研究

東工大ニュース

複数の金属からなる新たな電子化物を発見

2017.08.28

要点

  • 金属間化合物[用語1]で電子がアニオンとしてふるまう新しい電子化物[用語2]を発見
  • 結晶構造中の空隙が電子の局在サイトになることを解明
  • アンモニア合成触媒や超伝導を発現するなど様々な特性を持つ

概要

イオン結晶は、カチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)が結びつき、構成されている。マイナスの電荷をもつ電子は、究極のアニオンと言える。電子がアニオンの役割を担う物質は電子化物(エレクトライド)と呼ばれている。1983年に有機化合物で最初の電子化物が合成され、新概念の物質として注目を集め、教科書類にも記載されることになった。しかし、この物質は、化学的・熱的に不安定なために物性については不明な点が多かった。

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授・元素戦略研究センター長を中心にしたグループは2003年、12CaO・7Al2O3(C12A7セメントの構成成分)を使って、室温・空気中で安定なエレクトライドの合成に初めて成功。アニオンを電子に置き換えたことに起因する低仕事関数だが化学的に安定というユニークな物性を報告してきた。2011年には電子化物ガラスを、2013年にはアニオン電子が層間に存在する2次元電子化物Ca2Nを報告するなど、電子化物の物質科学の新領域を開拓してきた。本研究では、電子化物のコンセプトをさらに拡張すべく、金属元素から構成される金属間化合物を対象に、結晶構造と電子分布の関係を検討して、電子化物とみなせる物質群の発見と、それらがアンモニア合成触媒や超伝導という物性の発現につながることを見出した。今回の成果は、7月31日発行の「Advanced Material」、8月14日発行の「Angew. Chem. Int. Ed」、8月15日発行の「npj Quantum Materials」に掲載された。

研究成果

これまで見出されてきた電子化物は母体が絶縁体である。ここ数年来、電子化物の理論的研究が世界的に盛んになっている。アルカリ金属などの典型金属の高圧相では、電子が格子間サイトを占有する電子化物であることが明らかになりつつある。

本研究では、母体が複数の金属から構成される金属化合物で電子化物の探索を行った。通常の金属は、電子が格子全体に平均的に分布しており、格子間に電子が高濃度に存在することは考えにくい。そこで今回、個性の大きく異なる複数の金属から構成される金属間化合物に着目して探索を行った。その結果、LaScSi(ランタンスカンジウムシリコン)、Mg2Si(珪化マグネシウム)、Nb5Ir3(ニオブイリジウム)などが、それに相当することを見出した。

例えば、LaScSiは、その式量あたり2つの電子(1.6x1022 cm-3)が、ランタン(La)が作り出す4面体の中心位置と、スカンジウム(Sc)とケイ素(Si)が作り出す8面体サイトを占有する。いずれのサイトも水素化物イオン(H-)で置き換えられるので、H-の代わりに電子がアニオンとして働く電子化物とみなすことができる。これらの電子が存在するバンドは、フェルミ準位[用語3]に大きく寄与する。なお、この物質にルテニウムのナノ粒子を担持すると、アンモニア合成触媒として優れた特性を示した。

LaScSiの結晶構造。VとV'サイトに電子が存在する。水素と反応させると電子の代わりにH-イオンが占有される
図1.

LaScSiの結晶構造。VとV'サイトに電子が存在する。

水素と反応させると電子の代わりにH-イオンが占有される。

Mg2Siのバンド構造。太線は格子間サイトの電子による寄与を示す。右は伝導体の下端付近の電子密度分布。8つのMgに囲まれた空間に電子が存在する。
図2.

Mg2Siのバンド構造。太線は格子間サイトの電子による寄与を示す。

右は伝導体の下端付近の電子密度分布。8つのMgに囲まれた空間に電子が存在する。

Mg2Siは、逆蛍石[用語4]型の結晶構造で、N型伝導性を示す半導体であり、高い熱電特性を持つ物質として知られている。電子密度分布をみると、伝導帯の最下端は4つのMg2+イオンに囲まれた4面体の中心のサイトで大きなピークが存在する。すなわち、ケイ素(Si)の欠損などで生じた電子キャリアは、この格子間サイトを占有することが分かった。このような半導体物質はこれまで知られておらず、熱電特性の起源と関係していると考えられる。

今回、Mn5Si3型をもつ新金属間化合物Nb5Ir3を合成。これは、結晶構造中にNb原子から構成される1次元化チャネルがあり、その中にアニオン電子も存在する電子化物であることが分かった。この物質は、超伝導を示すTc(臨界温度)は9.4 K(ケルビン)だった。電子化物の超伝導体は、2007年にC12A7:eで見出されており、今回が2例目となる。

今後の展望

今回、金属間化合物の結晶構造内の空隙に電子が高濃度に存在し、そのエネルギーレベルが電子物性を支配するフェルミ準位付近に存在しうることを明らかにした。金属格子内の空隙は、原子の移動には主要な役割を果たすことはよく知られているが、電気伝導を担う電子が高密度に分布することは、これまで知られていなかった。キャリア電子が平均的に分布する場合とは、電子の輸送特性や化学反応性がかなり異なることが予想される。

電子化物は、有機系で見出され、無機物、単純金属、そして今回、金属間化合物へと広がった。今後、さらに新しいコンセプトの電子化物が発見され、学術のフロンティアの拡大とともに応用に繋がる新物性が見出されることが期待される。

※本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られた。

  • 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 ACCEL
  • 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)

用語説明

[用語1] 金属間化合物 : 2種類以上の金属または半金属元素から構成されている化合物。性質が異なる異種元素同士が強い結合によって結び付けられているため、金属間化合物はその成分金属又は半金属とは著しく異なったユニークな物性を示すことが多い。

[用語2] 電子化物 : 電子がアニオンとして働くとみなすことができる化合物。

[用語3] フェルミ準位 : 固体の電子構造で電子が占有される最も高いエネルギーレベル。電子の輸送特性や化学反応性を支配する。

[用語4] 蛍石 : CaF2の結晶。Caは6つのFに8面体配位され、Fは4つのCaに4面体配位されている。

論文情報

今回のリリースは下記の論文による成果。

掲載誌 :
Advanced Materials, 29, 1700924-1-7, (2017)
論文タイトル :
Tiered Electron Anions in Multiple Voids of LaScSi and Their Applications to Ammonia Synthesis
著者 :
Jiazhen Wu, Yutong Gong, Takeshi Inoshita, Daniel C. Fredrickson, Junjie Wang, Yangfan Lu, Masaaki Kitano, and Hideo Hosono
DOI :
掲載誌 :
Angew. Chem. Int. Ed., 56, 10135-10139, (2017)
論文タイトル :
The Unique Electronic Structure of Mg2Si: Shaping the Conduction Bands of Semiconductors with Multicenter Bonding
著者 :
Hiroshi Mizoguchi, Yoshinori Muraba, Daniel C. Fredrickson, Satoru Matsuishi, Toshio Kamiya, and Hideo Hosono
DOI :
掲載誌 :
npj Quantum Materials
論文タイトル :
Electride and superconductivity behaviors in Mn5Si3-type intermetallics
著者 :
Yaoqing Zhang, Bosen Wang, Zewen Xiao, Yangfan Lu, Toshio Kamiya,Yoshiya Uwatoko, Hiroshi Kageyama and Hideo Hosono
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
フロンティア材料研究所 教授
元素戦略研究センター センター長 細野秀雄

E-mail : hosono@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009 / Fax : 045-924-51961

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