研究

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安定な単一分子素子を再現性良く形成

分子コンピューター実現に有望な技術を開発

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2019.05.24

要点

  • 不安定だった単一分子素子の21倍の安定化と40%のノイズ低減に成功
  • 分子を使った超微小電子回路の実現に向け、応用が可能になった
  • 多様な機能をもつ単一分子素子を形成できる汎用的技術を開発

概要

東京工業大学 理学院 化学系の原島崇徳大学院生(博士後期課程1年)、西野智昭准教授、筑波大学 小野倫也准教授(現 神戸大学 教授)らの研究グループは、安定な単一分子素子[用語1]を再現性良く形成する技術の開発に成功した。

この技術の鍵は高分子[用語2]を使用することにより、安定な構造が形成できたことにある。その結果、従来の技術よりも素子の安定性が21倍と飛躍的に向上することが分かった。さらに、単一分子素子を流れる電流のノイズ量は従来よりも40%低減した。

これまで単一分子を使った素子は形成確率が低く、また容易に破断する欠点があった。今回、開発した技術はこれらを解決するものであり、分子によって構成された電子回路、すなわち分子エレクトロニクス[用語3]の実現に現実的な道筋を与えるものといえる。

研究成果は4月29日発行のドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」に掲載された。

研究成果

単一分子素子とはたった一つの分子に導線やスイッチなどの素子機能を付与したものである。分子をもとに極めて微小な電子回路を作成する分子エレクトロニクスの実現に向け、有望な技術となっている。だが、分子エレクトロニクスに関する従来の研究では、単一分子素子の安定性が非常に低いことが問題となっていた。

今回の技術は高分子を利用してより安定な構造を作ることにより、素子の保持時間は3.6倍、さらに再現率は5.2倍に向上することが分かった。この二つの性能の向上の結果、従来の技術よりも素子の安定性が21倍と飛躍的に向上することが分かった。さらに、単一分子素子を流れる電流のノイズ量は従来よりも40%低減し、電気信号を伝達するうえで重要な性能の向上がみられた。

一方、第一原理計算[用語4]に基づく理論シミュレーションから、高分子を使った今回の技術でも、従来の単一分子素子と同じ機構によって電気伝導[用語5] が生じていることが明らかになった。この技術は様々な分子に適用できる汎用性を有しているものと考えられ、多様な機能をもつ単一分子素子の実現が期待できる。

高分子を用いて形成された単一分子素子

図1. 高分子を用いて形成された単一分子素子

研究の背景

近年、物質の最小単位である分子を使ってコンピューターを作る分子エレクトロニクスに大きな期待が寄せられている。現在のコンピューターやスマートフォンなどで用いられている半導体製の集積回路[用語6]は近い将来、微細化の限界を迎え、それ以上の小型化が実現できなくなるためである。

このため、コンピューターを構成するために、トランジスタなどの機能を付与した単一分子素子が活発に研究、開発されている。しかし、単一分子を使った素子は形成確率が低く、また容易に破断する欠点があった。分子エレクトロニクスの実現に向けて、単一分子素子を再現性良く、かつ安定に形成できる技術が強く求められていた。

今後の展開

今回の研究で単一分子素子を高い信頼性で形成できる技術の開発に成功したといえる。今後はこの技術を用いて形成した単一分子素子にスイッチやトランジスタ特性などの電子機能性を組み込むことによって、コンピューターの動作に必要な論理演算を実現することが課題となる。

また、半導体の集積回路と同様に、異なる機能を持った単一分子素子を連結した集積化も必要となる。今回の技術の鍵となった高分子は、様々な種類の分子を組み合わせることもできる。そのため、所望の機能をもった分子を用いることで集積化は容易に実現できるものと考えられる。

用語説明

[用語1] 単一分子素子 : たった一つの分子によって構成された回路素子。

[用語2] 高分子 : 分子量が小さい分子の多数回の繰り返しによって構成される分子。

[用語3] 分子エレクトロニクス : 物質の最小単位である原子や分子を利用した電気回路を組み立てようとする学術分野。

[用語4] 第一原理計算 : 量子力学の基本原理に基づいた、物質の電子状態の計算手法。

[用語5] 電気伝導 : 今回の研究の分子素子のようなミクロな世界では、分子部分をすり抜けるようにして電子が通過することで電気が通る。

[用語6] 集積回路 : 一つのチップの中に複雑な機能を多数の素子が配線され複雑な機能を有する電子部品。配線される素子が小型であるほど消費電力は削減され、性能も向上する。現在、数十nm(ナノメートル)程度の小型化が達成されているが、それ以上の小型化は原子・分子スケールの空間制御が必要なため、現行の技術では非常に困難である。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Highly reproducible formation of polymer single-molecule junction for well-defined current signal
著者 :
Takanori Harashima, Yusuke Hasegawa, Satoshi Kaneko, Manabu Kiguchi, Tomoya Ono and Tomoaki Nishino
DOI :

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