東工大について

未来を創る東工大

—産業界からの期待—

「未来を創る東工大」「未来を創る東工大」

遠藤信博

産業競争力懇談会 理事長
日本電気株式会社 取締役 会長

益一哉

東京工業大学長

井村順一(司会・進行)

執行役・副学長(教育運営担当)

松下伸広(司会・進行)

学長特別補佐・教授

アポロ計画で月から映像が届き、科学技術の進歩をリアルタイムで感じ、電気を学ぼうと半導体に進んだ

—お2人は東工大OBですが、どんな学生時代でしたか。

遠藤信博 日本電気株式会社 取締役 会長
遠藤信博 日本電気株式会社 取締役 会長

遠藤:私が東工大に進んだ大きな理由は、当時の東工大には矢野健太郎さんという有名な数学の先生がいて、高校の時から憧れていたからです。

私が生まれた1953年は日本のテレビ放送が始まった年です。1963年には日米間の衛星中継トライアルがありました。このときにはリアルタイムでケネディ大統領が亡くなったニュースが届けられた。日本以外の場所の映像がリアルタイムで見られることが、ものすごくショックでした。それで、大学に入って電波をやってみたいなと思ったのです。マクスウェルの方程式は4本ありますが、2本の微分方程式を合わせるとシュレーディンガーの波動方程式に変わる。「え? 物理の現象を表す数式同士で会話して電波が届くことを表現できるのだ」と思った。それが電磁波で有名な関口利男先生の研究室を選んだ理由です。

:なるほど。同じ時代を過ごしていても全然違いますね(笑)。

私は1954年生まれの1つ違いで、遠藤さんとほぼ同じものを見てきました。日本で新幹線ができて、米国でジェミニ計画やアポロ計画の中で月から映像が届いて同時通訳を聞いた時に、科学技術そのものの進歩をリアルタイムで体験していることのインパクトが強かったです。見えないものへの憧れから電気そのものを勉強しようと思ったことが始まりで、大学では半導体に進みました。

大学は、科学技術を通した価値創造に必要となる判断基盤を持たせる教育を考えるべきだ

—そんなバックグラウンド持ったお2人から見て、日本社会における大学の役割についてどのようなお考えをお持ちですか。

益一哉 東京工業大学 学長
益一哉 東京工業大学 学長

:戦後75年を振り返ってみたときに、敗戦があり経済成長して、1990年代に入るまでそれなりに良かったのにその後は停滞している。それは、全てにおいてチャレンジするという心を忘れてしまったからではないかと思います。大学生について言えば、遠藤さんや私の学生時代よりも海外留学しやすい環境にあるのに今の学生はしない傾向にあります。もっとチャレンジする気持ちを持ってもらいたいし、そういった気持ちを持った学生を育てたいと思っています。

遠藤:ある意味でそれは企業の責任でもあるような気がします。大学を企業に入るためのステータスシンボルとして捉えていると、自分が社会でどのような価値創造をしたいか?と言う部分を忘れてしまいます。入社のためのパスだと感じてしまうと、大学生活そのものが受動的になってしまいます。だから企業側も、「われわれは人間社会に対してこういうことで貢献する会社です」ともっとアピールすべきだし、それが明確に分かる存在になっていくべきです。また、「企業に入って何をやることが自分の思いと合っているのか」「自分の性格と合っているのか」「自分が今考えていることと合っているのか」を考える期間が、中学校、高校ぐらいの時にあるべきだと思います。

STEM教育やそれにアートも加えたSTEAM教育のように、人間社会を理解する教育をまずしていかないと、人間社会における価値創造に対する意欲や意思が十分に育たないと思います。

:私たちも高校生・中学生に対して、「われわれ東工大はどういう大学でどういう教育をするのか」をアドミッション・ポリシーに書いています。そこでは、「人間社会に貢献する」といったことは触れてはいますが、熱く語っていないかもしれません。アドミッション・ポリシーの他にもディグリー・ポリシー、カリキュラム・ポリシーを出していますが、まだそこまでわれわれ自身が消化していない。社会に対して、「こういう人間を受け入れて、こう育てて」というのが強く伝わっていない。

遠藤:先日ある機会に、シンガポール国立大学についての話を伺いました。なぜ彼らはアジアNo.1と評される大学になれたか。彼らは基本的には、英国式の教育システムをフォローしてきた大学だったけれども、それを「未来を創る人を育てる大学に変えよう」という方向に変えたのが一番の転機だったと言っています。「未来を創る」というのは、「人間社会にどう貢献できるか」「リーダーシップをとれる人をつくろう」ということだと思います。人間社会で価値を創造することへのマッチングとして教育を捉えたときに、人間社会の変化に対して教育がどう対応していくべきかということです。

ホモ・サピエンス自体の本質は変わらないと思っています。急に羽が生えたりするわけはないし、そういう進化は簡単には起こりません。例えば、ホモ・サピエンスの特徴と言われているシンパシーというような基本的なところを保ちながら「人間社会」が変化していく、進歩していくという前提で、将来を考えていくべきだと思います。

:私たちも、大学が社会に対してどういう役割を果たすのかをもっともっと発信しないといけない、という議論はしています。例えば東工大の目標は「世界最高峰の理工系総合大学」ですが、それで社会にどう貢献するのかは語っていない。「未来を創る東工大」とも表現しています。若干、内向きではなく、視点を変えての発信が必要であると、今更ながら強く感じました。

大学本来の役割を考えたときに、例えばリベラルアーツの先生方から「人間の素養や人格を育てるのは、日々企業や社会を支えている中だけでは理解できないものがある。また、コストや効率、生産性とは別の視点での研究や研究発信も重要である」と指摘されます。

遠藤:そのとおりだと思います。大学の役割を1つで定義しないことですね。例えば基礎研究は絶対的に必要で、東工大でもそういう人材を育てています。でも全部が基礎研究にあてるというわけではなくしっかりと価値創造力を持った人材を育てていただきたい。トップレベルの大学にはリーダーを育ててほしい、というのが社会のニーズです。リーダーには基本的に判断力が必要です。自分の判断基盤をきちんと持って社会に出てくることが重要で、その判断基盤を大学でどのように育ててくれるのかということです。

人が自立する上ではしっかりとした判断基盤が必要です。判断基盤は、自ら強化することが必要で、コミュニケーションや深いディスカッションを通して育ち、強化されていく。その期間の基礎部分が教育であり、さらに自らも磨きをかけて自立して行くのだと思います。人間社会での実際の価値創造に関わるには、この判断基盤の基礎部分が大学時代に形成され、強化されていることが重要です。

大学の教員は、基本的には研究を中心領域とされているので、学生の判断基盤を育てるということへの意識が少し薄いのかもしれません。是非、大学は「教育、特に人を育てる」ことに注力する先生を育てることにも、重点を置いていただきたいと思います。

:おっしゃる通りだと思います。大学教員は、自分の研究領域はもとよりそれ以外の広い視野と見識を持つべきです。そういう教員のもとで研究している学生は、博士後期課程までは基礎研究の分野で特定の分野に注力していたとしても、アカデミアに進むのか産業界に進むのかというときに、どちらに行っても自分の培った判断基盤が広がっていくと思います。博士後期課程学生におけるリーダーシップ教育にも注力してはいますが、現状は、指導教員の研究領域で深掘り的な研究を追求しているケースが多いのかもしれません。より多様な視点での研究や教育が必要ですね。

海外でのネゴシエーションは、究極のコミュニケーション。その経験が判断基盤を広げる

遠藤信博 日本電気株式会社 取締役 会長

遠藤:外国人留学生を増やすには、まず東工大の学生が海外へ留学をしないと駄目です。それがないと外国人留学生は来ません。シンガポール国立大学は学生の65%が海外留学をしています。そしてまた戻ってきています。外に出て、ディスカッションすることによって判断基盤が広がりを持ち、厚みも増していきます。そのために海外留学は絶対的に必要だと思います。

:海外留学するチャンスがあるので、それをもっと活用して欲しいと思っています。

遠藤:ドイツの企業と仕事した際に経験したことですが、彼らは非常に論理的だけど、自分の主張を変えないところがあります。そういうところでネゴシエーションすると、大変鍛えられます。面と向かって、駆け引きをしながら落としどころを決めていかないといけない。落としどころを決めるのは、自分の思いだけでは成り立ちません。相手の言うことも聞いて、相手の状況を判断して、相手が受け入れられる点を見極め、かつ、自分の譲れない点を決めて、全体として、両者が目指す価値の最大化を図らなければなりません。ネゴシエーションはまさに究極のコミュニケーションだと思います。このような経験をすると、判断基盤が広がり厚みを増してきます。

海外に行って意思を伝えようとすると、相当な苦労が要るわけで、日本語だと曖昧な表現でも意思が伝わってしまうところがありますが、言語が違うと正確に事を伝えるために言葉を選ばなければいけません。

:学内には外国人留学生が数多くいますから、日本人学生と外国人留学生との交流の機会を、もっと増やすことも重要だと思っています。

遠藤:そのほかに、海外でアクティブに活躍されている東工大の先輩との座談会を積極的にやるのもいいのではないでしょうか。

ドイツ人やイギリス人、アメリカ人、皆、思考の方法が日本人と全く違います。そういうダイバーシティを経験するのはとても大切です。海外に出ていくのはダイバーシティの経験ですので、思考が柔軟な若い時期に経験されることが、絶対に価値が高いと思います。

:最近、ジョブ型インターンシップ(最低でも2ヵ月程度の就業を求めている)という制度が議論され、推進されています。もともと博士での導入を議論していましたが、修士課程学生にもという話が出ています。本学の場合、学士課程は頑張れば3年半で修了できるので、この6ヵ月の中で順番はともあれインターンシップ制度を上手く生かせば海外留学もできます。3ヵ月程度の長期のジョブ型インターンシップで経済的な不安をなくし、3ヵ月海外留学して、それから修士に入学し勉強する。つまり、社会を見て、世界を見て、何を学ぶか分かった上で修士さらには博士に進学することも可能になりますので、かなりの判断基準を持った人材育成が可能になります。

遠藤:インターンシップは、現場感覚を養うという意味ではオンラインでは成り立たない領域ですね。企業は、人間社会に貢献するための価値創造をする場なので、インターンシップでは、人間社会と価値創造の接点を学ぶことが出来ます。人間社会の持続性に対して企業が何を意識して価値創造しようとしているのか? その基本的な考え方の原点はどこにあるのか? どういうプロセスでやろうとしているのか? そのプロセスで一番意識しなければいけないのは何なのか? そんなことを学ぶことがインターンシップの重要な点ではないでしょうか。

もう少し高度なインターンシップでは、ある価値創造のプロセスを企業で体験する中で、自分の価値創造力をそのプロセスの中でいったん発揮してみて、それが本当にフィットしているかどうかを確認することもできると思います。明確な目的を産学で共有し学生にインターンシップを通して何を育ててもらうのかを明確にした上で、インターンシッププログラムを産学で協力して構築するのがいいと思います。

いま女子学生は15%弱。3割を目指す

:女子学生数については東工大にとって長年の課題です。

遠藤:今はだいぶ増えたでしょう。

:確かに遠藤さんが学生の時と比べれば雲泥の差です。

遠藤:私の時は720人のうち女子は6人だったでしょうか。

:現在、学士課程に入学する女子学生はおおよそ15%弱です。最も多い生命理工学院でも現在25%程度です。社会全体が継続的に生き生きと発展するためには、科学技術の分野での女性の活躍が重要で、そのためにも本学全体でも3割が女子学生となることを目指し、積極的な策も議論しています。

遠藤:東工大が女子学生を増やしたいのはよく分かりますが、女子高校生側から見て、進学したい大学になっているかどうかを考えたほうがいいのではないでしょうか。例えば東京医科歯科大とのコンビネーションがどこまで確実にできているかというのは、理系に進みたい女子高校生にとって大きな関心事だと思います。生命理工学がまさにそうですが、最近、医学系と理工学系等、混合した領域のビジネスが増え、これらの領域に進む女性も増えているわけですから。

:理工系が女子学生に魅力ある分野であることを発信することは必要であると思っています。実情としては、工学院、情報理工学院、理学院は女子学生が極端に少ないです。生命理工学院や環境・社会理工学院では一定数の女子学生がいます。産業界からも理工系の女子学生を採用したいという声を聞きますし、色々と努力はしていますし、これからも強化してゆきますが、女子定員枠を設けるぐらいのことをするべきではという議論もあります。

東工大でやりたいことがある人が入学できる仕組みを考えては

益一哉 東京工業大学 学長

:東工大の入試はどういう学生が受けてくるのかという調査をすると、高校に入った時点で、東大に行きたい人、東工大に行きたい人、京大に行きたい人、が決まっていて、あとは3年間で自分の成績が追いつかないと諦めていく。そうなると小学校・中学校の段階で、東工大、理数系、理工系が面白いということを植え付けておかないといけません。

遠藤:大学が小学校・中学校にも、もっとアクセスすべきです。

:はい、そのとおりだと思います。ただ問題は、小中までは理科が好きな女子は多いのに高校生になる頃から少なくなります。高校受験があり、高校に入った時点で文系理系と分けてしまうからです。

遠藤:偏差値にとらわれないような入学試験はできないのでしょうか。本当の意味での思考力、価値創造能力、判断力は、現在の入学試験では十分に分からないのではないでしょうか。

:学士課程に毎年1,100人が入学します。そのうち約90人が総合型選抜です。共通テストを受けて、その後総合型選抜に出願します。共通テストも判定材料ではありますが、面接などで合否が決まります。

遠藤:私は、望む人に対しては高校生の間にも大学が教育を与えてもいいと思います。受験勉強のための勉強期間は、はっきり言って無駄です。脳の総合的な思考能力は18歳ぐらいでピークを迎えるそうです。一番能力が上がる時期を無駄に過ごしているとも言えるわけで、その3年間で思考能力を上げたいという高校生に対して、例えば量子論の考え方などを見せてあげるとモチベーションも上がって伸びるはずです。そういう教育をしたほうが、試験勉強で1点を上げる勉強をするより価値があると思います。自ら学ぶ姿勢を示す学生に入学してほしいですね。

:その通りですね。

遠藤:結局、思考プロセスを本当に判断できるほどの試験は難しいからできません。だから採点しやすい、暗記していれば得点できる問題が多くなります。そういう試験では、勉強した努力は測れますが、決してその人の能力が分かるわけではありません。現在の試験では、本当の意味で大学に来て欲しい人が入学できていないかもしれません。だから試験はやめて、東工大に入ってやりたいことがあるという思いの強い人が入学できる仕組みを考えてもいいと思います。高校生に対して東工大が「こういうことを勉強するのはとても面白いよ」「こういうことを理解することでさらにみんなの視野を広げるよ」という課外活動を実施して、それに応募して来た中から有望な人が入学できるようにすればいいと思います。

:大学が未来を創る人材を育てるためには、多様な人材を受け入れる必要があり、大学入試も変わって行くべきだと思っています。

大学に入ってより早く研究に取り組める制度としてB2D(Bachelor to Doctor)という仕組みを作った

遠藤信博 日本電気株式会社 取締役 会長

遠藤:私は、能力がある人は卒業証書がなくても会社に採用していいと思っています。だから個々の能力を測れる力を企業も持ってほしい、と人事担当者にはお願いしています。やる気と基礎的な知識と、発想力とコミュニケーション能力があって、この人は大丈夫だと思ったら採用していい。それくらいのフレキシビリティは企業にもあります。ただ、評価する能力が十分ではないので、そこは大学と一緒にできればと思っています。企業としては、大学は単位をとった証の卒業証書を出すだけではなく、こういう能力を備えましたという評価を証明していただきたいですね。

:学士課程では、学生が学修内容を自律的に選んでいくようになっていますが、どうしても一定の枠の中での学びとなります。修士に進んでの研究を通じた学びでは、ある程度その学生の思考背景が見えた中でのかなりフレキシブルな学びも確保できます。

遠藤:大学に入ってできるだけ早く修士課程か、研究室に入れるようにして、自ら学べるところに入れるようにするといいですね。

:はい、ご指摘の点はわれわれも同様に考えていて、昨年度からB2D(Bachelor to Doctor)という仕組みを作りました。学士2年ですぐに研究をやってみたいという学生を選抜します。今、2年目で学士3年生16名が既に研究室に所属しています。いくつかの研究室を体験してもらって、自らの発想で何かに取り組むという研究の醍醐味を感じてもらいたいと思っています。

遠藤:そういう試みはすごいと思います。自ら勉強することが、先ほどお話しした判断基盤の強化で一番のポイントです。卒業証書は習ったことに対する証書で、習ったことだけから判断基盤はそれほど強化されません。自分で進んで学び、持論を築く中で判断基盤が育つと思います。

—昔の修士はそういうレベルに達していたと思いますが、科学技術そのものの高度化もあり、今はテーマを教員から与えられ、それをこなして論文を書くケースが少なくありません。さすがに、博士には自分で研究テーマを探させ、選ばせるトレーニングをしています。それに対して学位審査員を納得させられる成果とその道筋や意義の説明ができた人に学位を与えることになります。

遠藤:東工大に入ったら、自ら学ぶプロセスが用意されていて、これが当たり前だと明示していくと、このプロセスの中で自ら勉強すれば、もっと良い自分の道を選べるかもしれない、と見せてあげることになる。この明示化は、大きな人材を育てることになると思います。意志・意欲を大切にするのがとても重要で、意志・意欲を持った人に自ら道を開けることを見せてあげるのが大切です。

会社では、自分でやりたいと言わないと、ずっと同じ業務をすることになります。いかに自分がやりたいことをアピールするかというのが、周りから認めてもらうことにつながります。

:学生も研究室に入って先生とやりとりして、「こういう研究をやらせてほしい」と主張できるようになって欲しいですね。自分から言って始めると、やる気と責任が伴うので、苦しいけれども大きく成長します。

国立大学は倒産しない、という考え方があると努力しない

益一哉 東京工業大学 学長

:いつも広い視点で物を考えるように自覚していますし、人にも言っている割には、本日お話ししている中で、どうしても発想の原点が大学視点になっていることを改めて感じたところです。

遠藤:国立大学の場合、文部科学省が枠組みを先につくり、その枠組みの中での運営を求められているからだと思います。

:枠組みがあってもいいのですが、何かしたとき、あるいは何かやろうとしたときに評価されるわけですが、評価が減点方式であることがほとんどです。学生には、良いところをより伸ばしましょうといっていることと矛盾しています。そこが変わるだけでも全然違うと思います。ポジティブ評価になれば、大学総体としても色々なことに今以上にチャレンジできるようになります。

遠藤:やはり大学も資金面での自立が重要かもしれません。

国立ということに安住すると、なんの努力もしない大学になりかねないのではないでしょうか。企業は継続性が一番重要です。人間社会の持続性に対して貢献するのが企業だから、自分たちが継続できない限り貢献もできないわけです。国立大学は倒産しません。それが前提にあると努力を怠ります。組織がアクティブにならないし、変化を好まず、変化を取り入れようとしなくなります。

:東工大の学生のみならず教職員は、本学が科学技術で社会に貢献する大学であるという認識を持っているので、技術そのものが進歩し技術革新も生まれることは肌感覚で理解しています。その意味では、変化に対しての許容力は高いと思います。一方で国立大学はつぶれないという安心感を持っているのも事実です。

本学では指定国立大学法人(2018年3月に指定)構想において、もっとポジティブに変わろうと意識しました。特に、国からの予算だけでやっていけるのかという問題意識を学内でも共有しているところです。田町キャンパスの再開発による社会との接点を意識した教育研究の強化についても、法制度の改正が後押しになり進んでいます。再開発そのものについては学内では非常にポジティブに受け入れられています。

遠藤:アクティブに動くことはとても重要です。田町キャンパスは品川駅に近いことを生かし、例えば地方の大学に場を提供しディスカッションの場にするとか、仮の実験ができるような場にしても良いかもしれません。

:再開発後の田町キャンパス(2031年完成予定)では、教育と研究はもちろんですが、1万平米の広さをもつインキュベーションエリアに使いたいと計画しています。

遠藤:アントレプレナーシップを育てるという意味で、企業と東工大の共創の場を田町にいくつか設けてもいいですし、地の利をいかして、地方の大学から東京に来るときの拠点として使えるとすごくいいですよね。やはり田町キャンパスは人が集まる場にすべきです。人が集まることによって始まる事柄もあります。

:ご指摘のとおりです。田町キャンパスは東工大だけではなく、多くの大学にも開かれた社会連携の場になることを念頭に置いています。

ただ、再開発が完了するのは2031年、10年後です。順番として、まず緑が丘の建物を壊し、田町から附属高校を移転した後、田町の建物を壊して新しい建物を建てるので少し時間がかかります。

田町再開発による事業費収入(2026年から年間45億円、75年間)がありますので、大学債の発行などを視野に入れて、すずかけ台キャンパスも再開発します。これにより大岡山からすずかけ台に人が移れるようにすることで、手狭になってきゅうきゅうとしている大岡山キャンパスの再開発にも着手できると考えています。まさに、キャンパスを大きく変えていけるチャンスだと思っており、「3キャンパス・イノベーションエコシステム構想」として、走り出したところです。

創立150周年に向けたこの10年間は、東工大が次の100年も成長する大学へとアクティブに変わっていくための「飛躍のための準備期間」にしたいと考えています。

—本日は長時間どうもありがとうございました。

対談の様子

統合報告書

統合報告書 ―東工大の「高み」を社会へ、そして世界へ―
財務情報に加え、社会貢献やガバナンス、知的財産等の非財務情報を統合して、ステークホルダーの皆様にご報告します。

統合報告書|情報公開|東工大について

2021年9月取材

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp