東工大ニュース
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東工大未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、2018年9月に発足した新しい組織です。大学が設置した組織としては珍しく社会への貢献を第1の目的として掲げ、「豊かな未来社会像を学内外の多様な人材と共にデザインし、描いた未来へ至る道筋を提示、共有することで、広く社会に貢献すること」を活動目標としています。
まだ誰も見たことのない未来を、その実現に向けた道筋を示しつつわかりやすく提示するという課題は、予想よりはるかに困難なものでしたが、2018年度の活動により、東工大ならではの「東工大未来年表(仮称)」を作成し、そこから未来社会像を創出するという計画を立て、2019年度の取組を開始しました。
DLabは6月16日、東工大大岡山キャンパス西9号館において第2回「未来のシナリオを考えるワークショップ」を開催しました。5月18日のワークショップに続く第2弾で、前回作成した未来のシナリオをより精緻なものにすることと、新たなシナリオの追加が狙いです。
ワークショップの詳細については、以下の記事をご覧ください。
人々が望む未来社会像を多様な視点で議論していくため、DLabには学内外から様々な経歴を持つ構成員が集まっています。なぜDLabの活動に参加することになったのか、今後の活動にどのような期待を持っているのかインタビューしました。構成員の紹介とともに、それぞれが思い描くDLabの姿をご紹介します。(肩書はインタビュー当時のもの)
1995年東京工業大学 生命理工学部 生体分子工学科卒業、1997年東京工業大学 大学院生命理工学研究科 修士課程修了、1999年東京工業大学 大学院生命理工学研究科 博士後期課程修了、2002年東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生命情報専攻 助手、2007年同助教、2009年同准教授、2013年同教授、2016年より現職
山口教授は、製薬メーカーの注目を集めている創薬の研究者です。生命科学を基盤として、基礎から応用まで幅広く研究を展開しています。良い薬を創ることで、大勢の人を救いたいという夢があり、DLabの活動でも、明るい未来につなげたいと夢を語ります。
私は研究者と同時に教育者でもあるわけですが、東工大の学生だけではなく一般社会に向けて、科学技術のおもしろさを伝えていかなければならないと常々感じています。数十年先がどうなっているかを考えることは、たとえば高校生に向けて、科学技術によって生まれる夢を考えてもらうことにつながるのではないでしょうか。
現在、薬剤の作用メカニズムの解明など創薬につながる生命工学の応用を研究しています。医者になることも考えましたが、一人の人間が救える命の数は限りがある。でも、良い薬を開発すれば、何万人も助けられる。そう考えて、将来は薬を創る研究をしようと道を決めていたのです。そして高校2年生のときに、東工大に新しい学部、生命理工学部の第7類(現在の生命理工学院の前身)ができると知って、それも一期生になれることに運命的なものを感じて志望しました。
いまよく耳にする言葉に「エピジェネティクス」があります。どの細胞も同じ遺伝情報を持っているのに、心臓や肺、肝臓など別々の細胞になれるのは、使う遺伝子と使わない遺伝子に目印をつけているからで、その目印を解明するのがエピジェネティクスです。生命科学の基本的な一分野であるのと同時に、この機能の異常が、がんをはじめとする様々な疾患と関係しているという点で、医学薬学研究で注目されています。つまり、基礎研究と応用研究と両方の側面があるわけです。この研究分野を通じて、子供のころの夢だった人の役に立ちたいという気持ちがよみがえって、徐々に創薬などの応用研究にも力を入れるようになりました。
明るく楽しい未来のためにも、東工大は理工系の総合大学として、ソリューションを提案、提供する存在になっていて欲しいと思います。科学技術は数十年もすると、多くの課題の答えが出てしまって、やることが少なくなってきているかもしれません。人の役に立つような研究をするためにも、やがてDLabが、いろいろな分野の専門家が集まるプラットフォームになっていればと期待しています。
1998年京都大学 工学部 電子工学科卒業、2000年京都大学 大学院情報学研究科 修士課程修了、2003年京都大学 大学院情報学研究科 博士後期課程修了、2003年東京工業大学 精密工学研究所 助手、2007年東京工業大学 大学院理工学研究科 電子物理工学専攻 准教授、2016年東京工業大学 工学院 電気電子系 准教授、2019年より現職
岡田教授は30GHz以上のミリ波帯を用いる無線技術の研究者です。スマートフォンの普及で、携帯端末で使うデータ量が爆発的に増加して、従来の周波数帯域では無線容量の増加に対応できなくなっています。ミリ波帯を使い遅延なく大量のデータをやりとりできるのは2030年頃と予測をし、そこに向かって開発を進めています。
DLabに参加して、分野の違う方、たとえばリベラルアーツ研究教育院の方たちと話をしていくと、感覚が大分違うと驚かされます。普段やりとりすることが多いのは、理工系の人。どうしても科学技術に対して、似通った視点になってしまう。非理工系の人と一緒に真剣に未来について考える場に加わるというのは貴重な機会であり、発見が多かったと思います。科学技術の向上で性能を上げることばかりを目指すのではなく、しかるべき未来の姿に向けて世の中を良い方向に変えていくという考え方が大切だ、と感じました。
未来社会の視点で私の研究分野を考えてみると、従来のマイクロ波はいろいろなサービスで使われてしまっていて、もう空いているスペースはなく、速度を上げられない。ミリ波の利用というのは、必ず訪れる未来なのです。ただ、ビームフォーミングというミリ波でビームの向きを変えるという技術は、実際に登場してもこれまでに使われたことがなく、使いやすくなるのは6G世代、いまから10年後になっているかもしれない。まさにDLabのように、未来から逆算して動いています。
DLabで大切なのは、東工大が考えている未来とは何かをまずは示すこと、そしてその場にもっといろいろな教員が入って来る場を作ることでしょうね。参加してみて思ったのは、実際に自分で考える側に回らないと、未来に対する意識が芽生えないということです。DLabには、東工大の学生や教員が参加する場をベースとして、そこから社会を巻き込んでいくようなプラットフォームを作っていくことを期待しています。
1994年東京大学 工学部 土木工学科卒業、1996年東京大学 大学院工学系研究科 修士課程修了、1999年東京大学 大学院工学系研究科 博士後期課程修了、同年東京大学 生産技術研究所 助手、2003年東京大学 生産技術研究所 講師、同年東京大学 総合地球環境学研究所 助教授、2007年東京大学 生産技術研究所 准教授、2009年東京工業大学 大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻 准教授、2013年東京工業大学 大学院理工学研究科 土木工学専攻 教授、2016年より現職
鼎教授の主要な研究テーマは「水」です。なかでも私たちの生活に欠かせない淡水について、もともと専門であった「河川工学」の知見を生かし、現地調査と人工衛星からの情報をベースにした大規模シミュレーションを行っています。今世紀末までの自然と人間社会の両方の変化を考慮した「地球温暖化による世界の洪水リスク変化」に関する論文を発表するなど、日頃から未来社会に焦点をあてた研究を行っています。
私の研究分野では、未来について考えることが頻繁にあります。みなさんがご存知の通り、環境問題における最悪のシナリオでは、CO2や温室効果ガスが多く排出され、大雨洪水がひどくなったり、グリーンランドの氷が溶けるといった未来が予想されています。10年から15年後には、スマートフォンで、大雨や洪水、災害の情報がリアルタイムで分かるようになり、たとえば2週間はひどい雨が続くといったようなことが簡単に分かるようになると考えられます。なぜかと言えば、地球の周りには小型から大型まで多くの人工衛星が飛んでいて、そこから得られるデータがどんどん解析されているからです。
すでに天気予報では、日本に居ながらにしてロンドンの天気や雲の様子が分かるなど、世界各地のデータが得られます。ところが、河川が氾濫しそうだとか、農地がどれだけ湿っているかとか、地下水がどのように汲み上げられているかなどはまだ分かりません。しかしこれらも、データ解析の研究を進めることで、たとえば今年は大干ばつでオレンジの収穫は難しいといったようなことが予想できる時代が近づいています。
DLabでは、理工系だけでなく文系の先生たちも前面に出て来てくれているので、今後、たとえば宗教学の立場から引っ張っていってもらうとどんな話が出るのかなど、とても興味深いです。世間では東工大は理工系の大学だと思われていますが、トップクラスの文系の先生方がこれだけいて、DLabに携わっているというのは面白い融合だと思うんですよね。「あれ、理工系の大学だったんじゃないの」と言われるような成果を出せたらと期待しています。