東工大ニュース
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電気工学と電子工学では世界最大で最も権威がある学会IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、アイ・トリプル・イー、電気電子学会)は、東京工業大学の伊賀健一名誉教授・元学長にIEEEの最高位メダルの一つである2021年のEdison Medal(エジソンメダル)を授与すると発表しました。
エジソンメダルはトーマス・エジソンを記念し、IEEEが1909年以来、電気に関する科学で優れた業績を上げた研究者に毎年、贈っています。電気電子工学分野では、世界で最も伝統があり、最高の栄誉を顕彰する賞です。日本人が受賞するのは2000年の西澤潤一氏(東北大学・受賞当時)、2011年の赤﨑勇氏(名城大学・受賞当時、2014年ノーベル物理学賞受賞者)に次いで3人目です。
IEEEによると、伊賀名誉教授の業績である「垂直共振器型面発光レーザーの概念創出、物理、および開発への先駆的貢献」に対して贈られます。授賞式は、2021年5月11日 - 13日、他のメダルとともにオンラインのIEEE表彰式で行われる予定です。
Current Award Recipients|IEEE Awards
伊賀健一名誉教授は、1977年に面発光レーザー(VCSEL)のアイデアを提案しました。1979年に東京工業大学で最初のデモンストレーションを行って以来、この新しいレーザー実現に必要となる基本的な技術的および理論的基盤を確立し、この分野で世界の研究者に大きな影響を与えてきました。その努力の結果は世界的な発展を牽引し、高速データ通信、主にギガビットイーサネット、ファイバーチャネル、本学の「TSUBAME」などのスパコンにおける相互接続用光ファイバ配線になくてはならないものになっています。さらに、コンピューター用のマウス、高速レーザープリンター、スマートフォンにおける3次元顔認証、移動体のレーザーレーダーなどのさまざまな応用が進行中です。2025年までに5,000億円を超える世界市場が見込まれるとされています。
IEEEはアメリカに本部を置き、電気・電子・情報関連分野における最も権威がある世界最大の技術系学術団体です。160か国以上の約42万人が会員です。
IEEEには18個の最高位メダルがあり、毎年優れた業績を挙げた個人を表彰しています。エジソンメダルもMedal of Honor、Alexander Graham Bell Medal、Education Medal、Power Electronics Medalなどと並ぶ最高位メダルの一つです。1879年10月21日にトーマス・エジソンが最初の実用的な白熱電球の製造に成功し、現代の照明の始まりとなりました。四半世紀たった1904年、エジソンの友人や関係者がエジソンの功績を記念しエジソンメダルを創設し、1909年からIEEEエジソンメダルとして贈られてきました。
これまでのエジソンメダル受賞者は、1914年にアレクサンダー・グラハム・ベル、1916年にニコラ・テスラ、1922年にロバート・ミリカン、1963年にジョン・ピアス、1989年にニック・ホロニャック、2000年に西澤潤一、2004年にフェデリコ・カパッソ、2011年に赤﨑勇ら、電気電子工学分野で世界的に活躍し、科学の歴史を書き換えるほどの大きな業績をあげた研究者が名を連ねています。
東工大の研究者がIEEEメダルを受賞したのは伊賀名誉教授が3人目です。2003年に末松安晴栄誉教授・元学長がIEEE ジェームス・H・ミューリガン・ジュニア・エデュケーション・メダル(IEEE James H. Mulligan, Jr. Education Medal)を受賞し、2018年にIEEE メダル・イン・パワー・エンジニアリング(IEEE Medal in Power Engineering)を赤木泰文名誉教授が受賞しました。
IEEEには学生の時から加盟しており、現在はLife Fellowで、教授の時にはレーザーソサエティーの役員もしておりました。エジソンメダルは、その中でも最高位メダルの一つです。トーマス・エジソンは1879年の白熱電灯はじめ多くの発明により「発明王」として知られます。その名前を冠したメダルをいただくことは、まことに光栄で、本当に嬉しく思っております。
1977年に面発光レーザーのアイデアを得、それから2001年に定年退職するまで、精密工学研究所(現在の未来産業技術研究所の前身)で研究を行いました。1990年代には米国や欧州の大学や研究機関で講義を行い、面発光レーザーの良さを喧伝して研究の輪を広げました。その後21世紀になると、インターネット、データセンター、レーザープリンター、マウスなどの光源として大量生産が始まりました。現在では、スマートフォンの3次元顔認証、レーザーレーダー、光センシングなど、AIやIoTへの広がりを見せています。そのためか、面発光レーザーのお祖父さんと呼ばれています。
さて、米国ニュージャージー州にエジソン博物館があり、2、3度訪れたことがあります。エジソンは単にものを発明しただけではなく、近代における研究所の形態をすでに作っていたことに感銘をうけました。つまり、世界中から材料を集め、実現に向けた実験を行い、実際の製品を世に出す努力をしたのです。京都の竹をフィラメントに用いた白熱電球の長寿命化が代表例です。受賞の対象となったのは、1977年に発明した「面発光レーザー」なのですが、それは「世の中にないものを作る」ということでした。エジソンは丁度100年前の1877年に蓄音機を発明しているのも、コントラバスを趣味とする私にとって何かの縁を感じます。私の研究の過程はというと、何を作ろうかという夢をもち、材料を探し、材料からレーザーを作るための技術を開拓して作り、その途中で必要な物理を考え、性能を評価し、システム化を目指す、ということでした。それはエジソンが100年前に行ってきたことと似ていますね。
受賞に際し、一緒に研究を行ってきた同僚、卒業生諸君、この賞の応募に際し推薦の労をお取りいただいたNominator、サポートいただいたEndorsorの皆様に深く感謝申し上げます。