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JAXAの「革新的衛星技術実証3号機」に5G対応のフェーズドアレー無線機を搭載

小型衛星への大型アンテナ搭載を可能にする技術を宇宙実証

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公開日:2020.10.27

要点

  • 革新的衛星技術実証3号機の宇宙実証テーマに参画
  • ビームフォーミング技術により、平らでない柔らかい膜上でアレーアンテナを実現
  • 折り紙技術を活用し、収納度の高い5G対応の新たな衛星無線機を開発

概要

東京工業大学 工学院 機械系の坂本啓准教授らの研究チームは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的衛星技術実証3号機」の宇宙実証テーマとして、5Gに対応するフェーズドアレー無線機の開発を行う。

この研究は、選定されたテーマ「Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証」の一環である。本テーマは、小型衛星の大電力発電/大容量通信/高分解能観測等の高性能化に寄与する膜構造物の展開・運用実証を行うもので、サカセ・アドテック株式会社を提案代表者として、坂本准教授、電気電子系の岡田健一教授、白根篤史助教らの研究チームが参画する。

このテーマにおいて東京工業大学の研究チームは、第5世代移動通信システム(5G)[用語1]ミリ波[用語2]帯に対応する人工衛星技術として、展開膜上に設置可能なフェーズドアレー[用語3]無線機の開発を担当する。このフェーズドアレー無線機では、膜面上に貼付されたアンテナ素子が電波の放射方向を変更することで、展開後の膜の平面度を電気的に補償する。この開発には、機械分野を専門とする坂本准教授が開発した超小型衛星(3Uキューブサット)OrigamiSat-1 [用語4]搭載の膜展開技術と、電気電子分野を専門とする岡田教授・白根助教らが開発したミリ波帯フェーズドアレー無線機のビームフォーミング技術を融合させる。

この技術が実現すれば、小型衛星にも大型アンテナを搭載できるようになり、通信の高速化・大容量化・距離増大が可能になる。さらには、小型衛星による衛星コンステレーションを用いたインターネット網構築などの実現が期待できる。

背景と技術課題

2003年に東京工業大学などが世界初の超小型衛星(10 cm×10 cm×10 cm、1 kg)を実現させて以降、衛星の小型化が急速に進み、今日では「New Space」と呼ばれる宇宙ビジネスのイノベーションが活性化している。日本政府が提唱するSociety 5.0[用語5]の実現にも、小型衛星群を用いた大容量通信網の構築が期待されている。しかし、小型衛星では質量と打ち上げ容積が強く制限されるため、宇宙で大電力・大容量通信を可能にするにはまだ技術的な課題がある。

一方、2019年よりサービスが開始された5Gの移動通信のほとんどは、従来技術の延長であり、4G携帯電話と同じかわずかに高い、6 GHz程度までの限られた帯域の周波数範囲を使用している。5G通信の大容量化を目指して、ミリ波・超広帯域などを利用した5Gシステムも活発に研究され、新たなテクノロジーの突破口となることが期待されている。最近では、東京工業大学において、本研究チームの一員である岡田教授らが、5G向けミリ波帯フェーズドアレー無線機を開発した。ただし、衛星への搭載性は現時点では未知数である。

したがって、小型衛星に搭載でき、5Gの大容量通信が可能な衛星機器を開発できれば、Society 5.0として描かれる社会像の実現に大きく貢献できると期待される。

5G大容量通信を小型衛星で可能にするには、大きなアンテナ面積が必要になる。このため、ロケット打ち上げ時には狭い容積に折りたたんで収納でき、宇宙空間で自動に展開する、軽量の「宇宙展開構造」が求められる。しかし一般に、アンテナ構造には高い形状の精度が求められるため、柔軟な構造を用いることが難しい。そのため、従来のアプローチではさらなる軽量化と高収納率化は困難である。

こうした技術課題を踏まえて、東京工業大学の研究チームは、フェーズドアレー無線機のビームフォーミング技術によって、アレーアンテナ展開後の非平面度を電気的に補償するという独自のアプローチを提案した。これによって、柔軟な膜を用いてアンテナ構造を構築することを可能にし、これまでになく軽量・高収納率の衛星搭載フェーズドアレー無線機の実現を目指す。

「第5世代通信ミリ波アンテナ」ミッション

「革新的衛星技術実証3号機」の宇宙実証テーマ「Society 5.0に向けた発電・アンテナ機能を有する軽量膜展開構造物の実証」は提案代表のサカセ・アドテック株式会社、そして東京工業大学の他に、JAXA、日本大学が共同提案者として参画し、各機関が保有する世界最先端の研究成果を活かして共同で開発を進める。

この宇宙実証テーマ内で、東京工業大学の研究チームが主に担当する「第5世代通信ミリ波アンテナ」ミッションでは、宇宙空間で展開する1 m×1 mの膜面上に搭載するフェーズドアレー無線機を開発する。この無線機では、約7 cm×7 cmサイズのフェーズドアレー基板が2枚に分割された状態になっている。この2枚の基板が同じ平面上にない場合でも、アンテナ素子が電気的に電波の放射方向を変更することで、非平面度を補償できることを実証する。このフェーズドアレー無線機は、展開膜面上では図1の位置に設置される。

図1. 宇宙実証する展開膜上のフェーズドアレー無線機

図1. 宇宙実証する展開膜上のフェーズドアレー無線機

このフェーズドアレー無線機の開発においては、研究チーム内の異なる分野の研究者がこれまでに開発した、次の2つの独自技術を融合する。

一つは、坂本准教授らが超小型衛星(3Uキューブサット)OrigamiSat-1(図2)向けに開発した、折り紙のように折り畳めて、宇宙で展開する膜面宇宙構造物上に、薄型デバイスを貼付し、配線する技術である。

もう一つは、岡田教授、白根助教らが開発したミリ波帯フェーズドアレー無線機である。今回開発するフェーズドアレー無線機では、5Gの大容量通信を可能にしつつ、ビームフォーミング技術を活用して、さらに柔軟な膜構造の非平面度に電気的に対応することで、構造物の軽量化・高収納率化を可能にする。

図2. 東京工業大学が中心となって開発され2019年1月に宇宙へ打ち上げられた超小型衛星OrigamiSat-1イメージ図

図2. 東京工業大学が中心となって開発され2019年1月に宇宙へ打ち上げられた超小型衛星OrigamiSat-1イメージ図

研究チームは、こうした機械分野の研究者と電気分野の研究者が同一拠点で協働するという異分野融合アプローチにより、新たな宇宙実証機器の開発を進めていく。

軽量・高収納率の衛星搭載フェーズドアレー無線機が実現すれば、小型衛星でも大型アンテナを搭載できるようになり、通信の高利得化、すなわち通信の高速化・大容量化・距離増大が可能になる。将来的には、地球周回軌道での小型衛星による衛星コンステレーションを用いたインターネット網構築(図3)やリアルタイム地球観測、さらには深宇宙の探査小型機からの長距離通信などが実現すると期待できる。

東京工業大学の研究チームは独自の取り組みにより、今回の打ち上げ機会に、こうした宇宙利用の拡大と新たなイノベーション創出が期待される技術を実証することを目指す。

図3. 衛星搭載フェーズドアレー無線機を搭載した衛星コンステレーションによるインターネット網構築の概念図

図3. 衛星搭載フェーズドアレー無線機を搭載した衛星コンステレーションによるインターネット網構築の概念図

今後の展開

今後、共同提案者らと共に技術調整、各種試験、安全審査等を進め、2022年度の打ち上げに向けて搭載品の開発を行う。さらに本技術実証を基に、フェーズドアレーの大型化を図り、地上通信網と非地上通信網の融合を進めることで、5G、さらにはその次の世代6Gにおける無線通信の飛躍的な進化を切り拓いていく。

用語説明

[用語1] 第5世代移動通信システム(5G) : 2019年に展開が開始された、国際的な移動通信ネットワークの第5世代技術標準。現在ほとんどの携帯電話に用いられている第4世代移動通信システム(4G)ネットワークの後継の規格である。5Gネットワークの主な利点の一つは、より大きな帯域幅を持つことであり、さらなる高速化によって、最終的には10ギガビット/秒(Gbit/s)以上の通信速度を目標としている。

[用語2] ミリ波 : 波長が1~10 mm、周波数が30~300 GHzの電波。

[用語3] フェーズドアレー : 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミング(電波を細く絞って、特定の方向に向けて集中的に発射する技術)の実現に利用される。

[用語4] 超小型衛星(3Uキューブサット)OrigamiSat-1 : 東京工業大学 工学院 機械系の坂本准教授、中西洋喜准教授、古谷寛准教授らが中心となって開発し、2019年1月にJAXA「革新的衛星技術実証1号機」の一つとして、イプシロンロケットで地球周回軌道へ打ち上げられた約4 kgの人工衛星である。サカセ・アドテック株式会社、株式会社ウェルリサーチ、日本大学との共同開発。OrigamiSat-1は、(1)薄型電子デバイスを模擬したダミー膜を貼り付けた1 m×1 mの展開膜(多機能展開膜)の展開実証、(2)宇宙での展開構造の計測、(3)膜上アンテナによるアマチュア無線通信、の3つの宇宙実証を目指した。しかし打ち上げ1週間後に衛星と地上局間の通信が途絶し、2020年10月現在、主要なミッションは未実施である。

[用語5] Society 5.0 : サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)を指すもの。第5期科学技術基本計画(2016年~2020年)から、日本が目指す未来社会の姿として提唱されている。

謝辞

本研究はJSPS科研費 JP20H00281、JP20H00236の助成を受けたものです。

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2016年4月に発足した工学院について紹介します。

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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 機械系

准教授 坂本啓

E-mail : sakamoto.h.aa@m.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

10月28日 9:00 本文中およびPDFファイル内の表記の一部を修正しました。

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