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東工大関係者5名が令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞

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公開日:2023.06.14

東京工業大学の教員5名が、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めたとして、令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞しました。科学技術賞(研究部門)が4名、若手科学者賞が1名です。文部科学省が4月7日、発表しました。
表彰式は4月19日に文部科学省(東京都千代田区)で行われ、工学院 電気電子系の波多野睦子教授が科学技術賞(研究部門)の代表者として永岡桂子文部科学大臣より表彰状を授与されました。

科学技術賞(研究部門)は、我が国の科学技術の発展等に寄与する可能性の高い独創的な研究または開発を行った者が対象です。令和5年度は50件(62名)が受賞しました。
若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満(出産・育児により研究に専念できない期間があった場合は42歳未満)の若手研究者を対象としています。令和5年度は101名が受賞しました。

今回受賞した東工大の5名は以下のとおりです。

科学技術賞(研究部門)

若手科学者賞

荒井慧悟 工学院 電気電子系 准教授

文部科学省講堂で行われた表彰式で賞状を受け取る波多野教授

文部科学省講堂で行われた表彰式で賞状を受け取る波多野教授

科学技術賞(研究部門)

東正樹 科学技術創成研究院 教授

受賞業績:新しい機能性遷移金属酸化物材料の創出と発現機構解明の研究

東正樹 科学技術創成研究院 教授 東正樹 科学技術創成研究院 教授

ビスマス・鉛は典型元素でありながら、6s2 (Bi3+、Pb2+)、6s0 (Bi5+、Pb4+)の電荷の自由度を持ちます。また、BiFeO3・PbTiO3中のBi3+・Pb2+は、6s2孤立電子対の立体障害の働きで大きな電気分極を付与しています。こうした特徴を持つビスマス・鉛と、3d遷移金属を組み合わせたペロブスカイト酸化物には様々な興味深い特性が期待されます。私は高圧合成の手法を用いて他のBi、Pb-3d遷移金属ペロブスカイト酸化物を合成し、その構造や物性を明らかにしてきました。こうした地道な研究が、既存材料の約5倍もの線熱膨張率を持つ負熱膨張材料BiNi0.85Fe0.15O3の発見につながり、本学の研究・産学連携本部の多大なるバックアップを頂いて、日本材料技研株式会社から試薬としての販売にこぎ着けることができました。また、BiFe0.9Co0.1O3では、電気分極に直交する方向に自発磁化が生じており、電場印加によって磁化を反転出来る事を見つけることもできました。この現象を用いた電圧書き込み磁気読み出しの超低消費電力磁気メモリデバイスの研究を、住友化学株式会社と共同で設置した「住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点」でスタートしたところです。こうした研究が評価されてこの度の受賞に繋がったことは、これまでご指導いただいた先生方や国内外の共同研究者、一緒に研究してくれた学生や研究室スタッフ、東工大関連部門と神奈川県立産業技術総合研究所の皆様のご尽力の賜であり、深く感謝いたします。

BiNi<sub>0.85</sub>Fe<sub>0.15</sub>O<sub>3</sub>の負熱膨張。金属間電荷移動でNi-O結合が収縮するため、体積が減少する。

BiNi0.85Fe0.15O3の負熱膨張。金属間電荷移動でNi-O結合が収縮するため、体積が減少する。

BiFe<sub>0.9</sub>Co<sub>0.1</sub>O<sub>3</sub>の自発磁化と薄膜の強誘電・強磁性ドメイン構造。紙面奥向きから手前への分極反転の前後で、磁気ドメインのコントラストが反転している。

BiFe0.9Co0.1O3の自発磁化と薄膜の強誘電・強磁性ドメイン構造。紙面奥向きから手前への分極反転の前後で、磁気ドメインのコントラストが反転している。

大竹尚登 科学技術創成研究院 教授

受賞業績:機能性炭素薄膜の創成とその機械分野への応用研究

大竹教授
大竹教授

Diamond-Like Carbon(DLC)膜は、ダイヤモンドの構造とグラファイトの構造の両者が混ざり合ったアモルファスの機能性炭素薄膜で、低い摩擦係数と高い耐摩耗性を有することから、平成の時代に大きく実用化の進展した材料の1つに挙げられます。DLCの研究に携わった2000年頃は、まさにその自動車への応用が立ち上がったところでしたので、DLC表面をデザインし、また独自の成膜法を開発することにスタッフ、学生とともにワクワクしながら取り組んでいました。多くの失敗実験の後に大気圧でのDLC成膜を確認したときは学生と大いに喜び合ったものです。そしてDLCの表面デザイン法はいくつかの大学・企業で使っていただき、東工大発ベンチャー企業の1つである株式会社iMottでは現在も成膜を続けています。思えば、良き師を得たこと、名古屋大学で材料教室に在籍できたこと、共に研究したスタッフと学生が素晴らしい眼をもっていたこと、多分野の才能豊かな友人を得たこと、秘書さん、事務局、産学連携の方々の応援を得たこと、共同研究先、大田区の中小企業の方から暖かくも厳しいご意見をいただけたことが今回の受賞に繋がったに違いありません。皆様に心から感謝いたします。その総決算が国際標準化であり、2021年に国内外の多くの専門家とともにDLCを学術的に分類することができました。マネジメントの仕事が多い中ですが、まだまだ素性のわからないDLCの世界をこれからも学生と共に楽しんでいきたいと思います。なお、この5月から本学博物館で「ニューダイヤモンド」のミニ展示が開催されています。DLCだけでなく波多野睦子先生のダイヤモンドセンサなども展示されますので、是非足をお運びください。

機能性炭素薄膜の創成とその機械分野への応用研究

機能性炭素薄膜の創成とその機械分野への応用研究

波多野睦子 工学院 電気電子系 教授

岩﨑孝之 工学院 電気電子系 准教授

受賞業績:固体量子センサの高性能化と革新的センサシステムの研究

波多野教授
波多野教授

岩﨑准教授
岩﨑准教授

ホール素子などの古典センサには感度および空間分解能に限界があり、超伝導量子干渉素子に代表されるこれまでの量子センサには、動作温度・ダイナミックレンジ・マルチモダル性などの課題がありました。これらの課題を解決できる高性能センサシステムの構築が求められていました。本研究では、ダイヤモンド中のスピン量子ビットである窒素-空孔センタを用いた室温動作固体量子センサにおいて、センサ材料の高度制御形成手法および広ダイナミックレンジ・マルチモダルな量子計測技術を構築しました。本研究により、電気自動車の実走行距離延伸につながる電流と温度の高精度同時モニタリング、高機能診断に貢献する生体磁場や細胞などの高空間分解能な磁場イメージング、さらに故障予測につながるパワーデバイス内部の電場計測などを実現しました。本成果が、量子技術の発展、物性および生命現象の解明などの基礎研究の重層化につながるとともに、カーボンニュートラル、安心・安全社会を実現するためのグローバルな社会課題の解決に寄与できるよう、更に尽力して参りたいと存じます。
今回受賞対象となりました研究は、2011年度から研究室を立ち上げ、学生の皆さん、産官学の共同研究者、支援者など多くの方々のご協力の基に得られた成果であり、関係者各位に心より御礼申し上げます。

ダイヤモンド中のNVセンタの結晶構造

ダイヤモンド中のNVセンタの結晶構造

小型量子センサヘッド

小型量子センサヘッド

荒井慧悟 工学院 電気電子系 准教授

受賞業績:ダイヤモンド量子センサの高性能化と次世代応用の研究

荒井准教授
荒井准教授

物理量を計測して定量化をするセンサは、私たちの社会を支える基盤技術です。数多あるセンサのなかでも、ダイヤモンドを用いた量子センサは、核スピン検出や細胞イメージングなどのミクロスケールから、電池の電流計測や哺乳類の生体磁場計測などのマクロスケールに至るまで、さまざまな応用が期待されています。ところが、これらの応用の実現には、感度、空間分解能、視野、ダイナミックレンジの性能向上が避けて通れません。本研究では、磁気共鳴の原理や幾何学的位相、圧縮センシングといった他分野のソフト・ハード技術を当該分野へ複合的に適用し、上記の4性能を大幅に改善しました。その結果、細胞や心磁を扱う生物学に強力なイメージング・ツールを提供し、さらには量子計測と幾何学、情報科学との融合領域を開拓するに至りました。以上の一連の成果は、国内外の多くの共同研究者、協力者の皆さまのご支援・ご尽力の賜物です。この場をお借りして、衷心より拝謝申し上げます。今後は、生体磁場を介した医療用イメージングや社会インフラ・産業機器の高度モニタリングなど、幅広い分野において次世代センシング技術の創出につなげられるよう、研究に邁進する所存です。

ダイヤモンド量子センサの高性能化と次世代応用の研究の概要

ダイヤモンド量子センサの高性能化と次世代応用の研究の概要

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総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp

6月15日 9:45 関連リンクの追加および本文の微修正を行いました。
6月15日 17:00 関連リンクの追加を行いました。

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