東工大について

イノベーションを生み出す産学連携のあり方

(左から)大嶋洋一 東京工業大学 副学長/オープンイノベーション機構 教授、飯田香緒里 東京医科歯科大学 副理事/統合イノベーション機構 教授(左から)大嶋洋一 東京工業大学 副学長/オープンイノベーション機構 教授、飯田香緒里 東京医科歯科大学 副理事

大嶋洋一

東京工業大学 副学長(産学官連携担当)、オープンイノベーション機構 教授

飯田香緒里

東京医科歯科大学 副理事(産学官連携・オープンイノベーション担当)、統合イノベーション機構 教授

資源のない日本において、経済を押し上げるためにはイノベーションの創出が不可欠です。その源として、大学と企業が連携する産学連携に注目が集まっています。産学連携によってイノベーションを創出するためにどのようなことが必要なのか、東京工業大学と東京医科歯科大学の現場の指揮官が語り合いました。

大嶋洋一 東京工業大学 副学長(産学官連携担当)、オープンイノベーション機構 教授
大嶋洋一 東京工業大学 副学長(産学官連携担当)、オープンイノベーション機構 教授

大嶋:現代社会ではビジネス環境が急速に変化しています。企業の人たちは、その変化に対応し、新たな取り組みを迫られているのですが、具体策がわからないことが多々あります。大学は社会の変化にあまり影響を受けない組織なので、企業の抱える課題をうまく解決できる位置にいると思います。そこで、東京工業大学のオープンイノベーション機構(OI機構)ではニーズオリエンテッド(ニーズ優先)のアプローチを採用しています。

飯田:東京医科歯科大学の取り組んでいる包括連携制度は、まさにニーズオリエンテッドの制度です。シーズ先行ではビジネスに持ちこむのはとても難しいですし、担当の研究者がいなくなってしまうと終わってしまいがちです。

ニーズドリブンの取り組みには大賛成ですが、企業のニーズだけでなく、社会のニーズもしっかりと捉えることが大切です。企業と大学が大きなビジョンを共有することで、社会に貢献できるようになると思います。企業のニーズを少し膨らませて、どのような社会貢献ができるかという視点まで持っていくのが大学の役割ではないでしょうか。

大嶋:医科歯科大の先生は日々、患者に接している人が多いので、社会課題へのアンテナの張り方が違いますね。

飯田:企業のニーズを社会のニーズに引き上げると、その旗の下にいろいろな人たちが集まりやすくなると感じています。

共同研究は中長期的な視点で

飯田香緒里 東京医科歯科大学 副理事 (産学官連携・オープンイノベーション担当)統合、統合イノベーション機構 教授
飯田香緒里 東京医科歯科大学 副理事 (産学官連携・オープンイノベーション担当)統合、統合イノベーション機構 教授

大嶋:東工大では、協働研究拠点制度を創設し企業と連携しています。これは企業との共同研究を持続的に取り組むために、企業の方が共同研究のイメージを描きやすくなるように研究費や研究期間などを明示して、メニュー化している制度です。

協働研究拠点制度では学内に専用スペースの設置をお願いしていますが、これは継続的な研究活動ができるように企画機能を備えてもらいたいからです。実験は大学側でできるので、企業は装置などを設置する必要はありません。

飯田:共同研究では企業と大学の人たちが顔を合わせる場が常にあることが重要です。そのような場があることで、プロジェクトを進めるスピード感の共有や意識のすりあわせなどがすぐにできます。しかし、企画機能だけで共同研究をスピード感もって進められていますか。

大嶋:企画機能は最低限備えて欲しい要件で、実際には企画だけという拠点は少ないです。多くの拠点は研究機能も持ち、その場で共同研究を進められる体制を整えています。

この制度は、企業にとってはある意味でハードルの高いものだと思いますが、共同研究をやるからには、企業の方々にも腰を据え、中長期的な視点で取り組んで欲しいという想いがあるからです。

企業の反応から感じる手応え

飯田:これだけハードルを上げているのに、20ほどの拠点が立ち上がっているというのは、驚異的ですね。

大嶋:そう言っていただけると嬉しいです。企業の方々も手応えを感じているようで、最近では「10 年経ったら止めないといけないのですか」というご意見もいただくようになりました。

飯田:もっとやりたいということですね。確かに、うまくいっているのであれば止めなくてもいいですよね。

大嶋:さらに、20拠点もできたことで、数の効果も出てきました。それぞれの企業の拠点同士のネットワークができはじめているのです。これから拠点をつくる企業はそのネットワークにも入ることで、様々な企業との接点をつくることができるというメリットもあります。

飯田:医科歯科大でも、このようなプロジェクトを増やしたいので、このノウハウを是非導入したいと思います。社会で中立的な立場にある大学が間に入ることで、企業同士がつながっていくことが肝だと思いますし、そこが魅力になっていますね。

東工大の協働研究拠点(2023年12月現在)

東工大の協働研究拠点(2023年12月現在)

企業誘致のツールを整備

大嶋:この協働研究拠点制度には、準備段階としてプレ拠点事業があります。この事業は拠点を設置する前に協働研究拠点の価値を十分に理解していただけるようにするもので、様々な支援活動を用意しています。これは、企業の研究拠点を誘致する営業ツールとなっており、その中には、学長によるトップセールスもあります。個別の研究に興味のある企業に対しては共同研究を先に始めた上で、協働研究拠点設置まで育てていくというアプローチもあります。

飯田:医科歯科大では、企業誘致の方法はこれほど整備されてないですね。現在、包括連携制度で13の組織間連携プロジェクトを組織していますが、学長や理事等によるトップセールスが起点になっているものも多いです。

学長が企業と会う時や外部で講演をする際に同席することがあるのですが、大学と企業のトップ層の対話から高い視座で新たな共創がうまれる場面に数多く触れています。そのため、トップセールスはシステマテックに取り組む必要があると感じています。既に東工大でシステムが確立しているのであれば、東京科学大学でも是非踏襲していきたいと思いました。

医工連携で新たな強みを

飯田副理事に語りかける大嶋副学長

大嶋:私たちが今やっていることは、様々な組織を組み合わせて、それぞれの足りない部分をうまく補っていくようなものです。そのあたりをもっと積極的にやっていきたいですし、その延長線上に求める解があるような気がします。

飯田:医科歯科大は医療というイメージが強いと思いますが、企業との連携は医療に限るのではなく、人の健康を支えるヘルスケアまで幅広く取り組んでいます。そうすることで、医薬や医療機器のメーカーだけでなく、いろいろな企業と連携できる可能性が生まれています。企業が考える事業戦略と大学のビジョンを融合させ、その実現に向けて産学共創の道筋を示しながら進めていきます。

これまで医療の視点で取り組んできたところに東工大の幅広い視点が入ってくることで、大学から提供できるものの幅が広がると思います。そこは大学統合によって見込まれる新たな効果で、今からとても楽しみにしています。

大嶋:ヘルスケアは医工連携が必要になる分野ですね。東工大と医科歯科大の研究者が連携して、新しいことにチャレンジしていけそうですね。

科学大ブランド品の開発も視野に

大嶋副学長に語りかける飯田副理事

飯田:医工連携と聞くと、医療機器開発をイメージしがちですが、患者さんのUX(ユーザーエクスペリエンス)向上という視点での医療現場のインフラ整備から、衣食住をはじめとした人々の健康を推進する新たな製品やサービス等の開発にも貢献できると思います。単科大学では困難であった課題にも東工大の強みと医科歯科大の強みをうまくかみ合わせることによって、取り組める機会が増えるのではないかと期待しています。

大嶋:その中でも、特に食の分野には大きな可能性を感じますね。東工大でも食に貢献している人がたくさんいます。食で新規の開発をするとなると、健康は避けては通れないテーマです。そうなると、医療的な観点から助言を得られるととても心強いです。

飯田:患者向けのものだけでなく、健常者向けの食品などでも、医学系の研究者がチームに入ることでデータやエビデンスも示せると思います。

大嶋:今後、様々な分野の研究者が連携して、科学大ブランドの機能性食品などを開発できたらいいですね。

大学こそ、よりオープンに

大嶋:これまで5 年ほど協働研究拠点を運営してきましたが、最近は拠点をつくるだけでは不十分なのではないかと感じるようになりました。そこで、学外の組織とより密接に連携していく「エコシステム構築事業」に取り組んでいます。

この事業をはじめとして、大学中心のネットワークを構築することで、アイデアを具現化して社会実装が進むのではないかとイメージし、「大学城下町構想」と名づけました。最近はハブとなる大学同士がつながり、もっと大きなエコシステムをつくる「大学城下町2.0 構想」へと発展しています。

飯田:これまでの大学は、産学連携担当、知財担当、ベンチャー担当と、担当者がわかれていましたが、それだとスピード感が出ずに、最適解を見いだせないことがありました。役割分担よりも、様々な人たちを最適な形につなぐプロフェッショナルによる伴走がとても大切だと思います。

大嶋:今、私たちは「We are Open!」を活動方針として掲げて活動しています。オープンイノベーションで社会を活性化していきたいという想いを、たくさんの人たちにわかりやすく伝えるために、オープンなスタンスでやっています。

飯田:企業の人たちは、私たちが思っている以上に大学に敷居の高さを感じています。だからこそ、私たちはより積極的にオープンな気持ちでいることが必要でしょう。私たちのような産学連携部門の教職員だけでなく、個々の研究者も、オープンマインドでコミュニケーションを取っていく必要があります。

今回、あらためて東工大の取り組みが進歩的であると感じました。大学統合がすごく楽しみです。

大嶋:OI機構で社会実装に向けて活動していると、現場感覚になりすぎる側面があります。今回、飯田先生の視点はとても新鮮で、とても参考になりました。ありがとうございました。

テーブルを挟んで意見交換をする大嶋副学長と飯田副理事

(2023年10月取材)

統合報告書

統合報告書 未来への「飛躍」 ―東工大から科学大へ―
学長や理事・副学長、研究者による対談・鼎談や、教育・研究、社会に対する取り組み、経営戦略などをご紹介します。

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