東工大ニュース
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公開日:2022.10.21
東京工業大学理学院地球惑星科学系の横山哲也教授、北海道大学大学院理学研究院の圦本尚義教授、東京大学大学院理学系研究科の橘省吾教授らの研究グループは、Cb型小惑星「リュウグウ」とイヴナ型炭素質隕石の類似性を明らかにし、「リュウグウ」とイヴナ型炭素質隕石は天王星・海王星領域で生まれた可能性が非常に高いことを明らかにしました。
これまでの研究から、Cb型小惑星「リュウグウ」はイヴナ型炭素質隕石と同様の物質からできていることが判明しています。イヴナ型炭素質隕石は、隕石の中で最も揮発性元素に富んでいる種類であり、太陽の元素存在度比に最も近い組成を持つ隕石です。ただ、太陽系誕生当時も冷たい環境であったと考えられている小惑星帯の外側領域は、全て揮発性元素に富むリュウグウやイヴナ型炭素質隕石の誕生地の候補になると考えられており、化学的に類似していると言っても、リュウグウがどこで生まれたのかという疑問に対する決定打とはなりませんでした。
研究チームは、鉄の同位体組成を測定し、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の分析値に違いがないことを明らかにしました。リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の鉄の同位体組成は他の炭素質隕石と明らかに異なっており、鉄とチタンの同位体比をプロットすると、新しい隙間が現れました。これは、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石が他の隕石とは全く異なる場所で生まれたことを示唆しています。
揮発性元素に富んでいる惑星は木星以遠で生まれます。リュウグウとイヴナ型炭素質隕石のようなCb型小惑星は、太陽系の外れにある天王星や海王星領域で生まれ、天王星・海王星の重力共鳴作用により小惑星帯に移動し、その後、壊された破片が地球にやってきたものがイヴナ型炭素質隕石であると考えられます。
なお、本研究成果は、日本時間2022年10月21日(金)午前3時に、Science Advances誌にオンライン掲載されました。
小惑星帯の小惑星は、金属鉄でできている天体から彗星のように尾をひく炭素質な天体まで、化学的に大きな多様性を持っています。しかし、多様な天体のそれぞれがどこで生まれたのか、未だによくわかっていません。隕石は、太陽系誕生後数百万年の間に生まれた微惑星や原始惑星の破片です。隕石は小惑星帯の小惑星に由来することが分かっていますが、どの隕石がどの小惑星と対応しているか、その知見は十分ではありません。この知見が蓄積されれば、隕石はもちろん、小惑星やその他の小天体が生まれた場所が明らかになります。
これまでの研究から、Cb型小惑星「リュウグウ」はイヴナ型炭素質隕石と同様の物質からできていることが判明しています。イヴナ型炭素質隕石は、隕石の中で最も揮発性元素に富んでいる種類であり、太陽の元素存在度比に最も近い組成を持つ隕石です。しかし、このような化学組成の類似性は、リュウグウがどこで生まれたのかという疑問に対する決定打とはなりません。なぜなら、太陽系誕生当時も冷たい環境であったと考えられている小惑星帯の外側領域は、全て揮発性元素に富むリュウグウやイヴナ型炭素質隕石の誕生地の候補になるからです。
揮発性が小さい元素(例えばチタンやクロム)の同位体組成は、天体ごとに僅かな違いがあり、二つのグループ(CC:炭素質隕石、NC:非炭素質隕石)に分かれることが知られています(図1)。CCとNCの間には隙間がありますが、これは両グループが生まれた領域を木星が空間的に分断したためと考えられています。この説に従うと、リュウグウや炭素質隕石は木星の外側で生まれ、一方、地球や非炭素質隕石は炭素質隕石と同位体組成が異なる木星の内側で生まれたことになります。
そこで研究グループは、鉄の同位体組成を精密測定し、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の誕生した場所を探ることとしました。
はやぶさ2が採取したリュウグウ試料を水溶液化し、シカゴ大学のマルチ検出機付きICP質量分析装置により鉄の同位体の組成を精密測定しました。
リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の分析値には違いが見られませんでした。これは、リュウグウはイヴナ型炭素質隕石に似ているという先行研究を支持する結果です。面白いことに、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の鉄の同位体組成は他の炭素質隕石と明らかに異なっており、鉄とチタンの同位体比をプロットすると、新しい隙間が現れました(図2)。つまりこれは、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石は他の隕石とは全く異なる場所で生まれたことを示唆しています。
微惑星を生む原始惑星系円盤は、太陽から遠いほど冷たくなります。木星を境にして、揮発性元素に乏しい微惑星は、木星より内側の領域で生まれます。一方、揮発性元素に富む微惑星は木星以遠で生まれます(図3)。木星のような巨大惑星が誕生し、動き回ると、大きな重力による共鳴現象(重力共鳴現象)により、周りにある微惑星を跳ね飛ばしてしまいます。大部分の微惑星は外側に飛ばされますが(図3の大きい矢印)、一部は内側に飛ばされ(図3の小さい矢印)、小惑星帯に運ばれることがあります。
リュウグウとイヴナ型炭素質隕石は、隕石の中で最も揮発性元素に富んでいます。上記の重力共鳴現象による微惑星の移動が起こったとすると、リュウグウやイヴナ型炭素質隕石は、天王星・海王星領域で生まれたと考えるのが自然です。すなわち、天王星・海王星領域で生まれた微惑星の中には、天王星・海王星の重力共鳴により励起され、小惑星帯へと運ばれたものがあると考えられます。リュウグウのようなCb型小惑星は、その微惑星が破壊された破片の一つであり、Cb型小惑星が壊された破片が地球にやってきたものがイヴナ型炭素質隕石であると考えられます。
本研究成果により、リュウグウとイヴナ型炭素質隕石の親戚関係がますます強くなりました。引き続き、他の元素の同位体組成が明らかとなること、また、リュウグウの正体が明らかとなることが期待されます。
謝辞
リュウグウ試料を無事持ち帰り、キュレーションしていただいたJAXAを中心とするはやぶさ2のプロジェクトメンバー、メーカー担当者、キュレーションメンバーに感謝します。
論文情報
掲載誌 : |
Science Advances |
論文タイトル : |
Ryugu's nucleosynthetic heritage from the outskirts of the Solar System(リュウグウは太陽系の果てからやってきた) |
著者 : |
Timo Hopp1*†, Nicolas Dauphas1, Yoshinari Abe2, JérÔme Aléon3, Conel M. O'D. Alexander4, Sachiko Amari5,6, Yuri Amelin7, Ken-ichi Bajo8, Martin Bizzarro9, Audrey Bouvier10, Richard W. Carlson4, Marc Chaussidon11, Byeon-Gak Choi12, Andrew M. Davis1,Tommaso Di Rocco13, Wataru Fujiya14, Ryota Fukai15, Ikshu Gautam16, Makiko K. Haba16, Yuki Hibiya17, Hiroshi Hidaka18, Hisashi Homma19, Peter Hoppe20, Gary R. Huss21, Kiyohiro Ichida22, Tsuyoshi Iizuka23, Trevor R. Ireland24, Akira Ishikawa16, Motoo Ito25, Shoichi Itoh26, Noriyuki Kawasaki8, Noriko T. Kita27, Kouki Kitajima27, Thorsten Kleine28, Shintaro Komatani22, Alexander N. Krot21, Ming-Chang Liu29,30, Yuki Masuda16, Kevin D. McKeegan29, Mayu Morita22, Kazuko Motomura31, Frédéric Moynier11, Izumi Nakai31, Kazuhide Nagashima21, David Nesvorný32, Ann Nguyen33, Larry Nittler4,34, Morihiko Onose22, Andreas Pack13, Changkun Park35, Laurette Piani36, Liping Qin37, Sara S. Russell38, Naoya Sakamoto39, Maria Schönbächler40, Lauren Tafla29, Haolan Tang29, Kentaro Terada41, Yasuko Terada42, Tomohiro Usui15, Sohei Wada8, Meenakshi Wadhwa34, Richard J. Walker43, Katsuyuki Yamashita44, Qing-Zhu Yin45, Tetsuya Yokoyama16, Shigekazu Yoneda46, Edward D. Young29, Hiroharu Yui47, Ai-Cheng Zhang48, Tomoki Nakamura49, Hiroshi Naraoka50, Takaaki Noguchi25, Ryuji Okazaki50, Kanako Sakamoto15, Hikaru Yabuta51, Masanao Abe15, Akiko Miyazaki15, Aiko Nakato15, Masahiro Nishimura15, Tatsuaki Okada15, Toru Yada15, Kasumi Yogata15, Satoru Nakazawa15, Takanao Saiki15, Satoshi Tanaka15, Fuyuto Terui52, Yuichi Tsuda15, Sei-ichiro Watanabe18, Makoto Yoshikawa15, Shogo Tachibana53, Hisayoshi Yurimoto8(1.Origins Laboratory, Department of the Geophysical Sciences and Enrico Fermi Institute, The University of Chicago, 2.Graduate School of Engineering Materials Science and Engineering, Tokyo Denki University, 3.Institut de Minéralogie, de Physique des Matériaux et de Cosmochimie, Sorbonne Université, Museum National d'Histoire Naturelle, CNRS UMR 7590, IRD, 4.Earth and Planets Laboratory, Carnegie Institution for Science, 5.McDonnell Center for the Space Sciences and Physics Department, Washington University, 6.Geochemical Research Center, The University of Tokyo, 7.Guangzhou Institute of Geochemistry, Chinese Academy of Sciences, 8.Natural History Sciences, IIL, Hokkaido University, 9.Centre for Star and Planet Formation, GLOBE Institute, University of Copenhagen, 10.Bayerisches Geoinstitut, Universität Bayreuth, 11.Université Paris Cité, Institut de physique du globe de Paris, CNRS, 12.Department of Department of Earth Science Education, Seoul National University, 13.Faculty of Geosciences and Geography, University of Göttingen, 14.Faculty of Science, Ibaraki University, 16.Department of Earth and Planetary Sciences, Tokyo Institute of Technology, 17.General Systems Studies, The University of Tokyo, 18.Earth and Planetary Sciences, Nagoya University, 19.Osaka Application Laboratory, SBUWDX, Rigaku Corporation, 20.Max Planck Institute for Chemistry, 21.Hawai‘i Institute of Geophysics and Planetology, University of Hawai‘i at Mānoa, 22.Analytical Technology, Horiba Techno Service Co., Ltd., 23.Earth and Planetary Science, The University of Tokyo, 24.School of Earth and Environmental Sciences, The University of Queensland, 25.Kochi Institute for Core Sample Research, JAMSTEC, 26.Earth and Planetary Sciences, Kyoto University, 27.Geoscience, University of Wisconsin- Madison, 28.Max Planck Institute for Solar System Research, 29.Earth, Planetary, and Space Sciences, UCLA, 30.Lawrence Livermore National Laboratory, 31.Thermal Analysis, Rigaku Corporation, 32.Department of Space Studies, Southwest Research Institute, 33.Astromaterials Research and Exploration Science, NASA Johnson Space Center, 34.School of Earth and Space Exploration, Arizona State University, 35.Earth-System Sciences, Korea Polar Research Institute, 36.Centre de Recherches Pétrographiques et Géochimiques, CNRS - Université de Lorraine, 37.University of Science and Technology of China, School of Earth and Space Sciences, 38.Department of Earth Sciences, Natural History Museum, 39.IIL, Hokkaido University, 40.Institute for Geochemistry and Petrology, Department of Earth Sciences, ETH Zurich, 41.Earth and Space Science, Osaka University, 42.Spectroscopy and Imaging, Japan Synchrotron Radiation Research Institute, 43.Geology, University of Maryland, 44.Graduate School of Natural Science and Technology, Okayama University, 45.Earth and Planetary Sciences, University of California, 46.Science and Engineering, National Museum of Nature and Science, 47.Chemistry, Tokyo University of Science, 48.School of Earth Sciences and Engineering, Nanjing University, 49.Department of Earth Science, Tohoku University, 50.Department of Earth and Planetary Sciences, Kyushu University, 51.Earth and Planetary Systems Science Program, Hiroshima University, 52.Kanagawa Institute of Technology, 53.UTokyo Organization for Planetary and Space Science, University of Tokyo) |
DOI : |
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