研究

東工大ニュース

安定で高活性な白金の単原子触媒を実現

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2020.02.25

要点

  • 白金原子を担持体表面のケージ構造の破れ部分に入れ込むことで安定に固定した、新たな単原子触媒の開発に成功
  • 従来の単原子触媒で問題とされていた、高温で原子が凝集してしまうという欠点を克服
  • 担持体として12CaO・7Al2O3を用いることで、CaOやAl2O3より桁違いに高い活性と安定性を実現

概要

東京工業大学 元素戦略研究センター長の細野秀雄栄誉教授、同センターの叶天南特任助教、北野政明准教授らは、カルシウムとアルミニウムの酸化物C12A7(12CaO・7Al2O3)がサブナノサイズのケージから構成されていて、その最表面ではケージ構造が破れていることに着目し、その部分に白金原子を入れ込んで安定的に固定した単原子触媒の開発に成功した。

遷移金属の単原子触媒は、原子の周りの結合が不飽和なために、バルクの金属に比べて圧倒的に触媒活性が高いことや、金属原子の利用効率が極めて高いことから、活発な研究がおこなわれている。しかし、高温にすると担持された単原子金属が凝集してしまい、活性が低下することが問題であった。本研究成果は、この課題を克服するものである。

本研究成果は、担持体のC12A7が石灰とアルミナのみから構成される安価な物質であること、また高価な触媒である白金を単一原子として安定に担持できることから、ありふれた元素の活用と希少金属の使用量の低減を目指す「元素戦略」に資するものといえる。

この成果は英国科学誌Nature Communicationsにて2月24日にオンライン公開された。

背景

触媒として有効に機能する物質には、白金やロジウムなど高価な貴金属が多い。そうした金属の使用量を大幅に減少させる方法として、単原子として固体表面に固定(担持)する単原子触媒が熱心に研究されている。この単原子触媒は、バルクの金属と比べて原子の周りの結合が不飽和なので、高い活性が得られる。しかしほとんどの場合、担持された単原子は温度をあげると凝集し、通常の金属ナノ粒子触媒と同じになってしまうという欠点がある。いかにして単原子金属を固体表面に安定的に固定するかが技術的課題となっていた。

本研究のアプローチ

この課題に対して本研究では、単原子がちょうど収まる大きさの極小のケージに、目的とする金属の単原子を入れ込むことを目指した。対象とする金属には、最も代表的な貴金属触媒である白金を、そして触媒性能を左右する、白金を担持する固体(担持体)には、12CaO・7Al2O3(以下「C12A7」)を選択した。C12A7は、直径がサブナノメートルサイズの正に帯電したケージが3次元的に繋がった結晶構造をしており、これまでの基礎的研究によって、その最表面はゲージが破れた構造をしていることがわかっている。今回の研究の鍵となったのは、この破れたケージに白金原子を入れ込むことであった。そこで、[PtCl4]2-というアニオンの大きさが、図1のように、破れたケージの入り口の大きさよりも少し小さいことに注目し、まずこのアニオンをケージの入口に入れ込んで、その後熱還元によってPt原子にして、単原子触媒を調製する方法を考えた。

図1. 白金の単一原子をC12A7結晶の最表面の破れたケージで担持する方法

図1. 白金の単一原子をC12A7結晶の最表面の破れたケージで担持する方法

単原子白金触媒の確認

調製した触媒について、高分解能電子顕微鏡(STEM、図2)と広域X線吸収微細構造(EXAFS)[用語1](図3)によって、目指した通りに白金原子がC12A7表面に担持されていることが確認された。ケージのサイズより大きなPt錯体分子アニオンを用いた場合には、このような単原子構造は確認できなかった。また、通常の単原子触媒では金属の凝集が生じてしまう600 ℃という高温で加熱処理を行っても、単原子構造が保持されていることがわかった。

図2. 高分解能電子顕微鏡像(HAADF-STEM像、用語2)

図2. 高分解能電子顕微鏡像(HAADF-STEM像[用語2]

図3. 白金のEXFASスペクトル(K-吸収端)。C12A7表面に担持した試料には、Pt-Ptの距離に相当する位置にピークがみられない。

図3. 白金のEXFASスペクトル(K-吸収端)。
C12A7表面に担持した試料には、Pt-Ptの距離に相当する位置にピークがみられない。

触媒性能

触媒反応としては、工業的に重要な様々な置換基を有するニトロベンゼン分子のNO2基の選択的還元を検討した(図4)。この水素化反応では、水素分子の開裂が律速段階となるが、C12A7骨格の酸素イオンによって配位された白金原子の環境は、水素が2つの水素原子になるよりも、H+とH-にヘテロリティックに解離するのに有利であると考えられる。実験では予想通り、分極したNO2基が H+とH-によって選択的に水素化され、目的分子が高収率で得られた。また、触媒の活性サイトの性能を示す指標であるTOF(Turnover Frequency)[用語3]は、C12A7の構成成分であるCaOやAl2O3の上に担持した場合よりも桁違いに高い活性を示し、さらにこの触媒が熱的にも格段に安定なことがわかった(図5)。

図4. 検討した触媒反応。R=Cl、OH、CN、CH=CH2、CHO、NH2CO

図4. 検討した触媒反応。R=Cl、OH、CN、CH=CH2、CHO、NH2CO

図5. 白金を担持した触媒の水素化反応における活性の比較

図5. 白金を担持した触媒の水素化反応における活性の比較

今後の展開

C12A7は、市販のアルミナセメントの主な構成成分の一つで、安価でしかも環境調和性に優れている。これまでの走査トンネル顕微鏡観察による表面構造に関する研究で、ケージの破れを修復する処理方法も確立されている。また、表面再構成を伴う電子状態の変化についても研究が既に終了している。よって今後は、用途に応じた単原子触媒の設計が可能になる段階に進んでいけると期待している。本研究は、ありふれた元素からなる安価な物質と高価な貴金属の効率的利用を可能にしたものであり、「元素戦略」に対応した成果だといえる。

支援事業

本成果は科学研究費補助金(No. 17H06153、19H05051、19H02512)、文部科学省元素戦略プロジェクト<拠点形成型>(No.JPMXP0112101001)、日本学術振興会 海外特別研究員(No.P18361)の支援によって実施された。

用語説明

[用語1] 広域X線吸収微細構造(EXAFS) : 原子によるX線の吸収端から50 eV~1,000 eV程度までの範囲に観測される振動のこと。吸収端を与える原子から飛び出した電子(光電子)があちこちに衝突した結果、電子の波が重なりあって生じる。これを解析することで、どんな元素が、どのくらいの距離に、どのくらい存在するかなどの情報を得ることができる。

[用語2] HAADF-STEM像 : 細く絞った電子線を試料に走査させながら当て、透過した電子のうち、大きな角度で散乱したものを環状の検出器で検出した像。原子番号に比例したコントラストが得られる。この試料ではカルシウム、酸素、アルミニウムに比べ、白金の像が強調されて観測される。

[用語3] TOF(Turnover Frequency、触媒回転数) : 1つの触媒サイトにおいて、単位時間あたりに生成物に変換できる分子数の最大値を表す。活性サイト当たりの触媒の活性の大きさの指標。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Stable single platinum atoms trapped in sub-nanometer cavities in 12CaO・7Al2O3 for chemoselective hydrogenation of nitroarenes
(ニトロアレン類の選択的還元のための12CaO・7Al2O3のサブナノメートルのキャビティーに捕捉された安定な単原子白金原子)
著者 :
叶天南(Tian-Nan Ye)、肖泽文(Zewen Xiao)、李江(Jiang Li)、巩玉(Yutong Gong)、阿部仁、丹羽尉博、笹瀬雅人、北野政明、細野秀雄
(※高エネルギー加速器研究機構、それ以外は東京工業大学 元素戦略研究センター)
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 元素戦略研究センター長

細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
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