東工大ニュース
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東京工業大学は、東工大で学んでいる留学生らが、海外から入学を希望する人々に向けて日本での学生生活や東工大の魅力を英語で発信する「アンバサダーズ・ブログ」(Ambassadors' Blog)を大学ホームページに開設しています(Tokyo Tech Admissions website)。2021年度は2期目に入り、11か国から集まった15人の学生がスチューデント・アンバサダーに就任しました。15人は学士課程から博士後期課程まで、日本にやってきた動機も、東工大で学ぶ理由もさまざまです。新しい環境で研究に取り組む。慣れない日本語に挑む。困った時は友人と助けあう。異国での青春の日々をブログにつづっています。留学を目指して海外で勉強する後輩の若者だけでなく、日本の学生にも新鮮な視点を提供しています。そんなブログを4本、紹介します。
(英語のブログを東工大ニュース編集部が抄訳しました)
タク・イン(Tuo Yin 殷拓)さん
工学院 情報通信系 修士課程2年
中国の大連工科大学を卒業後、東工大へ。小尾高史研究室。2021年4月からスチューデント・アンバサダー。
初めてすずかけ台キャンパスを訪れたのは面接の時でした。建物を出ると、オレンジ色に輝く夕日が山の向こうに隠れようとしていました。カフェテリアに入ると、天井まであるガラスを通して、まわりの静けさを感じました。幸運にも修士課程の学生となりこんなに美しい場所で研究できるとは、その時は思ってもみませんでした。
時が移り、3月になると親しい友人が研究室を卒業しました。私の研究はうまくいきません。ちょうど桜が満開を迎えていました。私は浴衣を着て、写真でも撮れば、元気になれるのでは、と思い立ちました。桜に囲まれた広い芝生はキャンパスの中心のようです。一陣の風が吹くと、花びらが雪のように舞い落ちます。日本語では「サクラフブキ(桜吹雪)」と呼ばれています。
中国では人々が褒めるのは梅、竹、蘭、菊※です。それぞれ、強く高潔、気高い自尊心、まっすぐで控えめ、落ち着いた平静さ、といった性格を備えているといわれます。
桜の小道を歩いていて、日本で桜が愛されるのも、やはり人々が信じる道徳の原則を象徴しているからではないか、と思いました。
満開の桜は風で散っていきます。その哲学とは、人生は短いが、そこで最善を尽くす、というものです。茶道でよく言われる「一期一会」にもつながります。お茶をホストとゲストがともにいただく瞬間は2度と再現できません。すべての茶の湯は人生で1度きりなのです。
たとえ壁にぶつかっても、この一瞬を大切にし、つまずきを乗り越えるために全力を尽くさなければなりません。なぜなら、そうすることによって私は前に進むからです。
週末には、すずかけ台は静かになります。友達とピクニックシートを広げ、手作りのベントウを手に、語り合います。あなたもすずかけ台キャンパスに来れば、きっとこの眺めを楽しめるでしょう。
四君子(しくんし):梅、竹、蘭、菊のこと。君子をたたえるものとして、東洋画の画題とされる。(大辞泉)
ジェローム・シラ(Jerome Silla)さん
環境・社会理工学院 融合理工学系 博士後期課程3年
フィリピンから2014年、交換留学生として東工大に入学。山口しのぶ・高田潤一研究室で国際開発プロジェクトを研究。2020年7月からスチューデント・アンバサダー。
研究の合間に、アメリカの兄弟デュオ「エヴァリー・ブラザーズ」をYouTubeで聞きました。家族旅行のドライブを思い出しました。車の中で、この1950年代のヒット曲が流れたのでした。家族の記憶はさらによみがえります。かあさんのシャンプーの匂い。とうさんが料理した家庭の味。おばあちゃんのベッドの堅い枕。
ぼくのような留学生の多くがホームシックを体験します。ある友達は東京のカラオケでフィリピノ語の歌を一緒にうたってくれる仲間がいない時にホームシックを感じました。ブラジルで学ぶ日本人の友人は、家が何千マイルも離れていると思うとホームシックに襲われたそうです。ホームシックは外国暮らしをする人たちの集団的な経験なのです。
日本に6年暮らしてきた者としていうなら、ホームシックの感情は行ったり来たりします。こっそりやってきて、無防備のぼくをいきなり捕まえます。まるで、現れてはおさまる日本の小さな地震のようなものです。繰り返す地震のように、一緒に生きていくしかありません。
結局のところ、ホームシックは根拠のある感情です。親しい場所や懐かしい人に慰めを求めることはだれにだってあります。ホームシックにおぼれたとしても、それは弱さではありません。自分が持っているものに感謝し、持っていないものを受け入れる時となるでしょう。
それでも、スランプが肉体に及ぶ場合もあります。ある友人は論文提出を目前にしてホームシックに襲われました。飛行機で6時間飛べば会える家族の慰めを体が求めたのです。何日も論文が書けなくなりました。幸運にも、危険な状態になる前に彼は東工大の保健管理センター※で相談することができました。
最近、仲間と話していて、気付いたことがあります。日本は、わが家から離れたわが家なのです。
保健管理センター
エレナ・アルポヤニ(Elena Aloupogianni)さん
工学院 情報通信系 博士後期課程2年
ギリシャのアテネ国立工科大学を卒業後、東工大に入学。修士課程を経て、小尾高史研究室。2021年4月からスチューデント・アンバサダー。
初めて、新しい国の新しい街に引っ越すと、最初は興奮しますが、突然、寂しさに襲われます。私の場合、大学の守られたバブルの世界から外に出て、地元の人たちとつきあいたいと思いました。どうすればいいのか探して、MIFA(目黒区国際交流協会)※に出会ったのです。
最初に体験したMIFAのプログラムは「日帰りホームステイ」(ホームビジット)でした。ホームステイは日本人の家族と共に1日を過ごし、日本語会話を磨き、地元の暮らしに浸ります。国際バブルの中で生活し、言語の壁もあって日本人から切り離されていると感じる留学生にとってはとても大事です。日本語のレベルに応じて他の留学生とペアを組みます。まったく話せなくても、英語で話しかけてくれるホストがいます。こうして、私は日本のおじいちゃん、おばあちゃんと出会ったのです。同じ東工大のパキスタンからの留学生と一緒にすてきなご夫婦の自宅を訪ねました。食事を用意してもらい、日本の田舎のことからセイコーの時計までいろんなことを話し、一緒に相撲を見ました。それ以来、時々、お宅を訪ね、一緒に食事し、お2人の旅行の話を聞き、私の研究について説明します。本当に祖父母と話しているようです。世界の向こう側で得られる素晴らしい体験でしょ?
MIFAの料理教室に参加したこともあります。ある時、自分の国の料理を紹介することになりました。自由が丘のスーパーマーケットで、ギリシャの本物のフェタチーズを探し回りました。ギリシャサラダが出来上がり、生の野菜を食べる日本人参加者の驚いた表情を見てわたしは大笑いしました。新しい体験にびっくりしたり、戸惑う表情を目にするのは、ささやかなことですが、私の大好きな国際コミュニケーションです。
毎年2月にはパーシモンホールで開かれるMIFA国際交流フェスティバルにも出かけます。「世界の文字」ブースのボランティアとして、来場者の名前を私たちの自国の文字で書いてあげます。私もアラビア語からビルマ語まで15の言語で自分の名前を書いてもらいました。着物の着付けイベントにも参加しました。舞台に上がって来場した皆さんに着物姿を披露したこともあります。また、トンガから来た女の子に髪の毛を複雑に編んでもらいました。日本の美容室ではとてもまねできないファッションです。(ギリシャでもね)。
東京の真ん中で多様性をこんな風に祝うのは、とてもおすすめです。来年、フェスティバルに来るなら、「世界の文字」ブースでお会いしましょう。
ヨウシン・コディ・リュウ(Cody Liu 劉 揚新)さん
物質理工学院 材料系 修士課程2年
台湾の高校を卒業後、東工大に入学。宮内雅浩研究室。2020年7月からスチューデント・アンバサダー。
こんにちは、リュウです。兵庫県にある大型放射光施設、SPring-8を研究のため訪問したので、お伝えしましょう。SPring-8は世界最大の第3世代シンクロトロン放射光施設です。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(80億電子ボルト)に由来しています。※
国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の阿部 英樹先生から案内があり、私を含む宮内研究室の3人が48時間、利用できることになりました。出発前に、私たちは講習を受け放射線を扱う労働者として試験に合格する必要がありました。
新幹線で相生駅に行き、バスで施設に向かいました。大きなリングの形をした建物は歩いて1周するだけで30分以上かかります。
サンプルの準備をすると、次の24時間は、十分に眠るように言われました。ナイト・シフトに備えるためです。しかし、昼間に寝ようとしても眠れないものです。
体内時計と戦いながら、ワーキングステーションに真夜中に入りました。何台ものコンピューターとスクリーンに囲まれ、放射光施設でサンプルを測定し、記録し、次のサンプルを測定します。私たちは順番に休憩と軽食をとり、測定の様子を調べ、数字を記録し、48時間が過ぎるまで繰り返しました。いってみれば、超長距離を飛ぶ飛行機の中にいるようなものです。夜と昼の境目は完全にぼやけてきます。うとうとしているのと同時にわくわくします。
最後の日、終了したのは朝でした。疲れ果て、何をする気にもならず、新幹線に飛び乗ってまっ直ぐ東京に帰りました。
疲労困憊でしたが、この旅行はユニークで成果のある経験でした。集めたデータが今後の論文に役立つと期待しています。
6月2日、大岡山キャンパスのTaki Plazaで2期目のキックオフ・セレモニーを行い、水本哲弥理事・副学長(教育担当)が1人1人に委嘱状を渡しました。アンバサダー・ブログの熱心な読者でもある水本理事は、アンバサダーへの感謝と期待を語り、激励しました。15名のアンバサダーはスクリーンに映し出された自分のプロフィールの前で自己紹介と抱負を話しました。前年度からの継続で2年目に入る5名と、新たに10名の学生を迎えました。ブログ執筆以外にも東工大の魅力を伝える活動を、アンバサダー自身が企画・提案していきます。