アミノ酸全20種と非天然アミノ酸を原料にNCAを合成

概要

東京工業大学 生命理工学院の小竹佑磨大学院生(博士後期課程2年)、科学技術創成研究院の中村浩之教授、布施新一郎准教授は、不安定なアミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)[用語1]を迅速かつ高収率で合成することに成功した。マイクロフロー合成法[用語2]を駆使して0.1秒以内に塩基性(アルカリ性)から酸性にpH(水素イオン指数=酸・アルカリの程度)をスイッチする手法により実現した。NCAは医薬品やそのキャリアとして重要なポリペプチドの主要な原料であり、ポリペプチドの利用拡大につながる成果である。

NCAは約100年前に開発されたアミノ酸とホスゲン[用語3]を強酸性条件下で反応させる手法で現在も生産されている。この手法は副反応を引き起こす点や酸性条件下で不安定なNCAの合成には利用できない点が問題となっている。一方、塩基性条件下では速やかにNCAが得られるものの、生じたNCAが重合[用語4]するため、その合成は不可能とされてきた。

開発手法はマイクロフロー合成法を駆使した高速のpHスイッチで、速やかに反応を進行させると同時に、NCAの重合を抑止することに成功した。このため、多様なNCAの大量・低コスト供給を可能にする技術として期待される。

研究成果は7月12日に国際的学術誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」に掲載された。

研究成果

アミノ酸とホスゲン等価体のトリホスゲンを塩基性条件下で反応させて速やかにNCAを得た後、マイクロフロー合成法を駆使して0.1秒以内に酸性にスイッチし、望まないNCAの重合反応を抑止することに成功した。しかも酸は外部から添加するのではなく、トリホスゲンと水から生じた塩化水素を利用した。これによりプロセスをシンプルなものにしている。

さらに、酸性条件下で不安定なNCAの合成を可能にするため、反応液を酢酸エチルで瞬間希釈することによりNCAと酸の接触を抑制した。これらの技術により酸性条件で不安定なNCAを合成することに世界で初めて成功した。既にタンパク質構成アミノ酸全20種および酸性条件で不安定な官能基をもつ非天然アミノ酸を原料としたNCAの合成に成功している。

マイクロフロー法を駆使するNCAの効率合成

マイクロフロー法を駆使するNCAの効率合成

研究の背景

アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA)は生体適合性材料、生分解性ポリマー、薬剤キャリアや医薬品として有用なポリペプチドの原料として重要であり、様々なアミノ酸を原料として高純度のNCAを簡便に合成できる手法の開発が求められている。現在、唯一の実践的なNCAの合成法はアミノ酸に対してホスゲンおよびホスゲン等価体を反応させる手法だが、本手法は強酸性条件下で長時間の加熱を要するため、副反応をひきおこす点が問題となっており、酸性条件下で不安定な官能基をもつNCAの合成は困難である。

一方、塩基性条件下でNCAを合成すれば速やかにNCAが得られるが、生じたNCAが塩基性条件下で容易に重合してしまうため、この手法も未報告となっている。このような背景から約100年も前に報告された合成手法が現在も使用され続けている。

研究の経緯

「塩基性条件下だと反応は速いが、目的物が望まない反応を起こしてしまう」―有機合成においてたびたび遭遇するこのような問題の解決が今回の研究の焦点となった。布施准教授らはこの問題をクリアするため「マイクロフローリアクター中で0.1秒以内に塩基性から酸性に瞬間転換する」というアイデアを試みた。 つまり、塩基性条件下で速やかに望む反応を進行させて、0.1秒以内という極めて短時間で酸性にスイッチして目的のNCAを重合させずに得るという方法である。

これを実現するには0.1秒以内という短時間にアミノ酸の水溶液とトリホスゲンの有機溶媒溶液を混合してpHを制御しなくてはならない。しかし通常のフラスコの反応では原理的に数秒以上を混合に要するため、この制御は不可能である。一方で微小な流路を反応場として用いるマイクロフロー法ではこれが実現可能であることに着目した。

今後の展開

マイクロフロー合成法は連続・並列運転により容易にスケールアップが可能であるため、産業への展開も十分期待できる。既に特許を出願しており、今後、産業利用を目指した研究を推進する。NCAは既述の通りポリペプチドの原料として重要であるが、不安定なため、その貯蔵や保管には厳密な温度や湿度の制御が求められ、これがNCAのさらなる用途拡大を阻む要因になっている。

マイクロフロー合成は小スペースでスケールアップが容易であるため、開発した手法により、必要に応じて、使用場所でNCAを合成できるようになると期待される。

用語説明

[用語1] アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCA) : アミノ酸がC=Oを介して環状になった分子。NCAに塩基を作用させると環の開裂を伴って重合し、多数のアミノ酸がペプチド結合(アミノ酸同士の結合)により連結したポリペプチドを与える。

[用語2] マイクロフロー合成法 : 微小な流路を反応場とするマイクロフローリアクターを駆使する合成法。旧来のフラスコ等を用いるバッチ合成法と比較して、反応時間(1秒未満も可)、反応温度の厳密な制御が可能である。

[用語3] ホスゲン、トリホスゲン : ホスゲンはCOCl2の分子式をもち、NCAのC=O部分の源となる。ホスゲンは毒性の高い気体であり、取扱いに注意を要するため、本研究では固体で比較的取り扱いやすいトリホスゲンを代替として用いている。分子式は(Cl3CO)2C=Oで表される。

[用語4] 重合 : 小さい分子が互いに多数結合して高分子となること。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Rapid and Mild Synthesis of Amino Acid N‐Carboxy Anhydrides: Basic‐to‐Acidic Flash Switching in a Microflow Reactor
所属 :
Yuma Otake1,2, Hiroyuki Nakamura1 and Shinichiro Fuse1,*
著者 :
1Laboratory for Chemistry and Life Science, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan
2School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan.
DOI :

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