研究

東工大ニュース

超高圧で合成される機能性酸化物の薄膜化に成功

新たな電気・磁気機能材料の開発につながる成果

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2019.11.25

要点

  • 超高圧合成でしか得られなかった四重ペロブスカイト酸化物の薄膜化に成功
  • 堆積する下地の材料を変えながら格子に与える歪みを制御
  • 磁気異方性を変化させて垂直磁化を実現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の重松圭助教、清水啓佑博士研究員、Hena Das(ダス・ヘナ)特任准教授、東正樹教授らの研究グループは神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)と共同で、マンガン・銅・セリウム・酸素からなる超高圧相[用語1]の酸化物(化学式:CeCu3Mn4O12)を高品質な薄膜として合成することに成功した。

実験による合成と第一原理計算[用語2]による予測によって、CeCu3Mn4O12薄膜の結晶格子に与える歪みの影響を調べ、面内に圧縮歪みを印加することで垂直磁化膜になることを発見した。垂直磁化膜は高記録密度磁気メモリーやスピントロニクス[用語3]に重要な特性であり、新たな電気・磁気機能材料の開発につながると期待される。

研究グループには上記のほか、東京工業大学 物質理工学院 材料系の山本一理、西久保匠の大学院生2氏と科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所のSergey A. Nikolaev(ニコラフ・エイ・セルゲイ)特任助教、神奈川県立産業技術総合研究所の酒井雄樹常勤研究員が参加した。

研究成果は10月22日に米国化学会誌「Applied Electronic Materials(アプライド・エレクトロニック・マテリアルズ)」のオンライン版に掲載された。

研究の背景

四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12[用語4](図1)は、巨大常誘電性や電荷移動、負熱膨張特性や触媒機能、ハーフメタル特性といった興味深い物性が相次いで発見されている物質群である。四重ペロブスカイト酸化物は非常に密な構造をもつため、高圧合成法[用語5]による合成と相性が良く、近年、急速に研究が進んでいる。しかし、高圧合成法はコストが高く、また一回の合成で得られる量が限られているため、上記の機能を実用化するためには、より簡便な合成方法で高品質な材料を得る必要がある。

四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12の結晶構造

図1. 四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12の結晶構造

研究成果

研究グループは室温フェリ磁性体[用語6]であるマンガン・銅・セリウム・酸素からなる四重ペロブスカイト型酸化物(CeCu3Mn4O12)を、パルスレーザー堆積法[用語7]という手法を用い、薄膜形態にて作製した。基板の種類や結晶成長の温度などのパラメータを最適化した結果、ペロブスカイト酸化物YAlO3(アルミン酸イットリウム)基板上において高品質な薄膜が得られた。

また、得られた薄膜の磁気異方性[用語8]を調べたところ、薄膜面内で最も引っ張られている方向に強い一軸の磁気異方性が発現していることを発見した。加えて、第一原理計算によって、歪みを受けた薄膜と同じCeCu3Mn4O12結晶を再現し、その磁気異方性エネルギーを計算したところ、結晶格子が伸びた方向に磁化容易軸が向いたときにエネルギー的に有利であり、実験と合致する結果が得られた。これらの結果から、CeCu3Mn4O12薄膜に圧縮歪みを印加すれば、薄膜に垂直な方向が最も結晶方向が引き伸ばされ、垂直磁化膜となることが予想された。

圧縮歪みを受けたCeCu3Mn4O12薄膜を実現するためには、CeCu3Mn4O12よりも結晶格子が小さい物質を下地にする必要があるが、適する基板が存在しない。そこで、薄膜と基板の間に、より面内の格子定数が小さく、ペロブスカイトと類似した構造をもつYCaAlO4(アルミン酸イットリウム・カルシウム)をバッファ層[用語9]として挿入する工夫を施すことで、薄膜に印加する歪みを引張りから圧縮に切り替えることに成功した。この薄膜で磁気特性を調べたところ、面内方向の一軸磁気異方性が消失すると同時に面直方向の磁気異方性が強くなり、垂直磁化膜が実現していることが確かめられた。

四重ペロブスカイト酸化物AA'3B4O12の結晶構造
図2.
異なる下地を用いて格子歪みを制御したCeCu3Mn4O12薄膜の模式図(左)と磁化測定(右)。磁化測定は、図中で定義したabc軸に沿ってそれぞれ外部磁場を印加した結果である。このカーブが縦軸方向に長方形に近い形を示すほど磁化容易軸になる。YAlO3基板上のCeCu3Mn4O12薄膜は、最も強く引っ張られた面内a軸方向が磁化容易軸であるが、YCaAlO4層を挿入することでc軸が磁化容易軸に変わる。

今後の展開

四重ペロブスカイト酸化物の薄膜育成手法が確立したことで、巨大常誘電性や電荷移動、負熱膨張特性や触媒機能、ハーフメタル特性を持つ類似物質の大面積合成が可能となると期待される。また、格子定数の小さい化合物の層を挿入することで垂直磁化を実現する手法も、他の強磁性薄膜に応用可能と期待される。

用語説明

[用語1] 超高圧相 : 物質に圧力を加えると結晶構造(相)が変化するが、その中でおよそ1万気圧以上の高圧下で安定な相を指す。

[用語2] 第一原理計算 : 経験によらず、量子力学の基本原理に立脚して、物質の結晶構造や電子状態を予測する理論計算。

[用語3] スピントロニクス : 物質中の電子が持つ磁気モーメント(スピン)を制御しエレクトロニクスのように利用する研究分野。

[用語4] 四重ペロブスカイト酸化物 : 化学式AA'3B4O12で表記され、単純ペロブスカイト(化学式:ABO3)の4倍の化学式で表記される名称の由来となる。A'サイトを銅、マンガンなどの遷移金属元素が占め、Bサイトに含まれる遷移金属元素との相互作用によって複雑で特殊な性質が発現する。

[用語5] 高圧合成法 : 大気圧よりも高い圧力(無機物質では通常数万気圧以上)をかけることで、大気圧条件では合成できない様々な物質を得る合成方法。

[用語6] フェリ磁性体 : 物質中に大きさが異なる磁気モーメントが互いに反対方向に向いているが、完全に磁気モーメントが打ち消されず、物質全体として磁化を示す磁性材料。CeCu3Mn4O12では銅とマンガンが磁気モーメントを持つ。

[用語7] パルスレーザー堆積法 : 紫外パルスレーザーによって蒸発気化させた原料物質を基板上で反応させて薄膜を成長させる合成法。

[用語8] 磁気異方性 : 物質の磁化が特定の方向を向きやすい性質。結晶構造や磁性体の形状に由来する。

[用語9] バッファ層 : 薄膜作成の際に、下地の格子定数と大きく異なる物質を堆積させるため、格子定数の差を緩衝する目的で挿入される層。

付記

本研究の一部は、地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所・有望シーズ展開事業「次世代機能性酸化物材料プロジェクト」(リーダー・東正樹)との共同研究であり、文部科学省・科学研究費助成事業・基盤研究S「革新的負熱膨張材料を用いた熱膨張制御」(代表・東正樹東京工業大学教授)、若手研究B「軌道秩序が引き起こす巨大正方晶歪ペロブスカイトの薄膜合成」(代表・重松圭東京工業大学助教)、特別推進研究「光と物質の一体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」(代表・腰原伸也東京工業大学教授)、Tokyo Tech World Research Hub Initiative、学際・国際的高度人材育成ライフイノベーションマテリアル創製共同研究プロジェクト、笹川科学研究助成、豊田理研スカラーの援助を受けて行った。

論文情報

掲載誌 :
Applied Electronic Materials
論文タイトル :
Strain Manipulation of Magnetic Anisotropy in Room-Temperature Ferrimagnetic Quadruple Perovskite CeCu3Mn4O12
著者 :
Kei Shigematsu, Keisuke Shimizu, Kazumasa Yamamoto, Takumi Nishikubo, Yuki Sakai, Sergey A. Nikolaev, Hena Das, and Masaki Azuma
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

助教(兼)神奈川県立産業技術総合研究所 非常勤研究員 重松圭

E-mail : kshigematsu@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5380 / Fax : 045-924-5318

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授(兼)神奈川県立産業技術総合研究所 プロジェクトリーダー 東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315 / Fax : 045-924-5318

有望シーズ展開事業に関すること

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部 青木智子

E-mail : t-aoki@kistec.jp
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取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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