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最小の三元素合金:金・銀・銅原子からなる三角分子の直接観測に成功

異種原子が結合する瞬間をリアルタイムで観察、新たな触媒設計を実現する構造解析手法として期待

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公開日:2022.06.15

要点

  • 種類の異なる原子が結合し、異核多原子分子を形成する瞬間を世界で初めて観察
  • 本研究で用いた環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(ADF-STEM法)により、金-銀-銅を各1原子ずつ含む最小の三元素合金を直接観測
  • 未知の原子集合体の解明を通して、触媒の機構解明や設計などに期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の今岡享稔准教授、山元公寿教授、物質理工学院 応用化学系の稲津美紀大学院生(研究当時)、赤田雄治大学院生らの研究グループは、高分解能な電子顕微鏡を用いて、異種の金属原子が結合する様子を世界で初めてリアルタイムに観察した。またこの手法により、これまで不可能だった、金-銀-銅を各1原子ずつ含む最小の三元素合金AuAgCuの直接観測にも成功した。

原子間結合の形成や切断によって得られる膨大な化合物の知見は、今日の有機化学や錯体化学、無機化学の基礎になっている。近年、一過性の過渡的にしか生成されない不安定な金属原子の集合体が、触媒反応における真の活性種であると考えられるケースも多く、特に「どのような集合体が一過性に形成されるのか」を知ることは重要であった。しかし、安定して結合する化合物でなければ、その存在を観測し、構造解析することは極めて困難である。

本研究では、グラフェン上にさまざまな金属原子を分散させたサンプルを用意し、原子を観察できる分解能を持つ電子顕微鏡で、結合の様子をリアルタイムに動画観察した。収録した動画を適切に画像処理することで、動く原子ひとつひとつの元素の種類を特定し、観察中に次々と生成していく分子の種類や構造を決定した。

安定的に単離できない、一過性の金属集合体でも準安定構造の観測を可能にした本手法によって、これまで未知であった原子集合体を形成する元素や形成過程の解明が可能になり、触媒の機構解明や新たな設計などにつながることが期待される。研究成果は5月27日に英科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

背景

原子間結合の形成や切断は化学の本質であり、これまでに単離された膨大な化合物の構造や反応の知見は、今日の有機化学や錯体化学、無機化学の基礎になっている。こうした化学結合の研究は通常、安定した分子や固体を合成し、その構造を解析することでしか行うことができない。特に触媒科学では一過性の過渡的にしか生成されない不安定な金属原子の集合体が、触媒反応において真の活性種であると考えられるケースも多く、特にこうしたケースにおいてどのような集合体が形成されるのかを知ることは重要な課題であった。このような不安定な物質の原子間結合を観測する手法として、電子顕微鏡を用いた原子分解能の動態観察は非常に強力であると考えられた。

近年、収差補正技術の進歩により、連続した原子像観察による原子ダイナミクスの直接観察が可能になってきた。この手法により観察した、次々と生成する原子配列構造の中には、計算化学と一致する配列や結合距離を持つ構造が多数観測されている。ただし、この方法で異種原子間結合を観測するためには原子1つの元素識別が必要となる。

電子顕微鏡と組み合わせる元素識別を可能にする分析手法としてはEDS(エネルギー分散型X線分光法)やEELS(電子エネルギー損失分光)が一般的である。しかし、原子カラムの元素マッピングや、高電子線量の照射による単原子の同定は報告されているものの、検出感度や電子線照射による試料損傷の問題から、どちらの方法も動く原子の同定には適用できず、金属原子からなる分子(クラスター)内で各元素がどのように配列しているのかは分子軌道計算等で予測するしか方法がなかった。

今回の研究では、そうした複数元素からなる金属集合体分子の構造解析を行う観察手法として、原子1つの輝度が原子番号と相関する環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(ADF-STEM法)[用語1]を採用した。原子は観察中に刻一刻と動くため、原子の座標を追跡しながら輝度を計測する動画のトラッキング分析を行った(図1)。

図1 ADF-STEM法を用いた金属原子の集合体観察

図1. ADF-STEM法を用いた金属原子の集合体観察

研究の手法と成果

1. 単原子の輝度計測と原子番号との相関

ADF-STEM法では原子は明るい輝点として観察され、その輝度は原子番号のn乗(nは1~2の間の数)に比例すると言われている。グラフェン上に担持された金、銀、銅原子をそれぞれ多数観測して、適切にノイズとバックグラウンドを除去した画像の原子輝度分布をとった。それぞれは正規分布に近い分布をもっており、それぞれの最頻値は原子番号Zの1.15乗に比例することが判明、これらはADF-STEMのシミュレーションから予測される相関関係と良い一致を示すことが判明した。また、動画のトラッキング分析から得られる各原子の輝度の誤差は十分に小さく、金、銀、銅原子を互いに99%以上の精度で識別できるものであった。

2. 金属原子間結合の実証

グラフェン上に蒸着した金、銀、銅原子を動画で観察したところ、常に原子がグラフェン表面を動き回り、原子同士が結合したり離れたりする様子が観測された。動画(図2A)によると、原子同士はある程度の距離まで近づくと互いに引き合い、結合しているように見える。その動きのパターンを理解するため、ある動画フレームにおける2つの金原子間の距離(図2B)と、次のフレームで結合が伸びるのか縮むのかという頻度の統計を調査した。すると(図2C)に示すように多くの場合、2つの原子間の距離は金二量体の結合距離である約0.26 nmを最頻値として分布しており、(図2D)に示すようにその距離を境に伸びる頻度と縮む頻度が切り替わっている様子が確認できた。これは平衡核間距離(0.26 nm)より遠い場合、原子間に引力が働いていることを示している。

図2. (A)金原子二量体の連続撮影画像、(B)2つの金原子間距離の時間変化、(C)原子間距離ごとにつぎのフレームで距離が縮む場合(正)と伸びる場合(負)をそれぞれ別々にカウントしたヒストグラム、(D)パネル(C)の正負のヒストグラムの差分を表示したヒストグラム
図2.
(A)金原子二量体の連続撮影画像、(B)2つの金原子間距離の時間変化、(C)原子間距離ごとにつぎのフレームで距離が縮む場合(正)と伸びる場合(負)をそれぞれ別々にカウントしたヒストグラム、(D)パネル(C)の正負のヒストグラムの差分を表示したヒストグラム

3. ADF-STEM法を用いた二原子分子、三原子分子の直接観察

原子間で絶えず結合が生成、切断する様子が観察された。結合は同種の原子間のみならず異種原子間でも生成しており、計24種類の同核および異核二原子分子を初めて直接観察した(図3)。さらに、バルク金属中では通常相分離して均一な合金をつくらない貨幣金属である金、銀、銅の原子それぞれ1つずつからなる三原子分子の観察にも世界で初めて成功した(図4)。

図3. 同核二原子分子と異核二原子分子および異核三原子分子のHDF-STEM像(上段は撮影されたオリジナル画像、下段は画像処理によって原子ごとに着色した画像)
図3.
同核二原子分子と異核二原子分子および異核三原子分子のHDF-STEM像(上段は撮影されたオリジナル画像、下段は画像処理によって原子ごとに着色した画像)
図4. 今回直接観測に成功した金銀銅AuAgCu異核三原子分子のHDF-STEM像(上段は撮影されたオリジナル画像、下段は画像処理によって原子ごとに着色した画像)
図4.
今回直接観測に成功した金銀銅AuAgCu異核三原子分子のHDF-STEM像(上段は撮影されたオリジナル画像、下段は画像処理によって原子ごとに着色した画像)

今後の展開

本研究では、金属元素の位置を明確に決定できる高分解能電子顕微鏡観察法を用いて、異種の金属原子が結合する様子を世界で初めてリアルタイムに観察した。またこの手法により、これまで不可能だった、金-銀-銅を各1原子ずつ含む最小の三元素合金AuAgCuの直接観測にも成功した。本手法は今後、金属サブナノ粒子(クラスター)のようなアモルファス構造を持つ無機材料の構造解明にも貢献し、新たな触媒設計などにつながるものと期待される。

用語説明

[用語1] 環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(ADF-STEM法/Annular Dark Field-STEM法) : 試料に向けて光の代わりに電子線を照射し、電子レンズを用いて高精度の観察を行う電子顕微鏡(EM/Electron Microscope)の一種。細く絞った電子線を用いて試料を走査(scan)し、透過した電子線を検出することで試料の観察を行う。環状に配置された検出器を用いて高角度に散乱された電子線を検出するため、高角度への電子線散乱の主な原因である熱散漫散乱が強い原子番号の大きい原子ほど明瞭に観察が可能であり、原子番号が大きく重い金属原子を、軽い非金属原子から明確に区別した観察が行える。また、電子線を原子のサイズまで絞ることで、1原子レベルの分解能での観察が可能となる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Dynamic hetero-metallic bondings visualized by sequential atom imaging
著者 :
Minori Inazu, Yuji Akada, Takane Imaoka, Yoko Hayashi, Chinami Takashima, Hiromi Nakai, Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5261

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 今岡享稔

E-mail : timaoka@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5271 / Fax : 045-924-5261

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

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