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コンパクトな新奇中性子対の新たな証拠を発見

不安定核ビームを用いた実験と少数系理論により実現

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公開日:2020.07.01

要点

  • 中性子数が過剰なホウ素同位体、ホウ素19(19B)の中性子ハロー構造を特定
  • 19Bの中性子ハローにコンパクトな中性子の対「ダイニュートロン」の証拠
  • ダイニュートロンは中性子星の構造を理解する鍵にもなる

概要

東京工業大学 理学院 物理学系のKaitlin Cook(ケイトリン・クック)日本学術振興会特別研究員(研究当時。現ミシガン州立大学アシスタント・プロフェッサー)、中村隆司教授、近藤洋介助教、理化学研究所 仁科加速器科学研究センターの大津秀暁チームリーダー、米田健一郎専任研究員、京都大学 理学研究科の萩野浩一教授らは、ホウ素同位体の中で最も中性子数が多いホウ素19(19B、陽子数5、中性子数14)に中性子ハロー[用語1]の構造を特定し、さらに中性子ハローを形成する2つの中性子がダイニュートロン[用語2]と呼ばれるコンパクトな新奇の中性子対であることを突き止めた。この成果は、理研の強力な不安定核ビーム[用語3]を用いた実験と最新の少数系理論[用語4]の共同研究により実現した。

本研究グループはクーロン分解[用語5]19Bの光吸収過程を調べ、中性子ハローの存在を決定づけるソフト双極子励起[用語6]を観測した結果、19Bの中性子ハロー構造を確定した。さらに少数系理論計算との比較から、ハローの2個の中性子が空間的に近接した中性子対「ダイニュートロン」であることも判明した。ダイニュートロンは40年以上前に予言されながら実験例が少なく、その存在が確立していなかった。

研究成果は5月27日に米国物理学会の学術誌「フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)」に掲載され、さらに同学術誌のEditors' Suggestion(編集者の推奨論文)に選ばれた。

背景

陽子と中性子からなる原子核は通常、陽子の分布と中性子の分布がほぼ等しい。しかし陽子数に比べ中性子数が2倍を超える短寿命の不安定核には中性子の分布が陽子の分布よりかなり大きく広がっているものが見つかっている。その代表的なものが「中性子ハロー」と呼ばれる構造である。

中性子ハローを外縁部にまとった原子核は中性子ハロー核と呼ばれ、その典型例11Li[用語7]の場合、図1のように、通常の原子核密度の9Liコアと、それを取り巻く低密度な中性子の広がりである中性子ハローでできた二重構造で特徴付けられる。また11Liの中性子ハローの広がりは重原子核208Pb[用語8]のそれに匹敵する。

図1. 典型的な中性子ハロー核の例:11Liは、9Liコアの周りに2個の中性子からなる外縁部「中性子ハロー」を持つ。

図1. 典型的な中性子ハロー核の例:11Liは、9Liコアの周りに2個の中性子からなる外縁部「中性子ハロー」を持つ。

11Liのような中性子ハロー核は「コア核+中性子+中性子」という3粒子系と見なせる。これはボロミアン核[用語9]と呼ばれる特徴を合わせ持つ。ボロミアン核とは、3粒子の内の2粒子「コア核+中性子」、「中性子+中性子」を取り出してもそれぞれは結合することができないが、「コア核+中性子+中性子」の3粒子になると結合できるという系である。

現在でもボロミアン核が結合できるメカニズムは完全には解決されておらず、こうした3粒子系の中性子ハロー核は11Liのほか、6He、14Be、17B、22Cの5例しか確認されていない。19Bについては、「17B+中性子」、「中性子+中性子」がギリギリ結合できず、ボロミアン核の条件を満たしているが、一方で中性子ハローの発達は抑制されていると先行研究で指摘されていた。

中性子ハロー核の形成メカニズム、特にボロミアン核の結合メカニズムを解明する上で、この2個の中性子がどのように絡んでいるか(相関)を理解することが重要である。一方、40年以上も前にミグダルによって、中性子対が原子核の表面で強い準束縛状態「ダイニュートロン」を作るという予言がなされている。

自由空間中では束縛しない2個の中性子が、密度の希薄な原子核の表面でコンパクトな対であるダイニュートロンを成すという予言であるが、実験例はほとんどなく、未だに確立していない。特に希薄な核表面である中性子ハローはダイニュートロンの候補の筆頭である。以前の中村教授らによる11Liの実験でダイニュートロンの兆候を見出しているが(Phys. Rev. Lett. 96, 252502 (2006))、他の中性子ハロー核の実験がほとんどなく、普遍的な現象なのかどうか解決していなかった。

研究成果

本研究グループは理化学研究所(理研)の重イオン加速器施設RIBF(ラジオアイソトープ・ビームファクトリー)において、不安定核ビーム19Bを生成し、RIBFの基幹測定装置SAMURAI(多種粒子測定装置)を用いて、19Bの光吸収過程を測定した。RIBFが誇る世界一の強度の不安定核ビーム、その能力を最大限活用する電磁スペクトロメータSAMURAIと、本研究グループが世界をリードして開発してきた測定手法「クーロン分解」を駆使して、これを実現した。この実験から、中性子ハロー構造に特有の光吸収過程「ソフト双極子励起」を観測し、19Bが「17B+中性子+中性子」という2中性子ハロー構造を持つことが判明した。

さらに、萩野教授の少数粒子系の理論計算をもとに実験データの詳しい解析が行われ、その結果、ハローを構成する2個の中性子がダイニュートロンを成していることがわかった。図2には実験スペクトルをよく再現する少数系理論に基づき計算された2中性子の密度分布を示している。2つの中性子のなす角度が25度程度と小さく、コンパクトな対となっていることがわかる。

図2. (左図、本成果の発表論文からの抜粋)本実験のスペクトルを再現する19Bにおけるハローの2中性子の密度分布。少数粒子系の理論計算で得られた。右図に示すようにθ12は17Bコアの重心から見た2つの中性子の開き角で、rはコアから中性子までの平均距離。右図は今回得られた実験と理論の結果をもとにした19Bの構造の概念図。

図2.
(左図、本成果の発表論文からの抜粋)本実験のスペクトルを再現する19Bにおけるハローの2中性子の密度分布。少数粒子系の理論計算で得られた。右図に示すようにθ1217Bコアの重心から見た2つの中性子の開き角で、rはコアから中性子までの平均距離。右図は今回得られた実験と理論の結果をもとにした19Bの構造の概念図。

今回の研究成果は中性子数が過剰になった極限状況で起きる新しい中性子対の構造を示したものである。原子や分子のスケールではボーズアインシュタイン凝縮[用語10]を起こす近接した原子対が知られているが、これよりサイズが4桁以上小さい原子核における類似現象の可能性を示した。極限原子核における新たな多体現象の出現を示しただけでなく高密度天体である中性子星の構造の解明においても重要と考えられる。

今後の展開

今回の研究から中性子ハローにおけるダイニュートロンの新たな証拠が示された。これは、密度の希薄な原子核の表面(ハローなど)において、中性子対の相関が普遍的に強くなることを示している。中性子星においても、その表面付近には希薄な中性子流体を成分にもつ層(インナークラスト)が存在すると考えられており、そこでもダイニュートロンが重要な役割を果たしている可能性が高い。今後、こうした研究への波及も期待される。

19Bは今回、新たに中性子ハロー核として確立したが、コアである17Bはそもそもハロー核であり、19Bが5粒子系(15B+4個の中性子)として存在する可能性もあった。今回の研究は5粒子系的ではないという結論だったが、ダイニュートロンを超える4中性子系や6中性子系などの多中性子クラスター[用語11] の研究も進みつつある。こうした多中性子系は、中性子過剰極限で原子核を結合させる「力」や中性子同士の絡み(相関)についての情報を与える。これは、さらに中性子星の構造やダイナミクスの理解にもつながる。

ダイニュートロンについては、今後、より直接的な測定、すなわち、放出される2中性子の相関を測定し、ダイニュートロンのサイズや運動を直に観測する実験も計画されている。実際、本研究グループは理研RIBFにおいて、26Oを用いたダイニュートロンの直接測定の実験を予定している。

謝辞

本研究は科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)「量子クラスターで読み解く物質の階層構造」(18H05404)のほか、同 基盤研究A(16H02179)の支援を受けて行われた。また、K. J. Cook博士は日本学術振興会の外国人特別研究員の枠組みで支援を受け、東京工業大学で本研究を行った。

用語説明

[用語1] 中性子ハロー : 1個ないし2個の中性子が、通常の原子核の半径を超えて大きく広がり、密度の希薄な外縁部を作ることがある。この外縁部を中性子ハローと呼ぶ。中性子ハローを有する原子核を中性子ハロー核と呼び、密度の高いコア核(中心部)と中性子ハロー(外縁部)から成る二重構造を取る。中性子ハロー核は、中性子数が陽子数に比べ非常に過多な軽い中性子過剰核に見つかっている。中性子の結合エネルギーが非常に小さくなることでトンネル効果が働き、中性子の分布がコア核から染み出すことで中性子ハローが発達する。

[用語2] ダイニュートロン : 自由空間で2個の中性子を近付けても結合しないことが知られている(もし結合すると物質の世界は中性子だらけの世界になっていたことだろう)。ソ連(現ロシア)のミグダルは、2個の中性子を原子核の密度の薄い表面に持ってきた時、結合するような強く絡んだ中性子対のダイニュートロンが出現すると約40年前に予言した。しかし、直接的にダイニュートロンを観測する実験は難しく、現在でもその存在が確立していない状況であった。本研究はダイニュートロンの存在が中性子ハローに現れることを示す新たな証拠となる。

[用語3] 不安定核、不安定核ビーム : 天然に存在する約270種の原子核を安定核と呼ぶ。一方、中性子数または陽子数が安定核より多くなると不安定になり、有限の寿命で崩壊する。このような原子核を不安定核あるいは放射性同位体(RI)と呼んでおり、現在約3,000種が知られている。さらに、まだ見つかっていない不安定核の種類はその倍以上あると考えられている。不安定核には安定核より陽子数の多い陽子過剰核、中性子数の多い中性子過剰核がある。不安定核は、理研RIBFのような加速器施設で重イオンビームと原子核標的との反応によって生成でき、ビームとして取り出せる。これを不安定核ビームと呼び、不安定核ビームと標的核との反応を用いて、不安定核そのものの研究が可能となっている。

[用語4] 少数系理論 : 複数の核子からできている原子核を少数個の塊に分けて記述する理論手法。本研究では、19個の核子から出来ている19B原子核を、17Bと2つの中性子という3つの粒子に分けて考える3体模型が用いられた。

[用語5] クーロン分解 : 原子核を、光速の30 %以上の高速で重い標的付近を通過させると、この原子核は強いクーロン力のパルスを受ける。これは入射する原子核が光子を吸収する過程とみなせるため、中性子過剰核をビームとして使えば、その光吸収過程を調べることができる。光励起後に中性子過剰核が分解する場合をクーロン分解と呼ぶ。

[用語6] ソフト双極子励起 : 中性子ハロー核はエネルギーの低い光子を吸収しやすいという性質があり、これをソフト双極子励起と呼んでいる。ソフト双極子励起はハローを構成する中性子とコア核の間の運動に起因するため、ハローの構造を調べる上で有用である。

[用語7] 11Li : 陽子数3、中性子数8、質量数11で、リチウム同位体の中では最も重く中性子数が最も過剰な原子核。9Liでできた中心部(コア)と低密度で広がる2個の中性子(ハロー)の二重構造となっており、最もよく研究されている代表的な中性子ハロー核である。

[用語8] 重原子核208Pb : 典型的な重い原子核の例として用いた。原子核の半径は質量数の1/3乗に比例するため、通常であれば11Liの半径は208Pbの半径の1/2.7程度であるが、11Liのハローの広がりはほぼ208Pbの広がりと一致する。

[用語9] ボロミアン核 : 2個の中性子をハローに持つ中性子ハロー核は「コア核+中性子+中性子」という3粒子系構造を持つが、例外なく、その内の2粒子「コア核+中性子」「中性子+中性子」は結合できず束縛系を持たない。つまり3粒子が集合して初めて結合した束縛系を作る。イタリア、ボロミオ家の紋章は3つの輪でできており、そのうちの2つの輪はいずれも絡んでいないが3つの輪になって初めて輪が絡んで離れなくなることから、こうしたトポロジーを持つ3つの輪をボロミアン輪と呼んでいる(図3)。2中性子ハロー核はボロミアン輪と同じ絡み方なので、ボロミアン核と呼ばれる。

図3. ボロミアン輪で表した19B。緑の輪(右の中性子)を切ると、青の輪(17B)と赤い輪(左の中性子)が繋がっていないことがわかる。どの輪を切っても残りの2つの輪が繋がっていない。つまり、2粒子は結合せず、3粒子になって初めて結合できるという2中性子ハロー核の特徴を表している。

図3.
ボロミアン輪で表した19B。緑の輪(右の中性子)を切ると、青の輪(17B)と赤い輪(左の中性子)が繋がっていないことがわかる。どの輪を切っても残りの2つの輪が繋がっていない。つまり、2粒子は結合せず、3粒子になって初めて結合できるという2中性子ハロー核の特徴を表している。

[用語10] ボーズアインシュタイン凝縮 : 自然界の粒子は、2つの粒子を入れ替えても波動関数が変わらないというボーズ粒子と、入れ替えに対して波動関数の符号が変わるというフェルミ粒子の2つに分類される。ボーズアインシュタイン凝縮は、巨視的な数のボーズ粒子が同一のエネルギー状態(通常は最低エネルギー状態)をとって凝縮する現象。フェルミ粒子でも対を作ることによって同じ現象が起きることがある。

[用語11] クラスター、多中性子クラスター : 原子核は中性子と陽子を単位としてできた複合粒子である。一方、炭素12(陽子数6、中性子数6)にはホイル状態と呼ばれる励起状態があり、3つのアルファ粒子の状態となっていてアルファクラスターと呼ばれる。原子核内で2個の陽子と2個の中性子が塊(クラスター)を作っているからである。複数の中性子が塊を作り、原子核を構成したものが多中性子クラスターである。ダイニュートロンはその一番小さいものであり、4中性子系(テトラニュートロン)、6中性子系などは未だによくわかっていない。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Halo Structure of the Neutron-Dripline Nucleus 19B
著者 :
K.J. Cook, T. Nakamura, Y. Kondo, K. Hagino et al.
DOI :

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