東工大ニュース
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公開日:2021.04.20
東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センターの牧野支保研究員、川俣朋子助教、大隅良典栄誉教授および理化学研究所 開拓研究本部 岩崎RNAシステム生化学研究室の岩崎信太郎主任研究員らの研究グループは、タンパク質の情報を担うメッセンジャーRNA (mRNA)[用語1]がオートファジーによって選択的に分解されることを明らかにした。
オートファジーは自己の細胞構成成分を分解する機構で、代謝の恒常性維持に貢献している。これまでオートファジーは主にタンパク質の分解機構として理解されてきたが、最近、遺伝情報を担う核酸(RNA)の分解も担うことが明らかになってきた。しかしRNA分解の選択性やその生物学的意義は不明だった。
本研究ではオートファジーによって分解されるmRNAに選択性があることを発見した。また分解されやすいmRNAは、mRNAの情報をタンパク質に変換するリボソーム[用語2]との結合をオートファジー誘導後に維持していることが明らかとなった。本研究によりオートファジーがリボソームと結合したmRNAを選択的に分解することで、遺伝子の発現に関わるという新たな現象を発見した。
研究成果は英国科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」で4月19日(現地時間)に公開された。
生物の構成成分であるタンパク質、脂質、核酸は環境の変化に応じて合成・分解され、その量が適切に調節されている。オートファジーは栄養飢餓時に自己の細胞内成分を液胞/リソソーム[用語3]に輸送し、分解する機構であり、出芽酵母[用語4]から哺乳動物まで高度に保存されている。オートファジーが誘導されると、細胞内成分がオートファゴソームという膜構造に取り囲まれて液胞に運ばれた後、液胞内の酵素により分解される。
液胞内で生じた分解産物は様々な形でリサイクルされ、代謝の恒常性維持に貢献していると考えられている。これまでオートファジーは主にタンパク質の分解機構として解析が進められてきたため、核酸に関する理解は遅れている。過去に本グループはタンパク質だけでなく核酸(RNA)がオートファジーで液胞に運ばれ、液胞内RNA分解酵素Rny1[用語5]によって分解されることを明らかにしている。しかし、オートファジーによってどのような特徴を持つRNAが分解されているか、という根本的な問いについては未解明であった。
本研究では、モデル生物の出芽酵母を用いてオートファジーによるRNA分解、特にmRNAに着目してその選択性を調べた。オートファジー誘導条件下においてRny1が欠損した細胞から液胞を単離し、液胞に蓄積するmRNAを次世代シークエンサー[用語6]により網羅的に解析した。その結果、オートファジーを介したmRNA分解には、選択的に分解されるもの、分解を免れるものがあることが明らかとなった。
次に、遺伝子の機能を解析した結果、選択的に分解されるmRNAにはアミノ酸生合成に関わる一群の遺伝子をコードするmRNAが含まれていることが分かった。それらの細胞内のmRNAは20~40%程度がオートファジーによる分解を受けていると見積もられ、合成されるアミノ酸量の減少に寄与している可能性が考えられる。また、分解される代表的なmRNAを用いた解析から、翻訳が始まりリボソームが結合しているmRNAはオートファジーによって分解されやすいことが明らかとなった。加えて、オートファジーによる選択的な分解はmRNAの5´末端非翻訳領域[用語7]で決められる翻訳時のリボソームとの結合の程度に依存することが示唆された。
さらに、オートファジーによるmRNAの分解されやすさと翻訳との関係の詳細を明らかにするために、mRNAと翻訳中のリボソームとの結合を網羅的に解析する手法であるリボソームプロファイリング法で解析した。その結果、オートファジーを誘導したストレス状態ではエネルギー負荷の大きいタンパク質合成は抑制されるが、選択的に分解されるmRNAはオートファジー誘導時にリボソームとの結合を維持する傾向があることが分かった。以上の結果により、オートファジーは選択的にmRNAを分解することでmRNA量の調節に寄与することが明らかとなった。オートファジーはタンパク質の分解だけでなく、一部のmRNAを選択的に分解することで効率良く遺伝子の発現を調節していると考えられる。
細胞は栄養飢餓などによる環境の変化に応答して、転写や翻訳の活性を巧みに調節し、遺伝子の発現を制御している。本研究によって、オートファジーは翻訳の段階でmRNAの分解機構の一つとして働くことが明らかとなった。
本研究によって、オートファジーによるmRNA分解には選択性があることが分かったが、選択的に一部のmRNAをオートファジーの機構が認識するメカニズムは未解明であり、今後の詳細な解析が期待される。
オートファジーを介したRNA分解に関わる液胞内RNA分解酵素は、哺乳動物にまで広く保存されており、疾患などに関わることが示唆されている。今回、出芽酵母で得られた成果はオートファジーの機能を拡張するものであり、高等生物でのオートファジーによる選択的なmRNA分解の生理学的意義や疾患との関連の解明が期待される。
付記
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(S)「オートファジーの生理機能の統合的理解 (研究代表者:大隅良典)」、同若手研究(B)「オートファジーによるRNA分解の分子機構と生理的意義の解明(研究代表者:牧野支保)」、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ACT-X「オートファジーによる選択的mRNA分解機構の解明」(研究者:牧野支保、JPMJAX201E )」、文部科学省(MEXT)科学研究費補助金学術変革領域研究(B)「新規Disome-Seq法: パラメトリックなリボソーム渋滞の網羅的探索(研究代表者:岩崎信太郎)」、同新学術領域研究「液胞/リソソームにおける核酸分解過程の生理生化学的解析(研究代表者:堀江朋子)」による支援を受けて行われた。
用語説明
[用語1] メッセンジャーRNA(mRNA) : タンパク質に翻訳される塩基配列の情報を持つRNA。
[用語2] リボソーム : mRNAの情報によりタンパク質を合成する(翻訳)巨大なタンパク質-RNA複合体。
[用語3] 液胞/リソソーム : 細胞内小器官の一つで、タンパク質やRNAを分解する酵素を含む。
[用語4] 出芽酵母 : 真核生物のモデル生物であり、基本的な細胞内構造や因子は哺乳動物まで保存されている。
[用語5] 液胞内RNA分解酵素Rny1 : 一本鎖RNAを分解する酵素の一種で、液胞内に存在する。RNAを分解して、リン酸と糖、塩基から成るヌクレオチドにする。
[用語6] 次世代シークエンサー : 高速かつ高精度にDNAの塩基配列を決定できる装置。
[用語7] 5´末端非翻訳領域 : mRNAの翻訳領域より5´末端側にあるタンパク質に翻訳されない領域。翻訳の制御に関わると考えられている。
論文情報
掲載誌 : |
Nature Communications |
論文タイトル : |
Selectivity of mRNA degradation by autophagy in yeast |
著者 : |
Shiho Makino, Tomoko Kawamata, Shintaro Iwasaki and Yoshinori Ohsumi |
DOI : |
大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。
お問い合わせ先
東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター
研究員 牧野支保
E-mail : makino.s.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5879 / Fax : 045-924-5121
理化学研究所 開拓研究本部 岩崎RNAシステム生化学研究室
主任研究員 岩崎信太郎
E-mail : shintaro.iwasaki@riken.jp
Tel : 048-467-3613 / Fax : 048-462-1493
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