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13個の金属原子を三次元型にサンドイッチした有機金属ナノクラスターの開発に成功

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公開日:2018.10.01

要点

  • 三次元サンドイッチ型構造をもつ安定なキューブ状有機金属ナノクラスターが形成されることを発見
  • サンドイッチ構造内にバルク金属内と同じ最密充填金属構造が形成されることを発見
  • 触媒や材料として注目される金属ナノクラスターの新しい分子設計方法を開発

概要

東京工業大学 村橋哲郎教授、山本浩二助教ら、京都大学 倉重佑輝特定准教授、自然科学研究機構分子科学研究所の共同研究グループは、13個のパラジウム原子を環状不飽和炭化水素[用語1]で三次元型にサンドイッチした有機金属ナノクラスター[用語2]の合成に成功した。サンドイッチ錯体は1973年のノーベル賞の対象になった化合物であり、二つの環状不飽和炭化水素が2方向から一つまたは複数の金属原子を挟みこむことで形成される。村橋教授らは、七角形の環状不飽和炭化水素が複数の金属原子に結合しやすい性質をもつことに着目し、10個以上の金属原子が塊状に集合して生じる金属ナノクラスターの周りを環状不飽和炭化水素が6方向からサンドイッチすることで、安定な有機金属クラスター分子が生じることを発見した。

合成した三次元型サンドイッチ金属ナノクラスターは、炭素平面がキューブ(立方体)状に配置された構造をもち、新たなナノスケール分子として、触媒や機能材料への応用が期待される。

研究成果は9月17日付の米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」電子版に掲載された。

研究の背景

サンドイッチ錯体は、平行に配置された二つの環状不飽和炭化水素間に金属原子が挟み込まれた化合物の総称であり、およそ70年前に初めてその存在が明らかにされた化合物である(図1)。一般的に炭素-金属結合をもつ有機金属錯体は不安定な化合物だが、このサンドイッチ錯体は有機金属錯体でありながら高い安定性を示したことから大きな興味が持たれ、結合構造が解明された後の1973年にノーベル化学賞の対象になった。

その後も、サンドイッチ構造を化学的に変換することにより、有用な触媒や材料が次々と開発され、錯体化学[用語3]有機金属化学[用語4]、触媒化学、材料化学などに大きな発展をもたらした。

村橋教授らは、従来の2方向から金属を挟み込むサンドイッチ構造に対して、6方向から塊状金属クラスターを挟み込んだ三次元型サンドイッチ構造が形成される可能性に着眼し、同構造をもつ金属ナノクラスターの合成・実証に成功した(図1)。

従来型のサンドイッチ金属錯体(左)と本研究で新たに創出した三次元型サンドイッチ金属ナノクラスター(右)の模式図

図1. 従来型のサンドイッチ金属錯体(左)と本研究で新たに創出した三次元型サンドイッチ金属ナノクラスター(右)の模式図

研究の成果

村橋教授らは、これまでに七角形構造をもつ環状不飽和炭化水素であるシクロヘプタトリエニル(トロピリウム)配位子[用語5]がシート状に集合した金属原子に結合することにより、2方向サンドイッチクラスターを合成することに成功している。今回、13個のパラジウム原子が塊状に集合したクラスターを6枚のシクロヘプタトリエニル配位子で6方向から三次元型にサンドイッチしたパラジウムナノクラスターの合成に成功した(図2)。

単結晶X線構造解析を用いてこの化合物の分子構造を解明した結果、各シクロヘプタトリエニル配位子が最密充填型パラジウムクラスターの四角形面に結合し、シンプルかつ対称な6配位型構造を形成していることをつきとめた。分子の表面形状はキューブ状であり、代表的な球状ナノカーボン分子であるC60フラーレンと比較して同程度のサイズをもっている(図3)。合成した三次元型サンドイッチパラジウムナノクラスターは多段階の酸化還元能を示すこともわかり、同構造をもつ常磁性体も合成可能であることも明らかにした。

三次元型サンドイッチパラジウムナノクラスターの分子構造

図2. 三次元型サンドイッチパラジウムナノクラスターの分子構造

三次元型サンドイッチナノクラスターのキューブ状分子表面形状(左)と、代表的なナノカーボンであるC60フラーレンの球状分子表面形状(右)
図3.
三次元型サンドイッチナノクラスターのキューブ状分子表面形状(左)と、代表的なナノカーボンであるC60フラーレンの球状分子表面形状(右)

今後の展開

今回の研究成果により、三次元型サンドイッチ構造をもつ有機金属ナノクラスターが合成可能であることが示された。このようなナノクラスター分子は多電子の酸化還元挙動を示すなど、金属原子が集合した構造に起因する特徴的な挙動を示すこともわかってきている。本研究で創成した三次元型サンドイッチ構造をもつ有機金属ナノクラスターは、今後、反応性や物性を解明していくことにより、有用な触媒やナノ分子材料に応用できる可能性が期待される。

この研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業の基盤研究(B)、新学術領域研究「柔らかな分子系」、旭硝子財団研究助成等の支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 環状不飽和炭化水素 : 環状の炭化水素化合物のうち、炭素骨格に二重結合あるいは三重結合を含むものの総称である。

[用語2] 金属ナノクラスター : 数個から数百個の金属原子が集まって出来る集合体で、単核錯体やバルク金属とは異なる性質を示す。

[用語3] 錯体化学 : 配位結合を含む化合物に関する化学。特に金属元素に対する配位結合を含む化合物のことを金属錯体と呼ぶ。

[用語4] 有機金属化学 : 金属錯体の中で金属-炭素結合を有する場合を特に有機金属錯体と呼ぶ。有機金属化学は、有機金属錯体に関する化学のことである。

[用語5] シクロヘプタトリエニル(トロピリウム)配位子 : 7個の炭素原子が環状につながった環状不飽和炭化水素の一種である。C7H7の組成をもつ。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Three-Dimensional Sandwich Nanocubes Composed of 13-Atom Palladium Core and Hexakis-Carbocycle Shell
著者 :
Masahiro Teramoto, Kosuke Iwata, Hiroshige Yamaura, Kenta Kurashima, Koshi Miyazawa, Yuki Kurashige, Koji Yamamoto, Tetsuro Murahashi
DOI :

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