東工大ニュース
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2018年に発足した東京工業大学未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、「人々が望む未来社会とは何か」を、社会の方々と語り合いながらデザインしていくための組織です。DLabでは2020年度も、リモート環境でのワークショップ、研究支援、動画による発信など多面的な取り組みを続けてきました。こうした活動の成果を広く社会と共有するオンラインイベント「DLab Dialog Day」(DLab ダイアログデー)を3月6日、初めて開催しました。東工大の学生、教職員、企業などから130人を超える方々が参加した、同イベントの模様を紹介します。(※参加者の所属・職名はイベント開催当時のもの)
2020年1月、DLabとして初めての「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」の発表という大きな節目を迎えたDLabでは、その後もコロナ禍のなか、オンラインツールなども活用しながら次のステップに向けた多彩な活動を進めています。この1年間の活動を皆さんに紹介するとともに、未来への気づきを共有すべく開催したのが、オンライン会議ツールZoomを活用したイベント「DLab Dialog Day Spring 2021」です。
イベントの冒頭では、「ありたい未来」を肩肘張らずに語り合うDLabの活動姿勢を益一哉学長が紹介しながら、今日のダイアログを楽しんでほしいと参加者に呼びかけました。続いてDLab機構長の佐藤勲総括理事・副学長がDLabの狙いや活動体制を説明しました。さらに副機構長を務める大竹尚登教授(科学技術創成研究院副研究院長)が、「未来社会像」の一つである「TRANSCHALLENGE(トランスチャレンジ)社会」と「東京工業大学未来年表」の内容、また2020年の主な活動の概略を紹介しました。
学内外の多様な方と対話しながら豊かな未来社会のあり方を考えると同時に、それを実現する科学技術や政策も検討し、社会や次世代への働きかけも行っていくのがDLabの特徴です。
DLabの活動を紹介するこのイベント導入パートでは、東工大における教育分野の取り組みとして、学士課程1年目の授業「未来社会デザイン入門」を受講した学生による未来社会像の発表も行われました。授業では「2050年学生自身が50歳になったときに、『暮らしたい未来社会像』を明らかにする」をテーマに、学生が15チームに分かれてグループワークを行い「未来新聞」をつくり、その中から優秀作として選ばれた3チームが本イベントでプレゼンテーションを行いました。
休憩を挟んで行われた2つ目のパートは、「GEEK(ギーク)の輪~STAY HOME(ステイホーム)でギーク達は何を考えたか~」です。ここでは2020年5月からDLabが47回にわたって実施した研究者インタビュー企画「STAY HOME, STAY GEEK~お宅でいよう~【コロナ×未来社会】」の総集編動画の放映と、インタビューに出演した研究者によるパネルトークが行われました。
YouTubeの東工大公式チャンネルで配信されているこの企画は、技術に明るくエッジの効いたオタク=GEEK(ギーク)としての研究者に、自身の専門分野やコロナ禍のなかでの思いを聞き、各回約15分の動画で発信するものです。学内の研究者に加え、ノーベル化学賞受賞者で東工大の卒業生でもある白川英樹博士や、池上彰特命教授らも登場しています。
このパートでは、メインインタビュアーを務めた伊藤亜紗准教授(科学技術創成研究院 未来の人類研究センター長)から企画についての説明の後、47回分の動画のハイライトを抜粋した総集編を放映しました。動画には、理工系・人文社会系の多彩な研究者が次々と登場します。コロナ禍で高い注目を集める創薬やITの分野も含め、地球活動などマクロな分野からナノ工学などミクロな分野まで、各GEEKの専門分野から見た現在の状況、コロナ禍における研究や教育のあり方、生活へのヒントや学生への助言などが最新の知見を交えて語られていきました。
さらにインタビューに出演した村田涼准教授(環境・社会理工学院 建築学系)、大橋匠助教(環境・社会理工学院 融合理工学系)、多久和理実講師(リベラルアーツ研究教育院)と、各回のインタビュアーを務めたDLabメンバーの中野民夫教授(リベラルアーツ研究教育院)、桑田薫副学長(研究企画担当)によるパネルトークも行われました。インタビュー当時の状況を振り返りながら、「リモート環境では偶然の出会いをどう増やすかが重要」「丸まったもの同士でなく、尖ったもの同士がぶつかり、触発し合うことで大きな力が生まれる」など、コロナ禍や自身の研究も踏まえた幅広いトークが展開されました。
DLabでは2020年度より、私たちが望む未来社会像の実現に寄与する研究を支援するべく「DLab Challenge:未来社会DESIGN機構研究奨励金」の取り組みを開始しています。3つ目のパート「未来研究の芽~未来社会を創出する研究を支援~」では、支援が決定した4つの研究テーマについて、各テーマの研究代表者がプレゼンテーションを行いました。
最初に発表された「機械視覚像の実世界へのリアルタイム重畳投影の創出:人間の知覚限界の超越と未来社会創造への貢献」(渡辺義浩 工学院 情報通信系 准教授)は、独自のカメラ機能とビジュアライズ技術を統合し、人の視覚の可能性を広げ、社会や産業に役立てる研究です。次の「エッセンシャルワーカーの在宅勤務を可能にするロボット遠隔制御システムの探求」(遠藤玄 工学院 機械系 准教授)では、遠隔制御可能なロボット本体とその制御技術の開発によって、物理的作業を中心とする労働のリモート化を目指します。
画面上に英文字幕が表示される機能を活用しながら、英語でのプレゼンテーションを行った「心の外骨格(エレミ):AIによるメタ認知の増強」(ケイティー・シーボーン=Katie Seaborn=工学院 経営工学系 准教授)は、インフォデミック(不確実な情報の氾濫)なども話題になる現在、AIを使った知的支援システムで、情報社会における日常的な課題について人々を支援するための研究です。また、「アイソトポミクス健康診断法の開発」(山田桂太 物質理工院 応用化学系 准教授)では、呼気や尿に含まれる代謝分子について、地球科学で使われている同位学体置換分子種(アイソトポマー)の組成分析を行うことで、血糖値などを簡単に測定する方法の開発を行い、さらに新しい代謝解析手法の創出に挑戦します。
同パートにはコメンテーターとして、研究テーマの審査を行ったDLabメンバーの杢野純子氏(株式会社トレイル副代表)と上田紀行教授(リベラルアーツ研究教育院長)も加わり、各研究の特徴的なポイントを指摘したり、具体的な応用範囲やインターフェースについて質問を投げかたりしながら内容を深掘りしていきました。また、Googleフォームを活用し、参加者からリアルタイムで寄せられた質問への回答も行われました。
DLabが描いた未来社会を実現するには、技術を社会実装する知見や力を持つ企業など、学外組織との連携も重要です。2020年度には、DLabの活動に賛同する会員企業や団体が所属や立場を超えて自由に意見を交わし、交流・共創する場として「DLabパートナーズ」の活動が本格的に始まりました。イベントの最終パート「未来共創の場~企業との連携『DLabパートナーズ』~」の内容は、この「DLabパートナーズ」の活動紹介と会員企業によるパネルトークです。
このパートでは会員企業7社から旭化成株式会社、日本電気株式会社、マツダ株式会社の3社が登壇し、各社の未来創造活動の紹介や参画の理由などを説明しました。その後、DLabメンバーの新田元上席URA(研究・産学連携本部 研究戦略部門長)から、延べ5回にわたるオンラインワークショップの内容や、そこでのグループワークの成果が紹介されました。さらにワークショップに参加したDLabメンバーの岡田健一教授(工学院 電気電子系)、山口雄輝教授(生命理工学院 生命理工学系)、栁瀬博一教授(リベラルアーツ研究教育院)が加わって全員でパネルトークを行いました。参加者からは、「リベラルアーツ教育にも力を入れる東工大で多彩な研究者の知見に触れられたのが勉強になった」「事業や企業の垣根を越えて、ほかの企業の方と意見を交わし合えたのが良かった」などの声が挙がりました。
広く一般を対象としたDLabのイベントとしては初めてのオンライン開催となった「DLab Dialog Day Spring 2021」は、日本各地から130人を超える参加者を迎えて和やかな雰囲気の中で閉幕し、参加者からは「未来を考えることが、こんなにも刺激的な思考の機会だとは思わなかった」、「ありたい未来を考えるという前向きな姿勢に改めて共感した」など多数の感想が寄せられました。
このイベントで紹介された「DLab Challenge」「DLabパートナーズ」などの活動は、2021年度も引き続き継続します。現在から予測できる“ありそうな”未来や、“あるべき”未来とはまた違った、人々が望む“ありたい”未来社会の姿を社会と一緒に紡いでいく、DLabの今後の活動にご期待ください。