東工大について

益一哉学長×池上彰特命教授 対談「挑み続け、未来を創る大学へ」

学長就任から1年、教職員や学生との対話を大切にし、教育・研究・ガバナンス改革をさらに推し進めながら、指定国立大学法人として新たな取り組みを積極的に行ってきた益一哉学長が、ジャーナリストでもあるリベラルアーツ研究教育院の池上彰特命教授との対談を通じてこれまでの活動を振り返るとともに、東工大の未来について語りました。

未来をデザインする大学

益一哉学長

私が東工大の学長に就任して、約1年が経ちました。この間、指定国立大学法人構想の実現に向けた取り組みを中心にさまざまなことを実行してきました。中でも、昨年(2018年)9月に設置した「未来社会DESIGN機構」(以下、DLab)は、池上先生にも構成員として参加いただいていますが、東工大にとっては新たな試みを実践する組織として立ち上げたものです。
私たちが未来社会を描く場合、どうしても既存の科学や技術の延長で考えてしまいます。DLabは、そうではなく、自分たちが望む未来社会を考えるところから出発しようと。まず、望ましい未来社会を描いてみて、それを実現するためにどういうクリエイティブな研究ができるだろうかと発想していくわけです。

池上私も構成員に入れてもらい、DLabの活動については随時お話を聞いてきましたが、初めてDLabのことをお聞きになる方のために、どういう人たちが参加しているのかご紹介いただけますか。

とにかく多様で大勢の人を巻き込みたいので、さまざまな専門分野の教員や職員、さらに他大学の教員や、行政、広告会社、メディアといった分野の有識者にも参加してもらっています。
昨年の10月28日には、ワークショップ形式のキックオフイベントも行いました。イベントには、東工大の学生、学外の高校生や社会人、卒業生、メディア関係者など、130人以上が集まり、充実したワークショップになりました。

池上私が東工大で教えるようになって8年目になりますが、その間も、次々と新しい試みや改革が実践されてきました。いま説明いただいたDLabにしても、非常に大胆な試みですね。東工大というと、専門的な研究を地道に積み重ねていくようなイメージがありますが、これからは大学が総力をあげて、未来社会をデザインするわけですよね。

確かに、DLabの構想がまとまるまでには異論も出ました。ただ、研究者はみな、自分の研究分野についてはそれぞれ未来を語ってきたと思うんです。だから、まったくやっていないことではないんですね。
その想像力を未来社会にまで広げて考えようというのがDLabです。これから東工大が社会に貢献しようという場合、貢献すべき社会がどうあってほしいのか。それを描かずして、未来の技術も語れないだろうと思いますから。

池上彰特命教授

池上自分の研究分野だけに閉じこもらず、未来社会に対して自分の研究がどう貢献するかを考えることで、視野も広がりそうですね。こういった試みは、政府が掲げる「Society5.0(ソサエティー5.0)」と関わりがあるんでしょうか。

最初からそれを念頭に置いて、未来社会を語ろうとは考えていません。これから議論が進んでいく過程で、ソサエティー5.0やSDGs(持続可能な開発目標)と通じるものは出てくると思いますが。

池上それを聞いて安心しました(笑)。ジャーナリストからすると、「未来はこうあるべきだ」という政府の指針には、どこか懐疑的になってしまうもので。もちろん、政府として目標を立てなければいけない事情もわかるけれど、研究者が自ら、未来のあり方について考えるのが本来の姿だと思います。

行動する大学

池上さんは、8年間東工大で教えられて、どんな変化を感じられていますか。

池上私が着任した年は、興味本位もあって履修希望者が殺到したんですね。それもあって、240人の大教室がいっぱいになった。でも、履修者の3割は成績がよくなかったから、単位をあげませんでした。その結果、翌年、翌々年と、履修希望者ががくんと減り、50人ぐらいの小さな教室に落ち着きました。
ところが2016年に「リベラルアーツ研究教育院」がつくられ、「東工大立志プロジェクト」が始まりましたよね。学士課程1年目の学生全員が、人間や社会のあり方について第一線で活躍する識者の講義を聞き、少人数で議論する。
私の講義は2年生向けですが、立志プロジェクトを受講した学生が2年生になったとたん、履修希望者がまた激増したんです。しかも席が前から埋まり、講義前に専門とは関係ない本を読んでいる学生もちらほらいる。身をもって、教養に対する学生たちの態度の変化を実感しています。

益一哉学長

私は学長に就任してから、さまざまな立場の教職員や学生と話をし、東工大は人に恵まれていることに、あらためて気付かされました。
東工大では、2017年に「2030年に向けた東京工業大学のステートメント」というものを発表しています。その冒頭には「ちがう未来を、見つめていく。」というコピーが掲げられています。
この言葉を旗印に、改革を進め成果を出していかなければいけない。そのためにどうすればよいかを教職員と議論している中で、まず、未来の東工大についての共通の価値観を、「東工大コミットメント2018」として発信することにしたのです。それが「多様性と寛容」、「協調と挑戦」、「決断と実行」の3つです。

池上学生も教職員も、この3つを念頭に置いて学び、教育や研究をしていこうということですね。

そうです。これを昨年の10月に策定しました。その後、この3つの価値に基づいて、どのようにちがう未来を見つめていくか、という具体的なプランを教職員たちと一緒に議論しました。そうしてできあがったのが「東工大アクションプラン2018-2023」です。

「ステートメント」から「コミットメント」へ、そして「アクションプラン」へ

このアクションプランが目指すべきものは「挑み続け、未来を創る東工大」です。それを実現するために、「創造性を育む多様化の推進」「student-centered learningの推進」「飛躍的な研究推進で社会に貢献」「経営基盤の強化と運営・経営の効率化」という4つの柱を立てました。

池上彰特命教授

池上教育と研究を地道にやっていればいいんだという大学像では、もう立ち行かなくなってきているのですね。少し意地悪な言い方をすると、いま文部科学省が盛んに改革しろと号令をかけ、他の大学も押し付けられたからしようがないというかたちで、学内の改革に取り組んでいます。東工大はどうでしょうか。

確かに大学改革への期待があることは認識しています。でも、東工大がこれからの未来社会に本気で貢献しようと思ったら、受け身ではなく、自分たちからやりたいことを発信したほうがいい。それが「東工大アクションプラン2018-2023」なんです。

池上ジャーナリストも同じです。編集長から「これをやれ」と押し付けられた企画だと、やる気が起きません。自分で「こんなことをやりたい」と発信して、必死になって周りを説得して「じゃあやってみろ」と言われると、本当に一生懸命やるんですね。

学内に向けては、東工大がもっと社会に貢献していくためにアクションプランを出したことを、継続して伝えていかなければならないと思っています。いまは多くの大学でも、数年にわたる目標を掲げています。でも大事なのは、ただ掲げることではなくて、それを常に学内に向けて発信し続けることです。具体的には、夏から秋にかけて、学内教職員との対話会を各キャンパスで実施する予定です。それとは別に、将来の大学を担う世代である若手教職員とも積極的に対話を続けていきたいと考えています。

攻めの産学連携

池上益学長自身は、これからどういうアクションを起こしていこうとお考えですか。

特に、学外に対しては、産学連携に本気で取り組みたい。あるテーマについて、産業界と積極的に連携して共同研究し、その成果を社会に使ってもらう。そういった「攻めの産学連携」を、基礎研究から製品化までさまざまな段階で蓄積していきたいんです。

池上30年先、40年先の未来を考えたとき、基礎研究は非常に重要ですね。でも、なかなか目先の成果に結びつかないので、研究資金が集まりづらい面もあるのではないでしょうか。

おっしゃるとおりです。だからこそ、産学連携を推進することで、社会から東工大に投資を呼び込み、その一部を基礎研究に使っていきたいんです。僕らはそれを知の循環と言っています。
産業界と連携する応用的な研究と、基礎研究は対になるもので、どちらかだけではダメなんですね。産業界で使ってみることで、基礎研究の見直しにつながっていくこともあるわけですから。

池上基礎と応用の双方向性を大事にするということですね。東工大ならではの産学連携や社会貢献、そしてDLabを中心とした未来を描く活動に、東工大、DLab双方の一員である私自身も期待しています。

益学長と池上特命教授

未来社会DESIGN機構(DLab)について

未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、本学の指定国立大学法人構想の中核組織として2018年9月に発足しました。

東工大はDLabで何をしたいのか? それは、この組織の名前が示すとおり「未来社会のデザイン」です。近年、未来社会をデザインするという活動は、多くの民間企業や大学などで行われていますが、DLabが目指すのは、科学技術の発展や課題解決によって見えてくる「あるべき未来」ではなく、人々が望む「ありたい未来」です。この「ありたい未来」を模索し、そこに至る道筋を含めて社会に提示し、社会のみなさんと一緒に「ありたい未来」の実現に向けた活動を行う、東工大がDLabを発足させた目的はここにあります。

DLabには、社会の様々な意見を取り入れるため学内外から多様な構成員が集まっていますが、まだ誰も見たことのない「ありたい未来」を提示するという活動は、構成員たちの予想を超える困難なものでした。それでも、2018年度に行ったワークショップ参加者の「ありたい未来の種」などを基に、東工大ならではの「東工大未来年表(仮称)」を作成し、そこから未来社会像を創出するという計画を立て、取組を開始しています。

2019年度末には、DLabとして最初の未来社会像を社会に提示し、多くの方と意見交換したいと考えています。今後もDLabの活動にご注目ください。

未来社会DESIGN機構

社会とともに「ちがう未来」を描く
科学・技術の発展などから予測可能な未来とはちがう「人々が望む未来社会とは何か」を、社会と一緒になって考えデザインする組織です。

未来社会DESIGN機構(DLab)outer

「ステートメント」から「コミットメント」へ、そして「アクションプラン」へ

本学は、2004年国立大学法人化の際に「世界最高の理工系総合大学の実現」を長期目標に掲げ、2030年には「世界トップ10のリサーチユニバーシティ」となることを目指しています。

この目標に向け、2017年には東工大に集う我々は一体何者なのかを、学生、教職員によるワークショップを通じて議論し、「ちがう未来を、見つめていく」に始まる「東京工業大学のステートメント2030」を発表しました。

2018年4月に就任した益学長は、これから世界の大学に伍していくために本学構成員ひとりひとりが如何に取り組むかを「東工大コミットメント2018」として発表しました。 そして、長期目標である「世界最高の理工系総合大学の実現」に向けてより具体的に取り組むべき課題を示したのが「東工大アクションプラン2018-2023」です。ステートメントは「我々は何者であるか(Who we are)」を、コミットメントは「我々はどうやるか(How we do)」を、アクションプランは「我々は何をやるか(What we do)」を示しています。これらはいずれも東工大構成員の対話の中から生まれました。

これから「Team 東工大」一丸となってこのアクションプランを実行し、“挑み続け、未来を創る東工大”として社会の中での立ち位置を確固たるものとします。そして、世界のイノベーションの中心に立ち、科学技術の力によって人々の幸せの実現に貢献していきます。

Tokyo Tech 2030

ちがう未来を、見つめていく。
役員・教職員・学生の参加によるワークショップを通じて、2030年に向けた東京工業大学のステートメント(Tokyo Tech 2030)を策定しました。

Tokyo Tech 2030

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2019年07月掲載

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp