東工大ニュース
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公開日:2018.11.16
東京工業大学 科学技術創成研究院のミフタフル・フダ(Miftakhul Huda)研究員、山元公寿教授、南澤慶伍大学院生(当時)、塚本孝政特任助教、田邊真特任准教授らの研究グループは、粒径1ナノメートル (nm) 程度の極微小なナノ粒子「サブナノ粒子[用語1]」を触媒にして有機溶媒を使用せず、酸素を酸化剤とする炭化水素[用語2]の酸化反応[用語3]を開発した。本研究で対象とする炭化水素は、不活性な炭素-水素 (C-H) 結合を持つトルエンという有機分子で、市販の金属担持触媒ではほとんど活性を示さない。今回、サブナノ粒子を触媒とした酸化反応で、既知のナノ粒子の約50倍となる触媒活性を示すことが発見された。
本研究の成果は、サブナノ粒子がもつ潜在的な触媒機能を実現化したものであり、より難易度が高い炭化水素を化学変換できる新触媒の開発につながると期待される。
この研究は、科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究 (ERATO)「山元アトムハイブリッドプロジェクト (山元公寿 研究総括)」で実施された。その成果は2018年11月16日にドイツ化学雑誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー国際版)」にオンライン公開された。また、本論文は同雑誌の「Very Important Paper (VIP) ~全論文のTOP 5%以内~」として選定された。
石油や天然ガスなどの化石原料の主成分である炭化水素を、有用な有機酸化物に変換する酸化反応は、学術的にも工業的にも重要な触媒反応である。近年、グリーンケミストリーの観点から有害な有機溶媒を使用せず、酸素を酸化剤とした触媒反応の開発が世界中で注目されている。一般に、粒子をナノサイズまで小さくすることで触媒活性が向上することが知られており、これまで様々なナノ粒子を用いた研究が行われてきた。
ナノ粒子の中でも、特にサイズの小さなサブナノ粒子は、一際高い触媒活性を発現すると期待されている。しかしながら、極微小で均一な大きさを持つ粒子の合成は技術的に難しく、触媒活性を正確に評価する研究例はなかった。本研究では、デンドリマー[用語4]を鋳型として利用することで、粒子サイズが均一に整ったサブナノ粒子の合成を達成した。これを用いて、溶媒を用いない酸素分子によるトルエン酸化反応の開発を目指し、遷移金属の性質や構成する原子数によって顕著に変化するサブナノ粒子の触媒活性を発見した。
サブナノ粒子の合成には、樹状型の規則構造を持つデンドリマーを鋳型として利用する。デンドリマー構造中に各種元素の金属イオンを取り込み、その金属イオンを化学還元で粒子状にして、担体へ固定化し不均一系触媒を調製した (図(a))。この手法により合成した様々なサブナノ粒子を触媒としてトルエン酸化反応を起こしたところ、粒子のサイズが小さくなるほど触媒活性が向上するという傾向が観測された。また、遷移金属の中でも、特に酸素親和性の低い白金が高い触媒活性を示すことを見出した (図(b))。さらに、原子数を12から28まで制御した白金サブナノ粒子の触媒活性を評価したところ、原子数19個の白金触媒が最高活性値 (触媒回転頻度 = 3,238) を示した (図(c))。この結果は、既知の金属ナノ粒子 (粒径: 約 4 nm) よりも約50倍の高い触媒活性を示し、ナノ粒子の極微小化により触媒能が向上することを見出した。この成果は、当研究室から発表した燃料電池用の触媒に19原子の白金粒子が高い触媒活性を示したことと強く関連していると考えられる (2015年7月23日の本学プレスリリース[参考文献1])。
今回の研究成果では、安定性が高く化学変換が困難な炭化水素であるトルエンのサブナノ粒子触媒を介した酸化反応を成功させた。今後、サブナノ粒子に秘められた優れた触媒機能がさらに評価されていくと考えられる。この触媒を使った酸化反応の高活性化は、常温常圧を例とする温和な条件下で不活性な炭化水素を付加価値の高い物質に変換できる高度な技術開発に貢献できる。
用語説明
[用語1] サブナノ粒子 : 粒径1ナノメートル程度の極微小なナノ粒子。構成するほぼすべての原子が表面に露出するため、従来のナノ粒子より高い触媒活性を示すことが期待される。その一方、粒子間で生じる凝集を抑制する必要があるため、均一な大きさを持つサブナノ粒子の合成法は限られている。
[用語2] 炭化水素 : 反応性の極性官能基を持たない炭素と水素で構成された有機分子。非常に安定なC-H結合を持つため、有害な重金属や爆発性の過酸化物などの強力な酸化剤を使わずに化学変換できない。
[用語3] 酸化反応 : 最も身近な化学反応であり、炭化水素と酸素との反応により炭素-酸素(C-O) 結合を形成する反応。炭化水素から水と二酸化炭素を生成する完全酸化を抑え、選択的に部分酸化を起こせば有用な酸化物を合成できる。
[用語4] デンドリマー : コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に枝分かれした構造をもつ特殊な高分子。本研究で用いるデンドリマーは、その構造中に多数の金属イオンを取り込めるように設計されており、サブナノ粒子を合成する鋳型として機能する。中心より外側が密集した構造となるため、合成したサブナノ粒子を包み込むことにより、粒子同士の凝集を抑制する効果も持ち合わせている。
参考文献
[1] T. Imaoka, H. Kitazawa, W.-J. Chun, K. Yamamoto, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 9810.
論文情報
掲載誌 : |
Angewandte Chemie International Edition |
論文タイトル : |
Aerobic Toluene Oxidation Catalyzed by Subnano Metal Particles (VIP論文に選定) |
著者 : |
Miftakhul Huda, Keigo Minamisawa, Takamasa Tsukamoto, Makoto Tanabe, Kimihisa Yamamoto |
DOI : |
お問い合わせ先
東京工業大学 科学技術創成研究院
教授 山元公寿
E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
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