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「未来年表」を生み出す「未来のシナリオを考えるワークショップ」を初開催

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公開日:2019.07.04

東工大未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、2018年9月に発足した新しい組織です。大学が設置した組織としては珍しく社会への貢献を第1の目的として掲げ、「豊かな未来社会像を学内外の多様な人材と共にデザインし、描いた未来へ至る道筋を提示、共有することで、広く社会に貢献すること」を活動目標としています。

まだ誰も見たことのない未来を、その実現に向けた道筋を示しつつわかりやすく提示するという課題は、予想よりはるかに困難なものでしたが、2018年度の活動により、東工大ならではの「東工大未来年表(仮称)」を作成し、そこから未来社会像を創出するという計画を立て、2019年度の取組を開始しました。

DLab最新動向

DLabは5月18日、東工大大岡山キャンパス百年記念館にて第1回目の「未来のシナリオを考えるワークショップ」を開催しました。今回のワークショップは、未来洞察というアプローチを活用して、「東工大未来年表(仮称)」を構成する数十の未来シナリオの作成を目的としています。

ワークショップの詳細については、以下の記事をご覧ください。

DLab構成員に聞く「DLabってどんなところ?」

人々が望む未来社会像を多様な視点で議論していくため、DLabには学内外から様々な経歴を持つ構成員が集まっています。なぜDLabの活動に参加することになったのか、今後の活動にどのような期待を持っているのかインタビューしました。構成員の紹介とともに、それぞれが思い描くDLabの姿をご紹介します。(肩書はインタビュー当時のもの)

未来デザインとは、枠を飛び越えること

DLab Team Imagine(チームイマジン)所属 蟹江憲史さん
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授

1994年慶應義塾大学 総合政策学部卒業、2000年慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 後期博士課程単位取得退学、2001年慶應義塾大学 博士学位取得。2003年東京工業大学 大学院社会理工学研究科 助教授、2007年同准教授を経て、2015年より現職。

DLab Team Imagine所属 蟹江憲史さん
DLab Team Imagine所属 蟹江憲史さん

私は2003年から2015年までの12年間、東工大の大学院で国際関係論を教えていました。東工大には、理工系の大学でありながら、リベラルアーツを重視する伝統があり、理工系教員と文系教員が垣根なく自由に意見を交わす校風があります。

その東工大から、大学の外から様々な専門家を招き、「ちがう未来」を作っていこうというプロジェクトが立ち上がり、参加してほしいとお声がけいただきました。DLabの掲げる「30年から50年先の未来像の創出」という目標は、私の専門領域であるSDGs(2015年国連サミットで採択された持続可能な開発目標)とも重なり合います。東工大OBとして、SDGsの専門家として、私はこのプロジェクトに参加することにしました。

私が専門としているSDGsの観点からすると、「持続可能性」を突き詰める、ということが重要です。つまり、新しいもの、新しい産業をただ作り出すだけではなく、どう使うか、どうリサイクルするか、どう無駄を省くか、どう環境に負荷を与えないか、ということを考えねばなりません。

例えば、現在、微小なマイクロプラスチックによる海洋汚染が深刻化しています。となれば、この問題における未来のデザインにおいては、従来のプラスチックに変わる生分解性の素材開発、あるいはプラスチックそのものの使用を減らす仕組みの開発などが問われるようになる。当然、その開発においては科学技術が要となります。ますます東工大のような理工系の知の拠点の存在が重要になるわけです。DLabでも、ぜひ科学技術をテコにした未来を示してほしい、と思います。

人口が増大し続ければ、当然資源は枯渇します。環境汚染も広がる恐れがあり、生物多様性など自然も脅かされます。だからこそ、持続可能な未来を私たちは模索しなければなりません。ただし、一方では、決して窮屈にならない、誰もが幸せだなと感じられるような未来を志向しなければなりません。両方実現するのはとてもハードルが高い。そこで必要となるのが若い人たちの自由な、枠にとらわれない発想です。DLabにも、若い人たちの自由奔放なアイデアと未来の絵図を組み込んでほしいですね。そして、他の大学では絶対にできない、東工大ならではの「科学」と「技術」に立脚した未来像を提示してほしいと考えています。

未来年表は、ベータ版を作り続けよう

DLab Team Imagine所属 根本かおりさん
株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 ストラテジックプランニングディレクター

一橋大学 社会学部卒業。株式会社博報堂に入社し、広告の現場で自動車、化粧品、家庭用品などの広告マーケティングやブランディングに携わる。ブランド・イノベーションデザイン局では、生活者発想・未来発想に軸足を置いた事業・商品・サービスデザインに従事。

DLab Team Imagine所属 根本かおりさん
DLab Team Imagine所属 根本かおりさん

DLabは、メンバーの雰囲気がとってもいいですね。何より、東工大の先生方が情熱的で生き生きとしていて、次から次へとアイデアを出してくれる。しかも、理工系の先生とリベラルアーツの先生がいらっしゃるので、私のような根っからの文系人間も、うまく混ざることができました。

個人的に感動したのはプレワークショップで出会った「えんたくん」ですね。ダンボール製の円卓を4人の膝の上に乗せて、あれこれおしゃべりしながらブレインストーミングをやる。ものすごくクリエイティブです。生身の人間がくっついて話して考えるからいいアイデアが出る。「下部構造の設計」が「上部構造=思想や思考」の質をあげることを実感しました。

大学や行政のイベントはやっておしまい、という側面がしばしばあるのですが、2018年10月に開催されたキックオフイベントはそうではありませんでした。理工系の先生方がそれぞれの立場の刺激的な未来像を発表し、参加者たちは4人組のグループに分かれて「えんたくん」を使いながら、自分の考える「未来」を文字やイラストに落とし込んでいく。入念な準備をされたんだろうなと思いました。

さらに良かったのは、このグループのメンバーが多種多様だったこと。東工大OB・OGの企業経営者層や、バリバリの学者や、現役の大学生や高校生が、上下関係なしのフラットな状態で意見交換をする。高校生や大学生が、全く物怖じせずに自分の意見を披露する。彼らの能力もさることながら、そうさせる「場づくり」の妙がこのイベントにはありました。

DLabに参加して感じたのは、もっともっと産官学のプレーヤーがそれぞれの立場から自由に議論をして、アイデアを社会実装するチャンスを作るべきだな、ということです。私としては、ぜひこのメンバーでオリジナルの未来年表を作りたい。ただし、ひとつ作ったらおしまい、ではなくて、その年表をベータ版として、どんどんバージョンアップしていく。現実も科学技術も日々バージョンアップするのに、未来年表が一旦作り上げたらそこでおしまいであっていいわけがない。それでは、あっという間に未来どころか過去の遺物になってしまいます。そこで、私はキックオフイベントの時のように、若い人たちのアイデアも取り入れた生きた未来をDLabで描きたいと思っています。

リアルな経験を積み重ねて欲しい

DLab Team Imagine所属 角南篤さん
公益財団法人笹川平和財団 常務理事、政策研究大学院大学 学長特別補佐/客員教授

1988年ジョージタウン大学(米国) 外交政策・国際関係大学院卒業、1993年コロンビア大学(米国) 国際関係学修士を取得、2001年コロンビア大学 政治学博士号取得、2014年政策研究大学院 大学教授、学長補佐、2016年より現職。

DLab Team Imagine所属 角南篤さん
DLab Team Imagine所属 角南篤さん

東工大は日本最先端の科学技術を広く扱っているユニークな大学です。DLabにお誘いいただいたとき、東工大から未来社会のビジョンを発信することは、日本社会がビジョンを持つことと同じだと思いました。つまりこれは日本が今後あるべき姿を検討し描いていくという重要なプロセスであり、それに関われるのは非常に光栄なことでした。そして、このプロジェクトに参画してみて、最初に東工大の学生さんたちのエネルギーを感じました。ただ、おとなしいとも思いました。理工系の分野に秀でて東工大に入っているわけですから、いろんなことができると思うのですが、自分の持っている力が社会を変えられるということに対して、謙虚な感じがしたのです。社会的なビジョンを持って、アグレッシブにという雰囲気ではなかったですね。だからこそ、DLabは、未来の社会を自分で考え、その未来社会に向けて自分たち自身で今をつなげていくという、主体的な考えを個々に持てるいい機会になるのではないでしょうか。

また、DLabは、ジャンルを超えた人たちが集まった組織であるという点も魅力的です。東工大および外部の有識者、現役の企業の方々、卒業生も加わっています。大学教育は、教員と研究と学生というラインでしかつながっていない。そこに全く別の世界の人が入って学生と関わっていくと、異なる視点や発想が生まれます。教える側にとっても刺激的です。いままで自分が一生懸命蓄えてきた知見なり経験を学生に伝えるだけではなく、外とも連携しながら、より幅広い形の教育を作れる機会になります。そして教員自身の見方も広がって、その研究にも反映されるとしたら非常にいいことですね。

ビッグデータの時代の中で、どうやって私たちは新しい挑戦、経済で言えば競争に勝って生き残るかということが焦点になっていますが、私はリアルなデータが大切だと考えています。1億人のデータから「あなたの傾向はこうだ」と言われても、あくまでも傾向に過ぎなく、リアルにいる人が語る経験とは重みが全く違います。数の問題ではないのです。実際に体験をする。ものを作ってみる。ものを壊してみる。東工大の学生さんたちには、リアルな経験を積み重ね、その経験を活かして未来を志向してほしいと願っています。

お問い合わせ先

総務部企画・評価課総合企画グループ

Tel : 03-5734-2011

E-mail : kik.sog@jim.titech.ac.jp

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