研究

東工大ニュース

体温レベルの温度でDNAの高速増幅に成功

分子ロボットから核酸検査まで、どこでも使える増幅法

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2019.06.14

要点

  • 体温(37 ℃)でDNAを100万倍まで増幅する新しい等温増幅反応を開発
  • 等温増幅反応の実用化を妨げる非特異増幅を人工核酸で抑制できることを発見
  • 従来法では難しい分子ロボットのセンサーや核酸検査への利用に期待

概要

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の小宮健助教、山村雅幸教授らの研究チームは、新しい等温増幅反応「L-TEAM反応」を開発し、人の体温の37 ℃という低温でDNA[用語1]を100万倍まで高速に増幅することに成功した。既存のDNA増幅法であるPCR反応[用語2]鋳型にプライマー[用語3]を投入するのとは逆に、プライマーに鋳型を投入することで、マイクロRNA[用語4]のような短い核酸に対しても直接DNAを増幅することができる。

また、多くの等温増幅反応で実用化の妨げとなっている、増幅対象の核酸が存在しなくてもDNAが非特異的に増幅される問題を、これまで知られていなかった人工核酸による抑制効果を見出して解決し、汎用的な検出性能を実証した。

未来の情報通信技術(ICT)や分子ロボットの基盤技術として期待されるほか、病気のマーカーとなる核酸を検出して、がんなどの早期診断を実現する技術として、健康長寿社会への貢献が期待される。

研究成果は英国王立化学会刊行「Organic & Biomolecular Chemistry(オーガニック&バイオモレキュラー・ケミストリー)誌」オンライン版で先行公開され、6月21日(金)に発行される23号の表紙(The outside front cover)に掲載される。

L-TEAM反応のイメージ

図1. L-TEAM反応のイメージ

研究の背景と成果

DNAやRNAといった核酸はタンパクと異なり、合成酵素で増幅することができる。微量な核酸から大量のDNAを増幅生成する反応はセンサーの役割を果たし、分子ロボットに組み込んで動作させたり、病気の目印となる核酸を検出して診断に利用したりするなど様々な応用が考えられる。

しかし、1993年にノーベル化学賞の対象となり、研究用途でもっとも広く用いられているDNA増幅法であるPCR反応は高温サイクルが必要なため、専用の機器が不可欠である。また、高温条件に由来する多くの制約を抱えており、医療現場では限られた用途でしか利用されていない。低温のDNA増幅法が実用化されれば、様々な検査に利用することが可能になる。

また近年、DNAが配列情報にもとづいて結合する性質を利用してナノスケールの分子反応を制御する「DNAナノテクノロジー」と呼ばれる研究分野が発展してきた。そのなかで、多段階のDNA結合を配列情報で指定して情報処理を行う「分子プログラミング(Hagiya, LNCS, 2000)」やDNAを介して多種類の分子反応を組み合わせたシステムをロボットのように動かす「分子ロボティクス(Murata et al., N Gener Comput, 2013)」といった、未来の情報通信技術(ICT)やロボット技術につながる新しい研究コンセプトが日本から提案されている。

そこではDNAが情報を伝達する信号としての役割を果たすが、高温のDNA増幅法では他の分子が壊れてしまうため、分子ロボットを動かすことは難しく、低温でDNAを高速に増幅できる反応が望まれていた。

東工大の小宮助教、野田千鶴技術員、山村教授、電通大の小林聡教授らは、上記の応用に適した新しいDNA増幅法の研究に取り組み、体温レベルの温度でDNAを100万倍まで増幅するL-TEAM反応の開発に成功した。診断用マーカーとして注目が高まっているマイクロRNAなどの短い核酸の増幅に特に適しており、配列に依存しない汎用的な検出性能を持つことを実証した。本研究成果は、2019年4月9日(火)にOrganic & Biomolecular Chemistry誌オンライン版で先行公開され、6月21日(金)発行の23号表紙(The outside front cover)に掲載される。

研究の経緯

PCR反応のように高温サイクルを必要としないDNA増幅法として、これまで数多くの等温増幅反応が開発されてきた。しかし、実用化されたものは50~60 ℃程度の温度を必要とするものが多く、人の体温レベルの温度でDNAを増幅できる使いやすい反応が望まれていた。

そのような反応も研究レベルでは多数報告されていたが、複数のプライマーを使用するため、短い核酸を増幅するにはプライマーが結合する配列を付加する反応が必要だった。また、増幅対象の核酸が存在しないときにもDNAを非特異的に増幅してしまったりするなどの問題があった。

これに対して小宮助教らは、PCR反応をはじめとする既存の多くのDNA増幅法が、増幅対象の核酸を鋳型として外部からプライマーとなるDNAを投入していたのとは逆に、外部から鋳型となるDNAを投入して増幅対象の核酸をプライマーとして利用する(図2)デザインを採用した。

これによって短い核酸からでも直接DNAを増幅する反応を実現できた。また、核酸医薬などに利用されている人工核酸(LNA[用語5])を鋳型に導入すると、非特異的な増幅が抑制される新たな効果を発見し、多くの等温増幅反応で実用化の妨げとなっている非特異増幅の問題を解決できた。

L-TEAM反応の概要 2段階の増幅反応で高速にDNAを増幅する

図2. L-TEAM反応の概要 2段階の増幅反応で高速にDNAを増幅する

今後の展開

今回開発したL-TEAM反応は、タンパクが関わる様々な反応と同時にDNAを増幅できるため、体内で動作する分子ロボットのセンサーとしての利用や、生化学検査と一緒に行える核酸検査の実現が期待される。前者は人工細胞型分子ロボットに搭載する研究が進められており(Sato et al., Chem Commun, 2019, DOI: 10.1039/c9cc03277k)、後者は病院に普及している検査機器上でのDNA増幅に成功している(Komori et al., Anal Bioanal Chem, 2019, DOI: 10.1007/s00216-019-01878-z)。

研究チームはこれまでに、1分子のDNAが多段階の情報処理を行う世界唯一のDNAコンピュータを開発し、体温で動作するように改良してきた(Komiya et al., Natural Computing, 2010, 9(1), 207)。今回の研究成果は、DNAコンピュータと組み合わせることで、体内で核酸を検知して診断し、その場で治療する近未来の医療用分子ロボットを創出するための大きな一歩となる。

また、より直近の応用としては、病気のマーカーとなる核酸を検出し、がんの早期診断や予防医療を実現する技術として、健康長寿社会への貢献が期待される。

謝辞

本研究は科研費の新学術領域研究「分子ロボティクス」(24104003)および挑戦的萌芽研究(26540151)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のA-STEP、内閣府のImPACT(野地博行PM)による助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] DNA、RNA : DNAは生物の細胞内で遺伝情報を保持するDeoxyribonucleic Acid(デオキシリボ核酸)の略。RNAは糖部分がリボースのRibonucleic Acid(リボ核酸)の略。

[用語2] PCR反応 : Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略。核酸中の増幅したい配列をはさむように設計した短いDNAを投入し、1.加熱による二本鎖DNAの解離、2.短いDNAがプライマーとして結合、3.増幅したい配列を鋳型としたDNAポリメラーゼ(合成酵素)によるDNA合成―の三つの反応ステップを、高温サイクルを繰り返すことで実行してDNAを指数的に増幅する。

[用語3] 鋳型、プライマー : DNA合成酵素によるDNA合成では、合成する配列を指定する鋳型となる核酸上で、塩基の対合規則にしたがって1塩基ずつDNAが伸長合成される。通常は15~25塩基程度の長さの核酸が、伸長を開始するプライマーとして鋳型に結合することでDNA合成が始まる。

[用語4] マイクロRNA : 20個前後の少数の塩基から成るRNA。

[用語5] LNA : Locked Nucleic Acidの略。DNAのリボース部分が架橋構造を持つように改変された人工核酸で、天然のDNAと比べて分解酵素への耐性を持つなどの特徴がある。

論文情報

掲載誌 :
Organic & Biomolecular Chemistry
(英国王立化学会刊行の有機化学および生体分子化学専門誌)
論文タイトル :
Leak-free million-fold DNA amplification with locked nucleic acid and targeted hybridization in one pot(一つの反応容器中で行うLNAを利用した漏れの起きない100万倍DNA増幅と目標分子へのハイブリダイゼーション)
著者 :
小宮健1、小森誠2、野田千鶴1、小林聡3、吉村徹2、山村雅幸1
所属 :
1東京工業大学 情報理工学院
2アボットジャパン株式会社 総合研究所
3電気通信大学 大学院情報理工学研究科
DOI :

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