東工大ニュース
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東京工業大学は高校生向け講習会「データサイエンス素粒子原子核(Data Science for Particle and Nuclear Physics 2021、DSPN2021)」を2021年10月から12月にかけて合計6回、オンラインにて開催しました。本講習会は、2020年に引き続き、東工大基金「理科教育振興支援(ものつくり人材の裾野拡大支援プロジェクト)」による支援のもと、理学院 物理学系の内田誠助教が中心となり、物理学系で素粒子・原子核物理を専門とする教員と学生が講義、実習を行いました。全国から16名の高校生が参加し、プログラミング・データサイエンスの基礎を学びました。
各回とも、受講生は講義・実習を通して、最先端の素粒子・原子核研究を学ぶとともに、オープンデータや擬似データを用いた物理解析を行うことで、プログラミング・データサイエンスの基礎を学びました。2000年以降のノーベル物理学賞の対象となったテーマ(ヒッグス粒子の発見、ニュートリノ振動など)を実習題材として取り入れ、歴史的な発見に至った、物理解析の一端を体験しました。
大型の粒子加速器を用いた素粒子・原子核実験では、加速された粒子をターゲットに照射、または加速された粒子同士を衝突させ、通常の自然界では存在しない粒子を生成して、その性質を研究します。加速器技術の向上に伴い、加速粒子のビーム強度は増強され、膨大な散乱・衝突事象を発生させることができるようになりました。測定・解析においては、データサイエンス(パターン認識・機械学習など)の技術を駆使して、莫大なデータの中から高効率かつ高速に事象選別を行い、注目する物理現象の統計を蓄積していきます。
実習は、ウェブブラウザベースのPython(パイソン)開発環境であるjupyter(ジュパイター、ジュピター)にて行いました。一般的なデータサイエンスのパッケージに加えて、素粒子実験分野で開発された解析ツールを利用するため、Google(グーグル)クラウド上に独自のjupyterサーバーを構築することで物理解析を可能としました。受講生は、それぞれのPC環境に依存することなく実習を進めることができました。
大阪大学 核物理研究センターの小林信之助教が、原子核物理入門及び理化学研究所RIBF(アールアイビームファクトリー)での不安定核の中性子ハロー構造に関する研究について解説しました。実験後の物理解析、論文掲載までのロードマップなどの貴重な話や、東工大中村研究室のOBとして東工大での研究生活についても語りました。
実習パートでは、プログラミング言語Pythonの基礎、numpy(ナムパイ、ナンパイ)、pandas(パンダス)、matplotlib(マットプロットリブ)などのPython基本パッケージの講習が行われました。
東工大 理学院 物理学系の中村隆司教授が、物質の階層性(素粒子・原子核・原子・分子)の説明から原子核発見の歴史的経緯、また現在理解されている原子核像などの解説、原子核研究と宇宙創成の歴史とのつながり(元素合成)までを講義しました。また、実習パートにおいて、荷電粒子の運動量測定の原理、飛跡検出、運動量推定のアルゴリズムについて学びました。
東工大 理学院 物理学系の久世正弘教授が、ニュートリノに関わる物理についての講義を行いました。パウリのニュートリノ仮説によるベータ崩壊の理解、ニュートリノ振動の発見と歴史的な経緯を解説するとともに、ニュートリノ研究における日本人研究者の先駆的成果について紹介しました。講義の後、久世研究室の大学院生ルカス・ベルンス(Lukas Berns)さん(理学院 物理学系 博士後期課程3年)と泉山将大さん(理学院 物理学系 博士後期課程1年)より「T2K(ティーツーケー)※1、Super-Kamiokande(スーパーカミオカンデ、SK)※2、Hyper-Kamiokande(ハイパーカミオカンデ)※3」実験についてを紹介するとともに、SKでの大気ニュートリノ振動発見の物理解析を再現する実習が行われました。
千葉大学 グローバルプロミネント研究基幹/理学研究院の永井遼特任助教が、宇宙ニュートリノに関わる物理について講演しました。南極氷河を用いた超巨大な体積を持つニュートリノ検出器IceCubeを使用するユニークな実験アイデア、検出器建設・オペレーションを紹介しつつ、宇宙からやってくる高エネルギー・ニュートリノに対して、なぜIceCubeに優れた感度があるのかを説明しました。千葉大学グループでのIceCubeアップグレード計画にむけた新型検出器開発の現状から、東工大時代、理学院物理学系陣内修研究室での大学生活についてもOBとしてのエピソードなども交えて話をしました。
東工大 理学院 物理学系の陣内修教授がヒッグスの物理、コライダーの物理を中心に講演しました。2012年に発見された標準粒子最後の素粒子—ヒッグス粒子—、その発見と背後にあるヒッグス場が、どんな性質を持ち、すべての素粒子にどのように質量を与えているのかを、受講生との対話を交えながら解説しました。
実習パートではATLASオープンデータを用いたH→ZZ*→4lイベントの事象再構成に挑戦しました。4つの荷電レプトンの4元運動量を組み合わせることでヒッグス粒子の質量を再構成できることを参加者は学びました。
東工大 理学院 物理学系の藤岡宏之准教授がハドロン物理研究、ハイパー核物理学について講演しました。陽子、中性子、π中間子に代表されるクォーク(および反クォーク)から構成されるハドロンがクォーク多体型として存在する理論的背景から、核力を一般化したバリオン間力の理解へむけたJ-PARCでの最先端の実験などを解説しました。
実習ではドイツ重イオン研究所GSI(ジーエスアイ)で行われたη′原子核探索実験の較正データを用いたダイポール磁石スペクトロメータによる運動量分析、およびmissing mass(ミッシングマス)法による質量測定解析に挑戦しました。
最終セッションでは、受講生による成果発表会が開催されました。実習内容で興味を持ったテーマについてパラメータを調整して結果の変化を調べ、高校で学んでいる物理テーマに関して本講習で学んだ解析手法を用いて数値計算、グラフ化を行うなど多彩な発表がなされました。
参加者にとって、大学で学ぶ楽しさ、さらに科学・技術・データサイエンスを学ぶきっかけを得た講習会となりました。