東京工業大学基金

腸内環境の解明 山田拓司 講師

腸内微生物の実態解明に力を注ぐ

私が携わっている研究は「腸内環境の解明」で、対象は腸内細菌です。具体的には、ヒトの腸の中にどんな細菌がどれくらい生息しているのか、腸に良い影響、悪い影響を及ぼしているのはどんな細菌かといったことを調べています。

人間の体というのは、言ってみれば縦長のドーナツのような構造をしています。口の中は、実は内側ではなく「外側」なのです。なぜかと言うと、口腔から食道や胃、腸と1本の管のようにつながっている人間の消化管は、ドーナツに例えれば真ん中の穴の部分に相当します。体の中を貫通していますが、食べ物という「異物」に常に触れていることから、肌と同じ表層と解釈できるのです。

そのヒトの体内には、「恒常性」といって自分の体を維持する機構が働いています。ところが、口内や腸管は前述のように外側にあたるため、維持機構が少し弱くなるのです。それゆえ、体に異常が出てくると、体の中よりも外側に対して「ブレ」、つまりガンなどの深刻な病気の予兆が最も早く出現する可能性があります。その「ブレ」をいち早くキャッチし、治療が困難になる前に患部の異常を根治させることを目的として、1,000種100兆個ともいわれる腸内微生物の動きや反応を調べることが、私たちの研究における主題です。

公費以外の資金獲得方法を模索して「基金」にたどり着く

公費以外の資金獲得方法を模索して「基金」にたどり着く

以上のような研究活動を、被験者の腸の状態を調べながら行っているわけですが、一定の結果を得るまで研究を続けるためには、1人あたり20万~30万円の費用が必要になります。欧米では、資金の調達方法としてクラウドファウンディングを活用して不特定多数の人たちから研究費を集めるという手法が流行っており、私も2012年にヨーロッパから帰国し東工大に着任する際にその方法を試みようとしたのですが、当時の日本の大学ではまだそのようなモデルは浸透しておらず、何か別の方法はないかと模索していました。

そんな矢先、たまたまテレビで、私の母校でもある京都大学のiPS細胞研究所の山中伸弥教授がマラソンをして寄附を募り、研究に充てているというニュースを目にしまして、「何かヒントが得られるかもしれない!」 と、早速京都大学に詳細を問い合わせてみたのです。すると、山中先生がこの時採用されていたのは、研究者個人への「寄附」ではなく、目的を明確に定め資金を集める「基金」という方法であったことがわかりました。そして、さらに調べてみると、東工大にも基金室があることに行き着いたんです。すぐに問い合わせてみたところ、ちょうど創立130周年の寄附を募るため大学とお付き合いのある企業に挨拶回りをされるとのことでしたので、そのプロジェクトの中に「腸内環境の開発」を加えていただき、スタッフの方と一緒に企業に基金への参加をお願いして回ったというのが、ことの始まりです。

実際の反応としましては、腸内環境の解析という性質上、個人の方よりも企業の方々にポジティブに受け止められている感があります。この基金活動を通して、今後もさらに多くの企業の担当者とコネクションを構築し、世の中に役立つ新たなビジネスの構築に役立てていただければ嬉しい限りです。

基金を活用して出版も実現

我々大学が主に使用できる文部科学省の平成27年度「科研費」の予算は、総額で約2,300億円にのぼります。ただ、一研究室レベルで考えると、十分な研究を進めるためには、これでも不足が生じてしまうのが現状です。したがって、持続可能な形で研究を続けていくには、国の予算以外の資金調達を行う必要があります。そういう意味では、今後は研究をリードする立場の人には、資金を調達するマネジメント能力が非常に問われてくると思われます。先に述べたようなクラウドファウンディングも選択肢に入ってくると思われますし、さらには、法的な問題をクリアする必要がありますが、一般的な企業体として利益を生む構造を備えた大学のあり方というものも、将来的に考えていく必要があるのではと感じています。基金の利用はそうした学外からの資金調達活動の一つです。持続可能な研究を行うための活動として、2015年3月にベンチャーも立ち上げました。学生が取締役に就いています。このように「継続して研究を進めるための資金をいかにして集めるか」については、色々な活動を行っています。ベンチャーを作り、基金を創設し、食品関連企業や製薬会社から寄附を募り、それらの資金を研究成果に還元していく仕組みを構築すべく活動しています。

基金を活用して出版も実現

実は、学生たちのプロジェクトの一環として、昨年12月に1冊のボードゲームが出版されました。「バクテロイゴ」という腸内細菌ゲームで、腸内で活動する細菌の働きや仕組みを陣取りゲーム形式にして、子ども達に分かりやすく、楽しく学んでもらおうと、生命理工学部の学部生たちが開発したものです。発売前にはサイエンスカフェや子ども向けの科学イベントなどでも使用しましたが、「とても楽しい!」「勉強になる」と子ども達に大好評で、今回の発売に至っています。発行は外部の出版社になりますが、基金室のホストのおかげで、研究費として還元されるような仕組みを作っていただきました。こうした制作物の発行が、将来的には学内で行えるようになれば、研究室や学生にも新たな刺激が生まれるのではと思っています。

基金室の手厚いサポートがあって道が開けた

このように、これからの研究や学生の将来に目を向けるといろいろと考えが頭をよぎりますが、こうして継続的・発展的に研究を続けていくことの道筋がつけられたのは、ひとえに基金室の皆さんのお力添えがあってこそです。我々研究者があまり得意でないような事務手続きや大学との調整など、いろいろな局面でサポートしてくださるので、本当に感謝しています。これからも宜しくお願いいたします。

(インタビュー実施:2015年12月18日時点)
(所属・職名はインタビュー時点のものです)

※1 バクテロイゴ

東工大基金事業「日本再生:科学と技術で未来を創造する」プロジェクト−ものつくり人材の裾野拡大支援−を活用し、株式会社リバネスと産学連携本部、東工大生協の協力を得て制作されました(2015年12月15日リバネス出版より発売)。

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