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オートファゴソームを効率よく作る仕組みを発見

オートファジーの主役の働きが明らかに

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公開日:2021.07.13

要点

  • 脂質化Atg8は細胞内の不要な物質を分解する仕組み(オートファジー)で中心的な働きをするたんぱく質であり、その脂質膜上での立体構造が初めて明らかになった。
  • 脂質化Atg8は、膜の形を変化させることにより、細胞内の異物を包み込む膜(オートファゴソーム)を効率よく作っていることが分かった。
  • 細胞内でオートファゴソームを生み出す分子機構の一端が明らかとなり、それを標的とした薬剤の開発につながることが期待される。

概要

JST戦略的創造研究推進事業において、微生物化学研究所の野田展生部長、丸山達朗研究員、東京工業大学 生命理工学院の中戸川仁准教授、科学技術創成研究院の大隅良典栄誉教授らは、オートファジーで中心的に働くたんぱく質である脂質化Atg8[用語1]が膜の形態を変える活性を持つことを新たに発見し、その活性がオートファゴソームを効率よく作るのに重要であることを明らかにしました。

細胞内のたんぱく質などを分解する仕組みの1つであるオートファジーにおいて、オートファゴソームの形成は分解すべき対象を決定するための極めて重要なステップです。これまでに脂質化Atg8がオートファゴソームの形成において中心的な役割を果たすことが分かっていましたが、脂質化Atg8が脂質膜上でどのように働いているのか、その実体は分かっていませんでした。

本研究グループは、まず脂質化Atg8が膜の形態を変える活性を持つことを試験管内の実験で明らかにしました。次に脂質化Atg8の立体構造を溶液核磁気共鳴(NMR)法[用語2]で調べた結果、脂質化Atg8は脂質膜に対して特定の配向を取ることが分かりました。また、脂質化Atg8が脂質膜と相互作用する部位のアミノ酸を同定し、そこに変異を入れたところ、膜の形態を変える活性が失われ、オートファゴソーム形成効率も著しく低下することを見いだしました。以上のことから、脂質化Atg8は脂質膜と相互作用してその形態を変える活性を持っており、この働きによりオートファゴソームの形成を促進することを明らかにしました。

本研究によりオートファゴソーム形成に関わる分子機構の一端が解明され、今後、オートファジーを特異的に制御する薬剤の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、2021年7月8日(英国時間)に英国科学誌「Nature Structural & Molecular Biology」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「細胞内現象の時空間ダイナミクス」
(研究総括:遠藤斗志也 京都産業大学 生命科学部 教授)
研究課題名:
「多階層高次構造体群が駆動するオートファジーダイナミクス」(JPMJCR20E3)
研究代表者:
野田展生(微生物化学研究会 微生物化学研究所 部長)
研究期間:
2020年12月~2026年3月

背景と経緯

オートファジーは細胞内の主要な分解経路であり、有害なたんぱく質凝集体や傷ついたミトコンドリアなどの分解を通して、細胞の恒常性維持に働いています。そしてオートファジーの異常は神経変性疾患やがんなど、重篤な疾病につながると考えられています。オートファジーは、生体にとって極めて基本的かつ重要な現象であり、その仕組みを知ることは疾病の治療や予防法の開発のために欠かせません。

オートファジーでは、オートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋を新たに作り出し、分解対象を包み込んでリソソームへと運び、分解します。オートファゴソームの新生はオートファジーにおける最も特徴的かつ基本的な過程であり、多くのAtgたんぱく質[用語3]が担っています。中でも、脂質化Atg8はオートファゴソームやその前駆体である隔離膜に豊富に存在することから、オートファジーを担う中心的なたんぱく質として最も盛んに研究が行われ、またオートファジーの指標分子として広く用いられてきました。しかし、脂質化Atg8が脂質膜に対して持つ活性や、その活性がオートファゴソーム形成に果たす役割などはよく分かっていませんでした。

脂質化Atg8が作られる過程において、Atg8は他のいくつかのAtgたんぱく質が触媒する酵素反応を受けて、膜を構成するリン脂質のうちの1つと共有結合を形成します。このAtg8の脂質化反応は人工脂質膜を用いて試験管内において再構成することが可能であり、これまでに数多くの研究グループが試験管内で脂質化Atg8の機能を調べてきました。しかし、脂質化Atg8が脂質膜に対してどのような活性を持ち、それがどのようにオートファゴソーム形成に使われているのか、その仕組みは依然として謎に満ちていました。

研究の内容

これまでの試験管内でのAtg8の脂質化反応には一般的な球状の人工脂質膜が使われてきましたが、オートファゴソーム前駆体である隔離膜は非球状で形が異なるため、Atg8の機能を調べるには適さないと考えられました。そこで本研究グループは、隔離膜に形状が近い扁長の巨大人工脂質膜を調製し、それに対しAtg8の脂質化反応を行い、膜の形態へ及ぼす影響を調べました。その結果、脂質化Atg8の形成に伴って、扁長の脂質膜がくびれて、互いに連結した2つの球状の脂質膜へと変形することを見いだしました。このことから、脂質化Atg8は膜の形態を変える活性を持っていることが明らかになりました(図1a)。

はじめに、マイクロピペット[用語4]を用いて脂質化反応時の脂質膜の膜面積の変化を測定したところ、脂質化Atg8の形成に伴って膜面積が増えました(図1b)。この実験系では脂質化Atg8は脂質二重層の外層のみに作られることから、脂質化Atg8によって内層に対する外層の膜面積が増えた結果、上述したような膜の形態変化が生じたと考えられます(図1c)。

図1. 脂質化Atg8の膜変形活性

図1. 脂質化Atg8の膜変形活性

  • (a)

    Atg8の脂質化に伴って、扁長の脂質膜が、連結した2つの球状の脂質膜に変形する。(スケールバー:10マイクロメートル)

  • (b)

    Atg8の脂質化に伴って、脂質膜のマイクロピペット内の部分(白い矢頭)が増大している。(スケールバー:10マイクロメートル)

  • (c)

    脂質化Atg8の芳香族アミノ酸が脂質膜の外層と相互作用することで、内層に対して膜面積差が増えて、膜変形が生じる。(PC:ホスファチジルコリン、PE:ホスファチジルエタノールアミン)

次に脂質化Atg8の脂質膜上における立体構造を調べるため、溶液NMR法を用いて解析しました。その結果、脂質化Atg8は脂質膜に対して特定の配向を取ること、脂質化Atg8の芳香族アミノ酸[用語5]が脂質膜面と相互作用することが明らかになりました(図2)。また、その芳香族アミノ酸を別のアミノ酸に変異したところ、膜の形態変化および面積の増大が抑制されたことから、脂質化Atg8は芳香族アミノ酸を用いて脂質膜と相互作用することで、膜変形の活性を発揮することが分かりました。

図2 脂質化Atg8の構造 膜骨格たんぱく質を利用して脂質膜を可溶化し、そこに脂質化Atg8を再構成することで、溶液NMR法による解析を可能にした。その結果、脂質化Atg8は膜上において図のような配向を取り、脂質膜表面と相互作用することが明らかとなった。脂質化Atg8および膜骨格たんぱく質をリボン図、脂質膜を表面表示でそれぞれ示した。

図2. 脂質化Atg8の構造

膜骨格たんぱく質を利用して脂質膜を可溶化し、そこに脂質化Atg8を再構成することで、溶液NMR法による解析を可能にした。その結果、脂質化Atg8は膜上において図のような配向を取り、脂質膜表面と相互作用することが明らかとなった。脂質化Atg8および膜骨格たんぱく質をリボン図、脂質膜を表面表示でそれぞれ示した。

さらに、酵母と哺乳類細胞を用いてAtg8の芳香族アミノ酸の重要性を解析しました。Atg8の芳香族アミノ酸への変異導入によって、酵母におけるオートファゴソームの形成効率が著しく低下することが分かりました。さらに同様の変異を哺乳類Atg8に導入したところ、哺乳類細胞のオートファジー活性も低下することが分かりました。

以上の結果から、脂質化Atg8の膜の形態を変える活性がオートファゴソームの効率的な形成を可能にしていること、その活性においてAtg8の芳香族アミノ酸の重要性はヒトを含む生物種間で共通していることが明らかになりました。

今後の展開

オートファゴソームの形成は、脂質化Atg8を含む多数のAtgたんぱく質と脂質膜の相互作用によって達成されます。本研究では、扁長人工脂質膜とマイクロピペットを用いた技術を試験管内の再構成実験に新たに適用することで、脂質化Atg8の未知の活性を見いだすことに成功しました。このように新たな実験系の開発と応用をうまく組み合わせることで、個々のAtgたんぱく質が持つ活性とそれらの機能連携を明らかにすることが可能となり、オートファゴソーム形成の分子機構の完全理解につながることが期待されます。

オートファゴソーム形成はオートファジーの最も基本的かつ重要な過程であり、その理解を深めることは、オートファジーを人工的に高度に制御するためには不可欠です。本研究で確立した試験管内での活性測定系は、オートファジー制御化合物の活性評価に応用可能であり、オートファジーに関連したさまざまな疾病の治療や予防法の開発研究の促進にも寄与することが期待されます。

付記

本研究は、東京工業大学 生命理工学院の中戸川仁准教授および東京工業大学 科学技術創成研究院の大隅良典栄誉教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科の神吉智丈教授、順天堂大学大学院医学研究科の小松雅明教授、理化学研究所生命機能科学研究センターの嶋田一夫チームリーダーらと共同で行いました。

用語説明

[用語1] 脂質化Atg8 : 膜を構成するリン脂質と共有結合を形成したAtg8の名称。リン脂質は、リン酸エステルを持つ脂質の総称で、親水性の部分と疎水性の部分の両方を持っており、脂質膜に主に含まれている。脂質化Atg8はオートファゴソームや隔離膜に豊富に見られることから、オートファジーの指標分子として広く研究に活用されている。

[用語2] 核磁気共鳴(NMR)法 : 強い磁場中に置かれた原子核は、原子核の性質や周囲の環境に応じた周波数(共鳴周波数)の電磁波と相互作用する。核磁気共鳴法は、その電磁波をNMR信号として捉えることで、物質の構造や性質の情報を取得する手法。NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。

[用語3] Atgたんぱく質 : 酵母で同定されたオートファジーに関与するたんぱく質群の名称で、これまでに40種類以上報告されている。Atgの後におおよそ同定された順に通し番号が付けられている。Atgたんぱく質群のうち、栄養飢餓時のオートファゴソーム形成に重要なものは19種類である。

[用語4] マイクロピペット : 中空のガラスで作られた、口径が数~数十マイクロメートルの細管。今回の研究では、脂質膜を一定の圧力で吸引するために用いられ、マイクロピペット内に引き込まれた脂質膜の長さを計測することで膜面積変化を定量することが可能である。

[用語5] 芳香族アミノ酸 : アミノ酸のうち、トリプトファンやチロシン、フェニルアラニンのように、その構造の中に芳香環を持つアミノ酸の総称。たんぱく質の内部に埋もれて構造の維持に働く他、表面に出たものは他のたんぱく質や脂質膜との相互作用に働くことが知られている。

論文情報

掲載誌 :
Nature Structural & Molecular Biology
論文タイトル :
Membrane perturbation by lipidated Atg8 underlies autophagosome biogenesis
(脂質化Atg8による膜摂動がオートファゴソーム形成を可能にする)
DOI :

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東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

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