東工大ニュース

東工大DLabが「TRANSCHALLENGE社会」と「東工大未来年表」を発表

人々とともに考えた“ありたい”未来社会の姿を発信

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公開日:2020.03.05

東京工業大学未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、人々が望む未来社会とは何かを、社会の一員として、学内外のさまざまな方と広く議論しながらデザインしていくための組織です。2020年1月20日、DLabのおよそ1年半にわたる活動から生まれた「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」の発表イベントが、東京・渋谷スクランブルスクエアの「渋谷キューズ」で開催されました。高校生、大学生、企業・官公庁の方々など100名を超える参加者が集まり、トークセッションやワークショップも行われた当日の模様を紹介します。

DLabの活動とその成果を多様な形で伝える

DLabでは2018年9月の発足以来、学内外の幅広い方々と未来社会の姿の追求を続けてきました。未来の“あるべき”姿ではなく、社会の人々に望まれる“ありたい”姿を探るため、ワークショップなどの参加型イベントを各所で開催しています。これまでのイベントを通して参加者の皆さんから得られた“ありたい未来”は100以上にもなり、DLabはこれらの“ありたい未来”をもとに24の「未来シナリオ」を作成しました。

今回のイベント「こんな“未来”ってどう思う?」では、この「未来シナリオ」を年代順に並べた「東京工業大学未来年表」と、DLabが考える一つの「未来社会像」として「TRANSCHALLENGE社会outer」が発表されました。

会場には「未来を担う立場としてさまざまな方と話をすることで、これからの社会を考えるヒントにしたい」という高校生や、「理工系の大学でありながら、リベラルアーツ教育にも力を注ぐ東工大が描いた未来像を見てみたいと思った」と話す若手社会人、「先の見えない時代に、未来のあり方を考えていこうとする試みに興味があった」と語る企業役員、さらに研究者やマスコミなど、100名を超える参加者が集まりました。

イベントでは上記発表に加え、DLabのメンバーである研究者や経営者が未来社会について語るトークセッションや、参加者全員が4名ずつのチームになって取り組むワークショップなども行われ、DLabの活動とその成果をさまざまな形で体験していくイベントになりました。

イベントの模様(動画)

来場者の様子

来場者の様子

来場者の様子

未来社会像「TRANSCHALLENGE社会」を動画で紹介

DLabの大きな特徴の一つは、“ありたい”未来の姿を、広く社会の人々とともに考えていくことです。イベントは、益一哉学長からの「未来を考えるといっても一人では限界があります。そこで社会の多くの方とともに考えることにしました。本日のイベントを、ぜひ皆さんが未来を考えるきっかけにしてもらえればと思います」という開会宣言で始まりました。

益学長の開会宣言

益学長の開会宣言

開会宣言の後、DLabの提示する一つの「未来社会像」である「TRANSCHALLENGE社会」を描いたメッセージ動画の紹介が行われました。

「TRANSCHALLENGE社会」は、24の「未来シナリオ」のなかの四つのシナリオをもとに創られており、動画では「困難への挑戦が科学・技術を進化させ、人類を成長させる原動力となってきた」という前提を踏まえ、「場所や身体、距離などの制約に縛られることなく、誰もが、いつでも、年齢などを問わず挑戦する機会が与えられる」ことを目指すというその概要が紹介されました。

動画にはDLabのメンバーであるリベラルアーツ研究教育院の川名晋史准教授も登場。「社会や自分の人生を前に進めていくためには、思い切ってチャレンジすることも必要です。『覆水盆に返らず』といいますが、失敗を別の『盆』で受け止め、生かしていけるような寛容な社会づくりを技術や法制度で助けていきたいと考えています」と、今後の活動への期待を語りました。

また、DLab副機構長を務める科学技術創成研究院 副研究院長の大竹尚登教授も動画に登場し、DLabの狙いについて説明。大学の役割として「喫緊の課題に対応する」「次の次の科学と技術を創る基礎研究を進展させる」ことに加え、「未来が見えにくくなるなかでポジティブな未来像を描き、科学技術の力に人文社会の知見を交えて、そこに向かっていく方法についても考える」ことも重要だとし、DLabがその役割を担う一組織であると説明しました。

DLabメンバーが幅広い分野の知見を踏まえたトークを展開

プログラムはさらに、DLabメンバーによるトークセッションへと続いていきます。リベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授の進行により、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の蟹江憲史教授、株式会社トレイル 副代表 マネージングディレクターの杢野純子氏、リベラルアーツ研究教育院長の上田紀行教授とDLab副機構長の大竹教授がそれぞれの立場から意見を交わしました。

トークセッションの様子

トークセッションの様子

トークセッションの様子

セッションでは導入として、大竹教授が、DLabの設立経緯、チーム編成、活動プロセスなどを簡単に説明した後、「新たな科学技術や社会制度によって挑戦する人を応援したい」という「TRANSCHALLENGE社会」の狙いを語りました。

トークはさらに話し手を替え、DLabでの議論のあり方などに展開していきます。東工大卒業後、エンターテイメント業界などで活躍を続けてきた杢野氏は、「ありたい未来の姿を考え、それを実現していくには、さまざまな利害関係や今ある社会的・技術的制約にも目を向ける必要がある。DLabでの議論が、そうした課題を解決する技術や社会制度を生むきっかけになれば嬉しい」と思いを語りました。

「癒やし」という概念の提唱者としても知られる上田教授は、「ありたい未来を考えるプロセスは、人間の欲望と向き合うプロセスでもあります。その過程では、“科学技術で実現はできるけれど、実現すべきでないこと”についても考える必要があるでしょう」と、別の視点から問題提起を行いました。

SDGsなどサステナビリティ関連の研究を続ける蟹江教授は、個人の欲望が周囲を省みないまま実行された際の社会への負荷などに触れながら「個人の欲望や人間の本質、倫理的問題も考慮しながら未来社会のあり方を考えることが、DLabの正式名称にも入っている“未来社会デザイン”なのだと思う」と意見を述べました。

さらに議論の締めくくりでは、大竹教授が未来社会実現に向けた研究が大学で実際に進められていくことの重要性を語るなど、幅広い分野の知見を踏まえた議論が展開されました。

「ロボットと恋に落ちたら…」来場者が気になるテーマを選んで語り合うワークショップ

トークセッションの後は、イベントのもう一つの主要プログラムである来場者全員が参加するワークショップが行われました。まず、「1. 宇宙で暮らせるようになったら」「2. ある日、ロボットと恋に落ちたら」「3. 永遠の命を得られたら」という三つのテーマが発表され、来場者はそれぞれ興味のあるテーマを選びます。そして同じテーマを選んだ人同士が即席で4名のチームを結成。その際の条件は「自分と異なるバックグラウンドを持つ人とチームを組む」ことです。

異なるバックグラウンドを持つメンバー同士の対話

異なるバックグラウンドを持つメンバー同士の対話

異なるバックグラウンドを持つメンバー同士の対話

熱心に議論する参加者たち

熱心に議論する参加者たち

熱心に議論する参加者たち

盛況なグループワーク

盛況なグループワーク

盛況なグループワーク

ワークショップの様子

ワークショップの様子

進行役を務める株式会社ロフトワーク 代表取締役の林千晶氏により、「相手の話をよく聴く」「短く話す」「(対話を)見える化する」という“対話の心得”が紹介された後、会場の各所で来場者によるグループワークが始まりました。グループワークでは「各テーマで表現された未来が実現されたら、自分たちの生活はどう変わるか」「その未来を実現するために、自分たちは何ができるか」について、メンバーで話し合いながら考えをまとめていきます。会場からは「ロボットと恋ができるようになったら、恋愛ベタの人にもチャンスが増える」「永遠の命を実現するには、健康医療技術の進化と社会制度の整備が不可欠」などさまざまな意見が上がり、最後には希望者による発表も行われました。

ワークショップ参加者による意見発表

ワークショップ参加者による意見発表

ワークショップ参加者による意見発表

今後も社会とともに未来社会像の追求を続ける

佐藤機構長
佐藤機構長

イベントの締めくくりには、未来社会DESIGN機構長を務める佐藤勲総括理事・副学長が、「社会とともに大学としての学術的合理性をもって“ありたい”未来社会の姿を追求していきたい」と今後の抱負を述べ、来場者にDLabの活動への参加を呼びかけました。

すべてのプログラムが終了した後も、多くの人が会場内に掲示された「東京工業大学未来年表」(縮小版)に見入っていました。さまざまなバックグラウンドを持つ人が、未来の社会のあり方についての発信や意見交換を行った本イベントは、多様な方々との対話の中から新たな気づきを生みだしていくDLabの活動スタイルを体感する場ともなりました。DLabでは今後もこうした参加型イベントを行い、未来社会のあり方を追求していきます。

イベント終了後、東京工業大学未来年表(縮小版)を見ながら歓談する来場者表

イベント終了後、東京工業大学未来年表(縮小版)を見ながら歓談する来場者

イベント終了後、東京工業大学未来年表(縮小版)を見ながら歓談する来場者

会場内で掲示したものは持ち運びのできる縮小版であり、大岡山キャンパス百年記念館1階には高さ2.6メートル×幅9.1メートルの「東京工業大学未来年表」が掲示されています。

未来社会DESIGN研究センター

社会とともに「ちがう未来」を描く
科学・技術の発展などから予測可能な未来とはちがう「人々が望む未来社会とは何か」を、社会と一緒になって考えデザインする組織です。

未来社会DESIGN研究センターouter

お問い合わせ先

未来社会DESIGN機構事務局

E-mail : lab4design@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3619

3月12日 14:30 注釈の誤記を修正しました。

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