東工大ニュース
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公開日:2020.02.07
東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の田邊真特任准教授と山元公寿教授らの研究グループは、1ナノメートル(nm)程度の酸化銅サブナノ粒子[用語1]が、炭化水素[用語2]の酸化反応[用語3]において高効率触媒活性を示す要因を明らかにした。
酸化銅は銅と酸素が安定な化学結合を形成した化合物だが (錆びた銅の成分)、その酸化銅粉末を1 nmサイズまで極小化すると、結晶構造としての安定性が失われると同時にアモルファス構造[用語4]による反応性が向上する。サブナノ酸化銅粒子の構造解析と触媒活性の評価から、既存の貴金属触媒にも匹敵する高効率な触媒活性を示すことを見いだした。
研究成果は、既成概念にとらわれないサブナノ酸化物粒子の精密な構造解析や化学特性に関する実験結果をもとに、安価な銅触媒でも高難度炭化水素の酸化反応を引き起こす触媒技術開発に貢献できると期待される。
研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿研究総括)」で実施した。研究成果は2月6日発行の米国化学会誌「ACS Nano」オンライン版に掲載された。
酸素親和性の高い遷移金属 (チタン、鉄、銅など) を含む酸化物は遷移金属と酸素原子から安定な結晶構造を形成するため、そのバルク材料やナノ粒子が顕著な触媒活性を示すことはほとんどない。これに対して、1 nmサイズの物質は規則的な原子配列を持たないアモルファス構造が支配的であり、従来のナノ粒子より触媒活性が向上することが期待されている (図1)。
しかしながら、サブナノ酸化物粒子を合成する手法は限られているため、その粒子構造や触媒機能はほとんど理解されていなかった。今回の研究では、樹状型高分子デンドリマー[用語5]を鋳型として用いることで、原子数が規定されたサブナノ酸化銅粒子の合成および構造解析をおこない、炭化水素の酸化反応において高い触媒活性を示す要因を探究した。
サブナノ酸化銅粒子の合成には樹状型の規則構造をもつデンドリマーをテンプレートとして利用する。デンドリマー構造中に銅イオンを取り込み、化学還元により銅粒子が形成された後、大気下で晒(さら)して酸化銅粒子を合成した (図2)。
X線光電子分光法[用語6]、赤外分光法[用語7]による構造解析の結果、サブナノ酸化銅粒子に含まれる銅-酸素(Cu-O)結合は、酸化銅粉末の結晶性Cu-O結合とは全く異なっていた。その特徴は (1)極小粒子の歪み構造が影響してCu-O結合が伸長すること、(2)Cu-O結合間にイオン性[用語8]が増大して分極が生じることである。
理論計算から再現化したサブナノ酸化銅粒子はアモルファス構造を形成し(図1右)、かつ、そのCu–O結合間に電荷の偏りが増大したことから、各種分析結果を合理的に説明することができた。さらに、これらの結合状態は空気中の水分子が作用して粒子表面に多くの水酸基が吸着するという化学特性も観測された。言い換えれば、従来のナノサイズと比較して「サブナノ酸化銅粒子は反応性が高い状態を保持している」とみなすことができる。
実際に炭化水素(トルエン)の酸化反応において、ジルコニア(ZrO2)に担持したサブナノ酸化銅粒子は市販ナノ粒子より高い触媒活性を示すだけでなく、粒子サイズの減少に伴って触媒活性が向上する実験結果を得た (図3)。サブナノ酸化銅粒子の精密な構造解析から触媒活性が向上する関連性を明らかにした。その結果、安価な銅を含むサブナノ酸化物が酸化反応において貴金属ナノ粒子にも匹敵できる触媒活性に至ったことを実証できた。
サブナノ粒子の触媒開発にはナノ粒子の既存概念の延長ではなく、粒子自身の構造解析及び反応特性などの分析結果を正確に理解することが不可欠である。今後、さらなる高機能触媒の開発に向けて複数元素で構成される多元合金ナノ粒子 [用語9] [参考文献1] が注目されており、高効率高選択率を可能とする革新的酸化触媒の開発に貢献できると期待される。
本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、および第一稀元素化学工業株式会社の支援・協力を受けて実施された。
用語説明
[用語1] サブナノ粒子 : 粒径1ナノメートル程度の極小なナノ粒子。構成するほぼすべての原子が表面に露出するため、ナノ粒子より高い触媒活性を示すことが期待される。
[用語2] 炭化水素 : 反応性の極性官能基を持たない炭素と水素で構成された有機分子。メタン分子を代表として非常に安定なC-H結合を持つため、一般的には有害な重金属や爆発性の過酸化物などの強力な酸化剤を使わずに化学変換できない。
[用語3] 酸化反応 : 最も身近な化学反応であり、炭化水素と酸素との反応により炭素-酸素(C-O)結合を形成する反応。炭化水素から水と二酸化炭素を生成する完全酸化を抑え、選択的に部分酸化を起こせば有用な酸化物を合成できる。
[用語4] アモルファス構造 : 物質の原子配列において、結晶で見られる周期的構造が存在せず乱れた構造。非晶構造ともいう。構成原子数が少ないサブナノ粒子は周期的構造が形成できず、反応基質が吸着できる活性サイトを多く持つ。
[用語5] デンドリマー : コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に枝分かれした構造をもつ特殊な高分子。本研究で用いるデンドリマーはその構造中に多数の金属イオンを取り込めるように設計されており、サブナノ粒子を合成する鋳型として機能する。
[用語6] X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS) : 試料にX線を照射して、放出される光電子の運動エネルギーを測定する。放出される光電子は原子の内殻電子に起因するものであり、本論文では銅の酸化状態や化学結合状態に関する情報を得た。
[用語7] 赤外分光法 (Infrared Spectroscopy: IR) : 試料に赤外線を照射して、これを構成している分子が吸収したエネルギーを測定する。この吸収は化学結合の振動・回転の励起に必要なエネルギーであり、本論文では酸化銅粒子に水酸基が存在することを確認した。
[用語8] イオン性 : 化学結合における電荷の偏りを表す用語。本論文ではXPS測定によりCu 3p 軌道測定で観測された強度比を用いてCu-O結合のイオン性を算出した[参考文献2]。
[用語9] 多元合金ナノ粒子: : 多種の金属元素が混合した金属ナノ粒子で、特異な電子状態に基づく触媒機能が期待される。デンドリマー(用語5)を鋳型として利用すると、1ナノメートル程度にサイズ制御された合金サブナノ粒子が合成できる。
参考文献
[1] T. Tsukamoto, T. Kambe, A. Nakao, T. Imaoka, K. Yamamoto, Nat. Commun. 2018, 9, 3873.
[2] K. Borgohain, J. B. Singh, M. V. R. Rao, T. Shripathi, S. Mahamuni, Phys. Rev. B 2000, 61, 11093.
論文情報
掲載誌 : |
ACS Nano |
論文タイトル : |
Enhanced Catalytic Performance of Subnano Copper Oxide Particles |
著者 : |
Kazutaka Sonobe, Makoto Tanabe and Kimihisa Yamamoto |
DOI : |
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