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地下深部に広がる「超臨界地熱資源」分布の可視化に成功

より高出力な地熱発電につながる「地熱資源」を発見

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公開日:2022.03.04

要点

  • 秋田県湯沢地熱域の地下深部(地下数km)に広がる「超臨界地熱資源」分布の可視化に成功
  • 「超臨界地熱資源」の発達メカニズムを解明
  • 発見した「超臨界地熱資源」を用いると大出力発電を実現できる可能性

概要

東京工業大学 理学院 火山流体研究センターの石須慶一研究員、小川康雄教授、東北大学大学院 環境科学研究科 土屋範芳教授らの共同研究グループは、電磁波を利用する地下探査技術を用いて、秋田県湯沢地熱地域の地下深部に広がる「超臨界地熱資源」の分布の可視化に成功した。

日本は火山帯にあるため、地熱発電は、純国産の再生可能エネルギーの一つとして注目されてきた。しかし、比較的地表近くに存在する地下熱水(温度350℃以下)を利用する従来の地熱発電は、発電量に限界がある。一方、従来の地熱発電に比べて大出力発電を可能とする「超臨界地熱資源(温度374℃かつ圧力22 MPa以上の地下水)」は、火山・地熱地帯の数km地下に存在すると推測されている。しかし、地下深部に存在するが故、その空間分布は不透明であった。

本研究グループは、地下掘削を行うことなく地下情報を取得できる電磁探査法を用いて、超臨界地熱資源の有望地区である秋田県湯沢地熱地域を調査した。その結果、これまで不透明であった超臨界地熱資源の分布の可視化に成功した。秋田県湯沢市で稼働している山葵沢地熱発電所は、日本で第4番目の発電量を誇るものだが、本研究で発見した超臨界地熱資源は、その発電量のさらなる増加に貢献できる。

この研究成果は、2022年2月7日に地球物理学分野の国際学術誌「Journal of Geophysical Research: Solid Earth」に掲載された。

背景

カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの利用に注目が集まっている。本研究グループは、再生可能エネルギーの一つである、地下熱水貯留層からエネルギーを取り出す地熱発電に着目している。現在稼働中の地熱発電所は、比較的地表近くに存在する350℃以下の温度の地下流体を利用しているが、発電の出力が限られているという課題がある。この発電量に関する課題を解決しうる次世代型地熱資源として、高温高圧の超臨界状態[用語1]にある地下流体(以下、「超臨界地熱流体」)が注目されている。超臨界地熱流体は、350℃以下の流体よりもはるかに高いエネルギーを持つことから、超臨界地熱流体を用いた超臨界地熱発電は従来の地熱発電に比べて発電量を大幅に増加できるポテンシャルを持っている。この超臨界地熱流体は、日本を含む世界の様々な火山・地熱地帯の地下に存在すると予測されている(Okamoto et al., 2019 [参考文献1])。しかし、超臨界地熱流体は地下数kmの深部に存在することから、その分布について、これまで見定めることが難しかった。一方、超臨界地熱流体を利用した大出力地熱発電所の将来的な開発に向けて、超臨界地熱流体の地下分布を把握する必要がある。

研究成果

本研究グループは、超臨界地熱資源の有望地区である秋田県湯沢地域において、電磁探査を行い、超臨界地熱資源の分布の可視化を試みた(図1)。自然に発生する電磁波を利用する電磁探査法は、地下を掘削することなく地下の比抵抗[用語2]情報を取得できる。比抵抗は、物質の電気の流れやすさ・流れにくさを示す度合いを示すもので、超臨界地熱流体を含む岩石は、乾燥した岩石に比べて低い比抵抗を示す傾向にある。

図1 研究対象地域である秋田県湯沢地熱域の位置(黄色い星)。

図1. 研究対象地域である秋田県湯沢地熱域の位置(黄色い星)。

観測した電磁探査データを解析することで地下比抵抗構造[用語2a]を推定した。推定された比抵抗構造により、地表から2.5~6.0 kmの深さに幅3 km、長さ5 kmの低い比抵抗を示す異常域C1が存在することが明らかになった(図2上)。この異常域C1の上部は、温度掘削データや地質情報などから400℃を超える温度の超臨界地熱貯留層を表していると結論づけた(図2下)。一方、この異常域C1の下部は、岩石が高温で溶けたマグマを可視化したと考えられる。これまでに文献で報告されている超臨界水の比抵抗値を用いて(Watanabe et al., 2021 [参考文献2])、この超臨界地熱貯留層の含水比を推定したところ、体積比で0.1%から4.2%の間であると判明した。つまり、この超臨界地熱貯留層は大出力の地熱発電を行うことができるほどの流体を含んでいることを示す。

超臨界地熱貯留層の上部には、シリカ[用語3]鉱物から構成される水を通しにくい遮水層が存在することが実験などから示唆されている(Saishu et al., 2014 [参考文献3])。そこで、本研究地域においても超臨界地熱貯留層の上部にシリカ遮水層が存在するのではないかという仮説を立てて、シリカの水への溶解度を計算した。計算の結果、シリカの水への溶解度が最小になる深度とC1上面深度が一致することが分かった(図3)。すなわち、熱水に溶解したシリカが、C1上面の深度で溶解度が最小になることにより析出し、湯沢地熱域の超臨界地熱貯留層の上部にシリカ遮水層が生成されたことを裏付けている(図2)。

図2 上:秋田県湯沢地熱域で観測した電磁探査データの解析により推定された地下比抵抗構造の東西方向断面図。下:比抵抗構造を基にした湯沢地熱域の地熱システムの模式図。深さは海抜を0 mとした深さを示す。
図2
上:秋田県湯沢地熱域で観測した電磁探査データの解析により推定された地下比抵抗構造の東西方向断面図。下:比抵抗構造を基にした湯沢地熱域の地熱システムの模式図。深さは海抜を0 mとした深さを示す。
図3 シリカの水への溶解度。黒線はシリカの水への溶解度、赤線はC1の上面深度、緑星はシリカ溶解度が最小になる点を示す。シリカの水への溶解度が最小になる深度とC1上面深度が一致することが分かった。
図3
シリカの水への溶解度。黒線はシリカの水への溶解度、赤線はC1の上面深度、緑星はシリカ溶解度が最小になる点を示す。シリカの水への溶解度が最小になる深度とC1上面深度が一致することが分かった。

上記で議論した情報をまとめて以下のような超臨界地熱貯留層の発達メカニズムを本研究で提案した。超臨界地熱貯留層の直下に存在するマグマが固まる際に自ら含んでいた流体を吐き出すことでその上部に超臨界地熱流体を提供する。この超臨界地熱流体はシリカ遮水層によってさらなる上部への移動が制限され、その結果、シリカ遮水層下で超臨界地熱流体が蓄えられ、超臨界地熱貯留層が発達したというものである。

今後の展開

秋田県湯沢市の山葵沢地熱発電所は、日本で第4番目の発電量を誇るものだが、本研究で発見した超臨界地熱資源を将来的に用いることで、その発電量を大幅に増加できる可能性がある。超臨界地熱資源を利用した地熱発電は、大出力発電が可能なため、2050年のカーボンニュートラル実現に貢献できる。本研究で発見した超臨界地熱資源は、秋田県湯沢市の地下のみならず、東北地方の様々な火山・地熱域の地下に存在すると推定されている(例えば、宮城県鳴子火山:Ogawa et al., 2014 [参考文献4] 、岩手県葛根田地熱地域: Yamaya et al., 2021 [参考文献5])。本研究グループは、超臨界地熱資源の発見を今後も行っていき、カーボンニュートラル実現に貢献していく。

用語説明

[用語1] 超臨界状態 : 温度374℃かつ圧力22 MPa以上の状態(純水の場合)

[用語2] 比抵抗・比抵抗構造 : 物質の電気の流れやすさ・流れにくさを示す度合いを「比抵抗」と呼ぶ。比抵抗の地下分布を「比抵抗構造」と呼ぶ。

[用語2a] 比抵抗構造 : [用語2]を参照のこと。

[用語3] シリカ : 二酸化ケイ素。地殻中の多くの岩石に含まれ、シリカ鉱物は岩石の水の通しやすさに大きく影響を与える。

参考文献

[1] Okamoto, K., Asanuma, H., Ishibashi, T., Yamaya, Y., Saishu, H., Yanagisawa, N., et al. (2019). Geological and engineering features of developing ultra-high-temperature geothermal systems in the world. Geothermics, 82, 267-281.

[2] Watanabe, N., Yamaya, Y., Kitamura, K., & Mogi, T. (2021). Viscosity-dependent empirical formula for electrical conductivity of H2O-NaCl fluids at elevated temperatures and high salinity. Fluid Phase Equilibria, 549, 113187.

[3] Saishu, H., Okamoto, A., & Tsuchiya, N. (2014). The significance of silica precipitation on the formation of the permeable–impermeable boundary within Earth's crust. Terra Nova, 26(4), 253-259.

[4] Ogawa, Y., Ichiki, M., Kanda, W., Mishina, M., & Asamori, K. (2014). Three-dimensional magnetotelluric imaging of crustal fluids and seismicity around Naruko volcano, NE Japan. Earth, Planets and Space, 66(1), 1-13.

[5] Yamaya, Y., Suzuki, Y., Murata, Y., Okamoto, K., Watanabe, N., Asanuma, H., et al. (2021) 3-D resistivity imaging of the supercritical geothermal system in Sengan geothermal region, NE Japan, Earth and Space Science Open Archive.

論文情報

掲載誌 :
Journal of Geophysical Research - Solid Earth
論文タイトル :
Estimation of Spatial Distribution and Fluid Fraction of a Potential Supercritical Geothermal Reservoir by Magnetotelluric Data: A Case Study From Yuzawa Geothermal Field, NE Japan
著者 :
Keiichi Ishizu, Yasuo Ogawa, Keishi Nunohara, Noriyoshi Tsuchiya, Masahiro Ichiki, Hideaki Hase, Wataru Kanda, Shinya Sakanaka, Yoshimori Honkura, Yuta Hino, Kaori Seki, Kuo Hsuan Tseng, Yusuke Yamaya, and Toru Mogi
DOI :

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Tel : 03-5734-2515 / Fax :03-5734-2492

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