東工大について

未来を創る女性リーダー人材の育成

―東エ大が担う使命―

未来を創る女性リーダー人材の育成未来を創る女性リーダー人材の育成

川端小織

理事・副学長(法務労政担当)

近藤科江

生命理工学院学院長・教授

平井陽子

事務局・参事

松下伸広(司会・進行)

学長特別補佐、物質理工学院・教授

「実は東工大、知りませんでした」

松下:この鼎談では東工大としては初の女性理事になった川端小織理事、女性で初の学院長である近藤科江教授、そして女性で初めて事務局総務部長に就任し、現在は女性初の参事である平井陽子参事の3人にお集まりいただきました。大学という組織の中での女性の立場や状況について話し合っていきます。まず、みなさんが東工大に来られたのはそれぞれ何年ぐらい前でしょうか。

近藤科江 生命理工学院学院長・教授
近藤科江 生命理工学院学院長・教授

近藤:2010年ですから、11年前に教授として来ました。

平井:私は30年くらい前ですね。ちょうど生命理工学部(生命理工学院の前身)が設置された時でした。

川端:私は昨年2020年の4月から理事になりました。

松下:皆さんにお尋ねしたいのは東工大のイメージについてです。東工大は特に理工系に特化した大学というイメージを持たれているようです。近藤先生は他大学のご出身ですが、学生時代に東工大はどういうように見えていましたか。

近藤:本当に申し訳ないのですが、私は薬学なので生命系の大学しか見ていなくて。当時の東工大は理工学系しかなかったので…(笑)。

平井:首都圏出身でないためかどうかわかりませんが、一橋大学に進学する友達はいましたが東工大に行く人はおらず、実は東工大は知りませんでした(笑)。

川端:私も関東の国立大理系で知っていたのは、東大、千葉大、筑波大くらいまでです。同級生が1人東工大に受かりましたが、「それどこの大学、そんなに難しいの」と。今となっては大変申し訳ないですが…(笑)。

松下:正直なコメントありがとうございます(笑)。本学の女子学生に対するアピールが足りなかったことの表れかと思います。みなさんバックグラウンドはそれぞれ異なっていますが、ご自身のキャリアパスを振り返って、いまどう思いますか。20代、30代の頃は将来に不安も抱えていらっしゃったかと思いますが、もし当時の自分に声を掛けるとしたらどんなことでしょうか?

近藤:私は東工大に来るまで10年間ポスドクをやって11年間任期付きのポジションにいたため、東工大が初めての常勤ポジションです。いつも3年や5年のプロジェクト雇用で、常に次のポジションを得るために走り続けている感じでした。自分のやりたい研究ができたわけではないし、自分のキャリアを描けてきたわけでもありません。ここに来て初めて自分がやりたいことをやらせてもらい、本当にありがたいと思っています。東工大に来ていろいろチャンスを与えてもらった。今から振り返ると、その前は本当になんだったんだろう・・・という感じです。

私が研究員をしていた時代は育休制度は無く、産休制度も利用する雰囲気ではありませんでした。当時「女性研究者は要らない」と真顔で言われました。社会的にも理解されていなかったし、「なぜいるの」「なぜ職もないのに研究者やっているの」「子育てに専念したらいい」とずっと言われて来ました。「辞めろ、辞めろ」と言われ続けながら意地で走っている感じだったので、当時の自分に「続けて良かったね」と言ってあげたいです。わがままと言われながらも研究を続けてきた結果、自分のしたい研究をすることができている。続けてきて良かったと今は思います。

松下:近藤先生はどんな経緯で東工大にいらっしゃったのですか?

近藤:(教授の)公募です。公募要領に書いてあったわけではないですが、たまたま女性を採りたいという状況にあったようです。

松下:最近は「多彩な人材を確保し、外国人や女性の参画する均等な機会を確保します」と書いてある場合もありますね。

近藤:まさに女性採用を前提とした公募だったようですが、そうとは知らずに「無理だけど出してみようか」くらいの気持ちで応募しました。

平井:私は、東工大に採用になる前は別の行政機関で仕事をしていましたが、直接教える立場ではないけれど、教育現場でそれまで経験した事務的なことも含めて、なにか役に立つものがあるのではないかと思い、ちょうど東工大で生命理工学部が立ち上がるタイミングで、当時新しく設置された学科が事務職員を採用するというので採用していただきました。

松下:近藤先生と同じように、その場その場でできることに挑戦し、自らキャリアアップされてきたから、皆さんここに至っているわけですね。

平井:振り返ればそういう表現もできるのかもしれませんが、当時はそんなこと考えていませんでした。当時の文部省系の国立大学の職員として採用していただけるとなった時に、家族が「まあ広い世界、違う世界を知ってみたほうがいいんじゃないか」と言ってくれました。「大学だとその道の一流の先生たちや人が集まっていると思うし」と。私と違い家族は東工大のことを知っていました(笑)。

川端:私は弁護士ですので、組織で動くというより、訴訟事件や法律相談を職人的な感じで処理しながらコツコツとご縁のあった仕事をしてきた延長で、明確なキャリアパスや道筋があったという感じではないです。いただいた仕事をしていくうちに少しずつ広がってきた形ですね。8~9年前にご縁があって弁護士として東工大でお仕事をさせていただく機会があり、東工大についていろいろ知るところとなりました。そのご縁で理事のお話をいただいたのかなと思っていますが、理事というのは弁護士として関わるのとはまた違うので日々新鮮な思いでおります。

松下:弁護士を目指したのはいつごろからですか。

川端:高校生くらいから意識していました。目指した、というわけではないですが。大学で何学部に行くかという時に、弁護士もなんとなく視野に入れて、とりあえず法学部に行っておこうかな、と。

近藤:ご両親に何か言われたりしませんでしたか。

川端:私の頃は、会社に入っても女性は活躍できないと両親に言われました。資格を持ってする専門的な仕事の方がいいのではないか、と。

松下:親戚や近い方で弁護士の方がいらっしゃったとか?

川端:仲の良かった友人のお母さまが弁護士でした。

松下:女性のキャリアパスの1つとして弁護士という仕事がイメージできていたということですね。

川端:そうですね。高校生の時にその友人のお家に遊びに行った時に、お母さまに「弁護士というお仕事のやりがいはどんなことですか」などお話を聞いた覚えがあります。

大きな総合大学と比べてフットワークが軽く、一体感があるのは「Team 東工大」の強み

松下:東工大は日本を代表する理工系大学の1つですが、東工大の強み、弱みをどう思われていますか。そしてそういう中で女性が働くときのメリット、デメリットも教えてください。

近藤:大学の体制や雰囲気ということだと、大きな総合大学と比べてフットワークが軽いというのはありますね。今、部局長をさせていただいていますが、他の部局長の先生方と月2回くらい意見交換会をしています。そこでは垣根を超えた意見交換ができている感じがします。これは私が元いた大学ではあり得ないですね。他部局の部局長と話をして合意するのはなかなか難しいと思っていたので、会議で発言し、それを学長にも伝えて、聞いてもらえるというルート、場があるのは東工大の強みだと思います。学内からいろいろな意見を取り入れて、良くしていこうという姿勢が全面的に見えています。

弱みとしては、みなさん同じような環境で育ってきているというか、過ごされてきたので、考え方が均一なんですね。学外の意見を受け入れにくいような気もします。女性が働く、特に教員を増やそうというような話になるとやはりすごく難しい。見えない壁がたくさんあるなという印象はありますね。

平井陽子 事務局・参事
平井陽子 事務局・参事

平井:私は事務職員なので事務の観点から見ると、総合大学は学部ごとに事務が完全に分かれてしまっているところがあります。総合大学はカレッジの集合体のようにも思えるし、大きな総合大学は1法人複数大学と変わらないのではと思ってしまいます。東工大は事務組織が1つで、教育研究組織を1つの事務局全体で分担していくことになっており、横の連携が取りやすいです。このため他の部局のことは知らないということもないし、先生方との距離感も近い気がします。学長がよく言う「Team 東工大」、これは他の大学にはない強みとして今後も発揮できるところかと思います。

ただ、規模感がまあまあ、というか、そこそこの大きさなので、そこでうまくまとまってしまうところはある。外の世界を知らない感じ、は弱みですね。

近藤:画一化されている、と。

平井:そんな感じになりがちですね。事務職員もそれでは成長しないので、刺激を外から得る、切磋琢磨する、いろんな考え方を知る、といったことは必要かなと思います。

ただし、その中で女性が働くメリット、デメリットとなると、これは男女関係ないと思います。

川端:働くメリットは男女問わずあると思います。

松下:私は教員なので、近藤先生と同じような印象があります。女性教員はいろいろと思っていることはあるのだろうな、と感じているのでこの質問をしました。(それとは異なる立場の)平井参事、川端理事からすると「男女は関係ない」となる感じも分からなくはないです。

川端:東工大の伝統や歴史は、「女性が圧倒的に少ない伝統と歴史」なので、そういう雰囲気の中でやっていく女性教員はなかなか溶け込みにくいなど、いろいろあるのだろうなと推察します。

東工大の女子学生はリーダーとしての意識を持ってここにいる

松下:「未来を創る女性リーダー人材の育成」がこの鼎談のテーマですが、自身の経験を踏まえて、東工大としてどういう点に気を付けていけば良いのでしょうか。

近藤:女性のリーダー育成と言いますが、いま東工大にいる女子学生は、すでにリーダーとしてここに来ていると感じます。入ったときから女性が少ない環境に飛び込もうっていう意識を持った学生が来ていると思います。

川端小織 理事・副学長(法務労政担当)
川端小織 理事・副学長(法務労政担当)

川端:私の同級生もそういうタイプでした。女子校だったので東工大に行って学ぼうという時点で、男性が圧倒的多い中でも私は大丈夫、という人しか選ばなかったのかなと思います。これは何十年か前の話ですが。

近藤:そういう感じだと思います。すごく意識が高くて、きちんと自分の考えを持っていて、必要に応じしっかり発言するということを意識的にできているので、うまく伸ばせたらということをいつも考えています。今の大学は本当に平等です。当然ですが、一緒に学んでいる男子学生も女子学生を卑下するようなことはありません。これが社会に出ると状況は異なると思います。社会にはまだ男女平等になっていない現実があるということもある程度意識しておいてもらったほうがいいと思っています。「育成」という意味では、東工大の女子学生は本当にリーダーとしての意識を十分持っているので、あとはその人たちが成長できるようにサポートしてあげたいと思います。社会に入って初めて壁にぶつかって折れてしまったら、これまでの努力が無駄になってしまう。うまく成長し、もっと活躍してもらうためには、我々の世代が受けた理不尽な経験をある程度教えてあげたほうがいいのか、そんな余計なことは言わないほうがいいのか、迷うこともあります。

川端:処世術は、ある程度持っていたほうがいいですね。男性は場面に応じて、男親なり先輩から、例えば「サラリーマンとして出世するには」「うまくやっていくには」とか、仕事以外も含めて処世術的なものを教わって階段を上っていくと思います。女性の職業人生においてもそういうようなものをある程度伝えてあげる人の存在、メンターやロールモデルも含めて、そういう存在が私ももっと欲しかったなと思います。

近藤:やはりそう思いますか。

川端:ええ。「男性の昔ながらの社会人としての育て方」というのは男性にとってはとても居心地が良くて、面倒見良く見守ってもらい、すくすくと育って階段を上っていく、そういうものだったのではないでしょうか。今は少し変わっているでしょうが。

平井:当時は、仕事って夜やってるんだ、夜つくられるんだと思いました。男の人は、いろんな経験をさせてもらえるので、うらやましかった。

松下:私が中央省庁に2年兼務していた時にたまたま居合わせた飲み会で、管理職の皆さんが省内の若手の方々の活躍ぶりについて講評されているのを耳にする機会がありました。皆さん忙しいので、こういう機会を使って情報交換しているのかとびっくりしたことがあります。

川端:飲み屋やゴルフ場でいろいろなことが決まるっていうことあると思うんですよね。で、そこには男性しかいない、みたいなのが、昔からの流れだと思います。

平井:ゴルフ場は、青空の密室ともいいますね。

近藤:最近は法律ができて表面的には見えないけれど、人の意識が10年や20年でガラっと変わるとは思えない。根本的な考え方とか価値観は変わらないと思うので、「こういう世界ってあるんだよ」、と女子学生には教えてあげないと、つまずいたときのショックが大きい気がします。

松下:同性である女性の先輩から言われると受け入れられるでしょうが、私のようなおじさんが伝えようとしても、「何言ってるんだろう」みたいな感じになる。

近藤:確かに。だから、誰がどう伝えるかってすごく大事だと思います。すごくナイーブなところだし。そこをうまく伝えて、きちんと糧にして、自分で対処できるようにしてあげるためにどうしたらいいだろうといつも思っています。

松下:重要な点ですね。先輩が語る、伝えるという場面は必要なんだろうな、と思います。

女性に、"リーダー" に対するプラスイメージをもってもらう

川端:無理して出世しなくてもいい、管理職にはなりたくない、という女性がかなり多い。大学を終えて社会人になると、プライベートとの兼ね合いや社会の実態を見ることで、だんだんそういう気持ちになってくるのだと思います。そこですぐに挫折しないように、大学生の時から、リーダーというのはこんなに楽しいものだ、素晴らしいものだ、やりがいのあるものだ、というプラスイメージを付けてあげることが重要なのかなと思います。途中で山あり谷ありはあるかもしれないけれど、新たな幅が広がる、面白いことも見つかるというイメージがないと、誰もやりたくならないでしょう。

平井:事務はそういった傾向が強いですね。ただ、役職が主任になり、グループ長になり、課長になり、とステージが上がってくると、見える景色が全然違います。事務はその違いがはっきり分かると思いますが、やってみないと分からないです。自分が知っている世界の中だけで「課長になってもしょうがないな」と判断してしまうけれど、いざやってみると、実はこうだったのか、と見えてくる。やってみて初めて分かる、ということを伝えていく必要があると思います。

近藤:やってみるチャンスをもらえないと、できないですよね。

平井:それはあります。やらせてみようと思う人がいることは重要です。

川端:分かります。自分で「できるかな?」と思いながら引き受けたこともありますが、やってみたら、面白いなと思えたり、経験が広がります。

松下伸広 学長特別補佐、物質理工学院・教授
松下伸広学長特別補佐、物質理工学院・教授

松下:経験してみないと分からないのは、男性でもあります。私が助手の頃、年長の教授の言葉に対して「何言ってんだ?」と思うことも少なからずありましたが、時を経て「あの時にあの先生が仰っていたこと、今俺もそう思っているな・・・」ということがたびたびあります。このように後から思い起こすことでも意味がありますから、年長者は煙たがられることを恐れずに、後進に意識的に伝えていく必要があるように思います。

平井:チャンスを与える、場を与える、というのは本当に必要だと思います。

近藤:教員側の問題ですが、女性に委員長などをやらせようとか、発想がまずなかったですから。

松下:いや、例えば最近は学会によっては女性を会長にしようとしているところもありますよね。

近藤:今はある意味、逆の「圧力」が働いているのかもしれません。

川端:意図的に女性を増やす、ということですね。

近藤:それはあったほうがいいと思います。そういうプッシュがなく自分から手を挙げて長になったときに、望まれていないと反発が男性の時より大きいかも。

平井:女性は、推されて「やらなきゃ」となると初めてやる人が多いですね。

女性はあえて場を読まずに率直な発言ができる

松下:みなさん管理職と呼ばれるお立場ですが、女性として組織の中で果たすべき、あるいは果たせている役割はありますか。これは男性と違う、というところです。

近藤:私はなるべくみんなの意見を聞きたいと思っているので、くまなく意見を聞く、という意味ではいいのかなと思います。特に人が多いところで何かを進めようと思ったら、女性の場合は強いリーダーシップで上に立っているわけでもないので、みんながどういう意見を持っているかを把握しなければいけない。だから、きちんとみんなに意見を聞けるかな、といつも思っています。

松下:周りのサポートを得るためにも、まず意見を聞くことが必要ということですね。

近藤:そうですね。私自身はあまりサポート基盤がないと思っているので、周りの理解を得ながら進まないと、と思ってしまうんです。

松下:事務職員ではどうでしょうか。

平井陽子 事務局・参事

平井:女性が管理者として果たすべき役割、を考えたことがあるかと言われると、特に女性だからということは考えていなかったかもしれないですね。

松下:平井参事が総務部長を経験されたことで、今後、女性が総務部長になっても「そういうことはあるよね」となるわけですし、東工大の事務職員における「見えないガラス」を突き破る役割をされてきたように見えるんです。

平井:自分ではまったくそんなつもりはないし、そういう気持ちがあったわけでもないです。働いているうちに、たまたま仕事を与えていただいただけで、一緒に仕事をしている上司・先輩・同僚・後輩という仲間がいる。そういう人たちに感謝しなくては、と思います。

松下:周りに恵まれていると思える環境は重要ですね。さて、東工大の女性理事は現在、川端理事だけですね。

川端:学外理事であるということも大いに関係していると思いますが、場を読み過ぎない発言、率直な発言は、女性のほうがもしかしたらできるのかなと思います。

近藤:私も、あえて空気を読めていない感じで発言することがあります。

川端:結論はほぼ見えていて、そういうことは分かっていながら、あえて言ってみる。

平井:それは大事だと思います。

松下:意見を画一的にしないためにも大事ですね。

女性教員が自宅から会議に参加し、情報から隔離されずにすむ

松下:コロナ禍により、科学技術と一般の生活との距離感が実は近い、すぐそばにあると実感できる機会が増えたんじゃないかと思います。ニューノーマルということで、今までと世の中が変わることを求められるこの時代に、女性リーダーにはどんなことを期待しますか。

近藤科江 生命理工学院学院長・教授

近藤:生命理工学院は若い女性教員を多く雇用していますが、自宅から講義ができ、会議に自宅から参加できるようになったおかげで、女性教員が(議論の場から)隔離されなくてすむようになりました。以前は物理的に大学に来なければいけませんでした。今は、在宅で勤務しても、会議には参加できるし、学生の指導も可能で、職場の情報から隔離されずにすみます。私が産前産後で休んでいた時代は、その間職場とのつながりが何もなかった状態でした。

松下:(学務も含めて教員として把握すべき)情報が入らないということですね。

近藤:電話すらもなかなかできない状況だったので、その間はまったく大学で何が起こっているのか分かりませんでした。今はデジタルが発達したおかげで女性教員が職場から隔離されることはありません。これはキャリアを続ける意味でとても大事だと思います。そういう意味ではこのニューノーマルはすごくいいなと思っていて、むしろこれが普通になってほしいなと思います。

平井:これは女性だけではなくて男性も同じですよね。時間と距離を超越しながらつながりが持てる。

川端:確かに男女とも会議に参加しやすくなった。弁護士の世界も同じですね。

女子学生枠はやり方次第でできる

近藤:今、情報系ってすごく脚光を浴びているし、 女性専用のプログラムや女性の定員枠をつくったらどうですか、と学長と話したことがあります。例えば、女性のリーダー育成のための情報学みたいなのをつくるとか。でも「いい考えだね、でも難しいんだよ」と。

平井:法的に問題があるのでしょうか。

川端:女性が圧倒的に少ないところで一定の枠を設けてある割合まで女性を優遇するというのは、アファーマティブ・アクションあるいはポジティブ・アクションといって、法律的には実質的な平等を実現するために許容されうる手法です。やり方次第ですが、できる道はあると思います。

アメリカの大学では、そういう発想で女性だけではなくマイノリティを入れたりしていますが、日本ではまだなかなかハードルが高いですね。

近藤:そういうところをブレイクしていかないと、女性リーダーを育成する大学としてのブランドはつくれないと思います。

優秀な女子学生は東工大へ、のイメージを作りたい

松下:ヨーロッパやアメリカでは女性研究者がそれなりにいますが日本で理系の女性がなかなか増えません。教育課程の問題もあると思いますが、難易度の高い入試という壁もあります。東工大が女子の受験生を獲得するためにできることはあるのでしょうか。

近藤:理系の女子学生が増えない理由というのは完全に初等・中等教育の問題で、内閣府も今一生懸命改善しようと文科省に働き掛けていると思います。そのことと東工大が女子受験生を増加させるための施策というのはまったく別の話だと思っています。

優秀な女子学生は東工大に行くんだというイメージを作っていくことが重要だと思います。「東工大に行った女性はリーダーになれる」という意識を埋め込むには、早く動くべきですね。これはトップダウンでやるべきだと思います。私は本当に変えたいのならできると思うし、やる方法はいくらでもあると思います。

初等・中等教育については別で、小学校や中学校の教育の仕方に問題があります。女子が理科から離れてしまうような環境とか教育方針がある。私は一般社団法人日本女性科学者の会で理系の女子学生を増やす取り組みをしていますが、小学生に聞くと理科が好きという子も多いです。ところが中学に入るとだんだん少なくなってしまいます。教育課程に制度的な問題があるのではないかと思います。でも大学は、優秀な女子学生を増やす対策はすぐにでもできると思いますし、機を逸すると、私は本当にまずいと思っています。

平井:私自身は、小学校の頃は理科や算数は嫌いではなかったです。一斗缶に雨や雪をためて、降水量を調べて、それをレポートにするっていうのを確か冬休みの自由研究でやった記憶があります。それがいつの間にか、理科が苦手になっていました。特に物理は近寄りがたいと感じるようになったのはなぜだろうと思います。男性は物理や理科から離れずにすんでいる人が多いように見えるのですが。

川端小織 理事・副学長(法務労政担当)

川端:数学や物理が苦手でも、受験にそういった科目が必要ない私大文系があまりに容易に選べてしまうことが選択肢を狭めている部分もあるのではないかと思います。

近藤:進路選択をする時、女の子はほとんど文系に行ってしまって、理系は数人しか行かない。理系に行きたくても「なんか行っちゃいけないのかな」と思ってしまうところがあります。

川端:「どうしても医者になりたい」といったことでもないと、理系に行かないイメージがありますね。

近藤:「え? 理系に行くの?」という反応や、「理系に行ったって何も職なんかない」なんて言う親御さんが多くいます。

川端:薬学部は女性もそれなりにいますよね。

近藤:うちは親が「手に職を付けるには薬剤師しかない」と。

川端:私も、「手に職を」で弁護士って言われました。法律なんて堅苦しくてそれ自体に魅力を感じて目指す人は少ないと思いますが、弁護士は仕事のイメージもあるし、弁護士になってはじめてできることがあります。法律の条文にはあまり興味がない、もしかしたら苦手かもしれないけれど、法学部は通過点だからと選択する人は、少なからずいると思います。

松下:キャリアとしてイメージできることが大きいと思いますね。そういう意味では、数学や理科の女性教諭をもっと増やすことも必要なのかもしれないですね。

東工大なら女性が活躍できる、とアピールできるプログラムを

近藤:女性のリーダー人材を育成したいのであれば、女性教員を増やすのが早道。学生も教員も含めて女性が過ごしやすいような環境にする、というのが重要です。女子学生の自然増を狙っても増えないです。少ない理系の女子学生の中から優秀な女性を採用しようとするには、大きな吸引力が必要です。早く道筋を付ければきっとブランドも早く根付いて、優秀な女性は東工大にいくんだ、と思ってもらえる。そのためには今すぐにでもアクションを起こす必要があります。

松下伸広 学長特別補佐、物質理工学院・教授

松下:女性大学教員を増やすっていう視点でいくと、博士後期課程に進む女性を増やさないといけないという問題が出てくると思います。

近藤:卓越大学院でも取り組んでいるように、将来に不安を持たないような博士像というのが見えないとなかなか博士後期課程には行かないと思います。社会的なニーズとして、優秀な女性を採りたい、博士の女性を採用したいという会社もあると思います。可能であればそういう会社と連携して、「希望の会社に入れて、ある程度上が目指せる」というキャリアパスが見えるようにしてあげないといけない。

大学院生が就職活動をするときに1人平均50社分くらいエントリーシートを書きます。自分が行きたい数社でいいと思いますが、学生はすごく不安で、みんなが出すところに全部出したいという気持ちになります。そこまですると、その期間は研究する暇がなくなってしまいます。

松下:弁護士や薬剤師のように社会に出てからのイメージができるような資格を得るわけではないので、それが不安ということもあるかもしれません。ただし、工学系の就職で理系の女子学生に対する採用意欲が最近かなり高まっているようですし、特に東工大の女子学生を是非採用したいという企業の方の声をたびたびお聞きします。これは東工大出身の女性エンジニアが優秀で、卒業後も社内で高く評価されていることの表れであると思います。在学中に企業との共同研究を経験し、自分が社会に出たらどう働くのかがイメージできるようなシステムがあれば不安はなくなり、大いにプラスに作用すると思います。

近藤:(東工大が)女性エリートを責任をもって育てる、ということを前面に出していく特別なプログラムがほしいですね。

平井:ご家族の方から見ても「東工大に行けば、女子も卒業後にリーダーとして活躍ができる」とアピールできるプログラムですね。「理系の女子といえば東工大ですね」って。

近藤:ここは無理でも思い切ってやることが大事だと私は思います。簡単にできることであれば他大学もやっているわけで、難しいところをブレイクスルーして最初に実施することが一番大事です。

松下:東工大は組織としてはそれほど大きくなく、考えを取りまとめやすい、つまり機動力が高いという特徴を生かしたいところですね。

近藤:女子学生と同様に、今の東工大の女性教員や職員ってすごく元気ですよ。とてもパワフルでどんどん賞も取るし、すごいなと思います。

川端:発掘すればいくらでも人材がいますね。

平井:そういう人たちのことを世の中にもっと発信して、東工大に行けば間違いないと思ってもらえればいいですね。

近藤:ロールモデルは本当に大事だと思います。1人すごい人がいれば、その人を見て次の人が出てくると思います。

川端:私は、肩肘張って頑張るとか、人並み外れた能力がなくても「こういうやり方もある」というロールモデルも必要だと思います。すごい人はいると思いますが、それだけじゃないんだよ、と言いたいです。「私にはできない」と思ってしまう人が女性には多いと思います。

近藤:それもありますよね。私の体験を聞いたら、絶対研究者になりたくないと思いますよ、みんな(笑)。

松下:私は、東工大は留学生数が多く、事務局の女性管理職比率も高いなど、ダイバーシティが進んでいる大学だと感じています。教員についても、もともと少ない女性を増やそうと努力しており、今は女性教員も男性教員も同じ方向を向いて進みつつあると思います。今回は女性リーダー人材の育成についての特別なプログラムの提案も出るなど、大変有意義な議論ができました。どうも、ありがとうございました。

「未来を創る女性リーダー人材の育成」鼎談の様子

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email pr@jim.titech.ac.jp