東工大ニュース

高大連携サマーチャレンジ 2018 開催報告

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公開日:2018.09.19

15年目の夏

高大連携サマーチャレンジ(以下、サマーチャレンジ)は、今夏で15回という節目を迎えました。2004年夏の初開催以来、東日本大震災の年も含めて1度も休まずに歴史を重ねてきたことになります。

サマーチャレンジは、大学レベルの学問や最先端の研究の授業を高校生に体験してもらい、出された課題にグループで、あるいは個人で立ち向かうことによって「未知の分野への挑戦から何かをつかみ、何かを生みだす」ユニークな夏の合宿です。基礎学力の上に培った発想力・独創性・グループワーク力こそが、未来の科学技術を担う人々に必須であると考え、高校生のときからそうした力を身につけてもらうことを意図したものです。

記録的な猛暑が続く中、8月1日~3日にかけて埼玉県の武蔵嵐山でサマーチャレンジが開催され、東京工業大学附属科学技術高等学校、お茶の水女子大学附属高等学校、東京学芸大学附属高等学校から生徒51名と引率教員9名、本学からは教員25名が参加しました

参加した生徒は、初対面の班メンバーとも最初のアイスブレイクで打ち解け合い、その後の4つの授業形式チャレンジと伝統の分解チャレンジに好奇心と探究心を全開にして取り組んでいました。本学教員やサポーター学生にとっても、暑さをものともしない高校生の集中力と着眼点の多様性に感心しつつ、知的探検が多くの出会いをもたらした楽しい3日間となりました。

佐藤勲理事・副学長(企画担当)と水本哲弥理事・副学長(教育担当)も2日間参加しました。両理事ともに第1回サマーチャレンジから参加し、委員長経験もあるため、書画カメラの調整や分解チャレンジの準備など、スタッフ顔負けの手さばきで高校生たちと発見の驚きを共有しました。

2018実施記録

2018実施記録
サマーチャレンジ2018 タイムテーブルPDF

日時: 2018年8月1日 - 3日

場所: 埼玉県比企郡嵐山町 国立女性教育会館

参加生徒: 51名(東京工業大学附属科学技術高等学校34名、お茶の水女子大学附属高等学校7名、東京学芸大学附属高等学校10名)

参加教員: 34名(東工大教員25名、引率高校教員3校9名)

事務職員: 6名(東工大)

合計: 91名

チャレンジ1 コラムランド

工学院 経営工学系 山室恭子教授

事前に各自が執筆してきた短い文章を、匿名の状態でディスカッションして評価しあう、東工大の名物授業をそのまま持ち込んで、初対面のメンバー同士のアイスブレイクとしました。

今年のお題は「水」。ストーリーと連動したヨコ読みを仕掛けたり、前からと後ろからと双方向の読みが可能な構造にしたり、技巧派の台頭が目立ちました。

そんな中、「水」から「人間」へ宛てた手紙が、ユーモラスなキャラクターで首位に輝きました。最後は、班のメンバーがお互いの作品を読み合うミニ自己紹介タイムです。

文は人なり。仲間の文章を批評しあうことで、メンバー同士の親しみも湧き、個性を認めあってのなごやかなテイク・オフをどの班も達成できたようです。

チャレンジ2 漸化式から力学系へ ―数列たちの棲む世界―

理学院 数学系 川平友規准教授

チャレンジ2
チャレンジ2

国語の次は数学の時間です。

線路のようにずっと続いていく数の連なり=数列が、どのような法則で並んでいるかを表す漸化式(ゼンカシキ)が登場しました。「そうそう、an+1をanの式で書けば連なりが表せるんだよね」と思い出したところで、教科書にもよくある漸化式の問題(右図)が出題され、お決まりの解法で解いたところに、川平准教授からの哲学的な問いが降ります。

「いつも最初に方程式x=2x+1を解くけど、その意味はなんだろう?」

“え?方程式の意味??”生徒たちはびっくりした様子です。求めたxを使うと、なぜか漸化式がきれいに式変形できることがうれしくて、今まで方程式をカリカリ解いてきましたが、その意味を考えたことはあまりないと思われる参加者たち。

「そこから出発して、数列を直線の上に棲まわせてみよう。ここでは神様が、数たちに『1秒後にはこんなふうに動けー』って命令するんだ。だから数列は、この世界(「力学系」)の運動法則に従っていると解釈できるよね。あの方程式は、この世界で唯一動かない、『世界の中心』を求めてるんだって思えるよね」と問いかけます。

“あ、ほんとだ。”数列を追いかけているうちに、いつしかその「意味」という深みに誘われるチャレンジでした。

チャレンジ3 & 4 ロードメジャーとエアポンプ ―身近なモノを分解して仕組みを解明してみよう―

物質理工学院 材料系 上田光敏准教授

サマーチャレンジ名物の分解チャレンジが今年は帰ってきました。しかも、分解チャレンジ史上、最大の大きさ、1メートルの身長を誇る「ロードメジャー」の参入です。陸上競技などで距離を測るのに用いるこの器具で、まずは、床にテープでつくられた「チャレンジロード」の長さを測ってみます。「カーブのところは、きちんと測定できているでしょうか」

何度も測って測定誤差を確認したら、次は分解です。細かな部品がたくさん出てきました。“測定値を表示する桁上がりの仕組みはこうなってて、なるほどリセットする時はこの部品がこう動くのか。”班ごとに分析が進みます。

もうひとつの分解対象は水槽にぶくぶくと空気を供給するエアポンプです。電池式の携帯型と、電源につなぐ据置型の2タイプが用意され、仕組みの解明だけでなく、性能の比較実験もできるようになっていました。

班内で分業して作業した翌日は、あみだくじで、どちらか一方の物品が発表対象となります。前日の情報をメンバー全員で共有したあと、5分間の発表へ向けてスライドづくり。団結力とタイムマネジメントが問われる長丁場のチャレンジでした。

チャレンジ3(写真上 ロードメジャー、写真下 エアポンプ2種類)
チャレンジ3(写真上 ロードメジャー、写真下 エアポンプ2種類)

チャレンジ3(分解チャレンジの様子)
チャレンジ3(分解チャレンジの様子)

チャレンジ5 高分子と医療 ―からだの中で活躍する材料たち―

物質理工学院 応用化学系 芹澤武教授

チャレンジ5
チャレンジ5

分解チャレンジでモノの性質をためつすがめつ吟味したあとは、「物質」のお話です。

成形しやすくて軽いという特徴をもつ高分子は、不具合を起こしてしまった人体を内側から支える頼もしい助っ人として大活躍しています。「では、人工股関節を例に、グループで議論してみてください。3大材料のうち、とにかく硬い金属、摩耗に強い無機材料、成形しやすい高分子のどれをどのパーツに用いたら最適な材料配置といえるでしょうか。さらに、この人工股関節の摩耗しやすい部分をどうにかしたいのですが、どう工夫したら良いでしょう。1日に何千回も動かす足です。あなたのアイデアでもっと良くしてみてください」

人の役に立つ目標設定なので、どの班も真剣です。あちこちの班から「ゲル」という言葉が聞こえました。大正解です。生体模倣という、実際の人体と同じように関節部分にゲルを用いる方法、つまり、水によく馴染む合成高分子でできたサブミクロン単位の短い「芝生」を共有結合で生やすことで摩擦を少なくするのです。

日々進化する医療技術の最先端を体感できたチャレンジでした。

チャレンジ6 音の性質 ― 音の物理と音の聞こえ方

科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 中村健太郎教授

「音は空気が押されて伝わっていきます。音の大小は音圧で表記しますが、人が聴ける一番小さな音は0.00002 Pa(パスカル)で、ジェットエンジンから50メートル離れたときの音は20 Pa、あまりに開きが大きいので対数表記にしてdB(デシベル)という単位を用いるんですよ。」

身近なのに、ちょっと不思議な音の入門編が始まりました。大小の次は音の高低のお話です。「音の高低は周波数Hz(ヘルツ)で表しますが、人が感知できる周波数はこれまた開きが大きくて低いほうは20 Hz、高いほうは20,000 Hz、低周波は小さく聞こえるなど、人の耳の感度は周波数で変わります。」

音の特性の基本を学んだあと、3択でグループ課題が出ましたが、ほとんどの班が「人の耳は左右にしか付いていないのに、どうやって音が前から来たのか後ろから来たのかを聞き分けているのか」という課題を選びました。チャレンジ5で人工臓器への関心が高まったあとだったからかもしれません。目をつぶってランダムに回りから音を出してもらったり、片耳をふさいで実験したり、みんなで「聞こえ方の不思議」を考えます。「実は、この問題はまだ十分には解明されていません。探究心が湧きますね。」

チャレンジ7 身の回りの空気を考える -室内空気質の観点から-

環境・社会理工学院 建築学系 鍵直樹准教授

チャレンジ7
チャレンジ7

最終チャレンジは、少し変わった建築のお話です。「建築というと、ついデザインや、地震で壊れない構造といった目に見える「カタチ」に関心が集中しますが、目に見えない「空気」も実は大切です。なぜなら、食べ物や飲み物よりもはるかに多い量の空気を自分の体に摂取しているからです。つまり、その空気がきれいか汚いかは健康に直結する大問題なのです。さらに、人間は1日のほぼ80%以上を建物の中で過ごしていることからも、建物内の空気は重要です。」

おおよその基礎知識を得たあと、実践編です。「実際に空気中の微小粒子(PM2.5)を測ってみましょう。」ハンディタイプのPM2.5測定器が各班に渡されます。室内のあちこち、建物の外、庭園の中と道路の近く、測定値はどう変化するでしょうか。トイレに潜入した班もあったようです。

一番空気がきれいだったのは会場の空調吹き出し口で、空気清浄機の前よりも低い値です。建物の外に出たとたんに数値がぴんとはね上がるのを見て、参加者は驚いていました。さわやかな風が吹いて、屋外の自然の空気のほうが心地よく感じられるけれど、実は正反対。私たちは建物のおかげで、いろいろな汚染物質からしっかり守ってもらっていることを実感できました。

高校教員の眼

  • コラムランド

    「アイスブレイクとしては最適です。頭をやわらかくする効能があります。本校の生徒にとっては未知の学校の生徒を知るよいきっかけになります」

  • 漸化式から力学系へ

    「高校で『やり方だけ』習う内容を掘り下げてくださったのは(そして先端分野とのつながりを示してくださったのは)大変有益でした」

  • ロードメジャーとエアポンプ

    「実際にモノに触れたがる生徒とそうでない生徒に分かれていたのを見て、理系『大好き』と理系『興味ある』の違いを感じました。これは、分解チャレンジでないとなかなか気づかない点で、考えさせられました」

  • 高分子と医療

    「授業のいたるところに課題に対するヒントがあり、情報を的確に捉える力を問う非常に面白い授業でした。また、授業後に質問に行く生徒も多く、医療への関心の高さがうかがえました」

  • 音の物理

    「イメージしづらい波動をさまざまな映像等で講義していただき、生徒の理解が深まったように感じました。また、課題に関しても特定の1つを正解として提示することがなく、研究の面白さが伝わる興味深い内容でした」

  • 身の回りの空気を考える

    「何より研修室を出た学びというのは、学びと実生活をつなげる意味で効果的だったと思います。全体のチャレンジ数を1つ減らしても、こうした形式のチャレンジには時間を割いてもよかったのではないかと思います」

お問い合わせ先

学務部入試課大学入試グループ

E-mail : nyu.gak@jim.titech.ac.jp

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