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超音波照射のみで汎用培養ディッシュやフラスコから細胞シートを剥離

再生医療などの発展に貢献する基盤技術

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公開日:2020.06.19

要点

  • 特殊な化学物質や培養環境などを用いずに、超音波照射のみで一般的な培養ディッシュやフラスコから細胞シートを剥離、生成する技術を世界で初めて開発しました。
  • 通常の培養環境で細胞シートを生成できるため、細胞シートの活性は向上し、生産コストを低減できます。
  • 培養フラスコから接着タンパク質を有する細胞シートの剥離を実現した技術は他に例を見ません。

概要

慶應義塾大学 理工学部 機械工学科の竹村研治郎教授、今城哉裕博士研究員(当時。現 東京女子医科大学 博士研究員)らは安田女子大学の平野真講師、長岡技術科学大学 大学院 工学研究科の大沼清准教授、東京工業大学 物質理工学院 材料系の倉科佑太助教、慶應義塾大学 理工学部の宮田昌悟准教授と共同で、超音波を照射するだけで汎用培養容器から細胞シートを剥離する技術を開発しました。

シート状に繋がった細胞群である細胞シートによって、再生医療における培養細胞の体内への移植効率が向上します。これまで細胞シートを生成する際は、温度応答性ポリマーをコーティングした特殊な細胞培養ディッシュにおける低温培養が必要でした。一方、開発した技術では、超音波を用いることで、一般的な培養ディッシュやフラスコにおける適切な培養温度での細胞シート生成が可能になりました。培養温度の保持と一般的な培養容器の使用により、活性の高い細胞シートを安価に生成でき、臨床試験が進む再生医療を広く普及させることに大きく貢献する基盤技術となります。

本研究成果は学術雑誌Scientific Reports誌webサイトにて6月11日(英国時間)に公開されました。

背景

細胞シートとは再生医療の基盤技術のひとつです。通常の細胞剥離ではタンパク質分解酵素を用いて、細胞同士あるいは細胞と培養面を接着させるタンパク質を分解します。このため、細胞が単一の状態となり、ハンドリングが難しいうえ、体内に移植した際の生着性が低いことが課題でした。一方、温度応答性培養ディッシュという特殊なディッシュでコンフルーエント[用語1]まで培養した細胞を低温環境に曝露すると、培養面からシート状に細胞が剥離します(図1)。
この細胞シートは再生医療の飛躍的な発展に貢献しましたが、温度応答性培養ディッシュによる生成には以下の弱点もありました。

図1.酵素処理によってバラバラになる細胞と温度応答性ポリマー(従来手法)により生成される細胞シート
図1. 酵素処理によってバラバラになる細胞と温度応答性ポリマー(従来手法)により生成される細胞シート

  • 細胞を低温環境下へ暴露することによる代謝の低下
  • 消耗品として高価で特殊な培養ディッシュが必要

これらの課題を解決するために、温度低下を必要とせず、かつ一般的な培養ディッシュから細胞シートを生成することを本研究の目的としました。

研究成果

図2.超音波による細胞シート生成のイメージ図
図2. 超音波による細胞シート生成のイメージ図

上記の目的を達成するためには、通常の培養ディッシュで培養した細胞から、通常の培養温度(37 ℃)環境下において、薬品等を用いずに細胞シートを生成する必要があります。そこで、本研究グループは、超音波による音響放射圧[用語2]を用いることで細胞を物理的に剥離する手法を着想しました(図2)。

このコンセプトを確認すべく、通常の培養ディッシュの下方から超音波を細胞まで伝播させる装置を製作しました。この装置を用いて、通常の培養ディッシュからマウスの骨格筋由来の細胞株であるC2C12の細胞シートを生成することに成功しました(図3左)。さらに、細胞シートを培養に適切な温度環境で生成できるため、従来手法で生成したシートと比較して代謝が高いことがわかりました。なお、タンパク質やDNAの発現に異常はありませんでした。

さらに、同様の手法によってフラスコからの細胞シートの剥離も確認しています(図3右)。フラスコからの細胞シート剥離はこれまでいかなる手段でも報告がありません。

図3.超音波により生成した細胞シート。左:ディッシュから生成した細胞シート、右:フラスコから生成した細胞シート

図3. 超音波により生成した細胞シート。左:ディッシュから生成した細胞シート、右:フラスコから生成した細胞シート

今後の展開

今後は、ヒトiPS細胞由来の心筋細胞を用いて細胞シートを生成できることを確認する予定です。その後、動物実験により心筋シート移植の安全性と治療効果を確かめた後に臨床応用を目指します。また、本研究の成果は心筋シートに限らず細胞シート生成のランニングコストを大幅に低減できると考えられ、細胞シートを用いた再生医療などの発展に寄与できると考えています。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Detachment of cell sheets from clinically ubiquitous cell culture vessels by ultrasonic vibration
著者 :
Chikahiro Imashiro, Makoto Hirano, Takashi Morikura, Yuki Fukuma, Kiyoshi Ohnuma, Yuta Kurashina, Shogo Miyata, Kenjiro Takemura
DOI :

用語説明

[用語1] コンフルーエント : 細胞が培養容器の培養面を覆いつくした状態

[用語2] 音響放射圧 : 超音波が照射された物体に付与される圧力

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お問い合わせ先

研究に関すること

慶應義塾大学 理工学部 機械工学科
教授 竹村研治郎

E-mail : takemura@mech.keio.ac.jp

安田女子大学 薬学部 薬学科
講師 平野真

E-mail : hirano-ma@yasuda-u.ac.jp
Tel : 080-4357-1876

長岡技術科学大学 大学院工学研究科技術科学
イノベーション専攻 准教授 大沼清

E-mail : kohnuma@vos.nagaokaut.ac.jp
Tel : 0258-47-9454

東京工業大学 物質理工学院 材料系
助教 倉科佑太

E-mail : kurashina.y.aa@m.titech.ac.jp
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