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金属原子の位置をヒントに複雑な高分子の立体構造を解明

新たな立体構造の解析手法として高分子材料の設計などに期待

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公開日:2021.08.19

要点

  • 複雑な立体構造を持つ樹状高分子錯体の立体構造を単分子レベルで解析
  • 原子分解能を持つ電子顕微鏡で捉えた画像の金属原子の位置を基に、理論計算によるシミュレーションとの比較によって構造を把握
  • 高分子錯体における構造-機能相関の解明や新高分子材料の設計などに期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の高田健司研究員(研究当時)、今岡享稔准教授、アルブレヒト建助教(研究当時)、山元公寿教授らの研究グループは、金属原子の位置を決定できる原子分解能を持った電子顕微鏡を用い、観察された画像を基に、高分子の複雑な立体構造を1分子レベルで解明する手法を開発した。

有機高分子材料は、包装容器から電子材料まで、社会の広範な分野で用いられている。その開発を進めるには、高分子を構成する分子一つ一つについて精細な立体構造を把握し、どう機能を発現するかのメカニズムを理解する必要がある。しかし一般的に高分子の立体配座は刻一刻と変化するため、これまで高分子の複雑な立体構造をサブナノメートルの精度で解明する方法は存在しなかった。

本研究では、イリジウム多核錯体の高分子を、原子分解能を持つ電子顕微鏡で観察した。高分子中に固定された金属原子の位置を手がかりとしながら、顕微鏡観察で得たスナップショットイメージと、理論計算によるシミュレーションイメージを定量的に比較することにより、高分子錯体分子の瞬間的な立体構造を決定した。

高分子の詳細な立体構造の解析を可能とした本手法により、これまでは未解明だった、高分子材料における構造-機能相関の解明や、新たな高分子材料の設計・開発につながることが期待される。

研究成果は2021年8月6日(米国東部時間)に米科学会誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。

背景

身の回りにある物質の構造を、原子レベルで明らかにしていくことは、化学の重要な命題の一つである。近年の顕微鏡観察技術の発展は著しく、さまざまな分子の構造を直接観察することによって、単分子レベルでの構造解析を行える時代が始まっている。特に電子顕微鏡を用いた生体分子の構造解析に関しては、たんぱく質などの生体高分子を急速冷凍し、低線量の電子線を照射して立体構造を解析するクライオ電子顕微鏡法が2017年のノーベル化学賞に輝くなど、複雑な分子の構造解明にも利用されている。その一方、複数の金属原子を分子内に持つ多核金属錯体や金属錯体高分子のうち、特に多くの金属原子を内包した複雑な高分子の構造については、最適な手法が見つからず、解析が進まない状態だった。

従来、多核金属錯体の構造解析では、多核金属錯体がとりうる膨大な種類の立体構造の平均構造しか得られなかった。したがって、多核金属錯体や金属錯体高分子の立体構造解析については、単結晶X線構造解析法に頼っている現状があった。そして、複雑な立体構造を持つ多核金属錯体や金属錯体高分子を単結晶の形で作製するのは難しいことから、同解析法は利用できず、それらの構造解析は達成できていなかった。近年、金属核数が少なく、単純な構造を持つものに関しては、電子顕微鏡観察による構造解析も行われるようになってきてはいるものの、複雑な立体構造を持つ多核金属錯体の構造解析については依然として未踏領域だった。

今回の研究では、そうした複雑な多核金属錯体の構造解析を行う観察手法として、試料の組成把握に適した走査透過電子顕微鏡(STEM)[用語1]をベースとしながら、金属原子の観察に強みを持つ高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM法)[用語2]を採用した。また3次元的で複雑な構造を持つデンドリマー[用語3]と呼ばれる樹状高分子多核錯体を対象に選び、電子顕微鏡で観察した同錯体の金属原子の位置を手がかりとしながら立体構造解析を行うことを目指した(図1)。

図1 金属原子の位置を手がかりとした高分子錯体の立体構造解析

図1. 金属原子の位置を手がかりとした高分子錯体の立体構造解析

研究の手法と成果

観察対象となる金属錯体高分子の作成

本研究で観察対象とした樹状高分子であるデンドリマーは、多くの枝分かれ構造を持つ複雑な立体構造をしている。そのため分子量が小さい場合でも結晶化が困難であり、従来の単結晶X線構造解析法では、一つ一つの分子の立体構造がつかみにくい化学物質であった。

本研究グループが所属する東京工業大学の山元・今岡研究室は、このデンドリマーの特定部位に金属を配置する技術を有している。今回の研究では、観察対象として、目印となるイリジウム原子を特定部位に固定したデンドリマーを作成し、これにシクロメタル化[用語4]を伴う金属固定化反応を用いることによって、イリジウムの数が11~17個であるイリジウム多核錯体分子をそれぞれ合成・単離した。

HAADF-STEM法を用いた、電子顕微鏡観での観察

次に、合成したイリジウム多核錯体分子を、炭素原子が原子1つの厚みで六角形の格子状に並んだグラフェン上に分散させ、HAADF-STEM法によって低加速電圧かつ低電子線量の電子顕微鏡観察を行ったところ、それぞれの多核錯体分子中のイリジウム原子の位置を顕微鏡像として捉えることができた。

シミュレーション結果と電子顕微鏡像を比較し、立体構造を解析

続いて、HAADF-STEM法で得られた顕微鏡像から、もとの多核錯体の立体構造を明らかにするため、理論計算によるシミュレーションを実施した。観察によって得られた電子顕微鏡像との比較を定量的に行うことで、電子顕微鏡像に対応する立体構造の探索を行った。

シミュレーションを実施するにあたって、分子が取りうる立体構造を支配するパラメーターは数多く存在しており、あらゆる構造に対して網羅的にシミュレーションを試みるには膨大な時間を要する。そこで、まずは第一のステップとして、特にイリジウム錯体の位置に大きく影響を与える、炭素-窒素単結合間の二面角のみに着目してSTEM像のシミュレーションを行い、得られた顕微鏡像と一致度の高い立体構造を選択した。また第二のステップとして、詳細に構造を最適化するという2段階で構造解析を行った。

その結果、イリジウム原子数が11~17個である各多核錯体について、実験的に観察されたSTEM像に対応する立体構造を確認でき、効率よく立体構造の解析を進めることができた。実験像とシミュレーション像の一致度は、両画像における、多核錯体内にあるイリジウム原子の位置のずれの大きさによって評価した。立体構造が解析できた顕微鏡像に対しては、このずれの大きさは平均でおよそ0.3 nm(100億分の3メートル)程度であった。これはイリジウム原子1個分の大きさにおおよそ等しく、ほぼ誤差はないと考えられる。

これにより、本手法を用いることによって、複雑な立体鋼構造を持つ樹状高分子錯体についても、原子分解能を持つ電子顕微鏡を用いることで1分子の構造を決定できることが実証できた(図2)。

図2 イリジウム12核多核錯体の化学構造式(左)と、実験及びシミュレーションで得られた原子分解能電子顕微鏡像(中央)から求められた立体構造(右)。
図2
イリジウム12核多核錯体の化学構造式(左)と、実験及びシミュレーションで得られた原子分解能電子顕微鏡像(中央)から求められた立体構造(右)。

今後の展開

本研究では、金属元素の位置を明確に決定できる高分解能電子顕微鏡観察法を用いて、複雑な3次元構造を持つ樹状高分子錯体1分子の構造を解析することに成功した。本手法は、従来多く用いられてきた高分子の平均挙動に基づく構造解析法とは異なり、単分子での詳細な構造解析が可能であり、高分子材料の構造-機能相関の解明のみならず、金属サブナノ粒子(クラスター)のようなアモルファス構造を持つ無機材料の構造解明にも繋がると期待される。

用語説明

[用語1] 走査透過電子顕微鏡(STEM/Scanning Transmission Electron Microscope) : 試料に向けて光の変わりに電子線を照射し、電子レンズを用いて高精度の観察を行う電子顕微鏡(EM/Electron Microscope)の一種。細く絞った電子線を用いて試料を走査(scan)し、透過した電子線を検出することで試料の観察を行う。物体の組成に関連した情報が得られる。

[用語2] 高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM法/High-Angle Annular Dark Field-STEM法) : 走査透過電子顕微鏡(STEM)をベースとした観察手法の一つ。環状に配置された検出器を用いて高角度に散乱された電子線を検出するため、高角度への電子線散乱の主な原因である熱散漫散乱が強い原子番号の大きい原子ほど明瞭に観察が可能であり、原子番号が大きく重い金属原子を、軽い非金属原子から明確に区別した観察が行える。また、電子線を原子のサイズまで絞ることで、1原子レベルの分解能での観察が可能となる。

[用語3] デンドリマー : コアと呼ばれる中心部分とデンドロンと呼ばれる規則的な枝分かれ構造からなる樹状分子。特異な形状と特性を有し、新たな機能材料として注目を集めている。本研究の観察では、金属と結合させることが可能な窒素原子を、枝分かれしたデンドロン部位に規則的に組み込んだフェニルアゾメチンデンドリマーを用いている。

[用語4] シクロメタル化 : 炭素-金属原子間結合の生成を伴う環化反応。本研究では、フェニルアゾメチンデンドリマー中の炭素-水素結合の活性化を通じて安定な炭素-イリジウム結合が生じ、シクロメタル化されたデンドリマー多角錯体が合成されている。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Metal Atom–Guided Conformational Analysis of Single Polynuclear Coordination Molecules
著者 :
Kenji Takada, Mari Morita, Takane Imaoka, Junko Kakinuma, Ken Albrecht, Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5261

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 今岡享稔

E-mail : timaoka@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5271 / Fax : 045-924-5261

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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