東工大ニュース
東工大ニュース
公開日:2017.09.05
東京工業大学 地球生命研究所の黒川宏之研究員と千葉工業大学惑星探査研究センターの黒澤耕介研究員らの研究グループは、40億年前の火星が地球と同程度の約0.5気圧以上の厚い大気に覆われていたことを突き止めた。この成果は、火星の磁場消失に伴う大規模な大気流出など、40億年前以降に地球と火星の運命を隔てる環境変動が起きた可能性を示唆している。
火星大気が宇宙空間に流出する過程においては軽い同位体が優先的に失われるため、大気への重い同位体の濃集として記録される。本研究はこの濃集度が大気圧(量)に依存することに着目した。40億年前の火星隕石に記録されていた当時の窒素や希ガスといった大気に選択的に含まれる元素の同位体[用語1]組成と、本研究で新たに行った理論計算を比較することで、当時の大気圧を推定した。
火星が過去に厚い大気に覆われていたか、および厚い大気に覆われていた期間がどのくらいだったかは惑星科学における重要な謎のひとつであった。
この研究成果は8月24日に欧州科学雑誌「イカロス(Icarus)」オンライン版で公開され、2018年1月1日発行号に掲載される。
東工大の黒川研究員らは、40億年前の火星が約0.5気圧以上の厚い大気に覆われていたことを突き止めた(図1)。図の横軸は火星誕生からの時間、縦軸は本研究で明らかになった大気圧の時間変化である。現在の火星は0.006気圧の薄い大気しか持たないが、40億年前の大気圧は地球(1気圧)と同程度であった。この成果は、火星の固有磁場消失に伴う大規模な大気の宇宙空間への流出など、40億年前以降に起きた環境変動が地球と火星の大気の厚さの違いを生んだことを示唆している。
これまで欧米を中心に数多くの火星探査が行われてきた成果として、火星はかつて温暖で液体の水(海)が存在した時期があった可能性が指摘されてきた。火星を温暖に保つためには厚い大気の温室効果が必要であるが、現在の火星は0.006気圧の薄い大気しか持っていない。黒川研究員らの過去の研究によって、火星誕生から4億年の間に50%以上の水が宇宙空間へ流出したことが突き止められた。一方で、火星がいつ、どのように厚い大気を失ったのかは残された謎であった。
低重力の火星においては窒素など大気中の元素が宇宙空間に流出していく。この流出過程では軽い同位体が優先的に失われるため、火星大気への重い同位体の濃集として記録される。本研究ではこの濃集度が大気圧(量)に依存することに着目した。過去の研究で報告されていた40億年前の火星隕石に記録されていた当時の大気の窒素とアルゴンの同位体組成と、本研究で新たに行った理論計算を比較することで、当時の大気圧を推定した。
現在、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「メイブン」によって火星大気の流出現象の観測が行われている。また、2024年に打ち上げが予定されている宇宙航空研究開発機構(JAXA)の火星衛星サンプルリターン機「MMX」でもこの流出現象の観測を行う予定である。これらの探査を通じて、本研究で明らかとなった40億年前の厚い大気が失われた原因を解明できる可能性がある。この研究を通じて、地球や火星など地球型惑星[用語2]一般の長期環境変動の要因や、生命が存在可能な環境を維持する条件を理解することができると期待している。
論文情報
掲載誌 : |
Icarus |
論文タイトル : |
A Lower Limit of Atmospheric Pressure on Early Mars Inferred from Nitrogen and Argon Isotopic Compositions |
著者 : |
黒川宏之、黒澤耕介、臼井寛裕 |
DOI : |
お問い合わせ先
東京工業大学 地球生命研究所
黒川宏之 研究員(日本学術振興会特別研究員)
E-mail : hiro.kurokawa@elsi.jp
Tel : 03-5734-2854 / Fax : 03-5734-3416
千葉工業大学 惑星探査研究センター
黒澤耕介 研究員
E-mail : kosuke.kurosawa@perc.it-chiba.ac.jp
Tel : 047-478-4386(黒澤居室直通)
047-478-0320(事務)
Fax : 047-478-0372
取材申し込み先
東京工業大学
広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661