東工大ニュース
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本学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授・元素戦略研究センター長がNHK Eテレ「サイエンスZERO」に出演します。
「サイエンスZERO」は、私たちの未来を変えるかもしれない最先端の科学と技術を紹介するとともに、世の中の気になる出来事に科学と技術の視点で切り込む番組です。
すずかけ台キャンパスの元素戦略研究センターを「サイエンスZERO」キャスターの南沢奈央さんが訪れ、細野教授らが発見したアンモニア合成の新技術について取材しました。
2003年に細野教授らの研究グループはセメント鉱物のひとつである12CaO・7Al2O3(以下C12A7)のケージ構造中の酸素イオンを電子で置き換えた電子化物(電子が陰イオンとして働く物質)C12A7エレクトライドの合成に成功しました。C12A7そのものはセメントの成分でもあり絶縁体ですが、C12A7エレクトライドは金属のように電気をよく流し、アルカリ金属のように電子を極めて放出しやすく、しかも化学的・熱的に安定というユニークな性質を持ちます。この性質をアンモニア合成の触媒に応用するためにルテニウムと組み合わせることで、より低いエネルギーで効率のよいアンモニア合成を実現しました。
アンモニアは肥料や食品・医薬品の原料となる重要な化合物で、世界総生産量は年間1億6千万トンを超えています。その合成法(ハーバー・ボッシュ法)は、1913年にフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュによって確立されました。それ以来、100年以上、さらに効率のよい触媒を求めて研究が行われましたが、ハーバー・ボッシュ法を凌駕する触媒プロセスは見いだされておらず、近年では挑戦者がほとんどいない研究とされていました。ハーバー・ボッシュ法は高温高圧の反応条件と大規模な施設が必要でしたが、細野教授らが発見・開発した技術は低温低圧でオンサイト(アンモニアを必要とするメーカーの生産拠点や、小型プラントの現場などで)の小規模アンモニア生産の実現に一歩近づきました。
4月25日には、味の素株式会社、ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社(UMI)らと新会社「つばめBHB株式会社」を設立し、世界で初めてとなるオンサイト型のアンモニア合成システムの実用化を目指しています。
サイセンスZEROに研究のトピックスを取り上げて頂くのは、今回で4回目になります。C12A7の研究は、学生実験の監督をやっていた時に気付いた色の変化がきっかけですので、もう30年くらい、この物質を舞台にした機能発現の研究をやっていることになりますが、昨今では「電子化物」という物質科学の新領域が国際的に広がりつつあります。こんなありふれた元素のみで超伝導など多彩な電子機能が実現できることから、「元素戦略の象徴」と呼ばている所以だと思います。アンモニア合成触媒への応用に関しては、本学で研究された尾崎先生、秋鹿先生が提唱したルテニウムを窒素を捕まえる触媒として使用し、現役の触媒研究者の原先生、北野先生との共同研究のおかげです。個人的には、この番組のキャスターの南沢奈央さんのファンですので、大変に嬉しい経験ができました。関係者に感謝、感謝です。