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地震波速度と電気伝導度を統合解析し、地球内部の水やマグマをとらえる

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公開日:2021.09.29

要点

  • 地震・火山活動および地球全体の進化に重要な役割を担う「地球内部の液体(水やマグマ)」が、どこにどれだけ存在するかをとらえる解析方法を開発した。
  • 地球内部の地震波伝播速度と電気伝導度を統合解析し、岩石と液体の種類、量比、分布形状を、地殻-最上部マントルの広範囲で推定できるようになった。
  • 地震や火山活動の主な場である深さ60 km程度までの「岩質-液体の分布」が解析可能となり、今後、地震・火山活動を含む変動現象の機構の理解が進むと期待される。

概要

地球内部の液体(水やマグマ)は、流動しやすいために物質やエネルギーを速く輸送し、また周囲の固体物質と化学反応を起こして大きな物性変化をもたらす。このため、地震・火山活動および地球全体の進化に重要な役割を担うと考えられているにもかかわらず、どこにどれだけ存在するかをイメージングすることが難しい。特に、地震や火山活動の主な場である深さ60 km程度までの領域は、岩石の種類が多様であり、従来の主要なイメージング手法である地震波の伝わり方の解析のみからでは、岩石や液体の種類・有無を検証することが難しい。東京大学地震研究所の岩森光教授、東京工業大学 理学院 火山流体研究センターの小川康雄教授らは、地球内部の地震波伝播速度と電気伝導度を統合解析することにより、岩石と液体の種類、量比、分布形状を推定する手法を開発した。この手法を用いることにより、地殻とマントル最上部の構造イメージングが大きく進み、災害要因としての地震・火山活動のしくみの理解に資すると期待される。

背景

地球内部構造は、主に地震波の伝わり方、特に地震波速度に基づいて推定されてきた。地殻や最上部マントル(日本列島の下では、深さおよそ60 km程度まで)の領域とその構造は、地震発生場およびマグマ活動の場として重要である。しかし、この領域は、多様な岩石(様々な組成をもつ堆積岩、火成岩、変成岩)および液体(組成や物性の異なる水溶液、超臨界流体、マグマなど)からなり、地震波の伝わり方を解析するだけでは、それらの物質を区別することが難しい。一方、地球内部の電気伝導度は、イオンを多く含む水溶液やマグマなどの液体の存在と連結度に敏感であるが、岩石の種類や性質を区別することは難しい。このため、地震波速度と電気伝導度を個別に解析・解釈するだけでは、地震の発生にどのように流体がかかわっているのか、またどこにどれだけのマグマが潜在しているのかなど、変動現象の理解と予測の基礎となる物質構造のイメージングに大きな不確実性がある。

研究内容

地球内部の物質構造イメージングを改善するため、本研究では、地震波速度と電気伝導度を統合解析する手法を開発した(図1)。具体的なステップとして、まず岩石の種類(マントルから地表にいたる多様な種類をカバー)と液体の種類(最大10重量%までのNaClを含む水溶液、および玄武岩質から花崗岩質までの多様な組成をもつケイ酸塩メルトを想定)、固体-液体の量比、液体の分布幾何形状にかかわるパラメター(アスペクト比と連結度に対応する)を与える。これらの入力パラメターセットに対して、地震波の伝播する速さ(縦波と横波の速さ:VpとVs)および電気伝導度(σ)(もしくはその逆数である電気比抵抗)を、本研究で開発した数値プログラムにより計算する(図1右上)。この数値プログラムは、先行研究による実験データや理論モデルを取り入れて構成されており、さまざまな組成をもつ岩石や液体の弾性、密度と電気伝導度に関する実験的および数値シミュレーション研究、およびそれらの岩石と液体がミクロ~メソスケールで混合した物質のマクロな物性に関する実験的および理論的研究の成果を含んでいる。

次のステップとして、計算されたVp、Vs、σを、実際の観測から得られる地震波速度および電気伝導度と比較する(図1上半分)。この比較を、広い入力パラメター空間で実施し、観測をもっとも良く説明するパラメターセットを探索する。この統合解析においては、地震波速度(主に岩石と液体の弾性、および液体の量と分布幾何形状(特にアスペクト比)により決まる)と電気伝導度(主に液体の電気伝導度、量と分布幾何形状(特に連結度)により決まる)のそれぞれが敏感なパラメターに加えて、両者が関与するパラメターが整合的に説明されなくてはならない。このため、系の自由度が下がり、より確からしい推定が可能となる(図1下半分)。また、地表での熱流量観測値に基づく地下温度構造、および地表に流出したマグマや深部流体の化学組成を観測量として加えることで、推定の確からしさを高めることができる。本研究では、日本列島のおける実際の観測データを参照しつつ、人工データセットを作成し、Vp、Vs、σ、温度構造、流体の組成を観測量としたときに、岩石と液体の種類、量比、分布形状が復元できること、およびその確からしさを数値実験によって確かめた。これらの結果から、地震や火山活動の主な場である深さ60 km程度までの「岩質-液体の分布構造」が、今回の解析方法により、イメージングできることが分かった。

社会的意義

日本列島に代表される沈み込み帯は、大陸由来と海洋由来の多様な岩石が複雑に入り混じって構成されており、また沈み込むプレートがもたらす流体や、その流体が岩石の融点を低下させて生じたマグマが上昇してくる場である。今回の解析手法を適用することにより、そのような場の構造がイメージングされ、災害要因としての地震・火山活動を含む変動現象の理解と予測が進むと期待される。

図1 地震波速度と電気伝導度の統合解析による地球内部の物質構造イメージングの方法概要

図1. 地震波速度と電気伝導度の統合解析による地球内部の物質構造イメージングの方法概要

発表者

  • 岩森光(東京大学 地震研究所・教授)
  • 上木賢太(海洋研究開発機構 海域地震火山部門・副主任研究員)
  • 中村美千彦(東北大学 大学院理学研究科地学専攻・教授)
  • 渡邊了(富山大学 学術研究部都市デザイン学系・教授)
  • 小川康雄(東京工業大学 理学院 火山流体研究センター・教授)

論文情報

掲載誌 :
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
論文タイトル :
Simultaneous Analysis of Seismic Velocity and Electrical Conductivity in the Crust and the Uppermost Mantle: A forward Model and Inversion Test Based on Grid Search
著者 :
Hikaru Iwamori*, Kenta Ueki, Takashi Hoshide, Hiroshi Sakuma, Masahiro Ichiki, Tohru Watanabe, Michihiko Nakamura, Hitomi Nakamura, Tatsuji Nishizawa, Atsushi Nakao, Yasuo Ogawa, Tatsu Kuwatani, Kenji Nagata, Tomomi Okada, Eiichi Takahashi
DOI :

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