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受けた力の可視化と高強度化を同時に実現する多機能高分子材料を開発

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公開日:2021.01.25

要点

  • 受けた力を色と蛍光で可視化し、同時にその箇所で新たな結合を形成して高強度化する多機能高分子材料を開発
  • 力によって誘起される化学反応を力学物性や電子状態の測定、計算化学などで多角的に評価
  • 力の負荷に対応することで予期しない破壊を防ぐ高分子材料の設計が可能

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の大塚英幸教授と瀬下滉太大学院生(修士課程2年)らの研究グループは、相模中央化学研究所の巳上幸一郎博士らや山形大学の伊藤浩志教授らと共同で、力を受けると、色彩変化と蛍光発光によってその力を可視化すると同時に、材料自身が高強度化する高分子材料を開発することに成功した。

現在普及している多くの高分子材料では、過剰な力の負荷は構成する高分子鎖を切断して予期しない破壊をもたらす。こうした力を可視化すると同時に、材料自身が高強度化するような化学反応を誘起できれば、安心・安全な高分子材料設計に向けた従来と異なるアプローチが可能になる。

本研究で開発した高分子材料では、引張や圧縮などの力を加えることでラジカル[用語1]が生じる。このラジカル由来の桃色着色と黄色蛍光によって力が可視化されると同時に、ラジカル発生をきっかけに高分子鎖どうしが連結される反応が進んで高強度化することが確認された。こうした一連のラジカル反応の多角的評価には、電子スピン共鳴(ESR)測定[用語2]や計算化学を用いた。

なお、本研究成果は2021年1月8日にドイツ化学会誌(Wiley-VCH)「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」にオンライン掲載された。

背景

プラスチックやゴムに代表される高分子材料は、軽量・柔軟といった特性があることから、私達の生活に不可欠な製品に使用されて広く普及している。しかし金属などの他の材料と比較すると、機械的強度や耐久性が劣るという問題がある。そもそもなぜ高分子材料は破壊されてしまうのか。その最も大きな要因の一つが過剰な「力」による負荷であり、この力がミクロレベルで高分子鎖を切断して、マクロな破壊を引き起こす。しかし反対に、この力を熱や光などと同様の「刺激」として利用し、化学反応を誘起する駆動力へと変換できれば、今までとは異なる材料設計へのアプローチが可能になる。例えば「力」を利用して、高分子鎖どうしが連結される反応を誘起できれば、力によって破壊されずに、むしろ高強度化される材料の実現が期待できる。

本研究では、引張や圧縮などの力を加えることで色彩変化と蛍光発光を示し、同時に新たな結合ネットワークを形成できる高分子材料の開発を目指した(図1)。そうした材料では、どこにどれだけの力が加えられているのかを目視で確認でき、同時に材料自身が化学反応を誘起することで強度が高まると考えられる。

図1. 本研究のコンセプト

図1. 本研究のコンセプト

研究成果

今回、大塚教授らのグループは、高分子材料を構成する分子骨格のうち、力を受けると反応活性なラジカルを生じるジフルオレニルスクシノニトリル(DFSN、図2)骨格に着目した。DFSN 骨格は室温では安定だが、力を加えると中央の炭素-炭素結合が開裂し、桃色の炭素中心ラジカルを生成する。このラジカルは、ビニルモノマー[用語3]に対する重合開始能[用語4]を持つため、高分子鎖に連結されたビニルモノマー骨格が共存する系では、分子鎖どうしを連結する架橋反応[用語5]を誘起できる。すなわち DFSN 骨格を用いることで、色彩変化によって力を可視化し、同時に架橋反応を起こして高強度化する新たな高分子材料を設計できると考えた(図2)。

図2. DFSN骨格の性質(左)と本研究における設計(右)

図2. DFSN骨格の性質(左)と本研究における設計(右)

この考えに基づいて実際に、主鎖にDFSN 骨格、側鎖に重合性基を有するポリウレタン[用語6]を設計・合成し、フィルム成形を行った。まず、得られたエラストマー[用語7]の力による反応を調べるため、圧縮試験を行った。エラストマーの一部を金属型で圧縮したところ、圧縮した部分のみ桃色に変化し、さらにあらゆる溶媒に対し不溶化した(図3)。これは一部の DFSN 骨格が解離し、発生したラジカルを開始点とする架橋反応が進行したためである。

次に、圧縮したフィルムに紫外光(365 nm)を照射すると、黄色蛍光を示した(図3)。この蛍光発光は、架橋反応中のラジカルが移動することで発生する蛍光性のラジカルが原因である。蛍光の変化は、色変化と比較して感度が高いことから、損傷検知の観点からもより有用であると考えられる。

図3. H型の金属をポリウレタンフィルムに対して圧縮した実験の模式図と写真

図3. H型の金属をポリウレタンフィルムに対して圧縮した実験の模式図と写真

このエラストマーでは、圧縮するほど弾性率が増加するという力学物性の変化も確認された(図4左)。これは材料が圧縮によって破壊されるのではなく、むしろ新たな化学結合を形成して高強度化されるということである。さらに、発生したラジカル種を電子スピン共鳴(ESR)測定とシミュレーションにより推定し(図4中央)、一連のラジカル反応をDFT計算[用語8]により評価(図4右)することで、分子レベルのメカニズムを議論できることを示した。

図4. 力学物性の変化(左)、ESR測定(中央)、計算化学による評価(右)

図4. 力学物性の変化(左)、ESR測定(中央)、計算化学による評価(右)

今後の展開

高分子材料が使用される環境は多様であり、過剰な力の負荷のような好ましくない状況に対して材料自身が対応できれば、予期しない破壊を防ぐことができる。今後は、この新たな材料設計アプローチがどの程度の汎用性をもつかを検証し、実用材料への展開を目指す。さらに本研究の成果を基盤として、高分子材料設計の新戦略に関する学術研究も加速させていく。

付記

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 :
革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明」(研究総括:伊藤耕三 東京大学 教授)
研究課題名 :
「動的共有結合化学に基づく力学多機能高分子材料の創出」
研究代表者 :
(大塚英幸 東京工業大学 教授)
研究期間 :
2019年10月~2025年3月

用語説明

[用語1] ラジカル : 不対電子(電子対にならない電子)を持つ原子や分子。

[用語2] 電子スピン共鳴(Electron spin resonance, ESR)測定 : 不対電子を検出するための分光法の一種。有機化合物中のラジカル種の定量評価に利用される。

[用語3] ビニルモノマー : 炭素-炭素二重結合を有し、ラジカルなどを開始点として連鎖的に反応が進行して、高分子を与える低分子化合物。

[用語4] 重合開始能 : モノマーを連結してポリマーに変換する重合反応を開始できる能力。炭素中心ラジカルには、ビニルモノマーの重合開始能をもつものがある。

[用語5] 架橋反応 : 分子鎖の間に橋を架けるように結合を形成する反応。架橋反応が起こると一般に高分子は「紐状」から「網目状」になり、溶媒に不溶となる。

[用語6] ポリウレタン : 繰り返し単位中にウレタン結合(-NH-CO-O-)を有し、エラストマーや繊維に使われる汎用的な高分子材料。

[用語7] エラストマー : ゴムに代表される弾性を有する高分子材料の総称。

[用語8] DFT計算 : 化学で用いられる計算手法の一種。密度汎関数理論に基づく。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Segmented Polyurethane Elastomers with Mechanochromic and Self‐strengthening Functions
著者 :
Kota Seshimo, Hio Sakai, Takuma Watabe, Daisuke Aoki, Hajime Sugita, Koichiro Mikami, Yuchen Mao, Akira Ishigami, Shotaro Nishitsuji, Takashi Kurose, Hiroshi Ito, and Hideyuki Otsuka
(瀬下 滉太、酒井 飛鷹、渡部 拓馬、青木 大輔、杉田 一、巳上 幸一郎、毛 宇辰、石神 明、西辻 祥太郎、黒瀬 隆、伊藤 浩志、大塚 英幸)
DOI :

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E-mail : scrc@sagami.or.jp
Tel : 0467-77-4112 / Fax : 0467-77-4113

山形大学 エンロールメント・マネジメント部 広報室

E-mail : koho@jm.kj.yamagata-u.ac.jp
Tel : 023-628-4008 / Fax : 023-628-4491

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