東工大について
東工大について
いよいよ東京2020オリンピック・パラリンピックの年が幕を開けました。学長に就任して3年目を迎える今年は、ホップ、ステップ、ジャンプの年です。2020年を飛躍の年にする、東工大の未来への挑戦を紹介します。
2019年、日本では新たな元号令和が始まり、ラグビーなどスポーツ界での明るい話題があった一方、災害も多かったです。また、世界経済、環境問題、グローバリゼーションの進化、国家主義の台頭などが、我々の生活にも大きな影響を与えています。今、状況はますます複雑になり、誰もが納得するような正解がない課題に直面しています。政府はSociety 5.0の実現に向け、イノベーションを起こす政策を打ち続けています。
このような時代に東工大がなすべきことの一つは、子どもたちや若者が、自分たちの望む未来を、そしてその未来で生きる希望を語れるような社会づくりに、研究、教育を通じて貢献することだと考えています。東工大と若者が、イノベーションを起こし、豊かな未来を創る原動力となるのです。
東工大は長期目標である「世界最高の理工系総合大学の実現」に向けて、教育改革、研究改革、ガバナンス改革、経営改革に取り組んできました。その結果として東工大は、日本の国立大学の中でもっとも進んでいると自負できるシステムを持つ大学となり、2018年に指定国立大学法人に指定されました。その次に、この進んだシステムを使って何をするか。2019年度には「東工大アクションプラン2018-2023」として、目標をたてるだけでなく、実行し成果を上げることを提示しました。その一つの柱として、「経営基盤の強化と運営・経営の効率化」を掲げています。
2020年に東工大が挑戦するのは、若者が生きる豊かな未来を創る機動力を得るための経営改革です。
「世界最高の理工系総合大学」の実現に向けて
東京工業大学は、2018年3月20日に文部科学大臣から指定国立大学法人の指定を受けました。これまで進めてきた教育改革・研究改革・ガバナンス改革を強みとして、創立150周年を迎えようとする2030年に向けて策定した、「指定国立大学法人構想」についてご紹介します。
挑み続け、未来を創る東工大
2017年に策定の「東工大ステートメント(Tokyo Tech 2030)」、2018年に策定の「東工大コミットメント2018」を受け、学内での対話を繰り返しながら、より具体的な取り組みとして「 東工大アクションプラン2018-2023」をとりまとめました。
国立大学の役割は、将来を牽引する優れた人材の輩出、学術・科学技術の奥義を極め人々の知的好奇心を満たし豊かな未来社会の芽を培う最先端研究の推進、これらの成果を活かす社会との連携にあることはいうまでもありません。その一方で東工大には、基盤的経費として年間約210億円の国費が投入されています。国立大学が法人化された2004年以降は、こうした経費は国がコストとして当然支払うべきものではなく、東工大が生み出す「ひと・もの・こと」への期待に対する社会の皆様の「投資」であると認識する必要があります。すなわち、経営改革における「経営」とは、投資者ともいえる社会の皆様の期待に応える成果を生み出すよう大学を運営し、社会の信頼を得て、その結果として資金や活動の機会、さらには大学で行う教育研究の自由を確保していくことに他なりません。
東工大をはじめとする国立大学の財政基盤は必ずしも盤石とは言い難い状況にあります。だからこそ、大学はこの状況を打破するためにも、経営改革によって新しい資源を獲得しなければなりません。ここで大切なことは、経営改革の目的が単に大学運営のための資源獲得ではないことです。社会の皆様からいただく資源を活かして大学をさらに強く元気にし、社会貢献を拡大していくことこそが経営改革の目的です。
東工大のステークホルダーが期待する事柄は当然、きわめて多岐にわたります。これらに応えていくためには、学生の主体的な学びに基づく人材輩出、教員・研究者の自由な発想に根ざした先端研究と得意分野を活かした社会貢献など、東工大の生み出す「ひと・もの・こと」の多様性がまず重要です。その上で、得られた多様な成果をステークホルダーの皆様に「納得感」を持って理解いただくため、東工大が生み出す成果の効果を高め、それに要するコストを含めてわかりやすく社会に発信し、評価を受けることが求められます。これらによってはじめて、アクションプランの中でも述べた「世界で最も高い付加価値を生む大学」としての地歩を固めることができると考えています。
東工大が生み出す成果の付加価値を高めるためには、学生にはよい学びのプログラムと環境を、教員には教育・研究に熱中できる環境を、それらを支える事務職員・技術職員には働きがいのある職場の仕組みを、それぞれにかかるコストを意識しながら用意することが重要です。一見当たり前のことですが、目的が類似した教育プログラムの整理や、教育・研究・社会貢献等以外の業務の削減による教員の自由な時間の確保、事務作業の効率化など、いわゆる合理化を図るべき事柄がまだまだ多く残っています。教育・研究環境にしても、類似の機能を有する施設や装置の共有化によって必要なコストを削減することができるでしょう。こうした合理化と新しいことへのチャレンジ精神とのバランスをとりつつ、学生・教職員が満足できる大学運営を行っていくことこそが経営改革の中核です。
これらに必要な資源は、東工大が生み出す「ひと・もの・こと」への期待に対する社会の皆様の「投資」を充てます。東工大の成果の付加価値が高まれば社会から投入される資源や機会、活動の自由度も充実し、さらに高い付加価値を社会に還元できるという「好循環」を実現することが経営改革のもう一つの柱です。このためには、先にも述べたように、東工大が生み出す成果の効果とコストをわかりやすく社会に発信する活動が重要になります。
経営改革に向けた取り組みは既に昨年から始まっています。その一つは、オープンイノベーション機構を核とした戦略的産学連携による東工大の研究者に対する評価と信頼の増強です。こうした取り組みを背景に、経営改革を強力に推し進めるため、学長自らが情報発信と社会に働きかけを行って東工大の生み出す成果への評価と期待を高め、結果として財政基盤の強化を図る「アドバンスメントオフィス」、学内の教育・研究や運営業務の合理化と適切な資源配分を担う「戦略的経営オフィス」、さらに学内施設・装置の共有化と利用サポートを一元的に行う「オープンファシリティセンター」の設置準備を開始しました。これらの組織による「好循環」実現のコンセプトを2019年度の「国立大学経営改革促進事業」と「国立大学イノベーション創出環境強化事業」に申請し、いずれも採択いただきました。2020年には、両事業の支援による資源も投入しながら、東工大を強く元気にする「好循環」が実現できるよう、経営改革への取り組みを本格化させます。
経営改革による「好循環」が実現できれば、そこで生まれた資源を投入することで、学生と研究者が元気になります。例えば、今年大岡山キャンパスに学生のための国際交流拠点としてHisao & Hiroko Taki Plaza(以下、Taki Plaza)がオープンします。学生主体の「つながる」場であるTaki Plazaで、学生が自ら進んで学んだり多様な人たちと交流したりする活動を支援することで、アクティブな学生が育ちます。また、例えば、学生を育てる教員の環境の改善も行います。今までの支援のような最新鋭の研究設備設置だけでなく、教員の時間を生み出すような支援を進めていきます。教員がより良い教育、より良い研究を行える時間をもてるようにすることで、社会に貢献できる人材を送り出し、世の中を変えるような新しい研究成果を生み出せます。人材育成や研究は、すぐには社会の役に立つことではありませんが、大学にしかできない、大学の役目です。東工大の元気な学生、元気な研究者が、将来のイノベーションを生み出し、豊かな世界と未来を創ります。
東京2020オリンピック・パラリンピックが開催され注目を浴びる2020年。一流のアスリートにとって挑戦する年である今年、東工大も未来を創る経営改革に果敢に挑戦していきます。
東京工業大学学長
益 一哉
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2020年1月掲載