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水星が持つ特異な磁場の謎を解明

惑星の起源・進化に迫る

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2019.01.18

水星は地球と同様に、中心[用語1]ダイナモ作用[用語2]によって作られる大規模な磁場をもっています。

棒磁石の作る磁場を使って地球と水星の磁場を表現して、この2つを比較すると、図1のように地球磁場は地球中心に棒磁石がありますが、水星磁場の棒磁石は中心から大きく北にずれていることが分かります。これは2011年にNASAのメッセンジャー探査機[用語3]によって報告された大発見でしたが、なぜ中心から大きく北にずれているか、その理由は未解明のままでした。

図1. 地球と水星内部の仮想的な棒磁石の位置

図1. 地球と水星内部の仮想的な棒磁石の位置

地球の磁場は地球中心に置いた棒磁石で良く表現できるが、水星では棒磁石を約500 km(水星半径の5分の1)北にずらさないと、観測結果を説明できません。

図2. 磁場による自己調整機構の効果
図2. 磁場による自己調整機構の効果
水星表面での磁場動径成分の分布。自己調整機構がオフになると形態が維持されず、全く異なる磁場構造になります。赤色が内向き、青色が外向きの磁場を表します。

九州大学 大学院理学研究院の高橋太准教授、東京大学地震研究所の清水久芳准教授および東京工業大学理学院の綱川秀夫教授らの共同研究グループは、水星中心核の熱化学的状態を模した内部構造モデルを用いて、水星磁場がもつ特異的な構造を再現することに成功しました。さらに、その特異な磁場構造は、中心核内部の磁場が自己調整機構によって対流をコントロールすることで自発的に生成・維持されていることを明らかにしました。

これは、水星をはじめとする惑星磁場が内部構造や進化履歴を反映して様々な形態を持つことを示しており、水星や地球の起源と進化および、それらの相異を明らかにするうえで重要な知見となります。

本研究はJSPS科研費補助金(JP15K05270、JP15H05834、JP18K03808)の助成を受けました。

本研究成果は英国の国際学術誌「Nature Communications」(日本時間2019年1月14日19時)の電子版に掲載されました。

九州大学 大学院理学研究院 高橋太准教授
九州大学 大学院理学研究院
高橋太准教授

研究者からひとこと

磁場というものは目に見えませんが、磁場を通じて惑星中心部の状態と時間変化を視ることができるという、何とも不思議なことが可能になります。

研究に終わりは無く、次の段階は観測による実証です。我が国の水星探査機「みお」が水星へ到着する日はまだまだ先ですが、今から待ち遠しいです。

研究背景

水星が地球と同様な惑星規模の固有磁場を持っているか否かは、1970年代から惑星科学における大きな謎でした。この謎はアメリカNASAのメッセンジャー探査機が2008年のフライバイ時に水星の固有磁場を観測したことによって、解決されました。大規模な固有磁場の発見は水星磁場が水星内部の中心核のダイナモ作用によって作られている証拠となり、水星の起源および進化を明らかにする上で重要な成果です。その後の周回軌道上でのさらなる観測の結果、水星磁場の双極子(棒磁石)が北に大きくずれていることが発見されました。かたや、地球磁場の双極子はほぼ地球の中心にあります。メッセンジャー探査機による重大な科学成果のうち、北に大きくずれた双極子の発見はトップ3に挙げられており、非常に重要な成果と認識されています。一方で、その原因は一切明らかになっておらず、惑星科学における新たな大きな謎となっていました。

研究内容

今回の研究では、水星中心核の熱化学的状態を模した最新の実験や理論計算の結果をもとに、新たな水星内部構造モデルを作成しました。新規作成した内部構造モデルを「ダイナモモデル」に組み入れ、水星中心核の対流とそれにともなうダイナモ作用を数値的にシミュレーションしたところ、特定のモデルについて、北にずれる双極子をはじめとする水星磁場の特徴を全て再現するシミュレーション結果が得られました。詳細な解析を行った結果、中心核の対流で作られた磁場がローレンツ力[用語4]を通じて対流構造を調節することによって、北にずれた双極子を自発的に生成・維持していることが明らかになりました。本研究ではこれを自己調整(self-regulation)と命名しました。

今後の展開

地球磁場と水星磁場の相異を明らかにすることは、水星のみならず私達の住む地球を理解することにも繋がる重要な研究テーマです。昨年10月には日欧協同の水星探査計画「ベッピコロンボ」によって、我が国の水星磁気圏探査機「みお」(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)が打ち上げられ、現在水星へ向かっています。本研究成果と、将来の「みお」の観測による詳細な磁場データによって、水星ダイナモのメカニズムが明らかになり、水星の起源・進化に関する理解が飛躍的に深まることが期待されます。

謝辞

本研究はJSPS科研費補助金(JP15K05270、JP15H05834、JP18K03808)の助成を受けたものです。

用語説明

[用語1] : 岩石からなる天体(惑星・月)の中心部を形成する部分。主成分は鉄で、液体状の部分を外核、固体部分を内核といいます。

[用語2] ダイナモ作用 : 天体が大規模な磁場を生成・維持するためのメカニズム。高温で液体状の外核が磁場中を運動する際に起こる電磁誘導現象の総称。

[用語3] メッセンジャー探査機 : 英名MESSENGERは“MErcury Surface, Space ENviromnent, GEochemistry, and Ranging”の略称です。2011年3月から2015年4月まで、水星の周回軌道上で磁場を含む様々な観測を行いました。

[用語4] ローレンツ力 : 電磁場中で運動する荷電粒子、電流に作用する力。外核の対流はダイナモ作用によって新しい磁場を生み出すと同時に、磁場によるローレンツ力を受けます。ローレンツ力による効果は非線型であり、予想が困難な様々な現象を引き起こす要因になります。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Mercury's anomalous magnetic field caused by a symmetry-breaking self-regulating dynamo.
著者 :
Futoshi Takahashi, Hisayoshi Shimizu, Hideo Tsunakawa
DOI :

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