東工大について

対談 益一哉学長(東工大)×田中雄二郎学長(医科歯科大)

(左から)田中雄二郎学長、益一哉学長(左から)田中雄二郎学長、益一哉学長

田中雄二郎

東京医科歯科大学 学長

益一哉

東京工業大学 学長

東京科学大学の開学まで1年を切りました。ここまでの歩みをどう振り返るのか、また今後の大学運営をどう考えるのか。東京工業大学の益一哉学長が東京医科歯科大学の田中雄二郎学長と語り合います。

田中雄二郎 東京医科歯科大学 学長
田中雄二郎 東京医科歯科大学 学長

― 東工大が医科歯科大と統合し、2024 年10 月に東京科学大学となることが決まりました。統合に向けたこれまでの歩みは長かったですか。

田中:やはり長かったかな。色々ありましたからね。

:うーん、長いような短いような。どちらとも言えますね。

― 想定通りには進んできたのでしょうか。

:調整が大変な部分もあるけれど難航したとまでは言えないでしょう。

田中:予想外のことも起きましたからね。

:そのような中、教員・事務職員・非常勤ほか多くのTeam 東工大メンバーによる理解と献身的な支えがあってこそ、ここまで進められました。本統合に関してご協力頂いている皆様にあらためて感謝したいと思います。

― 統合まで1年を切っています。開学までの時間は足りていますか。

田中:足りる足りないではなく、間に合わせないといけませんよね。合意できることは合意して、どうしても合意し切れないなら、暫定的な合意であっても、開学までの間に決めていく。そうせざるを得ませんよ。

:最善を尽くして、最後の最後は割り切る。勇気をもって決断することが大事です。

―統合が決まった後、在校生・卒業生・教職員など、関係者から言われた言葉で印象に残るものを教えてください。

益一哉 東京工業大学 学長
益一哉 東京工業大学 学長

:教職員からは、学長が覚悟を示せと後押しされましたね。統合したいならついて行くから、先頭に立って世の中に向けて発信してほしいと。それはもう「はい!」って二つ返事です。

田中:特定の言葉より「絶対反対」とは言われなかったことが印象に残っています。ちょっと予想外ではありました。

:それは、東工大も同じですね。「絶対反対」は案外言われていません。

― それはなぜですか。

田中:一つは、今のままでは飛躍的な発展が見込めないからでしょう。立場は違えども多くの方が感じていたはずです。もう一つは、社会的正義にかなっているから、ですかね。

:東工大からみれば、医学や歯学がミッシングパーツではないか、と多くの関係者が受け止めていた面もあるかと思います。

― 医科歯科大にとっても、似たような感覚はありますか。

田中:ありますね。しかも、理工系の大学と組むなら東工大しかない、と。

― 同窓生の方々とのつながりについては、どうお考えですか。

:同窓生コミュニティーは、大学全体が発展し、社会の中に変革をもたらすためにも絶対必要な存在です。大学としては、同窓生の皆様に対して可能な限り多くの接点をつくり、自らの活動を発信していく必要があります。同窓生の皆様に味方に付いて頂くと寄附にもつながりますからね。

田中:両大学の卒業生は東京科学大の図書館を利用できたり病院を受診できたりするのはどうでしょう。名称が変わると卒業生は母校に行きにくくなりますから、統合後も身近に感じてもらう仕組みをつくりたいですよね。実現するのは簡単ではないですが、卒業生であることを示すカードなどを発行して、それを使って大学の施設を利用できたり大学への寄附に使えるとかね。

:なるほど。それは、いいかもしれませんね。

― 話題を転じて、東京科学大の未来についてお聞きしていきます。コロナ禍や環境問題など、社会には問題が山積みです。それらの解決に貢献するために、在校生・卒業生・教職員はどんな視点でどう行動すべきでしょうか。

:コロナ禍への対応には非常に大きな悔いが残っています。東工大では学生の研究や学びを維持しようと必死で対応しましたが、今振り返ると守りの姿勢が強すぎた。「早くコロナ禍が終わってほしい。それまでは何とかするから」と願い続けてきましたが、それが良くなかった。結果として、世界から大きな遅れを取ってしまった。

世界はこの間、カーボンニュートラルの実現に向け、研究開発に思い切った投資をしています。国内でも投資の機運はありましたが、私は大学経営の立場でそこまで踏み切れなかった。コロナ禍に対して、科学技術創成研究院の脱コロナ禍研究プロジェクトなど研究支援にも取り組みましたが、大学としてもっとできることがあったかもしれません。

でもね、医科歯科大は違った。コロナ禍の間、病院として最も多くの重症患者を受け入れるなど、攻めの姿勢を貫いていました。そうした医科歯科大と一緒になったら、次の社会不安が訪れた時でも積極的に日本の役に立てる大学になると感じました。

― 統合することで攻めの姿勢に転じられる、ということですね。

:そうです。次に何か大きな社会問題が目の前に現れても攻めの気持ちさえ持てれば、そうした問題に向き合うことができるはずです。

田中:東京科学大は社会的課題に取り組める大学であることが求められていると思っています。次にまた新たなパンデミックが起こるかもしれないし、地球温暖化でとんでもないことが起こるかもしれない。そんな時、東京科学大として何ができるのかと知恵を絞ることが不可欠です。工学系ではこう、理学系ではこう、医学系はこう、と学内それぞれの立場で一つの方向に向かえば、すごく大きな力となり、国民の皆さんに大きく貢献できるはずです。

― 工学系から医学系までそろうこともあり、東京科学大は理系の頂点に立つ優秀な大学という印象を持たれるでしょう。半面、文系領域の問題には対応できないのではないか、という見方もされそうですが、そういった世間の捉えられ方についてはどうお考えですか。

益学長に語りかける田中学長

田中:「頂点」という意味合いが周りを見下すというものであれば不本意ですが、日本を背負うという意味であれば本意です。自分たちが日本の科学を背負って行くという意識が、教職員にも未来にリーダーとなる学生にも生まれてほしい。今は経営者や政治家にも社会問題に対する理系のアプローチが求められる時代です。東京科学大から経済や政治の世界を引っ張る人材も輩出していきたいですね。

:同感です。社会に対してどう貢献しているのか、どんな人材が輩出され、どんな領域で活躍しているのか。そういう観点で評価された上での「頂点」なら、本望です。しかし、偏差値の序列で「頂点」と言うのであれば、それは勘弁してほしい。

文系領域の問題への対応について疑問視される方には、東工大のリベラルアーツ教育への取り組みを知ってほしいですね。学内では、発信力の非常に高い60~70人の教員が、その教育を担っており、ここはもっと自信を持っていいと思っています。それらを東京科学大で受け継いだ上で、さらに社会に発信していく必要がありますね。

― 東京科学大のブランディングにおける重要な視点の一つとして、女性リーダーの輩出が挙げられます。ただよく言われるように、理系志望の女性は決して多くありません。女子学生を今後どう増やしていきますか。

田中学長に語りかける益学長

:やはり小中学生の頃から、社会に貢献するためには幅広い勉強が欠かせないということを伝えていくしかありません。また、女性は数学が苦手であるなどのアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)を持たせないことも必要です。それには大人が自らのアンコンシャスバイアスを見つめ直すことがとても重要です。

田中:理科好きの女子も結構多いですから、小中学生向けのオープンキャンパスを開いて科学の面白さを伝えていくのも一つの手ですね。

:小中学生の保護者の方々に理系の面白さを伝える必要もあるかな。東工大では同窓会有志が出前の理科教室を開いていますが、そこにもっと若手研究者や女性教員にロールモデルとして参画してもらい、本学のメッセージが伝わるようにすると良いですね。

― 財政基盤の確立に向けた取り組みについてですが、収入確保の手段は資産運用や国内外の民間企業・海外投資家との連携などがあります。財政基盤の確立に向けてどんな取り組みを進めていきますか。

田中:海外からの投資をもっと強化したいです。大学に直接投資するのは難しそうなので、大学発ベンチャーに投資してもらうのが一つの手です。そういう投資を誘い込む仕組みを、大学側で構築していく必要があります。国際卓越研究大学の認定を目指すというのも、財政基盤の確立に向けた取り組みの一つです。

:私達がもっと意識する必要があるのは、資金の循環です。まずは収益をどう上げるか、次にその収益を教育・研究・医療などの各事業にどう配分していくのか。その起点は産学連携です。これまで以上に徹底的に取り組まないとなりません。

― 最後に2050 年頃には、どんな大学に成長しているとお考えですか。両学長が描く夢を聞かせてください。

田中:東京科学大は科学の進化と人々の幸福を探求する大学を目指します。そのイメージが定着すれば、世の中から信頼され、期待される大学になっていると確信します。

:対面の講義とオンラインの講義が並存する大学になり、世界中から学生が集まるようになる。そうすると、東京科学大学が世界全体にインパクトを与え得る存在になれる。そのインパクトというのは幸福感ではないでしょうか。今は誰もが、世の中を良くしたい、人々を幸せにしたい、と願っていると思います。学生や教職員が「この世界に生きていて良かった」と幸福感を抱き、それを世界に発信する大学にしていきたいですね。

― 社会にとっても大学関係者にとっても「幸せ」であることが大事ですね。本日はどうもありがとうございました。

(2023年10月取材)

統合報告書

統合報告書 未来への「飛躍」 ―東工大から科学大へ―
学長や理事・副学長、研究者による対談・鼎談や、教育・研究、社会に対する取り組み、経営戦略などをご紹介します。

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