研究

東工大ニュース

藻類のデンプン産出を自在にコントロール

環境に優しいプラスチックや医薬品の増産に期待

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2018.11.05

要点

  • 藻類デンプン合成を調節する仕組みを発見
  • 藻類を用いたデンプン生産実現に向けたエコな基盤技術
  • 国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する有用物生産手法

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所のイムラン・パンチャ日本学術振興会 外国人特別研究員(研究当時)、田中寛教授、今村壮輔准教授の研究グループは、東北大学 大学院生命科学研究科の東谷なほ子博士、東谷篤志教授と、同大 大学院医学系研究科の島弘季助教、五十嵐和彦教授と共同で、藻類のデンプン合成をコントロールする新たな仕組みを解明した。

藻類デンプンは、高付加価値を持つレブリン酸メチルなどの有用化学品原料となるため、この成果を基に藻類のデンプン生産量を増加できれば、環境に優しい燃料添加剤(エンジンをきれいにする薬剤)や医薬品、化粧品、プラスチックなどに用いられる可能性がある。

藻類は、「油脂」を蓄積するためバイオ燃料生産で注目を集めているが、「デンプン」も細胞内に高蓄積することが知られている。しかし、油脂に比べてデンプンを合成する仕組みはよく理解されていなかった。研究グループは今回、デンプン合成開始時に機能するGLG1タンパク質のアミノ酸がリン酸化修飾を受け、リン酸化状態がデンプン合成のオン/オフを決定することを発見した。

本成果は10月23日、英国の科学雑誌「ザ・プラント・ジャーナル(The Plant Journal)」オンライン版に掲載された。

研究成果

研究グループは、藻類オイル[用語1]が蓄積する条件で藻類デンプン[用語2]が同様に蓄積する現象に注目。藻類オイル合成で重要なタンパク質リン酸化酵素のTORキナーゼ[用語3]が、デンプン合成においても機能しているのではと考えた。

この仮説を支持するように、単細胞紅藻シゾン[用語4](図1)内でTORキナーゼのリン酸化活性を人為的に阻害すると、細胞内でデンプン量が顕著に増加することが確認された(図2)。これはTORキナーゼが藻類オイルのみならず、藻類デンプン合成でも重要な役割を担っているタンパク質と言える(図3)。

このTORキナーゼは、その活性によって標的となるタンパク質のリン酸化[用語5]状態を変化させるため、タンパク質のリン酸化状態の網羅的な解析を行った。その結果、デンプン合成に関わると考えられるGLG1タンパク質[用語6]を発見した。その後、TORキナーゼ経路によってリン酸化を受けるGLG1のアミノ酸を特定し、このアミノ酸のリン酸化状態によって、細胞内のデンプン量が調節されていることを明らかにした(図3)。

単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子

図1. 単細胞紅藻シゾンの細胞と実験室における培養の様子

TORキナーゼの活性を阻害するとデンプンの蓄積が誘導される

図2. TORキナーゼの活性を阻害するとデンプンの蓄積が誘導される

TORキナーゼの活性によりGLG1のリン酸化状態が変化して、デンプン蓄積のON/OFFが決定される。蓄積されたデンプンは、医薬品やプラスチックなどの有用化学品の原料となるレブリン酸メチルなどに変換可能である。図中のGLG1に付した「P」はリン酸化を示している
図3.
TORキナーゼの活性によりGLG1のリン酸化状態が変化して、デンプン蓄積のON/OFFが決定される。蓄積されたデンプンは、医薬品やプラスチックなどの有用化学品の原料となるレブリン酸メチルなどに変換可能である。図中のGLG1に付した「P」はリン酸化を示している

背景

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)には、クリーンで持続可能なエネルギーの利用の拡大や地球温暖化への具体的なアクションを起こすことなどが盛り込まれている。デンプンは、各種化成品の原料やエタノールなどの燃料に変換できる有用物質だ。その中でも微細藻類を用いたデンプン生産は、SDGsを達成するための重要な技術と考えられる。しかし、藻類がデンプンを生産する仕組みはこれまで不明であり、藻類を用いたデンプン生産性を高める機構の解明が待たれていた。

研究の経緯

研究グループは以前、藻類デンプンからレブリン酸メチル[用語7]及び乳酸メチル[用語8]などの化学品原料を合成する新たな化学変換プロセスを開発している。それら化学品原料を増産させるためには、藻類におけるデンプン合成の仕組みを理解し、それを基にデンプン量を人為的に高めた藻類株の育種が必要であった。

今後の展開

GLG1タンパク質とそのリン酸化を調節するTORタンパク質は、藻類に広く保存されており、今回明らかにした仕組みは藻類一般に保存されていると考えられる。よって、GLG1とTORによる調節系は、他の藻類においてもデンプン量を変える優れた標的になると考えられる。今後、デンプン合成におけるGLG1の更なる詳細な解析を進めることで、デンプン生産能を向上させた藻類株の育種が期待される。

用語説明

[用語1] 藻類オイル : ここでは、藻類が生産するオイルの中でも、バイオ燃料の原料となる中性脂質であるトリアシルグリセロールを指す。

[用語2] デンプン : グルコース貯蔵の一形態であり、多数のグルコース分子が重合した天然高分子。

[用語3] TORキナーゼ : 真核生物に広く保存されたタンパク質リン酸化酵素。アミノ酸やグルコースなどの栄養源により活性が制御されている。標的分子のリン酸化を通してタンパク質合成を調節し、細胞の成長(大きさ)を制御している。

参考:微細藻類にオイルをつくらせるスイッチタンパク質を発見―バイオ燃料生産実現に向けた基盤技術として期待―

[用語4] シゾン : 学名はCyanidioschyzon merolae(通称シゾン)。イタリアの温泉で見つかった単細胞性の紅藻(スサビノリ、テングサの仲間)。真核生物として初めて100%の核ゲノムが決定されるなど、モデル藻類、モデル光合成真核生物として用いられている。

[用語5] リン酸化 : タンパク質分子などにリン酸基を付加する反応。リン酸化によってタンパク質分子の機能が変化したり、細胞内での局在や他のタンパク質分子との結合状態が変化する。タンパク質の機能を調節する主要な調節の仕組み。

[用語6] GLG1タンパク質 : デンプン合成の初期の段階でグルコース数分子をつなぎ合わせるグライコジェニン(glycogenin)と相同性を持つタンパク質。その分子を基にデンプン合成酵素がさらにグルコース分子をつないでデンプンが合成される。

[用語7] レブリン酸メチル : 工業的には燃料添加剤として利用されている。 出発物質として種々の有用化合物へと展開し、医薬品、化粧品、プラスチックなど様々な化学品の合成にも用いられている。

参考:藻類オイル抽出残渣から化学品原料の合成に成功 ―藻類バイオマスを徹底的に活用する技術を確立―

[用語8] 乳酸メチル : バイオプラスチック(バイオマスを原料とするプラスチック)の一つであるポリ乳酸(PLA)の原料として利用されている。PLAは植物由来のプラスチックであり、石油由来のABS樹脂の代替として利用が推進されている。

研究サポート

この研究は、科学研究費補助金の支援を受けて実施した。

論文情報

掲載誌 :
The Plant Journal
論文タイトル :
Target of rapamycin (TOR) signaling modulates starch accumulation via glycogenin phosphorylation status in the unicellular red alga Cyanidioschyzon merolae
著者 :
Imran Pancha, Hiroki Shima, Nahoko Higashitani, Kazuhiko Igarashi, Atsushi Higashitani, Kan Tanaka, Sousuke Imamura
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院

化学生命科学研究所 准教授 今村壮輔

Email : simamura@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5859 / Fax : 045-924-5859

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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