東工大ニュース
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公開日:2022.04.28
国立大学法人東京工業大学 科学技術創成研究院の渡邊真太研究員、同 ゼロカーボンエネルギー研究所の竹下健二教授(研究当時)、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の尾上順教授らの共同研究で、絵の具の材料として古くから知られているプルシアンブルー(PB:紺青)ナノ粒子が、希少金属と知られているルテニウム・ロジウム・パラジウムイオンと、PB骨格を構成する鉄イオンとを置換することにより、高い収着性能を有することを見出しました。
ルテニウム・ロジウム・パラジウムの白金族元素(PGMs)は、高レベル放射性廃液中に多く含まれ、ガラス固化プロセスにおいてガラス溶融炉側壁に沈積することで、様々な問題(安定運転への弊害、ガラス固化体の品質低下・発生量の増大)を引き起こす厄介者として知られています。本研究では、古くから知られているプルシアンブルー(PB)のジャングルジム型ナノ空間に着目し、PBナノ粒子を用いて、PGMsの収着実験を行ったところ、既往の収着材(活性炭やゼオライトなどの粘土層)に比べて高い収着性能を有することを見出し、その要因が、PB骨格の鉄イオンとの置換であることを解明しました。これまでPBのナノ空間に電荷中性の役割で存在する1価のカリウムイオンとイオン交換により、1価のセシウムイオンが挿入されることは知られていましたが、多価イオンであるPGMsが、PB内に取り込まれる機構は明らかにされていませんでした。
この成果は、高レベル放射性廃棄物のガラス固化プロセスの問題を解決するだけでなく、希少金属リサイクルに採用されている多段階かつ複雑な現行プロセスの改善に期待されます。
本研究成果は、2022年3月24日付国際科学雑誌「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。
本研究は、文部科学省原子力共同研究プログラム及び中部電力一般公募の支援のもとで行われたものです。
放射性廃棄物(N-wastes)と電子廃棄物(E-wastes)の両方から貴金属を回収することは、持続可能な発展社会を維持するために、またエネルギーと環境問題を解決する上で重要な役割の1つです。N-wastesの場合、発電所で発生した使用済核燃料は再処理工場でガラス化されます。使用済み燃料からウラン(U)とプルトニウム(Pu)をPUREX(プルトニウムウランレドックス抽出)法で分離し、新しい燃料として再利用した後、高レベル放射性液体廃棄物(HLLW)をガラス固化します。ガラス化プロセスでは、白金族金属(PGMs:特にルテニウム:Ru、ロジウム:Rh、パラジウム:Pd)が深刻な問題(安定運転への弊害、ガラス固化体の品質低下・発生量の増大)を引き起こします。軽水炉用の使用済み核燃料(燃焼度:30,000 MWd / t、冷却期間:150日)1トンでそれぞれ2.09、0.36、1.20 kgのRu、Rh、Pdが発生することを考えると(高速増殖炉の場合、発生量は1.5〜2倍に増加します)、N-wastes の処分だけでなく、代替の観点からの貴金属のリサイクルにも、HLLWからPGMsを回収することが有用です。
また、E-wastesの場合、貴金属(Ru、Rh、Pd、レニウム:Re、オスミウム:Os、イリジウム:Ir、プラチナ:Pt、金:Au)の存在量は、造岩元素(ナトリウム:Na、マグネシウム:Mg、アルミニウム:Al、シリコン:Si、カリウム:K、カルシウム:Ca、鉄:Fe)と比較して10–6–10–9倍と極めて少なく、希少元素は均一に点在していません。しかしながら、これらの多くは、これまでE-wastesに多く存在しています。例えば、1トンの携帯電話に含まれるAuの量は300〜400 gであり、1トンの天然鉱石の10〜80倍です。他の元素はAuと同様の状況にあります。その結果、E-wastesからのこれらの希少元素の回収は、天然鉱石からの回収と比較した場合、はるかに効果的かつ効率的です。
本研究では、金属ヘキサシアノ鉄酸塩(MHCF)の1つであるプルシアンブルー(PB)のナノスペースを吸着剤として利用することにより、環境とエネルギーの問題を解決することを目指しました。二価(M2+)と三価(M3+)の金属カチオンが、シアノ基アニオン(CN–)を介して相互に架橋され、多くの魅力的な特徴を示します。最近、PB(FeHCF)を用いて、2011年の福島原子力発電所事故によって汚染された土壌から、放射性セシウム134(134Cs)および137Cs元素が除去されました。その理由は、PBが、Csイオンを効率的にトラップする役割を持つ、0.5 nmの格子間サイトを備えたジャングルジム立方構造を持っているからです。しかしながら、多価金属イオンのPBの取り込みメカニズムは、これまでのところ不明ですが、3つの可能な収着プロセスが考えられます:(i)表面吸着、(ii)同様の格子間サイト(ナノスペース)への挿入、および(iii)PBの骨格を構成するFeイオンとの置換。N-wastes および E-wastes から、貴金属を回収するための高性能MHCF吸着剤を開発するには、これら金属イオンのPBの取り込み特性を解明する必要があります。
論文情報
掲載誌 : |
Scientific Reports |
論文タイトル : |
The uptake characteristics of Prussian-blue nanoparticles for rare metal ions for recycling of precious metals from nuclear and electronic wastes |
著者 : |
Shinta Watanabe, Yusuke Inaba, Miki Harigai, Kenji Takeshita, and Jun Onoe |
DOI : |
お問い合わせ先
東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科
教授 尾上順
E-mail : j-onoe@energy.nagoya-u.ac.jp
Tel / Fax : 052-789-3784
東京工業大学 科学技術創成研究院 福島復興・再生研究ユニット
研究員 渡邊真太
E-mail : watanabe.s.bw@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3846
東京工業大学 名誉教授/同 科学技術創成研究院 福島復興・再生研究ユニット 特任教授
竹下健二
E-mail : takeshita.k.ab@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 03-5734-3845
取材申し込み先
名古屋大学 広報室
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東京工業大学 総務部 広報課
E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661